27 / 30
第三章 魔女だなんて、とんでもない! わたしは聖女です!!
2 君は誰?
しおりを挟む遡るは、数日前のこと。
「おい、しっかりしろ!」
「……う、ううぅ……」
男二人の片方が、森の中でピンチに陥っていた。一人は、苦しげに呻き仰向けに倒れている。
毒に侵された部位は黒ずみ、獣の爪でザックリやられた傷口からは、肉だけでなく骨も見えている。
「……い、痛ぇ……死にたく……ねぇよぉ……」
か細く弱々しい悲鳴。流す涙は苦痛か。それとも刻一刻と迫る死への恐怖からか。見るからに、死に瀕している。
「しっかりしろ、バキツ!俺達、一緒に凄い冒険者になるって誓い合ったじゃねえか!!」
もう一人は、泣きながら励まし、必死に止血をしていた。
手持ちの道具を全て使ったが、傷が治りきっていない。包帯をきつく巻いても、溢れる血で赤く染まっていく。毒は強過ぎて、解毒しきれていない。
新米というには、日数がそれなりに経っている。けれど、まだまだ駆け出しの域を出ない冒険者のバキツとトギリは、世界一の冒険者を目指して旅する風来坊。
彼等は、冒険に必要な物を補給しようと街へ向かってる途中だった。だが、運の悪いことに魔物の群れに遭遇。
二人は戦い、そして勝った。けれど、その勝利には代償があった。
バキツがトギリを庇って酷い怪我を負ってしまったこと。悪いことは、それで終わりではなかった。なんと、毒も喰らってしまっていたのだ。
(──なぁ、だれか頼むよ。悪魔だろうが邪神だろうが、何だって構わねぇ。誰か、コイツを助けてくれ!)
トギリは、助けて欲しいと心の底から願った。どうすることも出来ない己の無力さに、慟哭しながら。
「あの、どうされたのですか?」
耳に届いた、凛とした声。思わず、振り向く。そこには、長い黒髪の少女が立っていた。
「あ、あんた! 回復が出来る魔法使いか!? そうでなかったら、解毒と回復出来る物を持ってねえか!?
頼む、友人が死にそうなんだ!
なのに、俺には何にも出来ねぇんだよっ!!」
「落ち着いて下さい。彼でしたら、私が今から助けます」
トギリを安心させるように、ニコリと微笑むと、バキツへ静かに近付いた。
「光よ、この者を救い給え」
小さく、けれど確かに響く力ある言葉。声に導かれた魔力を紡いで、少女は手の平から光を溢れさせる。
穏やかな輝きは、傷口を優しく包み込んで男を癒やしていく。
「これで、もう心配はありません」
「うぅっ……?」
青白い顔には赤みがさし、傷口は綺麗に塞がっている。ドス黒く変色していた部分は、今は何とも無くなっていた。
ほんの数分と掛からず、傷も毒も完全に治りきってしまっっている。
「────あ、あれっ?」
「な、治った!?」
夢じゃない、現実だ。それでも、起きた驚愕の出来事には目を疑ってしまう。
世の中に、こんな見たことのない、凄い魔法があるなんて。そして、その魔法を使える少女のお陰で、親友が死なずに助かったなんて。
「────トギリ。俺、生きてるんだよな?」
「当たり前だ!この人……いや、このお方がお前を助けてくれたんだからよぉっ!!」
「他にお身体に悪い所は、ありませんか?」
「い、いえ! もう大丈夫です。助けて下さって、本当に有難うございます!!」
何という幸運。二人は、天からの救いだと思った。
「本当に、何とお礼を言っていいか」
「これは、俺達からの感謝の気持ちです」
トギリは、恩人のお陰で親友が助かったという事実に感涙。貨幣の詰まった布袋を差し出した。
「私はただ、救いたいと行動しただけです。
ですが、だからと礼を受け取らないのは無礼。
有り難く、頂きましょう。」
恭しく言って、軽く一礼。壊れ物のように、大事に受け取る。
「──それでは、私はこれで」
「待って下さい!あなた様のお名前はっ!?」
「私は【リリア・イヴス】偶然、通りすがっただけの旅人です」
振り返って告げた少女は、微笑を浮かべて去って行った。
「彼女は、一体……?」
「……随分と、綺麗な人だったなぁ……」
助けられた彼等にとっては、救いの女神様が人の姿となって助けてくれたようにしか思えなかった。
運命の出合いとは、こういうことなのだろうと。
「──ふっふっふっ。さっきのあたしってば、すっごく聖女っぽかったんじゃない?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
王女殿下は家出を計画中
ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する
家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私この戦いが終わったら結婚するんだ〜何年も命懸けで働いて仕送りし続けて遂に戦争が終わって帰ってきたら婚約者と妹が不倫をしてて婚約破棄された〜
御用改
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、イヴ・ペンドラゴン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら……妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………彼女本人は気づいてなかったが、救国の英雄とまでなった主人公を裏切った二人に人権はなく、国が総出で二人を追い詰めていく……途中イヴに媚びてくるが………彼女が二人を許すことはない………。
一方、主人公は主人公で最初は王子様、次は獣人達、様々な男が彼女に好意を向けるが、鈍感な主人公は気付かない………最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
バトル展開がある章は即ざまぁ編、人狼国編、ロイ争奪編、勇者来訪編です、一応人狼国編とロイ争奪大会編、勇者来訪編の最後はラブコメっぽいことします。
日常回やラブコメ展開多めな章は増援要請編、天使と悪魔編、ドM令嬢編、ロイ様とデート編、魔王襲来編、この章達は全編バトル無しなので、バトルが嫌な人はこっちの方から読んだ方がいいかもしれません。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった
名無し
ファンタジー
主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。
彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。
片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。
リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。
実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。
リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる