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第二章 あの悪魔を退治しよう

11悪魔に終わりが近付いている

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『別に絶対という訳ではないが、あればやりやすい。
……あるか?』

 出来るなら尚良、出来ないなら別に構わないとこちらに意思を伝えてくる。

「拙者の【影縫い】は移動を封ずる。
ただし、効果は余りもたぬうえに連続使用は出来ぬので、発動後の投与は早めにお願いしたいでござる。
タイミングは如何ほどで?」
『お前に合わせる。好きにやれ』

 一旦、キメラギオンから離れた朧月の元に、また忽然と四足歩行の黒い獣が佇んでいた。

 感知した時には、もう直ぐ側にいる。その神出鬼没ぶりに朧月は当初、己以上の速さによるものなのかと非常に驚いていた。

 けれど、共に戦っている内に、どうもそうではないらしいことに気が付いた。戦闘中でも周囲を常に把握していたが、彼の移動は唐突過ぎるのだ。体勢を一切変えることなく、あっちやこっちに移動する。
 条件付きだが似たようなことが出来る彼は、アプドルクが空間跳躍をしているから、急に現れていたのだということに気付いていた。

(隠し部屋の入口を開ける必要がないわけでござるよ)

 館で一度も出会わず、地下階段への鍵を集めなくともここにいたのも、全て固有の能力によるものであった。


「「「「「はははっ! なかなかやるじゃないか!!」」」」」

 腹立たしい程に愉快そうな笑い声。醜い芋虫の正面部分がバリバリ裂けて出来ているのは、人間の歯が生え揃った巨大な口。

「…………」
『オレが薬を飲ませれば、デタラメに攻撃しながら走ってくる。暫く避け続けたほうがいいぞ』
「……分かった、ティー……」

 狙撃すべきか逡巡していたクリスは、アプドルクの言葉で射撃行動を一旦中止すると、回避に専念すべく身構える。キメラギオンの変化に警戒していたティーは、主の声に応えて距離を取りだした。

 敵は、口が完成するや否、こちらに齧りつかんばかりにドスドス音をたてて走ってくる。巨体による突撃と噛みつき。実にシンプルで分かりやすい脅威。ただし、それは当たればの話だ。

「サイバネ忍法!  影縫い!!」

 朧月が力を込めて叫び、バババッと素早く技発動の印を結ぶ。そして瞬時に、エリクサーによって体内から超高速生成された手裏剣を影に向かって投げつけた。

 それがキメラギオンの影に刺さった途端、敵はその場から動けなくなりジタバタと藻掻きだす。リードに繋がれた犬。いや、大量の手足があってはピンで止められた虫と言うべきか。

『上出来だ!!』

 賛辞と同時に何処からともなく現れる一本のアンプル。それは、キメラギオンが大きく開けた口の中で、握り潰されたように破裂。
 毒々しい液体が、一滴残らず館の悪魔へと炸裂した。

「ああああぁぁぁおおおぉぉ────────!?!?」

 笑ってばかりいた相手が、初めて悲鳴を上げる。薬をモロに受けて、苦しそうだ。影縫いが切れ、よろめきだすなり激しい地団駄を踏みだした。

「おぉっ! かなり効いてるでござる!!」
「・・・効果覿面・・・」

 首を痙攣させながら、腕を無茶苦茶に振り回し、縦横無尽に走り回る。
 氷や炎に雷といった様々な魔法による攻撃を雨霰の如く降らせているものの、身体が崩れていくごとに攻撃は徐々に緩んでいった。

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