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第二章 あの悪魔を退治しよう

6 もう一人の知らない誰か

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 特徴的な印の付いた扉の部屋を重点的に探すことに決め、前進すること数分後。もう一つの同じような扉が見つかった。
 印のある所に館の主に繋がる物がある。その仮定が間違いないのであれば、きっとここにもあるのだろう。
 そう思いながら扉を開け、クリスは内装にちょっと驚いた。

「……ここは……?」

 そこは、最初に目覚めた豪華な部屋とあまりにも似ていた。寝ていた物と全く同じ種類であろうベッド。
 引き出し付きの椅子のない鏡台も瓜二つ。窓が無い壁は壁紙も一緒。だが、一つだけ決定的に違う物があった。

「……わたしが目覚めた部屋と、ほぼ同じ……」
「なんと、真でござるか! して、ほぼとは?」
「……アレだけが違う……」

 そう言って指差した先には何らかの絵画がスライドパズルになっているものが鎮座していた。
 如何にも解けば何かが貰えると自己主張する物体に、相手のおちょくっている考えが透けて見える。

「クリス殿も、既に気付かれているとは思うでござるが────」
「……するしかない……」
「……そうでござるな」


 正直に言ってしまえば、踊らされていると思う。分かりやすい目印が刻まれた扉。遊びのような仕掛け。
 ミニゲームクリアのご褒美と言わんばかりに手に入る謎の手掛かり。どう考えても出来すぎている。
 それでも、今は先を目指し続けるしかないのだ

「……この絵は、みたことある。任せて……」
「おぉ、それは心強い。頼むでござるよ」

 怒りをやる気に変えて、用意されたものへと挑む。どんな絵であるかちゃんと覚えているから大丈夫。
 その時には、そう思っていた。数分後、自身の発言にほんの少しだけ後悔した。

(……思っていた以上に難しい……)

 ピースが思い通りの部分にいってくれないのもだが、渦を巻く木の枝は似たような部分が多くて困惑してしまう。例えるならば、全部真っ白なジグソーパズルをやらされているような気分だ。

(……ややこしい……)

 任せてと自信たっぷりに言った手前、引き下がるのはなんか格好悪い気がする。でも、こんなことに時間は掛けてられない。そう悩んでいて、気付く。

(……あれ……?)

 素材は頑丈なものであるが、魔力による保護が無い。
てっきりあの部屋と同じと誤認していた。

(……これは壊せる……!)

 そうピンと来てしまったら、行動は早い。クリスは迷うことなく殴り壊した。

「……てやぁっ!」

 ガシャアアァ────ン! とガラスが砕けたような音がすれば、元パズルの先にある窪みに箱を発見する。

「……あった……」

 開けてみれば、最初に手に入れたものとは色違いの硝子玉。こうしてクリスは第二の手掛かりを手に入れた。

「…………えぇっ!? こ、壊していいんでござるのコレ!?」

 普通にパズルを解いていると思ったら、いきなり破壊行動に移行した。驚きで反応が鈍くなってしまった朧月から遅い突っ込みが入った。

「……剥製も壊せた……」

 暗に問題は無いと言っている。マスク越しの声がちょっと自慢気なのは気の所為なのだろうか。

「そ、そう言われてしまうとそうでござるが」

 過程はともかく目的は達したと自信満々に言われては困惑してしまう。
 そういえば少々手こずっていたようなので、実はパズルを解けなかった照れ隠しも含んでいるのかもしれない。
 ジッと見たら目を逸したので、その可能性は高そうだ。仕方が無いので引き下がった。

「ところで、元の部屋では鏡台の引き出しは確認したのでござるか? この中も違いがあるかもしれんでござるよ」

 似た部屋というのが気になったのだろう。そう尋ねられたが、クリスは元の部屋を調べていなかった。

「……調べてない、ごめん……」
「いやいや、別に責めている訳ではござらん。中に何か違和感はあるかと────露骨にあったでござる」
「……えっ……」

 朧月がなんとなく開けた鏡台の引き出しには、扉にあるのと同じ印が刻まれている。これには何の意味があるのか。
 接触を試みた途端、近くの壁がガコンッと鳴り響きひと一人余裕で入れる穴が開いた。もう一度、触ってみるが穴は開きっぱなしで閉じる様子は無い。
 どうやら、一回開けると開きっぱなしになってしまうらしい。

「い、如何にも疑わしげな……隠し通路でござるか?」
「……隠し部屋みたい、でも……」

 中を確かめようと一緒に覗いて、共に信じられないものを見た。


 大した広さのない狭い室内には、性別と顔のない人間の石膏像が一体、飾ってあった。
 それには本来ならば目や口や鼻がある部分に【悪魔に賭けてはいけないものは?】という文章が彫り刻まれている。
 正解は首であったらしい。スイッチになっていたらしい首が凹んでいる。


 その隠し部屋では、何者かがそこにあった物を持ち去った形跡だけが残されていた。

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