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第二章 あの悪魔を退治しよう

5 館の主は待っている

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 ある日、招待した客の一人にワタシは倒された。そのとき抱いた気持ちは、死んでしまっては研究が出来なくなってしまうという未練と、思った以上に勇敢で強靭な人間に出会えた幸福。

 心残りと歓喜のその二つを抱いて確かに死んでしまった。だが、何と蘇ってしまったではないか。死んだ瞬間を夢と疑うことはない。
 あの名残惜しさと同時に歓喜に打ち震えた感覚が夢であってたまるものか。

 初めの頃は館の周りが知らない風景になっていることに驚いた。次に、どうやら違う場所にいるのではなく異なる世界へ居ることが判明した。
 まさか、研究を続けることが出来ないのか!?そんな不安があったが、何ということはない。色々と手を尽くした結果、なんの問題もなかったのだから。
 そんなことは杞憂に過ぎなかった。

 問題は無いが、ただ一つ残念なことがある。あの最高の招待客に匹敵する者と未だに会えないことだ。
 この世界では今のところ、皆が皆揃ってワタシに会う前に脱落して改造することになってしまう。

 そうして、仕方なく作って出来上がった悪魔の殆どが失敗か大失敗の廃棄品となってしまい、ただ処分するのも勿体ないので客が館の武器を練習する用の的として廊下に配置している。

 数少ない完成品があるにはあるが、今のところ出来はいまいち。
 何せ、完璧な完成品となれる者は強い肉体と精神が必要なのだから。

「今日は一人だけだが、とても見込みのある招待客を迎えることが出来た。彼女はここに来れるだろうか」

 少女はとても強い力を秘めている。だから、ワタシの屋敷の招待客となる権利を得たのだ。村の者には感謝の印として報酬をたっぷりと支払った。
 何せ、この世界で初めて見つけた逸材なのだから。

 そのままにしておくなど、愚の骨頂。この手でもっと最高の状態にしてあげなければいけない。
 少女が素敵なプレゼントを手にする為の趣向はしっかりと凝らした。
 仕掛けは、この世界の住人でも解けるようにしてあるから問題はない。

 神が人に試練を与えるように、力を手に入れるには苦労してこそ価値がある。何の努力もしない者にワタシは施しを与えはしない。

 生物は肉体という狭苦しい檻に閉じ込められ続ける囚人。それは仕方ない。だったら、檻を広げてしまえばいい。
 そうすれば、肉体的弱さの息苦しさも、脆弱な寿命の煩わしさも、きっともっとましになるだろう。

 誰かがどうにかしない限り、研究狂いは止まらない。人間性というブレーキは、とっくの昔に自分で壊してしまったのだから。

「あぁ、早く来てくれ客人よ!わたしの元へっ!!」
「────誘拐した奴を客人とは、随分と都合の良い脳みそをしているな」

 館の主の身勝手で自己陶酔な独り言に、誰かが水を掛けた。


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