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第二章 あの悪魔を退治しよう

★3 魔法少女は忍者?に出会う

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 出来損ないの怪物にされた者達は、有形無形関係なくコールタールじみた体液が身体に詰まっている。
 だから、クリスとダロスが通る道をうろうろする者達は辺りを所々黒に染めて廊下を汚していく。

 哀れな犠牲者達の活動を停止させ、怪しい部屋はないか確認する。その繰り返しだった状況に、おかしな変化が現れた。
 進行方向に、見知らぬ異形の亡骸が転がっている。
それも一度や二度ではない。

「……どうして……?」

 頭があるものは首を切断、眉間を一撃。首が無いものは胸を一突き。
 なかには、どう倒していいかわからなかったのだろう粘液状や植物のものは真っ二つ。どれもこれも基本的には急所狙いで仕留められていた。

 もう少し観察してみると、切断面は全てレーザーで焼き切ったようになっている。
 そして魔力の痕跡の残留具合から得物はただの刃物ではなく、立ち去ったのは少し前。
 死因から明らかに何者かの仕業なのだと仄めかされている。

(……他にも、いる……?)

 自分のように連れてこられた別の誰かが先にいるのか。真相を伝えるのは、物言わぬ道標。導くように点々と続いている。


 聞こえてくるのは何者かの叫び声とけたたましい奇妙な鳴き声。そして大きなものがドッタンバッタン騒がしく暴れている音。
 辿り着いた大きな扉は頑丈そうでおまけに魔力が通っていたが、鍵の有る無し以前に既に開いていて、そこから中の音が漏れていた。

(……何……?)

 隙間から、そっと覗いてみる。目の前には、戦う為に誂えたであろう広大な闘技場。そこでは、既に戦闘が開始されていた。


「切り捨て御免でござる!」

 機械仕掛けの人型は、黒と銀の配色で黒の割合が多い装甲に無骨だがスマートで背の高いデザイン。鈍重さとは無縁の、軽やかな動きで目の前の相手を翻弄し続けている。
 その姿は忍者を連想させたが、想像通りであったらしい。動きまわり撹乱しては手に持つ忍刀で切り捨て、手裏剣や苦無を投げつけている。


「キュエエェ────!」

 対する相手は木や花や蔓といった複数の植物が複雑に絡みあって出来上がった色取り取りでカラフルな獣。
 突進、又は何かを撃ち出すときは四足。殴りかかる際には二足と植物の構造を組み換えては目の前の対象を獲物と認識して襲いかかっている。

「ギュ──ギュ──ギュ──!」

 攻撃を受ける度に怒りや苦痛の表現なのか、激しく威嚇するように葉を揺らし、駄々をこねる子供のように煩く鳴き喚く。

 その行為の意味は自我によるものか反射行動かは知らないが、廊下を徘徊していた者達とは見た目から行動まで明らに違い過ぎる。
 これは成功の分類に値する個体なのだろうか。

(……植物の怪物とロボットの忍者……?)

 一対一の対決に、植物怪物vsロボ忍者と映画のようなタイトルを思い浮かべながら様子を更にうかがう。
 苦戦していないようなら、手助けは逆に余計なお節介になってしまうかもしれないと思ったからだ。

「切っても切っても、きりがないでござるなぁ」
「ピギャアアアァァ────!」

 植物怪物は体当たりが空振りと分かるやいなや蔓を伸ばし鞭のように叩きつけたり散弾の葉っぱや種を放ってくるが、ロボ忍者は軽業師の曲芸のような軽やかさで次々避けていく。

 そして光を纏う刃に加え手裏剣や苦無で飛び跳ねながら素早い連続攻撃。焼き切られた様々な種類の植物は下へ散らばり、床を色鮮やかに飾りつけていく。
 ただの刃物であれば、そこに黒色もぶちまけられていただろう。

(……もしかして、実はロボットじゃない……?)

 機械らしかぬ言動と動きの軽快さから自分のように金属製のスーツを纏っているのかもしれない可能性を見出す。

「そこでござるなっ!」

 突然、一段と声を張り上げて手裏剣を投擲。狙うは刈り続けていくうちに露出した種。

「ギイィッ!?」

 僅かな隙間を潜り抜け、命中。その途端、騒がしさが嘘だったように静止。微動だにしなくなった。
 それこそが植物操作と構成の核。もしも近くで確認した場合、植物が全てそこから生えているというのが分かるだろう。

(……そういえば……)

 攻撃する際は全体ではなく一点を集中して攻めていた。何かを探っている気はしていたが、植物を操っていた本体を見つけるためだったようだ。
 彼は戦っている内に気付いたのだろう。

「────ピギャ」

 ソレは、確かに動きを止めていた。だが、急にぶるぶる震えだすと、ライオンが吠えるような体勢をとりだした。

「ムッ!?」

 まだ止めを刺しきれていなかったのは、弱点を守る種の硬さゆえか。一旦止まっていただけの活動を再開。
 手足を構成する根が不気味に脈動する。顔の花を一旦閉じて相手を捉えている姿は、まるで草木の大砲。

「ギャシャアァ────!!」

 蕾が大きく開花。謎の液体が勢いよく吐き出された。
 クリスが警告を叫ぶ前に、対象は既に霞の如く消えている。目標を失った形なき砲弾は、ただ虚しく悪戯に床を溶かしただけに終わった。

「そいやぁっ!!」

 刀から伸びた輝きが迸り、植物怪物を頭上から一刀両断。種ごと左右に別れたソレは、今度こそピクリともしなくなった。


「先程から、コチラを見ているお主は何者でござるか?」

 持っていた武器はいつの間にか無くなり、無手で佇む彼から声を掛けられる。目を逸してはいない筈だが、仕舞う過程が認識出来なかった。
 まるで、手品でも見せられているみたいだ。
敵意は無いが警戒され、腕組みをしてこちらを睨みつけている

「……交戦の意思は無い……」

 もう隠れる理由はない。扉の影から姿を現し、ダロスと一緒に相手に近付いて行く。念を押して両手を上げながら。

「……わたしは、魔法少女で人間の在善クリス。着ているのはティーでこの子はダロス……」

 ティーの魔法装甲を一部解放。嘘ではない証拠と頭部を露出させる。

「…………あっ、それは鎧でござったのか」

 感情の伺えない無機質な目が丸くなった気がするのはコミカルな口調のせいなのか。小柄なクリスは大柄な彼に見おろされても、あまり怖いとは思わなかった。


 クリスの魔法装甲は身体全体を覆うデザイン。露出が無いので、声を出さなければ性別以前に人間であるかどうかも分かりづらい。

 そう思うと自分の行動は知らない他人からすれば、何かよく分からないものに観察されている気分だったのか。顔を見せた途端、警戒の気配が大分薄れたのはそれもあるのかもしれない。

 訝しげな視線をハッキリと向けられていたが、あれは正体不明の敵かもしれないという疑惑の感情混じりのものでもあったのだろう。

(……一声掛けたほうが良かった……?)
「……貴方は誰……?」

 初対面の対応への疑問は一旦置いておき、謎の人物に気になっていたことを問いかける。

「拙者はサイボーグ忍者の朧月。館の噂を確かめる為に侵入した者でござる」

 返答は、色んな意味で予想外のものだった。

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