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第一章 ドラゴンを退治しようぜ!

★9 絶対絶滅の危機!そして────

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「危ないっ!!」

 一か八か、ドラゴンの股下を潜り抜けられないかと考えていたエンを救ったのはカケルだった。
 高速で走り、エンを突き飛ばすことでエンは無傷。
身代わりとなったカケルは受身をとることも出来ず突進をもろに喰らってしまった。


 身体は潰れなかった。けれど、痛い。罅ぐらいは入っているかもしれないが、幸い骨は折れていそうにない。
 むしろ、不味かったのは猛毒の爪をくらってしまったことだ。

「……ぐっ!?」

 掠っただけだというのに、身体に毒々しい色が一気に広がった。顔が苦痛で歪む。カケルの身体は頑丈で、傷も異常も早く治ってしまう。
 重傷もしくは猛毒のような強力な異常は少々時間がかかってしまうが、医者いらずと言わんばかりに便利である。

 強い吐き気に酷い頭痛。止まらない悪寒。常に針で刺され続けているような身体の内側を蝕む痛み。
 肉体への異常は毒々しい色へと染まっていた肌が、徐々に元の色へ戻りつつあると共に収まってきている。

 ──────大きな影が差した。敵は待っててくれない。

「チョウワル──イ!」
「…………はっ!?」

 腕が振り下ろされ、鎌のような爪が襲いかかってくる。剣で受けるか、避けようとした。だが、まだ完全に治りきっていない。
 痛みが動きを鈍らせ、思考を遅延させる。足元がふらつき、視界が歪む。鮮血が、宙に舞った。

「うあぁっ!?」

 刻まれる傷は、猛毒をより濃く肉体へ蝕ませた。

「カケルッ!?」
「危ないから来るなっ! 俺の身体なら大丈夫だ!!」

 転がった杖を拾い構えた時には、カケルは攻撃を受けていた。思わず駆け寄ろうとして待ったを掛けられる。

「傷も毒もすぐ治る!」

 呼吸は荒く、顔色は青白いを通り越してもはや死人の色。血塗れでフラつきながら、なんとか立っている。

「チョ~~~ッ、チョッチョッチョッ~~~!!」

 その様子にチョウワルイはニタニタ嫌らしく嗤う。
 やっと弱ったな。憎いお前はすぐには殺さない、遊んでやる。
 嘲笑と共に聞こえた気がする。ねじ曲がったプライドと嘲りに満ちる下卑た笑い声。
酷く不快だ。

「…………なあ、エン。一緒に────ドラゴンを退治しようぜ!」

 そんなチョウワルイの悪意をはねのけるように、笑顔で明るくカケルは言いきった。

 伝えたいことは分かっている。嗜虐と慢心で油断しきっている、今こそが本当の準備のチャンスだということ。相手が調子に乗っている今なら、成功する。
 カケルは目でそう訴えていた。

「…………分かったわ」

 すぐに治るというのは、嘘ではないのだろう。ただそう言われても、回復するまでが酷く苦しそうで、持っている道具を直ぐにでも使ってあげたいぐらいだ。
 しかし、カケルを助けようとしても、間違いなく敵の行動の方が早い。
 そして、カケルが完全復活した場合はチャンスが振り出しに戻ってしまう。

(カケル、貴方の思いを確かに受け取ったわ)


「チョッチョ──ウ! ワ──ルイ──!」
「……うぅ……ぐっ……」

 チョウワルイは目の前の獲物をいたぶり、溜まりに溜まった鬱憤をぶつけては笑い声を上げている。
 カケルはフラフラでありながら、攻撃をなるべく受けないよう、必死に捌いていく。

 その攻防はずっと続くものかと思われていた。やがて、チョウワルイが見せつけるように息を吸い込み始めた時、カケルに届く声があった。

『逃げてっ!!』


 チョウワルイは、なかなか死なない女神の駒を玩具にして暫く楽しんでいたが、遂に終わらせてしまおうと行動を開始した。
 空気を肺に溜めきってから放つ圧縮された高濃度の猛毒の息は広範囲の者を纏めて葬りさることが出来る。
 毒をくらう前のカケルの矢継ぎ早な攻撃で使おうにも使えなかったそれを使い、エン共々始末する気だ。

 そいつは、もう既に勝った気でいたから完全に油断しきっていた。だから、攻撃を受けるのは必然だ。

「炎よ! 邪悪なる者へ憤怒の鉄槌を与えたまえっ!!」

 杖を地面に打ち付け、溜めた魔力を大声と共に大地に放出した。


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