精霊使いは異世界で困惑する

第一章 精霊使いは金色の王と戯れる

2 精霊使いの孤独

　僕達の住む世界では、カードから精霊を召喚して使役する者を精霊使いと呼んでいて、精霊同士を戦わせることをファイトと呼んでいる。

　このファイトは世界中で大流行しているんだけど、戦うといってもスポーツみたいなもの。
(精霊界のなかには、本気の戦闘であるリアルファイトをする所もあるけど)
　……昔は、人間と精霊の絆を確かめ合う厳かな儀式として扱われていたらしいんだけどね。

　僕達は、地球と精霊界で起こる事件を仲間達と一緒に解決する忙しい日々を過ごしていた。そんなある日、未曾有の大事件が起きた。
　トリスケリオンと名乗る巨大ロボット宇宙人が機械仕掛けの城【レクイエム】に乗って大量の手下ロボット達と共に地球侵略に現れたのだ。

　皆は街で戦って、僕と速矢はレクイエムへ乗り込みトリスケリオンを倒した。
　……正しくは、【僕が囮となって城の警備とリアルファイトして引きつけ、その隙に速矢がトリスケリオンの元に辿り着きリアルファイトして倒した】だけど。

　みんなで一緒に頑張って何とか解決した大事件。トリスケリオンを倒し地球の危機を救った速矢は、世界中の人々の羨望の的である英雄となった。

　その後、科学者の速矢は人類の助けとなる物を発明する為に地球や精霊界を駆け巡るようになった。
……トリスケリオンの件で何か本人に思うことがあったらしい。

　僕はというと、別に普段通り学校に通っている。そして、放課後に特に用事が無い日や学校が休みの日は父さんの経営するカードショップ【Walnut】で女性店員として働く日々を送っていた。

　ある日、店には珍しく閑古鳥が鳴いていた。父さんはファイトのサポートに使う魔法カードの配達に行っていない。店には僕一人だけしかいなかった。

「あ～あ、速矢とまたファイトしたいなぁ……」

　相棒のいない日々の寂しさからか、そんな愚痴が口から漏れてしまった。

『……どうか、助けて下さい』
「……はい?」

　急な声にお客さんかと思い、振り返る。そこには誰もいない。

「…………?」

　なんだ、ただの気の所為か。
　その時は、そうとしか思わなかった。


「あの返事は、肯定じゃなくて疑問だったんだよ。
はぁっ……」

　部屋から出て城内を歩いていく。想像していた通り、とんでもない有様になっていた。
　金、金、金。何処を見ても黄金一色。柱も廊下も壁も全部。それは生きた人間も例外ではなく恐怖や驚愕の表情を顔面に貼り付けたまま、皆全て動かなくなってしまっていた。

「…………まさか、城の外も全部こうなってるんじゃ…………?」

　生身の者はいない。今いる場所で生きているのは自分だけ。そう思ったら、背筋がぞくりと寒くなった。

「誰か────!　いませんか────!!」

　怖さを振り払うように生存者は本当にいないのか、大声で叫んでみた。何度かしてみても、響くのは自分の声だけだった。