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5 夜空と一等星

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 羊肉をたらふく食べた後ステラとノクスは店を出た。
 夜空にはキラキラと幾つもの星が輝いていた。
 ステラが一番好きな景色。

「お空、とっても綺麗」

 そうつぶやくとステラは顔を綻ばせた。

 ステラ含め魔女の一族は多情だ。性別問わず誰かと深い仲になることに抵抗がなく、悪く言えば節操なしだ。
 だが、これは魔女の性質上仕方のないことだった。

 魔女は防御魔法や魔法の調合など繊細な魔力操作がとても得意だった。体を巡る魔力を細かく感じ取ることができる魔女の目には魔力の色が見えた。

 赤色、青色、紫色、黄色。人それぞれ使える魔力の性質やその人の魂の質によって魔力の色は変わり、みんな固有の色を持っていて、全く同じ色の人はいない。

 魔女はその色が見えることによって相手の性格を見抜いたり、自分と相性の良い相手、悪い相手を知ることができた。

 明るい色は陽気な人、暗い色は落ち着いた人。好きな色は相性の良い人、嫌いな色は相性の悪い人。

 ステラの好きな色は夜空の色だった。
 深い黒に近い落ち着いた青。全てを包み込み飲み込んで許してくれるような力強くも優しい色。見ているだけで落ち着いて、キラキラとしたお星様のような眩い黄色を持つステラを一番引き立ててくれる色。

 人間は本能的に自分と相性の良い遺伝子を持つ異性を選ぶように仕組まれている。普通の人間は自分との相性の良さがバロメータとして目に見えないが、魔女はそれが全て色として目に見える。

 自分の好きな色の異性を見つければ惹かれるし、本当に相性がいいか試してみたくもなる。一緒になる未来が見えない相手でも好きな色であれば一時の強烈な快楽を得るために身を委ねたくもなる。

 幸せな気持ち、最高の快楽が約束されているのに手を取らないでいられる人間はそういない。好奇心旺盛で明け透けな性格も相まって、魔力の色が見える魔女は多情な人間が多かった。

 もちろん例に漏れずステラもそう言ったことに興味があった。
 自分の好きな色を持つ人と出会ったら一夜でも構わないから一緒になりたいと思っていた。


 ただ急いではいなかった。
 似たような色を持つ人はたくさんいるから、いずれ遭遇するし、一瞬で好みの色だとわかるから焦る必要はないと先輩魔女には言われていた。

 だからその日もいつも通り、魔薬をつくるのに必要な素材集めのためにギルドで適当な依頼をこなして、その報酬に目当ての素材を受け取って小腹でも空いたから新鮮な羊肉でもつまんで帰ろうと飲み屋に寄ったのだ。


 声をかけられて、声の下方を見上げて、ステラは目を見開いた。

 あ、この人だ。

 胸のあたりに渦巻く、黒に近い落ち着いた青色。ステラの大好きな色。
 割と好きな色かもとか、試してみてもいい色だな、というレベルではなく、この色以外ないと思った。

 魔女の目はとても繊細だ。微妙な色の違いも、濁り具合も感じ取ることができる。ステラの目に映る青年の魔力の色は完璧だった。

 なんで綺麗な色なんだろうと、泣いてしまいそうなほど美しい色でステラはこくりと頷いた。

 お兄さんならいいですよ、なんてそんな半端な気持ちではなく、お兄さんじゃないと絶対だめ!とその場で叫びたいくらいだった。


 魔女の先輩たちは言っていた。

 焦らなくて良い。好きな色と似たり寄ったりな色を持つ男はごまんといる。話してみたら楽しいし、体を重ねればとても気持ちいいから出会うたびに遊べばいい。でもみんな少しずつ違ってほんのちょっぴりどこかしっくりこない。本当に寸分の狂いもない割合で三原色が混じり合った好みの色はそうそう巡り会えない。

 だからこそ、もしも運良くドンピシャで好みの色に出会えたら絶対に逃してはいけない。何がなんでもベッドまで引き摺り込んで籠絡しなくてはいけないよ。と先輩に耳にタコができるほど言われて、その助言通り、ステラは飲み屋を出た後、情緒もへったくれもなく宿に引き摺り込んで体を重ねた。


 たまたまお兄さんが上手かったのと、予想通り体の相性がすこぶる良かったから初めてでもどうにかなったのだが、ステラが出血しているのを見てお兄さんは慌ててたし、事後にステラの年齢を聞いて頭を抱えていた。

 魔女はみんな早熟で豊満な体つきのせいもあって5歳くらいは上に見られやすいから、きっと妖艶なお姉さまとハイレベルなえっちを楽しみたくてステラの誘いに乗ったのに、処女のうえに若くて無知な女の子に手を出してしまったと後悔でもしていたのかもしれない。

 そんな出会いから一年が経って、お兄さんもとい、ノクスとはとても仲良くなった。
 週末になると必ずステラの家に遊びにきて、素材集めに付き合ってくれて、夜になれば体を重ねる。

 仲はいいけど、初めて体を重ねた時のことを思い出すとなんだか怖くて何も聞けずにいた。
 付き合うとか、付き合わないとか、何も約束せずに始まったこの関係はいったいなんなのか。
 
 ノクスに尋ねればいいだけなのに。
 尋ねてステラが期待した答えが返ってこなかったらと思うと今のままの関係の方がいい気がして、なかなか前に進めなかった。

 もう少し自信がつくまで。ノクスから返ってくる返事に確証が持てるまで様子を見ようと思っていたら時間だけが過ぎて、曖昧な関係がずるずると続いてしまっていた。

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