5 / 14
5 夜空と一等星
しおりを挟む羊肉をたらふく食べた後ステラとノクスは店を出た。
夜空にはキラキラと幾つもの星が輝いていた。
ステラが一番好きな景色。
「お空、とっても綺麗」
そうつぶやくとステラは顔を綻ばせた。
ステラ含め魔女の一族は多情だ。性別問わず誰かと深い仲になることに抵抗がなく、悪く言えば節操なしだ。
だが、これは魔女の性質上仕方のないことだった。
魔女は防御魔法や魔法の調合など繊細な魔力操作がとても得意だった。体を巡る魔力を細かく感じ取ることができる魔女の目には魔力の色が見えた。
赤色、青色、紫色、黄色。人それぞれ使える魔力の性質やその人の魂の質によって魔力の色は変わり、みんな固有の色を持っていて、全く同じ色の人はいない。
魔女はその色が見えることによって相手の性格を見抜いたり、自分と相性の良い相手、悪い相手を知ることができた。
明るい色は陽気な人、暗い色は落ち着いた人。好きな色は相性の良い人、嫌いな色は相性の悪い人。
ステラの好きな色は夜空の色だった。
深い黒に近い落ち着いた青。全てを包み込み飲み込んで許してくれるような力強くも優しい色。見ているだけで落ち着いて、キラキラとしたお星様のような眩い黄色を持つステラを一番引き立ててくれる色。
人間は本能的に自分と相性の良い遺伝子を持つ異性を選ぶように仕組まれている。普通の人間は自分との相性の良さがバロメータとして目に見えないが、魔女はそれが全て色として目に見える。
自分の好きな色の異性を見つければ惹かれるし、本当に相性がいいか試してみたくもなる。一緒になる未来が見えない相手でも好きな色であれば一時の強烈な快楽を得るために身を委ねたくもなる。
幸せな気持ち、最高の快楽が約束されているのに手を取らないでいられる人間はそういない。好奇心旺盛で明け透けな性格も相まって、魔力の色が見える魔女は多情な人間が多かった。
もちろん例に漏れずステラもそう言ったことに興味があった。
自分の好きな色を持つ人と出会ったら一夜でも構わないから一緒になりたいと思っていた。
ただ急いではいなかった。
似たような色を持つ人はたくさんいるから、いずれ遭遇するし、一瞬で好みの色だとわかるから焦る必要はないと先輩魔女には言われていた。
だからその日もいつも通り、魔薬をつくるのに必要な素材集めのためにギルドで適当な依頼をこなして、その報酬に目当ての素材を受け取って小腹でも空いたから新鮮な羊肉でもつまんで帰ろうと飲み屋に寄ったのだ。
声をかけられて、声の下方を見上げて、ステラは目を見開いた。
あ、この人だ。
胸のあたりに渦巻く、黒に近い落ち着いた青色。ステラの大好きな色。
割と好きな色かもとか、試してみてもいい色だな、というレベルではなく、この色以外ないと思った。
魔女の目はとても繊細だ。微妙な色の違いも、濁り具合も感じ取ることができる。ステラの目に映る青年の魔力の色は完璧だった。
なんで綺麗な色なんだろうと、泣いてしまいそうなほど美しい色でステラはこくりと頷いた。
お兄さんならいいですよ、なんてそんな半端な気持ちではなく、お兄さんじゃないと絶対だめ!とその場で叫びたいくらいだった。
魔女の先輩たちは言っていた。
焦らなくて良い。好きな色と似たり寄ったりな色を持つ男はごまんといる。話してみたら楽しいし、体を重ねればとても気持ちいいから出会うたびに遊べばいい。でもみんな少しずつ違ってほんのちょっぴりどこかしっくりこない。本当に寸分の狂いもない割合で三原色が混じり合った好みの色はそうそう巡り会えない。
だからこそ、もしも運良くドンピシャで好みの色に出会えたら絶対に逃してはいけない。何がなんでもベッドまで引き摺り込んで籠絡しなくてはいけないよ。と先輩に耳にタコができるほど言われて、その助言通り、ステラは飲み屋を出た後、情緒もへったくれもなく宿に引き摺り込んで体を重ねた。
たまたまお兄さんが上手かったのと、予想通り体の相性がすこぶる良かったから初めてでもどうにかなったのだが、ステラが出血しているのを見てお兄さんは慌ててたし、事後にステラの年齢を聞いて頭を抱えていた。
魔女はみんな早熟で豊満な体つきのせいもあって5歳くらいは上に見られやすいから、きっと妖艶なお姉さまとハイレベルなえっちを楽しみたくてステラの誘いに乗ったのに、処女のうえに若くて無知な女の子に手を出してしまったと後悔でもしていたのかもしれない。
そんな出会いから一年が経って、お兄さんもとい、ノクスとはとても仲良くなった。
週末になると必ずステラの家に遊びにきて、素材集めに付き合ってくれて、夜になれば体を重ねる。
仲はいいけど、初めて体を重ねた時のことを思い出すとなんだか怖くて何も聞けずにいた。
付き合うとか、付き合わないとか、何も約束せずに始まったこの関係はいったいなんなのか。
ノクスに尋ねればいいだけなのに。
尋ねてステラが期待した答えが返ってこなかったらと思うと今のままの関係の方がいい気がして、なかなか前に進めなかった。
もう少し自信がつくまで。ノクスから返ってくる返事に確証が持てるまで様子を見ようと思っていたら時間だけが過ぎて、曖昧な関係がずるずると続いてしまっていた。
1
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる