【完結】相性のいい魔力の色が見える魔女と番犬騎士

はな

文字の大きさ
上 下
3 / 14

3 魔女と番犬

しおりを挟む


「にしてもおたく凄いわねえ。またデイリーのスコア塗り替えちゃって」

 女性の服装をした筋肉質な男性はギルドの換金カウンターの前に立つステラとノクスを見ながら告げた。

「たまたま色違いがたくさん出たので」
「あらそう。それは良かったわね。でもこの前も色違いに遭遇したって言ってたわねえ」
「読みがよく当たるんですよ。大きな群れに遭遇することが多くて、色違いもたっくさん討伐できちゃいました」

 えへへとステラが微笑みながら告げるとギルドマスターもステラに釣られて笑顔になる。

 魔獣は大抵群で生息しており、群れのリーダーとなる魔獣は強さの格が違う。その格を表すように体の一部が進化したり変形していることが多いのだが、それらは色違い、形違いなどと呼ばれ、高値で売れたり討伐ポイントに大きく加算してもらえる。

 今日の討伐では体の一部の色が一般的な魔獣とは異なる色違いと沢山遭遇した。色違いは他の魔獣よりも格段に強いのだが、ノクスは関係なくいつも通り綺麗な状態で仕留めてくれたため、ポイントをかなり稼ぐことができた。


 ギルドでは1日、1週間、1ヶ月など一定期間に魔獣討伐で稼いだポイントを競うスコアレースが常時行われている。

 今日は早朝から活動していたのと、色違いとの遭遇が多かったおかげでデイリーのランキングのスコアを塗り替えることができた。ちなみに前の1位もララとノクスのパーティーのため1位の座を奪ったというよりはただ少しスコアを更新しただけなのだが。

「ところでだけど、お二人共、個人ランキングの方は興味なーい?パーティーのデイリーでこれだけ実績残せるなら個人もいい線いくと思うんだけど」
「お誘いは嬉しいんですけど、ごめんなさい」

 ステラが即答するとギルドマスターは後ろにいるノクスの方を見る。ノクスも興味なさそうにそっぽを向いた。

「じゃあ、今度は二人でウィークリーを狙うのはどうかしら。デイリーと違った面白さがあるわよ」
「本業は別にあるからウィークリーも難しくて」
「あらそう」

 あえなく撃沈したギルドマスターは薄々そうなるだろうと思っていたため、特に落ち込むこともなく依頼報酬と魔獣の亡骸の買取代金をステラに手渡した。

「残念ね。じゃあはい、これ今日の分よ」
「ありがとう、マスター」

 ステラは報酬を受け取るととても嬉しそうにバックに仕舞い込んだ。

 単純な動作にさえどことなく品があり、育ちの良さが伺える。これだけスコアレースを荒らす実力者が何者なのか、ギルドでは基本的に身分を問うことはないが、だからといって全く気にならないわけではない。

 ステラは中身は幼い少女のように天真爛漫なのに、外見は妖艶な雰囲気の美女で、そのアンバランスさが癖になる蠱惑的な女性だった。
 冒険者ギルドをうろついているなんて非常に心配になるが後ろにへばりついてる巨体の番犬を見れば心配など簡単に吹き飛んでしまう。

 ステラをそばで見守る青年は背が高く、肩幅も広い。長身なせいで、がっしりというよりもスラリとした印象だが、筋肉のつき方や立ち振る舞いは立派な武人だ。
 眠たそうにも見える垂れ目に整った眉、形のいい鼻とへの字の口。脱力感があり、やる気のなさそうな退廃的な雰囲気を纏っているに、ステラが誰かと喋るときだけは相手を探るような鋭い目つきに変わる。

「引き止めてしまってごめんなさいね。じゃあまた、都合のいい日に気軽に声をかけてちょうだい。2人にはとっておきの依頼を紹介するわ」
「来週また来ます!」

 笑顔で答えるステラはやはり上品なのに可愛らしくもあって、どこか色っぽく見えて。気が気でないだろうなと思いながらじっと見ていたら青年がステラの腰に手を回した。

「どうしたの?」

 不思議そうに尋ねるステラに対して青年は体を近づけローブのフードを引っ張って顔を隠す。

「浅くなってる。しっかり被っとけ」
「ありがとう」
「女だってばれたら面倒だ」

 そう素気なく告げると青年はすぐに離れた。

 付かず離れずな距離を保ち、過度に纏わりつくことはないのに2人がただならぬ仲なのはよくわかる。
 ステラは特に気にしていないのだろうがノクスが醸し出す雰囲気が異様で、必要以上にステラに近づこうとすると身の危険を感じるほどだった。

「じゃあまた来週。マスターまたねえ」

 愛嬌をたっぷり振り撒き手を振るステラに手を振りかえしながらマスターは柔らかく微笑む。

「いいわねえ。若いって」

 夕日に溶けるように消えていく2人を見つめながらボソリと呟いた。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

処理中です...