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3 魔女と番犬
しおりを挟む「にしてもおたく凄いわねえ。またデイリーのスコア塗り替えちゃって」
女性の服装をした筋肉質な男性はギルドの換金カウンターの前に立つステラとノクスを見ながら告げた。
「たまたま色違いがたくさん出たので」
「あらそう。それは良かったわね。でもこの前も色違いに遭遇したって言ってたわねえ」
「読みがよく当たるんですよ。大きな群れに遭遇することが多くて、色違いもたっくさん討伐できちゃいました」
えへへとステラが微笑みながら告げるとギルドマスターもステラに釣られて笑顔になる。
魔獣は大抵群で生息しており、群れのリーダーとなる魔獣は強さの格が違う。その格を表すように体の一部が進化したり変形していることが多いのだが、それらは色違い、形違いなどと呼ばれ、高値で売れたり討伐ポイントに大きく加算してもらえる。
今日の討伐では体の一部の色が一般的な魔獣とは異なる色違いと沢山遭遇した。色違いは他の魔獣よりも格段に強いのだが、ノクスは関係なくいつも通り綺麗な状態で仕留めてくれたため、ポイントをかなり稼ぐことができた。
ギルドでは1日、1週間、1ヶ月など一定期間に魔獣討伐で稼いだポイントを競うスコアレースが常時行われている。
今日は早朝から活動していたのと、色違いとの遭遇が多かったおかげでデイリーのランキングのスコアを塗り替えることができた。ちなみに前の1位もララとノクスのパーティーのため1位の座を奪ったというよりはただ少しスコアを更新しただけなのだが。
「ところでだけど、お二人共、個人ランキングの方は興味なーい?パーティーのデイリーでこれだけ実績残せるなら個人もいい線いくと思うんだけど」
「お誘いは嬉しいんですけど、ごめんなさい」
ステラが即答するとギルドマスターは後ろにいるノクスの方を見る。ノクスも興味なさそうにそっぽを向いた。
「じゃあ、今度は二人でウィークリーを狙うのはどうかしら。デイリーと違った面白さがあるわよ」
「本業は別にあるからウィークリーも難しくて」
「あらそう」
あえなく撃沈したギルドマスターは薄々そうなるだろうと思っていたため、特に落ち込むこともなく依頼報酬と魔獣の亡骸の買取代金をステラに手渡した。
「残念ね。じゃあはい、これ今日の分よ」
「ありがとう、マスター」
ステラは報酬を受け取るととても嬉しそうにバックに仕舞い込んだ。
単純な動作にさえどことなく品があり、育ちの良さが伺える。これだけスコアレースを荒らす実力者が何者なのか、ギルドでは基本的に身分を問うことはないが、だからといって全く気にならないわけではない。
ステラは中身は幼い少女のように天真爛漫なのに、外見は妖艶な雰囲気の美女で、そのアンバランスさが癖になる蠱惑的な女性だった。
冒険者ギルドをうろついているなんて非常に心配になるが後ろにへばりついてる巨体の番犬を見れば心配など簡単に吹き飛んでしまう。
ステラをそばで見守る青年は背が高く、肩幅も広い。長身なせいで、がっしりというよりもスラリとした印象だが、筋肉のつき方や立ち振る舞いは立派な武人だ。
眠たそうにも見える垂れ目に整った眉、形のいい鼻とへの字の口。脱力感があり、やる気のなさそうな退廃的な雰囲気を纏っているに、ステラが誰かと喋るときだけは相手を探るような鋭い目つきに変わる。
「引き止めてしまってごめんなさいね。じゃあまた、都合のいい日に気軽に声をかけてちょうだい。2人にはとっておきの依頼を紹介するわ」
「来週また来ます!」
笑顔で答えるステラはやはり上品なのに可愛らしくもあって、どこか色っぽく見えて。気が気でないだろうなと思いながらじっと見ていたら青年がステラの腰に手を回した。
「どうしたの?」
不思議そうに尋ねるステラに対して青年は体を近づけローブのフードを引っ張って顔を隠す。
「浅くなってる。しっかり被っとけ」
「ありがとう」
「女だってばれたら面倒だ」
そう素気なく告げると青年はすぐに離れた。
付かず離れずな距離を保ち、過度に纏わりつくことはないのに2人がただならぬ仲なのはよくわかる。
ステラは特に気にしていないのだろうがノクスが醸し出す雰囲気が異様で、必要以上にステラに近づこうとすると身の危険を感じるほどだった。
「じゃあまた来週。マスターまたねえ」
愛嬌をたっぷり振り撒き手を振るステラに手を振りかえしながらマスターは柔らかく微笑む。
「いいわねえ。若いって」
夕日に溶けるように消えていく2人を見つめながらボソリと呟いた。
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