【完結】相性のいい魔力の色が見える魔女と番犬騎士

はな

文字の大きさ
上 下
2 / 14

2 お礼は口付けで

しおりを挟む


 走り回る雄兎の首筋を狙って剣を力強く振り下ろす。ノクスの実力は折り紙付きでステラもそこそこいろんな剣士を見てきたがその中でもダントツに腕が良かった。

 普段は宮廷で騎士として働いているらしいが詳しい話は聞いていない。

 ノクスはステラの仕事や生活に一切触れてこないから、ステラもノクスの仕事や生活に触れない方がいいのかもしれないと思い、気になってはいるが聞かないようにしていた。

 体は何度も重ねているし、騒いだり冗談を言い合ったりもする気心知れた仲だけど、肝心なことには互いに触れようとしない、深いようで浅い何とも言い難い関係だった。


 ノクスの素晴らしい剣技を見ていたら、気づいた時には辺り一面巨大な雄兎の死骸だらけになっていて、最後の1匹の首元を削ぐとあたりの安全を確認してようやくノクスは抱えたままだったステラを下ろしてくれた。

 ステラはお礼を言うとすぐに駆け出して雄兎の死骸に近寄る。可哀想に思いながらも命に感謝して死骸を確認し始めた。耳を捲ったり前足をふにふにと触ったり、瞼を捲る。

 魔獣を倒すのはノクスの方が上手いが、魔獣の体から取れる素材やその価値について詳しいのはステラの方で、いまいちよくわからないと言った顔をしているノクスの隣で手早く確認を進めた。

「相変わらず上手。急所だけを上手く抜いてるから体は綺麗なままだし、一撃で仕留めるから魔核も全然傷ついてない。これは高く売れるよ」
「そりゃよかった」

 ノクスの仕留めた魔獣は本当に綺麗でいつも惚れ惚れする。
 それに、これは毎回偶然なのだが、どうもステラが欲しいなと密かに思っていた素材を持つ魔獣ばかりを仕留めてくれるから、こんなお願いもできるのだ。

「ねえ、ノクス」
「あ?」

 猫撫で声で呼ぶと怪訝そうな顔でノクスは返事を返す。

「この雄兎の瞳、ララが直接買い取っちゃダメかな。実は今度作ろうと思ってるポーションに紅瞳がたくさん必要なんだけど、こんなに質のいいものってなかなかないし、あったとしても量が少ないし、なのにすっごく高いから困ってて。こんな新鮮な素材そうそう巡り会えないから、ギルドに卸す前にステラに買わせて欲しいなあ、なんて」

 切り株に座るノクスの前にしゃがみ込んでステラは上目遣いでお願いする。

 いつもなら自慢のお胸を腕で押し上げて一緒にアピールするところだが、生憎家を出る際にノクスに1番肌の露出が少ないシャツを着せられ、首元までぴっちりボタンを閉じられてしまったため今は使えない。

 その分じっと目を見てお願いすると、ノクスはステラの可愛さに夢中になって…と言うよりはそもそも素材などどうでもいいような様子で告げた。

「好きにとってっていいぞ。討伐依頼としての報酬の方がでかいし、素材を売った金なんて興味ねえ」

 顔色ひとつ変えないノクスに少し納得いかないが、素材がもらえるのであればそのくらいは目を瞑ろう。

「本当!ありがとう。いくらがいい?一つ5千セトとかでも大丈夫?」
「好きに取ってけって言ったろ。いらねえよ」
「えええ、それはだめだよ。5千セトでもかなりふっかけたのに。いいものだったら1万セトするのだってあるんだよ」

 安い素材はそのまま譲ってもらうこともあったが、今回ばかりはそこそこ高級な素材のためそこまでしてもらうのは良くない、と何度も言うとノクスは面倒臭そうな顔をしてステラの腕を引っ張った。

「こっち向け」
「ほえ」

 引き寄せられて切り株に手をつく。ノクスの腹に抱きつくようにひっつくと頬を掴まれてぐいっと上をむかされた。

 ノクスの端正な男らしい顔が近づいて、唇が重なった。

「んっ…」

 ちゅっと小さなリップ音がして軽く口付けされる。すぐに離れて、これでお代変わりだと言われ、もう喚くなと子供をあやすように軽く頭を撫でられる。ステラは一瞬キョトンとしたのち、ポッと頬を染めた。

「わかった。これで一個分だよね。ララここにあるの全部欲しいから、その分するね」
「あ?っ…まて」

 そう告げるとステラはグッと意気込んでノクスが断る前にノクスの唇を奪った。

 ちゅっ、ちゅっと、何度か啄むと魔女としての本能が刺激されてつい、舌を入れ込んでしまう。

 初めは何だか呆れたような様子のノクスだったが、ステラが積極的に舌を絡めようとすると渋々受け入れて深く絡めてくれる。
 ノクスとのキスはすごく気持ちよくて幸せで、夢中になっているとそのうちノクスの方から積極的に後頭部に手が回って逃げられないように固定された。

 舌が何度も絡まって、口付けはどんどん深くなって、2人の唾液が混ざり合う。好きな気持ちが伝わるように、ノクスの髪の毛や首筋にいっぱい触れながら舌の境目がわからなくなるほど貪り合うとようやく一度唇が離れた。

「…これで2回目だから、あとひい、ふう、みぃ…」

 まじめに数えていると、ぱふっととても軽く頭を叩かれる。

「馬鹿。これで十分だ」
「え」

 いいの?と驚いているとノクスが大きなため息をついて告げた。

「ぼやっとしてないで欲しいなら早く取れ。もう血抜き始めるぞ」
「待って。魔獣の眼球は血抜きの前に採取しないといけないの」

 それは困るとステラは素早く立ち上がると採取用のケースを片手にぱたぱたと死骸に向かって走り出した。

 ステラはとても嬉しそうに死骸に駆け寄ると鼻歌を歌いながら目玉をくり抜き始める。

 そんな彼女の小さな背中をノクスは優しい顔で見つめていた。




 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...