109 / 115
誕生日の翌日
しおりを挟む
「狭い…ですよね。」
「いや、ちょうど良い。」
(いや、ちょうど良いってことはないよね…。)
俺達は風呂から上がり、お互いに寝る支度をするとベッドに入る。そして、1人で寝るには十分余裕のあるベッドを過信しすぎていたのだと後悔した。
(一応シングルよりは少し大きめな作りなんだけどな。)
お互いに仰向けで寝れば全くスペースが無くなってしまうため、俺達は向き合って寝ることにした。せっかく泊まりに来てくれたのに窮屈な寝床などあんまりだろう。少しでもシバの方にゆとりを持たせるためにモゾモゾ動いていると、俺の手に指が絡まった。
「セラ、今日は本当に君の誕生日なんだな。」
「…はい。黙っててすみません。でも、今日中に伝えるつもりでいたんです。」
「私があんなことを言ったから伝えられなかったんだろう…。すまない。」
「結局見つかりましたし、もう謝らないで下さい。」
「しかし…」
ちゅ…
シバがさらに謝罪を続けようとしていると分かり、その口を塞ぐ。
「セラ、」
「私は明日、シバがネックレスを受け取ってくれたらそれで幸せです。…もう終わった話はやめましょう。」
「…分かった。」
シバは泣きそうな顔を隠すように俺を抱きしめた。
(これって…俺が言い出すのを待ってるんだよね…。)
しばらくは黙ってお互いを抱きしめ合っていた俺達だったが、一向に寝ようとしないシバの様子から、どうやら俺が今日の誤解について話をするのを待っているようだ。このままずっと起きて待たせるわけにはいかず、俺は観念して「あの…」と口を開くと、今日の『計画』について話した。
「『笑顔が一番のプレゼント』か…。」
「あの!復唱しないでください!」
「…なぜだ。私は感動している。」
ネックレスを渡し誕生日だとネタバレする流れを計画していたのだと伝える間、恥ずかしくてどうにかなりそうだった。しかしシバは真剣な顔で聞いており、話が終わると俺の用意していた台詞を呟いた。
「その言葉はもう言えないので、明日はただ渡すだけです。」
「そうなのか?」
寂しそうなシバの返事に、少し戸惑う。
「ちゃんと…好きだと伝えてから渡します。」
「では、1つだけ希望を言っていいか?」
(え、まさかのリクエスト?)
思ってもみなかった言葉に少し身構える。
「普段のセラの話し方で…渡してくれないか?」
「普段の私ですか…?」
「セラの一人称は『俺』だろう。トロント殿の前ではそう言うのに、私と話す時は常に堅い言葉で…少し寂しい。」
あまりの可愛いお願いに、心臓がきゅっと掴まれる。
言ったものの照れているのか、俺から顔を背けている彼がますます愛しく、その願いをすぐにでも叶えてあげたくなる。
「あの、シバがそう言うなら……俺、変えましょうか?」
顔を覗き込みながらそう言うと、シバがこちらを向いて「…ああ。」と返事をした。
「凄く良い。」
「ははっ、…そうですか?」
シバが真剣にそう言うので、おかしくなって思わず笑った。
「自然体のセラは、とても可愛いらしい。」
シバはそう言って俺を抱きしめると、やっと「寝よう」と言ってきた。
「セラ、誕生日おめでとう。明日は存分に祝わせてくれ。」
「ふふ…楽しみです。」
クスクス笑っていると、頭のつむじにキスを落とされる。そのままトントンと優しく背中を撫でられ、俺は知らないうちに夢の世界へ旅立った。
肩をトントンと優しく叩かれ、「んん…」と声が漏れる。
(ん、何だ…?)
確かめるように手を伸ばすと、温かいものに触れる。寝ぼけた頭で柔らかく弾力のあるそれを撫でていたが、徐々に昨夜のことを思い出し、目の前のそれがシバの胸であると気付いた。
「…シバ?」
目を薄く開くと、シバがククッと笑いながら俺を見つめていた。
「セラ、おはよう。」
「……おはようございます。」
(朝からシバの笑顔見ちゃった…。)
出会った頃は、無表情で考えていることが分からなかった彼だが、この1年で表情がずいぶんと豊かになった。仕事では相変わらずだが、2人の時にはこうやってよく笑うようになり、だんだんと変わっていく彼を見ていると自分が彼を変えていっているのではと自惚れてしまいそうになる。
「セラ、もう起きよう。」
体感から、そこまで遅い時間ではないだろうと思いつつ目を擦る。
「ふぁ…はい。今何時ですか?」
「もうそろそろ昼になる。」
「…えッ!」
その言葉に飛び起きて壁に掛けてある時計を見ると、針は午前11時を指していた。
「寝すぎたっ!」
シバの部屋に泊まった時には必ずと言ってよいほど寝過ごしてしまう。彼のベッドがふかふかなせいだと思っていたが、どうやらシバと共にいることが心地よく、眠り過ぎてしまうらしい。
「私もさっき起きたばかりだ。」
「本当ですか…?」
「ああ。昨日のことでお互い疲れていたのかもしれない。」
それを聞き、昨夜のネックレス紛失事件を思い出して俺が笑うと、シバも目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。
服を着替え、そのまま街に行こうと誘ってきたシバに頷き、俺達は城を出て馬車に乗った。
「あの、何か用事があるんですか?」
「ネックレスを買いに行く。」
「…え、それってもしかして俺のですか?」
「そうだ。」
(誕生日プレゼントとしてくれるのかな…。すっごく嬉しいけど、高いからなんか申し訳ないな。)
「あの、そんなに急がなくても…。すぐに欲しいってわけではないですし。」
「私がセラに早く付けて欲しいんだ。」
俺の目の下辺りが、シバの指の甲でスッと撫でられる。それに思わず目を瞑ると、「いいか?」と言って顔を寄せられた。今は馬車の中とはいえ外であり、こんなに近い距離でくっついていると照れてくる。
(いいもなにも、買ってくれる気なら俺は嬉しいけど…。)
シバの言葉にコクコクと目を瞑ったまま頷くと、フッと笑う声が聞こえ唇に柔らかい感触がした。
「セラ、キスなら今まで何度もしてるだろう。」
「…部屋でするのは慣れましたけど、外では恥ずかしいんです。」
「誰も見ていない。」
「それでもです。」
俺達は馬車から降りて街を歩いていた。しかし、シバは先程の馬車内での俺の行動に対して少し拗ねた様子だ。というのも、あの会話の後ずっとキスを続けていたシバは、あろうことか舌を入れてこようとしたのだ。
(だって馬車の中だよ?危ないし、もし窓が開いたりしたら見られちゃうし…。)
それに気付いた俺が胸を押すと、「嫌か?」と不安げな顔で尋ねられた。
その態度にぎゅっと胸を掴まれるが、このような場所でのディープキスはやはり良くないだろうと、心を押し殺して「嫌だ」と告げた。
「シバは先にいろいろ学んでるでしょうけど、俺はまだその段階ではないです。」
「……。」
俺に黙って勝手に恋愛の勉強を進めたことに負い目を感じているのか、シバはそれきり黙ってしまった。
「あ!あのお店です。」
俺は話題を変えようと遠くに見える建物を指差す。そこは俺がシバへのネックレスを買った宝石店だった。
「いらっしゃいませ。ああ、お客様。」
「先日はお世話になりました。」
「いえいえ、お相手の方の反応はいかがでしたか…。あの、もしやお連れ様への贈り物でしたか?」
店員は俺の隣に立つシバを見て礼をする。
「先日は連れが世話になった。今日は彼のを見繕ってくれるか?」
「はい、かしこまりました。」
シバの首元にチラッと視線を落とすと、俺達が後日ネックレスを交換し合うと察したのか、「おめでとうございます。」と言いながら店内へ案内した。
「どのようなものをお探しですか?」
「セラ、選ぶといい。君がつけるものだ。」
俺の好きなようにと言ってくれた彼に甘えて、自分の希望を伝える。
「では、彼と同じものを頂けますか?」
そう言って微笑むと、店員が俺の顔を凝視した。
「同じもの……つまり、揃いでということでしょうか?」
「はい。…あの、似合いませんかね?」
店員があまりに驚いた顔をするので、俺は少し自信がなくなる。
似合わなそうであればはっきり言ってもらおうとシバを見る。しかし彼も店員同様、かなり驚いた顔でこちらを見ている。
「えっと…。」
「いえいえ、お似合いになりますよ!ただ、お若いのにとても情熱的な方で、驚いてしまっただけです。」
「情熱的…?ただ彼と揃いのものを身に付けたいだけなんですけど。」
俺の言葉に店員が顔を上気させている。シバも耳が赤くなっており、ますます意味が分からない。
どうしたのかと聞こうとしたが、シバがゴホン…と咳払いして店員に告げた。
「彼は20歳だ。そこまで驚くことではない。」
「そうでしたか…!大変失礼しました。」
シバによる謎のフォローと店員の返しはさらに俺の頭を混乱させたが、慌てて目の前に広げられたネックレスを見ていると、彼らの会話もすっかり忘れ綺麗な青色に目を奪われた。
「ありがとうございました。」
店員に見送られ店を出てすぐにシバが俺の手を握ってきた。急な行動に「ん?」と彼の顔を窺うと、こちらをじっと見て口を開いた。
「セラ、このネックレスは君の負担にならなかったか。」
シバは支払いの際にこのネックレスの値段を知り、俺の財布が心配になったようだ。確かに給料の1ヶ月分を丸々費やしたが、シバを想えば値段も気にならなかった。
「そんなことないです…って言いたいんですが、実は少し背伸びしちゃいました。でも、告白の証だからちゃんとした物をあげたくて。」
へへっと笑ってシバを見ると、繋いだ手を持ち上げられ、ちゅっとその甲にキスをされた。すれ違った若い男女のカップルがそれを見て照れたように目を伏せる。
「シバ…ッ、」
(こんな往来で!さっきも注意したのに。)
「…本当は口にしたいのを、我慢している。」
「……えっと、」
熱を持った目でそう言われると何も言い返せなくなる。シバの手には力が込められ、少し湿ってじんわりと温かい。彼が本当に我慢をしているのだと分かり、顔が妙に熱くなった。
「いや、ちょうど良い。」
(いや、ちょうど良いってことはないよね…。)
俺達は風呂から上がり、お互いに寝る支度をするとベッドに入る。そして、1人で寝るには十分余裕のあるベッドを過信しすぎていたのだと後悔した。
(一応シングルよりは少し大きめな作りなんだけどな。)
お互いに仰向けで寝れば全くスペースが無くなってしまうため、俺達は向き合って寝ることにした。せっかく泊まりに来てくれたのに窮屈な寝床などあんまりだろう。少しでもシバの方にゆとりを持たせるためにモゾモゾ動いていると、俺の手に指が絡まった。
「セラ、今日は本当に君の誕生日なんだな。」
「…はい。黙っててすみません。でも、今日中に伝えるつもりでいたんです。」
「私があんなことを言ったから伝えられなかったんだろう…。すまない。」
「結局見つかりましたし、もう謝らないで下さい。」
「しかし…」
ちゅ…
シバがさらに謝罪を続けようとしていると分かり、その口を塞ぐ。
「セラ、」
「私は明日、シバがネックレスを受け取ってくれたらそれで幸せです。…もう終わった話はやめましょう。」
「…分かった。」
シバは泣きそうな顔を隠すように俺を抱きしめた。
(これって…俺が言い出すのを待ってるんだよね…。)
しばらくは黙ってお互いを抱きしめ合っていた俺達だったが、一向に寝ようとしないシバの様子から、どうやら俺が今日の誤解について話をするのを待っているようだ。このままずっと起きて待たせるわけにはいかず、俺は観念して「あの…」と口を開くと、今日の『計画』について話した。
「『笑顔が一番のプレゼント』か…。」
「あの!復唱しないでください!」
「…なぜだ。私は感動している。」
ネックレスを渡し誕生日だとネタバレする流れを計画していたのだと伝える間、恥ずかしくてどうにかなりそうだった。しかしシバは真剣な顔で聞いており、話が終わると俺の用意していた台詞を呟いた。
「その言葉はもう言えないので、明日はただ渡すだけです。」
「そうなのか?」
寂しそうなシバの返事に、少し戸惑う。
「ちゃんと…好きだと伝えてから渡します。」
「では、1つだけ希望を言っていいか?」
(え、まさかのリクエスト?)
思ってもみなかった言葉に少し身構える。
「普段のセラの話し方で…渡してくれないか?」
「普段の私ですか…?」
「セラの一人称は『俺』だろう。トロント殿の前ではそう言うのに、私と話す時は常に堅い言葉で…少し寂しい。」
あまりの可愛いお願いに、心臓がきゅっと掴まれる。
言ったものの照れているのか、俺から顔を背けている彼がますます愛しく、その願いをすぐにでも叶えてあげたくなる。
「あの、シバがそう言うなら……俺、変えましょうか?」
顔を覗き込みながらそう言うと、シバがこちらを向いて「…ああ。」と返事をした。
「凄く良い。」
「ははっ、…そうですか?」
シバが真剣にそう言うので、おかしくなって思わず笑った。
「自然体のセラは、とても可愛いらしい。」
シバはそう言って俺を抱きしめると、やっと「寝よう」と言ってきた。
「セラ、誕生日おめでとう。明日は存分に祝わせてくれ。」
「ふふ…楽しみです。」
クスクス笑っていると、頭のつむじにキスを落とされる。そのままトントンと優しく背中を撫でられ、俺は知らないうちに夢の世界へ旅立った。
肩をトントンと優しく叩かれ、「んん…」と声が漏れる。
(ん、何だ…?)
確かめるように手を伸ばすと、温かいものに触れる。寝ぼけた頭で柔らかく弾力のあるそれを撫でていたが、徐々に昨夜のことを思い出し、目の前のそれがシバの胸であると気付いた。
「…シバ?」
目を薄く開くと、シバがククッと笑いながら俺を見つめていた。
「セラ、おはよう。」
「……おはようございます。」
(朝からシバの笑顔見ちゃった…。)
出会った頃は、無表情で考えていることが分からなかった彼だが、この1年で表情がずいぶんと豊かになった。仕事では相変わらずだが、2人の時にはこうやってよく笑うようになり、だんだんと変わっていく彼を見ていると自分が彼を変えていっているのではと自惚れてしまいそうになる。
「セラ、もう起きよう。」
体感から、そこまで遅い時間ではないだろうと思いつつ目を擦る。
「ふぁ…はい。今何時ですか?」
「もうそろそろ昼になる。」
「…えッ!」
その言葉に飛び起きて壁に掛けてある時計を見ると、針は午前11時を指していた。
「寝すぎたっ!」
シバの部屋に泊まった時には必ずと言ってよいほど寝過ごしてしまう。彼のベッドがふかふかなせいだと思っていたが、どうやらシバと共にいることが心地よく、眠り過ぎてしまうらしい。
「私もさっき起きたばかりだ。」
「本当ですか…?」
「ああ。昨日のことでお互い疲れていたのかもしれない。」
それを聞き、昨夜のネックレス紛失事件を思い出して俺が笑うと、シバも目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。
服を着替え、そのまま街に行こうと誘ってきたシバに頷き、俺達は城を出て馬車に乗った。
「あの、何か用事があるんですか?」
「ネックレスを買いに行く。」
「…え、それってもしかして俺のですか?」
「そうだ。」
(誕生日プレゼントとしてくれるのかな…。すっごく嬉しいけど、高いからなんか申し訳ないな。)
「あの、そんなに急がなくても…。すぐに欲しいってわけではないですし。」
「私がセラに早く付けて欲しいんだ。」
俺の目の下辺りが、シバの指の甲でスッと撫でられる。それに思わず目を瞑ると、「いいか?」と言って顔を寄せられた。今は馬車の中とはいえ外であり、こんなに近い距離でくっついていると照れてくる。
(いいもなにも、買ってくれる気なら俺は嬉しいけど…。)
シバの言葉にコクコクと目を瞑ったまま頷くと、フッと笑う声が聞こえ唇に柔らかい感触がした。
「セラ、キスなら今まで何度もしてるだろう。」
「…部屋でするのは慣れましたけど、外では恥ずかしいんです。」
「誰も見ていない。」
「それでもです。」
俺達は馬車から降りて街を歩いていた。しかし、シバは先程の馬車内での俺の行動に対して少し拗ねた様子だ。というのも、あの会話の後ずっとキスを続けていたシバは、あろうことか舌を入れてこようとしたのだ。
(だって馬車の中だよ?危ないし、もし窓が開いたりしたら見られちゃうし…。)
それに気付いた俺が胸を押すと、「嫌か?」と不安げな顔で尋ねられた。
その態度にぎゅっと胸を掴まれるが、このような場所でのディープキスはやはり良くないだろうと、心を押し殺して「嫌だ」と告げた。
「シバは先にいろいろ学んでるでしょうけど、俺はまだその段階ではないです。」
「……。」
俺に黙って勝手に恋愛の勉強を進めたことに負い目を感じているのか、シバはそれきり黙ってしまった。
「あ!あのお店です。」
俺は話題を変えようと遠くに見える建物を指差す。そこは俺がシバへのネックレスを買った宝石店だった。
「いらっしゃいませ。ああ、お客様。」
「先日はお世話になりました。」
「いえいえ、お相手の方の反応はいかがでしたか…。あの、もしやお連れ様への贈り物でしたか?」
店員は俺の隣に立つシバを見て礼をする。
「先日は連れが世話になった。今日は彼のを見繕ってくれるか?」
「はい、かしこまりました。」
シバの首元にチラッと視線を落とすと、俺達が後日ネックレスを交換し合うと察したのか、「おめでとうございます。」と言いながら店内へ案内した。
「どのようなものをお探しですか?」
「セラ、選ぶといい。君がつけるものだ。」
俺の好きなようにと言ってくれた彼に甘えて、自分の希望を伝える。
「では、彼と同じものを頂けますか?」
そう言って微笑むと、店員が俺の顔を凝視した。
「同じもの……つまり、揃いでということでしょうか?」
「はい。…あの、似合いませんかね?」
店員があまりに驚いた顔をするので、俺は少し自信がなくなる。
似合わなそうであればはっきり言ってもらおうとシバを見る。しかし彼も店員同様、かなり驚いた顔でこちらを見ている。
「えっと…。」
「いえいえ、お似合いになりますよ!ただ、お若いのにとても情熱的な方で、驚いてしまっただけです。」
「情熱的…?ただ彼と揃いのものを身に付けたいだけなんですけど。」
俺の言葉に店員が顔を上気させている。シバも耳が赤くなっており、ますます意味が分からない。
どうしたのかと聞こうとしたが、シバがゴホン…と咳払いして店員に告げた。
「彼は20歳だ。そこまで驚くことではない。」
「そうでしたか…!大変失礼しました。」
シバによる謎のフォローと店員の返しはさらに俺の頭を混乱させたが、慌てて目の前に広げられたネックレスを見ていると、彼らの会話もすっかり忘れ綺麗な青色に目を奪われた。
「ありがとうございました。」
店員に見送られ店を出てすぐにシバが俺の手を握ってきた。急な行動に「ん?」と彼の顔を窺うと、こちらをじっと見て口を開いた。
「セラ、このネックレスは君の負担にならなかったか。」
シバは支払いの際にこのネックレスの値段を知り、俺の財布が心配になったようだ。確かに給料の1ヶ月分を丸々費やしたが、シバを想えば値段も気にならなかった。
「そんなことないです…って言いたいんですが、実は少し背伸びしちゃいました。でも、告白の証だからちゃんとした物をあげたくて。」
へへっと笑ってシバを見ると、繋いだ手を持ち上げられ、ちゅっとその甲にキスをされた。すれ違った若い男女のカップルがそれを見て照れたように目を伏せる。
「シバ…ッ、」
(こんな往来で!さっきも注意したのに。)
「…本当は口にしたいのを、我慢している。」
「……えっと、」
熱を持った目でそう言われると何も言い返せなくなる。シバの手には力が込められ、少し湿ってじんわりと温かい。彼が本当に我慢をしているのだと分かり、顔が妙に熱くなった。
2
お気に入りに追加
532
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる