鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

文字の大きさ
上 下
104 / 115

来たる日に向けて

しおりを挟む
「セラ、すごい量だけど…今日誰か来るの?」
「へ…?」

帰って夕食の準備をしていると、帰宅した父が後ろから話し掛けてきた。思えば無心で料理をしていたが、テーブルには既に5,6品はメインとなりそうなおかずが並んでおり、手元の料理も合わせると軽く5人前はある。

「あ、何も考えずに作り始めちゃって…ラルクさん来るよね?」
「うん。でもそれでも食べきれないよ。」
「…明日のお弁当にする。」

(シバのも詰めて4人分作れば、大方無くなる…かな?)

父は「セラ、もうこれ以上作らないでね。」と言いながら着替えをしに部屋へ入っていった。
あの後、ゆっくりとした足取りで文官棟から帰った俺は、台所で料理をしながらシバについて考えていた。しばらくは、作業部屋で彼女達が言っていた『遊び』という言葉に落ち込んでいたが、これまでのシバとの1年を振り返っていると、徐々に彼女達の見解は間違っているのではないかと感じ出した。

(シバはあんなに真剣に想いを伝えてくれたんだ。絶対、軽い気持ちなんかじゃない。)

名前も知らない人達の言う事より、彼の言葉を信じるべきだ。
俺は心の中で頷くと、今度はなぜシバがネックレスを用意しなかったのか考えてみる。

(シバはもの凄く忙しいし、単純に時間が無かったのかも。それか、近々俺と買いに行くつもりだった…とか?)

想像しても答えは出ないが、何か理由があるのだろう。そこで俺はあることを思いついた。

(俺がプレゼントしたらいいんだ!)

今まで沢山告白をしてくれたシバに、俺も本気の想いを伝えたかった。さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように、今度は『恋人にネックレスを渡す』というミッションで頭がいっぱいになり、ワクワクと今後の予定を立てることにした。
そして「どこで買うのか」「いつ渡すのか」「どんなシチュエーションがいいのか」を真剣に考えていたところに父が帰宅したのだ。

(一応、ネックレスに関しては父さんにも聞いておこう。)

そもそもこの世界の告白に関してはさっぱり分かっていない。そうなれば大人である父に聞くのが一番だろう。
俺は出来上がった料理を机に並べると、父が着替え終わるのを待った。



「セラ~お待たせ~。ラルクさんもすぐ来るだろうけど、先に食べる?」
「ううん、せっかくだし待とうよ。」
「うん。」

父が笑顔で席に着く。仕事の制服であるボタン付きのシャツと違い、今はラフな部屋着を着ている父の胸元には、ちらっと控えめな赤い粒が見えた。

「父さん、質問があるんだけど。」
「ん、何?私に答えられることならいいけど。」

父は笑ってそう言うと、「言ってごらん。」と続きを促した。

「あのさ…ネックレスの事なんだけど、父さんはなんであの時ラルクさんに渡したの?」
「え…そりゃ、ずっと一緒にいたいなって思ったから……どうしたの?改まって。」
「事故で常識も忘れちゃってるから、教えて欲しいなって思って。…渡すタイミングは決まってるの?」
「うーん、特に決まりはないし、人それぞれじゃないかな?告白する時でもいいし、お互いのタイミングを見計らってでもいいし、自由だよ。」

(そっか。じゃあ恋人になってから渡すパターンもあるんだ。)

その言葉にホッとすると、どこで買ったのかを聞いた。父は街の裏通りにある店で買ったのだとその名前を言い、俺は忘れないように復唱した。

「あのさ、セラ…もしかして、」
「シシルさーん!セラさーん!お待たせしました!」

父は俺に何か言いたげに口を開いたが、玄関からラルクの声が聞こえたため話は一旦中断され、父は彼を出迎える為に席を立った。





「失礼します。」
「セラ、おはよう。」

次の日の朝、執務室へ入るとシバが顔を上げて嬉しそうに話しかけてきた。

「おはようございます。お茶を淹れますね。」
「ああ。セラも一緒にどうだ?」
「ご一緒します。あ、お弁当を作ったんですが、食べれそうですか?」
「ありがとう。外出するが昼過ぎに戻るので、その時に頂く。」

弁当が大きな机の上に置かれるのを見て、シバは席から立ち上がると、お茶の用意をし始めた俺に近づいた。

「セラ、今日もこちらへ寄らずに帰ってくれ。それと、週末まではずっと予定が立て込んでいる。」
「そうなんですね。あの…20日は会えますか?」

その日は休みであり、俺の誕生日でもある。忙しい彼に気を遣わせまいと事前には言わないことにし、ネックレスを受け取ってもらったタイミングで「最高の誕生日になった」と伝えるつもりだ。

(『恋人の笑顔が最高のプレゼント』って…余裕ある大人の男って感じ。)

「ああ。」
「良かった…。」

ホッとして、後ろを振り返りながら笑顔を向けると、シバが近づいてきた。

「執務室では、抱きしめるまでは良いんだったな?」

シバの出張前に「ハグまでならOK」と言ったのを覚えていたシバは、俺を後ろから抱きしめてきた。

「早くセラと2人きりで過ごしたい。」
「私もです。」

(待ってて、シバ!似合うネックレスを見つけて、当日はびっくりさせるからな!)

驚く彼の顔を想像すると嬉しくなり、俺は回された手を両手でぎゅっと握った。





「セラはいるか?!」

バンと扉の開く音とともに財政課の部屋に入ってきたのは、俺の友人であり騎士棟事務員のオリアだった。

「あ、オリア。どうしたの?」
「セラ!別の用事で来たんだが、セラが元気か気になったんだ。あと、頼みがあってな。」
「先週も会ったし、元気だって電話でも話したじゃん。」
「それでもだ。ちゃんと休みながら仕事をしているか?無理は良くないぞ。」

俺達は相変わらずこんな調子で仲良くしている。
前までは、彼自身が休むことを惜しんで働いていたというのに、今ではすっかり考えが変わったようだ。こうして文官棟へ用事で来た際には、必ず俺を訪ねて体調を確認してくる。

「目は充血してないしクマもないな。健康だ!」
「オリア…やめてってば。」

オリアは置かれた書類を見て、俺の顔を掴むと隅々までチェックした。
周りは俺達のいつもの会話にクスクスと笑っており、少し…いや、かなり恥ずかしい。歳の離れた妹に接するのと同じく俺に世話を焼く彼を、じろっと睨む。

「だから、俺を子ども扱いするなって。」
「しかし棟が違って様子が分からないからセラが心配だ。腹は減っていないか?」
「減ってないってば。…それで頼みって?」
「ああ、そうだった。」

オリアは目の前の席に座ると、「暇な日で良いんだが、」と前置きをした。

「街に一緒に行ってくれないか?上司が異動するので贈り物をするんだが、彼は茶が好きなんだ。セラにどういったものがいいか教えて欲しい。」
「うん、いいよ。……オリアが良ければ明日はどう?」
「早速すまんな。頼めるか?」
「うん。あのさ、俺も買い物あるんだ。良かったら付き合ってくれる?…アドバイスとかも、してほしい。」
「もちろんだ!」

オリアは俺に頼られて少し嬉しそうにフフンと口角を上げると、「では、明日の就業後、セラの部屋へ迎えに行く。」と言って部屋から出ていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...