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今夜は寝かせない*

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「セラ…?」
「シバ、じっとしててくださいね。」

シバは急に跨ってきた俺に驚いていたが、言われた通り黙って動かないでいる。
彼は後ろに手を付いて座っており、その上に俺が乗っている状態だ。その表情は、俺の行動の意味が分かっていないと表していたが、言葉を待ちながらじっと様子を見ている。

(あとは、シバのを俺の後ろに当てて……入るのかな、これ。)

後ろを振り返ると、大きなソレが目に入り、少しだけ臆してしまう。しかしグッと気合を入れ覚悟を決めると、それを片手で掴み自分の尻を近づける。
あちらの世界に居た前世でも尻に何かを入れた経験は無いが、そういうプレイがあることは知識として持っている。前例があることから、愛さえあれば乗り越えられるものだと確信していた。

(ちょっとくらいは痛いかもしれないけど…多分我慢できる。)

「セラ…何をしてる。」
「シバはそのままでいてください。」
「…セラ?」

名前を呼び、どうしたと尋ねるがそれを無視して尻の窄まりに大きなモノを宛がう。そしてゆっくりと腰を下ろそうとした時、目の前のシバがガバッと起き上がり俺を持ち上げた。
脇の下に差し込まれた手により俺は体勢を崩し声を上げる。

「ッわ!」
「セラ、どういうつもりだ。」

シバは焦った顔で問うと、俺を上から退けて向き合って座った。

(え…嫌だったのかな。)

「えっと……シバとセックスしようと…、」

俺は拒否された気まずさで、小さい声で答える。それにさらに驚いたように目を見開いたシバは、俺の両手を取った。

「シバ?」
「セラ、セックスはできない。」

俺はその言葉にショックを受けて固まる。

(シバは、そういうことしたくなかったんだ…。)

自分ばかりが突っ走ってしまい、彼を強姦しようとしたのだ。自分の行いに呆れ、ガーンといった音がぴったりな顔で「すみません…。」と力なく呟く。

「セラ、嫌だと言っているわけではない。」
「…いえ、気を遣わないで下さい。」
「違う。私も、君と…その、愛し合いたいが…」

シバは言いにくそうに少し黙るが、俺がじっと待っているため、一つ息をついて向き直る。

「今日は物理的にできない。セックスには準備がいる。」
「え…。」

俺は衝撃でまた固まってしまった。

(セックスって急に始まるもんじゃないの?)

映画やドラマで少しだけなら知識のある俺は、彼らが玄関でもつれるように抱き合ってキスをしながらベッドへ向かうシーンを何度も見た。
あちらの世界の知識がある俺ですら準備の存在を知らなかったのだ。手を繋ぐことから学び始めたシバがなぜそんなことを知っているのだろうか。

「なぜそれが分かるんですか。」
「それは…、本で読んだんだ。」

シバが言いにくそうにしていたのは、俺と学ぶと約束していた本を2冊も先に読んでしまっていたからだった。隣国への遠征の際に、移動中等で読もうと俺と学んでいたシリーズ以外の2冊を持って行ったのだと言う。俺達が一緒に読んでいたのは恋愛の始め方を学べる上下巻。そして、残りは恋愛における人心掌握術の本。そして今回セックスについて学んだのは…

「『はじめてのセックス(超初級編)』だ。……すまない。」
「いえ…いいですけど…。」

俺はシバの口から出てきたタイトルに、そういえば借りたなと表紙に書かれた大きなハートマークのイラストを思い出す。シバはバツが悪そうにしており、俺が黙っているのを勝手に読んで怒っていると勘違いしたようだった。

「私は君の恋人だと思っていたから、そういう行為をする日が来た時に痛い思いをさせたくなかった。」
「…シバ。」
「先に学んだ者として言う。…男同士のセックスは準備が必要だ。」

俺はシバの真剣な表情に、「教えて下さい。」と頭を下げた。



「…だから、先程のように無理やり挿れようとすると、君の後ろは確実に裂ける。」

シバの言葉にぞっとする。なぜ俺はこんなことにも気づかなかったのだろう。シバの説明を聞いて、自分の浅はかさに情けない気持ちになった。
男同士のセックスには、まず洗浄、ローションと避妊具、そして念入りにほぐす過程が必要だと言う。そして、この準備の後に初めて愛し合うことができるのだ。

シバは説明の前に自分のモノをティッシュで拭き、今はお互いにきちんと寝間着を着て向かい合っている。ずっと堅かった彼のモノも俺に説明をしている間にすっかり萎え、申し訳ない気持ちになった。

「無知なばっかりに…ごめんなさい。」
「いや、私も先に説明しておくべきだった。しかし…」

シバは自分の口元を隠すように腕を持っていくと、チラッと視線を俺に向けた。

「セラが私とそういう行為をしたいのだと知って…嬉しく思った。」
「私だって男です。好きな人と触れ合ったら興奮するし、もっと先に進みたいって思うのは、普通じゃないですか。」

素直に想いを伝えると決めた今日は、恥ずかしがって言葉を惜しみたくなかった。俺は自分の心を彼に話す。

「シバの恋人になってキスして、そしたら身体も重ねたいと思って……私ばっかりすみません。」
「セラ…。」
「愛するってそういう行為だけじゃないって分かってるんですけど、早くシバのものになりたくて…。」
「こっちにおいで。」

シバは俺を腕の中に呼ぶ。おずおずと近づくと、あぐらをかいた足の上に向かい合うように俺を乗せた。身体が密着し顔も数センチで届く。あまりに近い体勢に少し恥ずかしいと顔を背けた。

「セラ、どこを見ている。」
「だってシバの顔が近くて…」
「キスしてくれ。」

シバはいじわるな声でそう言うと、黙って目を瞑った。

「あの…俺、」

さっきまで彼のモノを勝手に掴んで後ろに挿れようとしていたのが嘘のように緊張してくる。

(だってさっきはセックスしないとって必死で…。それしか考えてなかったから。)

シバの整った顔を見る。目が伏せられた睫毛は長く、俺は吸い寄せられるようにその黒を見つめた。
すると、ゆっくりと目が開き黒がかった青の瞳に捕らわれる。

「セラ、見てるだけでいいのか。」
「あ…。」

(やだ。シバに触りたい。)

ドキドキと心臓がうるさく鳴る中、俺はシバの頬を両手で包み、その唇にキスをした。

「ん、」
「…セァ。」

俺の名を呼ぼうとしたシバだったが、俺の唇が邪魔してうまく喋れなかったようだ。

「なんですか?」

ちゅ…と音をさせて口を離すと、シバが目を細めて「好きだ。」と一言言った。その言葉に高ぶり、噛みつくように口を合わせる。


「ん、ん…ッぅ」

夢中で口付けていると、シバが俺の背中を撫でてきた。優しく大きな手が心地よく、そのままシバの背中にも手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめながらキスを続ける。じゅっ…と彼の舌を吸って、お返しにと下唇を甘噛みされて身体がピクッと震える。

「シバ…。」
「セラ、凄く気持ちがいい。」

シバは吐息交じりに、低い声でそう言うと俺をふんわりと抱きしめた。

「セラとこうしていると、心から幸せだと感じる。」
「私も…幸せです。」

(なんだ…無理に身体を合わせなくても、お互い大好きって気持ちは伝わるんだ。)

抱き合って言葉にして伝え合い、溢れた愛しさを吐き出すように、ぎゅーっと力いっぱい彼を抱きしめる。シバはそれに笑って俺を横にさせると、電気を消して横に寝ころんだ。

「抱き合って寝よう。」
「…はいっ。」

俺は遠慮なく彼の胸に収まると、回された大きな手が背をトントンと撫でてくる。

「あ…!寝かしつけようとしてますね。」
「セラはこうするとすぐ寝る。」

シバの声色は楽しげだ。

「寝ません!今から、俺がどんなに好きか表現するので、まだシバも寝ちゃ駄目ですよ。」
「それは楽しみだな。」

手始めにとシバの顎にちゅっと口付け、「好きです。」と告げた。暗闇で気が大きくなっている俺は、躊躇いなく彼に口付けていく。

(今夜は寝かせない。)

憧れの台詞を頭に思い浮かべ、今夜は顔の届く範囲に全てキスしてやろうと企んでいた。しかし、覚えているのは顎と頬にしたキスのみで、それからは彼の寝かしつけの技術によって朝までぐっすりと眠ってしまった。
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