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『星空の下で愛を』

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遡ること夜の8時半。
部屋を出て宿舎を抜けた俺は、棟の別れ道でピタッと足が止まった。

「俺…何してんだ…。」

感情のままに部屋を飛び出してしまった。しかし立ち止まって冷静になってみると、ゲーム実況動画で見た数々のバッドエンドのサムネイルが頭をよぎる。

(ずっとこれらを回避しようと頑張ってきたのに…。)

一時の感情に振り回されて地獄行きなどごめんだった。
俺は重くなった足をむり前に出すと、アックスの待つ騎士棟の方へ向かって歩き出す。

(俺は平和に生きるんだ。)

アックスとのイベントを振り返りながら騎士棟の馬小屋を目指す。

最初の出会いから彼は優しかった。別の騎士に絡まれていた俺を助けてくれたのだ。出会って間もない俺に気さくに接してくれ、英雄なのに飾らないところを好ましく思った。

(それに比べてシバは最悪だった。)

初出勤前の挨拶に来た俺に「執務室に来い。」と告げると、俺の返事も聞かずに去っていった。

『月の夜に』では、アックスとの距離がグッと縮まった。お互いに秘密を話し、そこで俺は記憶が無い事を告げたのだ。彼はそんな俺をとても心配していた。

(あ、初めてのイベントから邪魔されたんだ…。)

シバはあの日、偶然俺の宿舎に現れ上着とブランケットまで渡してきた。おかげで薄着ならではの会話選択が違ったものになり、イベント慣れしていなかった俺は焦った。

(結局ブランケットは役に立ったんだけど…。)

今も部屋のソファに掛けてある茶色いブランケットは、秋冬の間大いに活躍し、シバと離れていた2か月間はそれを被って彼を想った。

(2個目は…そうそう『貴方とおでかけ』だな…。)

2人で食事をして雑技団を見て市場を回って…そういえば、このイベントだけは最初から最後まで完璧に達成したのだった。

(あの時のシバ、寂しそうだったっけ。)

俺がアックスと出掛けるとなって寂しそうに俺の名前を呼んだシバ。「次は共に行こう。」と言われ、俺がどんなに驚いたことか。

そして、『湯煙の中で』でもいろいろあった。アックスとの会話選択は概ねこなしたし、彼は風呂を満喫していたようだった。

(あ、でもシバが水かぶったせいで…。)

掛かり湯と間違えて水を被ったシバの世話が大変だった。しかし、彼が温かい湯に浸かって頬が少し蒸気していた姿は、可愛らしいと感じた。

(最後に、すっごく怖かった『黒馬の騎士』…。)

思い出すだけでブルッと身体が震えそうだ。俺を助ける為にアックスは遠い町まで馬を飛ばして来てくれた。
しかし、エルと俺の前に現れたのは白馬に乗ったシバだった。彼はエルと口が当たってしまった俺の為に…

(初めてのキスをくれた。)

アックスとの思い出に浸るつもりだったが…思い出すのはシバのことばかり。


「俺…やっぱりシバが好きだ。」

ボソッと呟くように言う。
ラルクと父が言っていたように、初めて自分の心に従いたいと思った。

(シバに会いたい。)

そう思うといてもたってもいられず、あと何メートルかで騎士棟が見えるところで後ろを振り返る。そして、文官棟に向かって走り出した。

(俺の気持ちを伝えないと…!)

それだけを考え無我夢中で走り、文官棟横を通った時にはすでに息が上がっていた。
そして、馬小屋に控え目についた小さい明かりの下にいる彼を見た瞬間、自分はこの男が好きなのだと…それしか考えられなくなった。





「アインラス様、離してください。」
「…駄目だ。」
「あの、いつまでもこのままじゃ、」
「君を離したくない。」

シバは先ほどの言葉と同時に俺を抱きしめ、今の俺の視界にはシバの胸元のボタンしか映っていない。彼の声はまだ少し震えており、俺を離すまいとさらにぎゅっと腕に力を入れる。

「あの、もう逃げません。…ですから、顔を見て告白させて下さい。」
「……なに。」

俺の言葉に、シバはピタッと止まった。

「ですから、好きだとお伝えしたいので…顔を見せてください。」

シバは黙って、きゅう…と俺を抱きしめると名残惜しそうに腕を離した。

「アインラス様…そんなお顔をされてたんですね。」

シバの顔は、想像していた通り眉が寄っている。普通の者が見れば不機嫌なのかと問いたくなるだろうが、俺には彼が泣き出しそうであるのだと感覚的に分かった。

「セラ。名前を呼んでくれ。」
「……シバ。」

久しい名前を呼び彼の顔を見上げる。そして覚悟を決めて、彼の両手をぎゅっと握った。

「ずっと、ずっと、シバのことが好きでした。沢山傷つけてごめんなさい。……やっぱり貴方が好きです。」

ずっと伝えたかった想いを言い切って、胸が苦しくなってきた。

「私はシバと一緒に居たい。」

(あ、まずい…大事な時に…。)

さっきまではシバが泣きそうだと思っていたのに、結局は俺の目が滲む。喉はクッと詰まり、油断すればしゃくりあげてしまいそうだ。

(シバが好きだ…。)

心の中で何度も叫びながら目の前の青がかった黒い瞳を見つめる。シバは俺に両手を握られたまま顔だけを近づけ、瞼に口付けた。

「よく笑うのに泣き虫で…そんな君が愛しい。」
「…っ、」
「私のセラになってくれるんだな?」
「……ッはい。」

ズッと鼻をすすりながら返事をした。

(う、かっこ悪い。)

人生初めての告白が、まさかこんな風になるとは思っていなかった。

(…でも、いいか。)

「私も君が好きだ。」

目の前のシバは、目元をくしゃっとさせて嬉しそうに笑った。





月がまた雲に隠れ、今度は星の輝きが空に浮かぶ。

「セラ。」

抱きしめ合ったまま名前を呼ばれ、シバが俺の様子を窺いながら顔を寄せてくる。そして、それに自然に目を瞑ると、ふにっと口に柔らかい感触がした。
何度も優しいキスをされ、想いが溢れた俺は、シバの大きな身体を自分からぎゅっと抱きしめる。しかし、急に力を入れたのを不思議に思ったシバは唇をゆっくりと離した。

「セラ、どうした?」 
「もっとキスしたくて…。シバのお部屋に連れて行って下さい。」

上目遣いに見上げると、目の前の男の喉が上下に動いた。

「すまない。」

彼はそう一言言うと、俺の手を掴んで急ぎ足で宿舎へ向かった。シバは馬小屋を離れる時、後ろ髪を引かれるといった様子で、何度も愛馬であるカーズを振り返っていた。



宿舎に入ってからすぐに玄関でキスをされた。

「ん…」
「セラ、好きだ。」

夢中でお互いに長く口を吸っていた。しかし外からドンッ…と音が聞こえると、シバは俺の胸に手を置いて顔を離した。

「ん…シバ?」
「セラ。今日は君と一緒に花火を見ようと思っていたんだ。」
「そうだったんですか?」
「ああ。前に見れなかったから…次はいつなのか、ずっと前から調べていた。」

(さっきの「すまない。」って、俺に花火を見せてあげれないからってこと?)

シバは今日、『笑って泣けて驚き感動する告白』をすると言っていた。結局は俺から告白してしまったため、彼の計画を見ることはできなかったが、カーズに乗って花火を見に行くこともプランに入っていたのだろう。

「シバ、花火は見なくていいです。」
「…セラ。」
「今日はずっと、シバを見ていたい。」

自分の台詞に照れながらも思っていることを素直に伝えた。今までシバはありのままの気持ちをぶつけてくれていたのに、対する俺はずっと逃げてきた。

(今度は、俺も正直にシバに気持ちを伝えたい。)

「寝室に行きませんか?」

シバは少しだけ動揺していたが、頷くとぎこちない足取りで風呂場へ向かった。そして交互に風呂を済ませた後、口数少なく2人でベッドへ向かった。
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