83 / 115
私達恋人発言
しおりを挟む
「私達は部屋にいるからね。おやすみ。」
「セラさん、また明日~。」
ご飯を食べた。風呂にも入った。そして父は泊まりに来たラルクと自室へ行った。
俺はリビングでチラチラと電話に目線を向ける。約束していた日がやってきて、今日は彼から連絡が来るのだ。
冷めてきたお茶に熱い湯でも足そうかと席を立った瞬間、電話の音がした。
(来た!!)
俺はすぐに受話器を取る。
「セラです!」
「…セラ?久しぶりだな。」
シバの声に背筋がピンと伸びる。俺の声は自然と弾むが、シバの声は少し暗い。どこか様子のおかしい彼に話を聞く。
「シバ…?あの、何かありましたか?声に元気がないような…。」
「聞きたい事がある。……間違った情報であればいいが。」
「どうしました?」
(何だろ…また出張期間延長とか言わないよね?)
改まって話があると言われると身構えてしまう。とにかく話してもらわなければ分からないため、静かにシバの言葉を待った。
(え、何この間…。)
言うのを躊躇っている様子のシバだったが、俺が何も言葉を発さずにいるため、ついに口を開いた。
「レイブン殿が、セラと婚約したと聞いた。」
その言葉を聞いて、なぜシバに伝わることを予想しなかったのか…自分に呆れた。
シバが現在滞在しているのは、俺を14番目の奥さんにしようとしたアラブ王子ゼルの国。そしてウォルを妹の婚約者として受け入れようとしていたのだ。
シバは今回謎の遠征費が発生したことが気にかかり、その内容を窺ったところ、ウォル・レイブンの婚約者セラ・マニエラを調査しに行くと言われたという。
(えっと、間違いではない。いや、本当は婚約なんてしてないんだけどね。)
声がどんどん低く弱くなっていくシバ。
例え俺がウォルと婚約したとしてもそこまで落ち込むことはないだろう。不思議に思った俺は、あることを思い出した。
(あ……シバって滞在先で俺を恋人として公表してるんだよね。じゃあ、あちらの国の人達にとってシバは『出張中に恋人を取られた男』ってなってるんじゃ…。)
それは酷い。しかし、俺も今回の婚約の件は「言うな」と言われているためどうして良いのか分からない。
「事実なのか…?」
何も返事をしないことを肯定と捉えたシバ。
詰まったような苦しい声が耳に響いた。
「違いますッ…!」
気づいた時には、そう答えていた。
「…という訳で、婚約者役を演じただけです。」
(全部、言ってしまった…。)
シバの苦し気な声を聞きかねた俺は、事の始まりから終わりまでを端的に話した。文官長に頼まれて他言無用と言われたこと、また打合せで遅くまで城にいたため電話に出れなかったこと。シバは黙って俺の話を聞いていた。
ウォルに告白をされたことは、ややこしくなるので言わないことにした。
「セラ、大変だっただろう。」
「あの…ちゃんと伝えなくてすみません。また事後報告になっちゃいましたね。」
「いや、ダライン様に黙秘するよう言われていたんだ。私が同じ立場でもそうする。」
「結局、全て言ってしまいましたけど。」
俺は、はは…と力なく笑ってシバに秘密にしておいてくれるよう頼んだ。シバは俺から無理やり聞き出したことを後悔していたが、噂の真相が分かってホッとしているようだった。
「しかし婚約者役か…嘘でも妬けるな。」
「え!あの…妬けるって…。」
どういう意味だと焦るが、シバは婚約者役とは具体的に何をしたのかが気になったようで、俺にその様子を聞いた。
「何か嫌な事は強要されなかったか?」
「…はい、大丈夫です。」
異様に距離が近かったり過度なスキンシップはあったものの、それは仕事で我慢できる範疇だ。いたらぬ心配は掛けさせない方が良いと、何も言わないことにした。
「なら良いが。」と優しい声で言う彼に、今度は俺が気になった事を聞いた。それは5日前に父から聞いた伝言の内容であり、それが真実か確かめたかったのだ。
「あの、父から伝言を預かったんですが。」
「ああ。5日間は連絡が取れないと聞いたので思ったことを伝えたが、どうかしたか?」
「えっと、1日一緒に居たいとか、寂しいとかもですか?」
「シシル殿はそのまま伝えてくれたのか。」
(やっぱり!本当にあの言葉はシバが言ったんだ!)
俺は改めて顔がポッと熱くなってきた。
「セラにもうすぐ会えると思うと嬉しい。」
「…私もです。」
(シバ、また俺を勘違いさせるようなことを…。)
そして俺も嬉しさについ、本当の気持ちで返してしまう。
「帰ったらたくさんキスしよう。」
「…えッ!そ、ん、…!」
「嫌か?」
シバの声は少し笑いを含んでいて、意地悪な顔をしているのは明らかだった。顔がさらに熱を持ち心臓はドコドコとうるさいが、冷静な口調で返す。
(今日こそ言わないと!こういうことは友人同士ではしないって。)
何回も言う機会はあったにも関わらず、俺は自分に言い訳をして伝えてこなかった。今度直接会って同じことをされれば、断れる自信がない。
「あの、私で遊ばないでください。」
「…?したいからそう言ったんだが。」
「えっと、ですから…そういうのは、恋人同士がすることであって、私達は」
「私はセラの恋人だろう。問題ない。」
「は…?」
俺は受話器を落とした。
今まで、シバと話していて何度も受話器を落としそうになったが、本当にそうなったのは初めてだ。俺は今、混乱している。
床に着いた受話器から「セラ?」と何度も俺を呼ぶ声が聞こえてきて、ハッとした俺はようやく「すみません!」と言うことができた。
「あの、聞き間違いでしょうか。…私が貴方の恋人だと…。」
「セラ……どういう意味だ。」
「えっと、からかってるのか…本気か分からないんですが。」
「本気だが。」
シバの言葉を最後に、お互い何も言えなくなる。
(ちょっと待って、シバは俺と付き合ってると思ってたの?いつから?え、俺もしかして告白されたの忘れてる?)
もしくは自分からしてしまったのだろうか…と考えを巡らせていると、シバが先に口を開いた。
「私は明日の朝こちらを発つ。帰るのは3日後だ。」
「はい…。」
(あ、そうだ。シバはもうすぐこちらに帰ってくる。)
「伝言の通り、1日私にくれないか?私達は話をした方がいい。」
「はい。私もそうした方が良いと…思います。」
それから何となく気まずく、俺が「おやすみなさい。」と言うと、耳元からちゅっと音がした。
「え、シバ?」
「セラは返さなくていい。私が君に送りたかっただけだ。…おやすみ。」
何か声を掛けたかったが、その前に電話は切られた。
(一体、どういうことだ?)
シバが帰ってくるまでの3日間。俺は電話の内容について考え、考え、考え、答えが出せないままシバ帰還の日を迎えた。
「セラさん、また明日~。」
ご飯を食べた。風呂にも入った。そして父は泊まりに来たラルクと自室へ行った。
俺はリビングでチラチラと電話に目線を向ける。約束していた日がやってきて、今日は彼から連絡が来るのだ。
冷めてきたお茶に熱い湯でも足そうかと席を立った瞬間、電話の音がした。
(来た!!)
俺はすぐに受話器を取る。
「セラです!」
「…セラ?久しぶりだな。」
シバの声に背筋がピンと伸びる。俺の声は自然と弾むが、シバの声は少し暗い。どこか様子のおかしい彼に話を聞く。
「シバ…?あの、何かありましたか?声に元気がないような…。」
「聞きたい事がある。……間違った情報であればいいが。」
「どうしました?」
(何だろ…また出張期間延長とか言わないよね?)
改まって話があると言われると身構えてしまう。とにかく話してもらわなければ分からないため、静かにシバの言葉を待った。
(え、何この間…。)
言うのを躊躇っている様子のシバだったが、俺が何も言葉を発さずにいるため、ついに口を開いた。
「レイブン殿が、セラと婚約したと聞いた。」
その言葉を聞いて、なぜシバに伝わることを予想しなかったのか…自分に呆れた。
シバが現在滞在しているのは、俺を14番目の奥さんにしようとしたアラブ王子ゼルの国。そしてウォルを妹の婚約者として受け入れようとしていたのだ。
シバは今回謎の遠征費が発生したことが気にかかり、その内容を窺ったところ、ウォル・レイブンの婚約者セラ・マニエラを調査しに行くと言われたという。
(えっと、間違いではない。いや、本当は婚約なんてしてないんだけどね。)
声がどんどん低く弱くなっていくシバ。
例え俺がウォルと婚約したとしてもそこまで落ち込むことはないだろう。不思議に思った俺は、あることを思い出した。
(あ……シバって滞在先で俺を恋人として公表してるんだよね。じゃあ、あちらの国の人達にとってシバは『出張中に恋人を取られた男』ってなってるんじゃ…。)
それは酷い。しかし、俺も今回の婚約の件は「言うな」と言われているためどうして良いのか分からない。
「事実なのか…?」
何も返事をしないことを肯定と捉えたシバ。
詰まったような苦しい声が耳に響いた。
「違いますッ…!」
気づいた時には、そう答えていた。
「…という訳で、婚約者役を演じただけです。」
(全部、言ってしまった…。)
シバの苦し気な声を聞きかねた俺は、事の始まりから終わりまでを端的に話した。文官長に頼まれて他言無用と言われたこと、また打合せで遅くまで城にいたため電話に出れなかったこと。シバは黙って俺の話を聞いていた。
ウォルに告白をされたことは、ややこしくなるので言わないことにした。
「セラ、大変だっただろう。」
「あの…ちゃんと伝えなくてすみません。また事後報告になっちゃいましたね。」
「いや、ダライン様に黙秘するよう言われていたんだ。私が同じ立場でもそうする。」
「結局、全て言ってしまいましたけど。」
俺は、はは…と力なく笑ってシバに秘密にしておいてくれるよう頼んだ。シバは俺から無理やり聞き出したことを後悔していたが、噂の真相が分かってホッとしているようだった。
「しかし婚約者役か…嘘でも妬けるな。」
「え!あの…妬けるって…。」
どういう意味だと焦るが、シバは婚約者役とは具体的に何をしたのかが気になったようで、俺にその様子を聞いた。
「何か嫌な事は強要されなかったか?」
「…はい、大丈夫です。」
異様に距離が近かったり過度なスキンシップはあったものの、それは仕事で我慢できる範疇だ。いたらぬ心配は掛けさせない方が良いと、何も言わないことにした。
「なら良いが。」と優しい声で言う彼に、今度は俺が気になった事を聞いた。それは5日前に父から聞いた伝言の内容であり、それが真実か確かめたかったのだ。
「あの、父から伝言を預かったんですが。」
「ああ。5日間は連絡が取れないと聞いたので思ったことを伝えたが、どうかしたか?」
「えっと、1日一緒に居たいとか、寂しいとかもですか?」
「シシル殿はそのまま伝えてくれたのか。」
(やっぱり!本当にあの言葉はシバが言ったんだ!)
俺は改めて顔がポッと熱くなってきた。
「セラにもうすぐ会えると思うと嬉しい。」
「…私もです。」
(シバ、また俺を勘違いさせるようなことを…。)
そして俺も嬉しさについ、本当の気持ちで返してしまう。
「帰ったらたくさんキスしよう。」
「…えッ!そ、ん、…!」
「嫌か?」
シバの声は少し笑いを含んでいて、意地悪な顔をしているのは明らかだった。顔がさらに熱を持ち心臓はドコドコとうるさいが、冷静な口調で返す。
(今日こそ言わないと!こういうことは友人同士ではしないって。)
何回も言う機会はあったにも関わらず、俺は自分に言い訳をして伝えてこなかった。今度直接会って同じことをされれば、断れる自信がない。
「あの、私で遊ばないでください。」
「…?したいからそう言ったんだが。」
「えっと、ですから…そういうのは、恋人同士がすることであって、私達は」
「私はセラの恋人だろう。問題ない。」
「は…?」
俺は受話器を落とした。
今まで、シバと話していて何度も受話器を落としそうになったが、本当にそうなったのは初めてだ。俺は今、混乱している。
床に着いた受話器から「セラ?」と何度も俺を呼ぶ声が聞こえてきて、ハッとした俺はようやく「すみません!」と言うことができた。
「あの、聞き間違いでしょうか。…私が貴方の恋人だと…。」
「セラ……どういう意味だ。」
「えっと、からかってるのか…本気か分からないんですが。」
「本気だが。」
シバの言葉を最後に、お互い何も言えなくなる。
(ちょっと待って、シバは俺と付き合ってると思ってたの?いつから?え、俺もしかして告白されたの忘れてる?)
もしくは自分からしてしまったのだろうか…と考えを巡らせていると、シバが先に口を開いた。
「私は明日の朝こちらを発つ。帰るのは3日後だ。」
「はい…。」
(あ、そうだ。シバはもうすぐこちらに帰ってくる。)
「伝言の通り、1日私にくれないか?私達は話をした方がいい。」
「はい。私もそうした方が良いと…思います。」
それから何となく気まずく、俺が「おやすみなさい。」と言うと、耳元からちゅっと音がした。
「え、シバ?」
「セラは返さなくていい。私が君に送りたかっただけだ。…おやすみ。」
何か声を掛けたかったが、その前に電話は切られた。
(一体、どういうことだ?)
シバが帰ってくるまでの3日間。俺は電話の内容について考え、考え、考え、答えが出せないままシバ帰還の日を迎えた。
2
お気に入りに追加
525
あなたにおすすめの小説
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい
綾里 ハスミ
BL
騎士のジオ = マイズナー(主人公)は、前世の記憶を思い出す。自分は、どうやら大好きな乙女ゲーム『白百合の騎士』の世界に転生してしまったらしい。そして思い出したと同時に、衝動的に最推しのルーク団長に告白してしまい……!?
ルーク団長の事が大好きな主人公と、戦争から帰って来て心に傷を抱えた年上の男の恋愛です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる