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貴方とダンスを
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「セラはどこか見たいところはあるか?」
「特に無いです。本当に、散歩ついでに買い物でもしようと部屋から出たので。」
「それにしては、いつもと雰囲気が違う服を着ているな。」
「これは、新しいので着てみたくて。」
「とても似合っている。」
彼がこの格好を気に入るか少し不安だったが、アックスが微笑みながらそう言ってくれたことで胸を撫で下ろした。
街は祭の時のように多くの人がいる。その多くは広場へ歩いており、その波に飲まれて自然と同じ方へ向かった。
「あれ?音楽が聞こえますね。」
俺達が飲食店の通りを歩いていると、大きな音楽が聞こえてきた。
「ああ。セラは覚えてないだろうが、この時期は毎年中央広場でダンスパーティーがあるんだ。パーティーとはいっても敷居の高いものじゃない。音楽が1日中流れて、誰でも自由に参加できる。」
「へぇ~!見に行ってみたいです。」
「行こうか。俺も久々だ。」
思ったよりも乗り気なアックスを少し意外に思った。
ゲームの会話では「ダンスは苦手じゃない。」と言っていたので嗜む程度かと思っていたが、この様子だとアックスはダンスが好きなのではないだろうか。
「あの、アックスは踊れますか?」
「ダンスは苦手じゃない。父と母が好きで家でよく相手をさせられていた。妹ともさんざん踊ったから下手ではないはずだ。」
「妹さんは学校に通われてるんですよね?最近は会われているんですか?」
俺とアックスは馬小屋でお互いの事をよく共有している。
そして未来の恋人なのだ。俺は彼の家族構成から交友関係まで、教えてもらったことは全て頭に入れている。
「ずいぶん会っていないな。学校も厳しいところだからそうそう外出できないようだ。」
「寂しいですね。」
「そうだな。だが良いさ、毎年春には家族で王都に遊びに来るんだ。」
「へぇ、もうすぐですね。」
(春になったら告白イベントもあるし、家族が来る頃にはラブラブに……なってるのかな?)
横に並ぶ英雄騎士を見上げる。こうやって歩いているだけでも、彼は絵になるほどにかっこいい。それに強くて優しくて、きさくで……
(彼に俺なんかは、もったいないと思う。)
「どうしたセラ。」
アックスが立ち止まって少し屈む。
「えっと、俺はダンスをしたことないから、どうしようって……、」
「はは。忘れてるだけで身体が覚えてるんじゃないか?この国では踊れない者の方が珍しいぞ。」
(え、そうなんだ。知らなかったけど、父さんもラルクさんも?……駄目だ、イメージが湧かない。)
父は大工仕事一筋であまり遊びに出かけなかったし、ラルクもダンスとは無縁に見える。そしてシバは……
(いったいどんな顔して踊るんだ。)
仕事中の仏頂面を思い浮かべる。しかし、好きな相手であるからか勝手に脳内フィルターがかかってしまい、クールに踊りをリードするシバの姿がポワワンと浮かんできた。
(だ、ダメダメ!今日はアックスとのイベントなんだから、シバの事は封印しないと。)
俺はシバを忘れるために、さっさと中央広場へ歩きだした。
「わぁ~!凄く本格的ですね!」
広場に設置されたステージ上には10名程の楽器隊が陽気な音楽で会場を盛り上げている。そしてそれに合わせて皆が思い思いに社交ダンスのような踊りをしていた。
まだ少し肌寒い日が続くが、今日は天気も良く、皆の熱気で上着はいらないくらいだ。
俺達が会場の入口に向かうと、スタッフの1人が話し掛けてきた。
「すみません、ドレスコードチェックをお願いします。」
(これこれ。この為に俺はシャツを着てきたんだ。)
ゲームでプレイしていたので俺は知っていたが、アックスは、そんなのあっただろうかと不思議そうにしている。
「今年からドレスコードが設けられたんですよ。サンダル、襟無しでは入場できませんのでご注意下さい。」
「そうか。俺とセラは、大丈夫みたいだな。」
アックスは自分達の姿を確認し、スタッフの男から入場のチケットを受け取った。
入口には男女様々なサイズの靴が並び、またその横では付け襟やシャツを販売していた。
(なるほど。ドレスコードを設けてパーティの雰囲気は損なわずに、これらを売って利益にしているのか。)
商魂逞しい主催者に感心しつつ、俺とアックスはハリボテの門をくぐった。
入ってすぐは場内を見て歩いたり、屋台で食べ物を買って踊りを眺めていた。
「どうだ?ステップは思い出せそうか?」
「それが……全く自信が無くて、もしかしたら本当に踊ったことないのかもしれません。」
「うーん、前後左右の動きさえ覚えれば出来るから、教えよう。」
そう言って立ち上がるアックスに、申し訳ないと思いつつ礼をする。
「男女の動きにあまり差はないが、リードする側とされる側はある。今日は俺がリードしよう。」
「はい、お願いします。」
アックスは目の前に立ち、俺の両手を取ると初心者用と思われるステップについて話し始めた。
「主な動きは3つだ。それさえ覚えたら後はリード側に任せればいい。まずは右足から出してみろ。」
「こうですか?」
俺は言われた通りに右足を出す。そして向かい合っているアックスは左足を後ろに引いた。そして右足を元に戻した後は左足を後ろに引く。そしてそれを元に戻したらまた右足を前に出す。
「お、上手いじゃないか。」
「えっと、ダンスっぽくはないですが。」
俺の動きは固く、ロボットの方がまだスムーズだろう。
「曲とリードがあればこれだけでも踊りっぽくなるぞ。さ、次は横の動きだ。」
アックスの教え方は分かりやすく、また俺もあちらの世界の体育等でダンスは履修済みだ。ペアでのダンスはしたことがなく、最初は不安であったがなんとかなりそうだ。
「おさらいして、できそうなら1曲踊ってみるか。」
最後に、と全ての動きを復習し、いよいよ踊ることになった。俺達は会場の隅、座っている人達がまばらにいる場所で手を取り合った。
「さ、次の曲が始まったら右足から前に出すんだ。そして後は俺が手を引いた方向へ動けばいい。」
(ざ、ざっくり。……できるかな。)
えっと……と頭でステップを確認していると、ピアノの音楽が鳴り、次の曲が始まった。
3、2、1というアックスのカウントの後で右足を前に出す。アックスは俺の手と腰に手を回すと軽い力で動かしたい方へ俺を誘導した。
(右、戻る、左、戻る……)
頭がステップでいっぱいになり自分の足元を見てしまう。一生懸命付いていこうと必死になっていると、上から笑い声が聞こえた。
「セラ、そんなに完璧にしようとしなくていいぞ。パートナーが下を見ていては寂しい。」
「あ、すみません。」
俺がガバッと顔を上げる。アックスは楽し気にこちらを見ていた。
「セラ、上手だ。俺の引く方へ適当に足を運んだらいい。」
「は、はい。」
アックスはそう言うと俺の腰を掴み、引き寄せたり左右に動いたりとリードを続けた。
(アックスって、本当に上手なんだ。素人の俺でも、踊れてるって勘違いしちゃうよ。)
ステップを踏み間違えた時も、足同士がぶつからないように上手くかわして動きやすい方向へ引いてくれる。間違ってもいいんだという安心感で、俺は見事に1曲踊り切った。
「アックスのおかげで、すごく楽しかったです!」
「そうか?セラは素直でリードしやすいから、俺も楽しいよ。」
話す間もアックスとは手を取り合ったままだ。俺は初めての体験に心が躍り、そのまま大きな手をきゅっと握る。
「セラ、もう1曲どうだ?」
「はい!」
さっきよりもアップテンポな曲が流れる。アックスは音楽を聴きながら、3、2、1とカウントをし、俺は先程と同じく右足をアックスの方へ出した。
「特に無いです。本当に、散歩ついでに買い物でもしようと部屋から出たので。」
「それにしては、いつもと雰囲気が違う服を着ているな。」
「これは、新しいので着てみたくて。」
「とても似合っている。」
彼がこの格好を気に入るか少し不安だったが、アックスが微笑みながらそう言ってくれたことで胸を撫で下ろした。
街は祭の時のように多くの人がいる。その多くは広場へ歩いており、その波に飲まれて自然と同じ方へ向かった。
「あれ?音楽が聞こえますね。」
俺達が飲食店の通りを歩いていると、大きな音楽が聞こえてきた。
「ああ。セラは覚えてないだろうが、この時期は毎年中央広場でダンスパーティーがあるんだ。パーティーとはいっても敷居の高いものじゃない。音楽が1日中流れて、誰でも自由に参加できる。」
「へぇ~!見に行ってみたいです。」
「行こうか。俺も久々だ。」
思ったよりも乗り気なアックスを少し意外に思った。
ゲームの会話では「ダンスは苦手じゃない。」と言っていたので嗜む程度かと思っていたが、この様子だとアックスはダンスが好きなのではないだろうか。
「あの、アックスは踊れますか?」
「ダンスは苦手じゃない。父と母が好きで家でよく相手をさせられていた。妹ともさんざん踊ったから下手ではないはずだ。」
「妹さんは学校に通われてるんですよね?最近は会われているんですか?」
俺とアックスは馬小屋でお互いの事をよく共有している。
そして未来の恋人なのだ。俺は彼の家族構成から交友関係まで、教えてもらったことは全て頭に入れている。
「ずいぶん会っていないな。学校も厳しいところだからそうそう外出できないようだ。」
「寂しいですね。」
「そうだな。だが良いさ、毎年春には家族で王都に遊びに来るんだ。」
「へぇ、もうすぐですね。」
(春になったら告白イベントもあるし、家族が来る頃にはラブラブに……なってるのかな?)
横に並ぶ英雄騎士を見上げる。こうやって歩いているだけでも、彼は絵になるほどにかっこいい。それに強くて優しくて、きさくで……
(彼に俺なんかは、もったいないと思う。)
「どうしたセラ。」
アックスが立ち止まって少し屈む。
「えっと、俺はダンスをしたことないから、どうしようって……、」
「はは。忘れてるだけで身体が覚えてるんじゃないか?この国では踊れない者の方が珍しいぞ。」
(え、そうなんだ。知らなかったけど、父さんもラルクさんも?……駄目だ、イメージが湧かない。)
父は大工仕事一筋であまり遊びに出かけなかったし、ラルクもダンスとは無縁に見える。そしてシバは……
(いったいどんな顔して踊るんだ。)
仕事中の仏頂面を思い浮かべる。しかし、好きな相手であるからか勝手に脳内フィルターがかかってしまい、クールに踊りをリードするシバの姿がポワワンと浮かんできた。
(だ、ダメダメ!今日はアックスとのイベントなんだから、シバの事は封印しないと。)
俺はシバを忘れるために、さっさと中央広場へ歩きだした。
「わぁ~!凄く本格的ですね!」
広場に設置されたステージ上には10名程の楽器隊が陽気な音楽で会場を盛り上げている。そしてそれに合わせて皆が思い思いに社交ダンスのような踊りをしていた。
まだ少し肌寒い日が続くが、今日は天気も良く、皆の熱気で上着はいらないくらいだ。
俺達が会場の入口に向かうと、スタッフの1人が話し掛けてきた。
「すみません、ドレスコードチェックをお願いします。」
(これこれ。この為に俺はシャツを着てきたんだ。)
ゲームでプレイしていたので俺は知っていたが、アックスは、そんなのあっただろうかと不思議そうにしている。
「今年からドレスコードが設けられたんですよ。サンダル、襟無しでは入場できませんのでご注意下さい。」
「そうか。俺とセラは、大丈夫みたいだな。」
アックスは自分達の姿を確認し、スタッフの男から入場のチケットを受け取った。
入口には男女様々なサイズの靴が並び、またその横では付け襟やシャツを販売していた。
(なるほど。ドレスコードを設けてパーティの雰囲気は損なわずに、これらを売って利益にしているのか。)
商魂逞しい主催者に感心しつつ、俺とアックスはハリボテの門をくぐった。
入ってすぐは場内を見て歩いたり、屋台で食べ物を買って踊りを眺めていた。
「どうだ?ステップは思い出せそうか?」
「それが……全く自信が無くて、もしかしたら本当に踊ったことないのかもしれません。」
「うーん、前後左右の動きさえ覚えれば出来るから、教えよう。」
そう言って立ち上がるアックスに、申し訳ないと思いつつ礼をする。
「男女の動きにあまり差はないが、リードする側とされる側はある。今日は俺がリードしよう。」
「はい、お願いします。」
アックスは目の前に立ち、俺の両手を取ると初心者用と思われるステップについて話し始めた。
「主な動きは3つだ。それさえ覚えたら後はリード側に任せればいい。まずは右足から出してみろ。」
「こうですか?」
俺は言われた通りに右足を出す。そして向かい合っているアックスは左足を後ろに引いた。そして右足を元に戻した後は左足を後ろに引く。そしてそれを元に戻したらまた右足を前に出す。
「お、上手いじゃないか。」
「えっと、ダンスっぽくはないですが。」
俺の動きは固く、ロボットの方がまだスムーズだろう。
「曲とリードがあればこれだけでも踊りっぽくなるぞ。さ、次は横の動きだ。」
アックスの教え方は分かりやすく、また俺もあちらの世界の体育等でダンスは履修済みだ。ペアでのダンスはしたことがなく、最初は不安であったがなんとかなりそうだ。
「おさらいして、できそうなら1曲踊ってみるか。」
最後に、と全ての動きを復習し、いよいよ踊ることになった。俺達は会場の隅、座っている人達がまばらにいる場所で手を取り合った。
「さ、次の曲が始まったら右足から前に出すんだ。そして後は俺が手を引いた方向へ動けばいい。」
(ざ、ざっくり。……できるかな。)
えっと……と頭でステップを確認していると、ピアノの音楽が鳴り、次の曲が始まった。
3、2、1というアックスのカウントの後で右足を前に出す。アックスは俺の手と腰に手を回すと軽い力で動かしたい方へ俺を誘導した。
(右、戻る、左、戻る……)
頭がステップでいっぱいになり自分の足元を見てしまう。一生懸命付いていこうと必死になっていると、上から笑い声が聞こえた。
「セラ、そんなに完璧にしようとしなくていいぞ。パートナーが下を見ていては寂しい。」
「あ、すみません。」
俺がガバッと顔を上げる。アックスは楽し気にこちらを見ていた。
「セラ、上手だ。俺の引く方へ適当に足を運んだらいい。」
「は、はい。」
アックスはそう言うと俺の腰を掴み、引き寄せたり左右に動いたりとリードを続けた。
(アックスって、本当に上手なんだ。素人の俺でも、踊れてるって勘違いしちゃうよ。)
ステップを踏み間違えた時も、足同士がぶつからないように上手くかわして動きやすい方向へ引いてくれる。間違ってもいいんだという安心感で、俺は見事に1曲踊り切った。
「アックスのおかげで、すごく楽しかったです!」
「そうか?セラは素直でリードしやすいから、俺も楽しいよ。」
話す間もアックスとは手を取り合ったままだ。俺は初めての体験に心が躍り、そのまま大きな手をきゅっと握る。
「セラ、もう1曲どうだ?」
「はい!」
さっきよりもアップテンポな曲が流れる。アックスは音楽を聴きながら、3、2、1とカウントをし、俺は先程と同じく右足をアックスの方へ出した。
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