鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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思い出の押し花、解禁!

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 翌日。

 俺はマキマ、ウェルミィ、ヤッザン、ブライのじいさんの四人と一緒にロザリオテン城の跡地へと向かってた。
 せっかく皇都まで来たんだからいちどは跡地を見ておきたいっていうウェルミィの願いがあったからだ。

 ちなみに四人には領主館バロンコートの賓客用サロンでひと晩明かしてもらった。

 宿屋はあんな感じに破壊されてしまったわけだし。
 幸いにも領主館はほとんど無傷だったからな。
 
 高台にあるのが功を奏したのかもしれない。

 ただ、みんなあまり眠れなかったようだ。
 あんなことが起こったあとで疲労や緊張もあっただろうし、ぶっちゃけ俺もあまり寝てない。

 だからけっこうフラフラになりながら歩いてた。

(くぅ……遠いなぁ……)

 ロザリオテン城の跡地は街の外にあったから半日くらいかけて歩く必要があった。
 
 道中のモンスターはマキマとヤッザンのおっさんがほとんど倒してくれた。
 「これくらいの敵。ティムさまの出る幕ではありません」と言われ、神聖騎士隊のふたりに甘える形となってしまってる。

 つかふたりとも疲れてるはずなのに、ほんとすごいなぁ。

 でも横を覗けばお仲間がいた。

「……はぁ、はぁぁ~~……。疲れたよぉ……まだなの~?」

「もうすぐですぞ、ウェルミィさま! がんばってください!」

「……ヤッザンに応援されても、ぜんぜん元気でないんだけどぉー! こういうのはやっぱお兄さまに言ってもらわないと~!」

「俺も……バテてむり……」

「あっ! じゃあお互いに抱き合うってのはどーかなぁ~? それでお兄さま成分も補給できるし元気100倍だよっ♪」

「ちょ、近いって」

「ええぇ……いいじゃーん。今のお兄さまとうちって血は繋がってないんだし。間違いが起こってもきっとだいじょうぶ♪」

「なにがだいじょうぶなんだ……。こういう際どいスキンシップは勘弁してくれ。いろいろとしんどい……」

「がーんっ!? お兄さまに嫌われちゃった~!?」

「フォッフォッ。微笑ましい兄妹愛じゃのぅ~」

 そんなこんなで漫才を続けてると、マキマが声を上げた。

「ティムさま。ロザリオテン城の跡地が見えてきました」



 ◇◇◇



 そこには雑草の生えた草地が広がってた。
 辛うじて建物の残骸は確認できるけど、ここに一国の城があったとはちょっと信じられないぞ。

「本当にこの場所で合ってるんだよな?」

「はい。地図で確認しながら進んだので間違いありません」

「そうですな。月日が経ったとはいえまだ5年前のことです。我々神聖騎士隊が君主が住まう城の場所を忘れるはずがありませんぞ」
 
 ここに建造されてたロザリオテン城はそれは豪華絢爛な美しい城だったって話だ。
 俺はぜんぜん覚えてないけど。 

「こうして実際に来ちゃうとなんかショックかも……」

「じゃが、生きている間にこうしてロザリオテン城まで来ることができてワシはうれしいのじゃ」

 目を閉じると5年前の激戦が浮かんでくるみたいだから不思議だ。

(父さんと母さんはどんな思いでウェルミィたちを送り出したんだろうな)

 それだけじゃない。
 一緒に残ったっていうマキマの親父さんもそのときどんな気持ちだったんだろう。

 俺がこれについて考えないのはその人たちに対する冒涜だ。
 だって、ぜんぶ俺が勇者としてふたたび覚醒するのを願っての行動だったわけだから。

 そんなことを思うと自然と言葉が溢れてきた。


「あのさ。この地で亡くなってしまった人たちのことを弔いたいって思うんだけど……どうかな?」

 それを聞いて四人はきょとんとした顔を浮かべる。

「いや……ごめん。そうだよな。記憶も戻ってないのに俺がそんなこと言い出すのはおかしいよな」

 それに俺がニズゼルファに負けたことで帝国は滅んだんだ。
 こんなこと言う資格なんて俺にはない。

 今言ったことは忘れてくれと、そう口にしようとしたところで。

「うん! 素晴らしい提案だよお兄さまっ~♡」

「そうですね。わたしも賛成です」

「ですな! まさに自分もそれをしたいと思っていたところです!」

 意外にもみんな賛同してくれる。

「え……本当にいいのか?」

「当たり前だよ~! うちもお父さまとお母さまをこの地で供養したいってずっと思ってたもん♪」

「それに記憶が戻ってないとか関係ないと思います。ティムさまの陛下と皇后さまを想う気持ち……しっかりと伝わってきました」

 マキマがそう言うと、みんなもゆっくりと頷く。
 
「うむ。ならばエアリアル流の火送りの儀で弔うことにするかのう」

 こうして俺たちは故人たちの冥福を祈ることとなった。



 ◇◇◇
 


「ティムさま。お受け取りください」

「なんだこれ?」

 マキマが魔法袋から取り出した白銀のたいまつを受け取る。

「これは火送りの儀で使用するたいまつとなります。実はこんなこともあろうかとコスタ王国を出る際に人数分用意して持ってきたんです」
 
 マキマは全員にたいまつを渡した。

 それからブライのじいさんが魔法を唱えてたいまつに火をつけていく。

 みんなは勝手が分かってるのか。
 お互いに少し距離を取って円を作ると、たいまつの火を城の跡地へと向ける。

 よく分からなかったけど、とりあえず俺もみんなの真似をした。

「この火が燃え続けているうちに死者の魂が安らかな世界へと誘われるというのが、エアリアル帝国に伝わる弔い方法なんです」

「火が道先案内人の役割を果たしてるってことだよ」

「へぇ、そうなのか」

 どこか優しげな表情を浮かべるマキマとウェルミィ。
 きっと、今ふたりの中ではいろいろな感情が湧き起こってるんだろうな。

「懐かしいのぅ……。これで歴戦の戦士たちを何度も見送ってきたのじゃ」

「この火とともに我々の心も洗われるようですな」

 俺はみんなの輪に加わりながらひそかに願った。
 この地で失われた多くの命が心安らげる場所へ辿り着けますようにって。

「お父さま、お母さま……。お兄さまがかならずかたきを討ってくれるから。だからどうか安らかに眠ってね」

 そんなウェルミィの静かな声が小さく聞えてきた。
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