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「えっと……つまり、父さんがラルクさんに告白したってこと?」
「……うん。」
 父は俺の質問に、もじもじとしている。横に座るラルクも嬉しそうな顔のまま照れて頷く。
 ネックレスを相手に贈るのは、こちらの世界では告白になるらしい。つまり、先程のよく分からないやり取りは、父がラルクに「好きです」と伝えたことになるのだ。
 俺はこの習慣にも驚いたが、父がラルクをそういった意味で好きだとは知らなかった。
 2人は目をチラッと合わせては、目元を緩め、また前を向く。
(事情は分かったから、あとは2人きりでやってよ。)
 俺はとりあえず、明日の仕事に備えて、ラルクに先に風呂に入るよう言った。

「セラ、今日はごめんね。」
「え、何が?」
 ラルクは脱衣所に向かい、扉がパタン……と閉められたタイミングで、父が申し訳なさそうな声を出す。急に謝る父にどうしたのかと尋ねると、「だって、」と小さい声で言った。
「父親が目の前で急に告白するなんて……驚いたよね。」
「いや、確かに驚いたけど、ラルクさんと父さんが恋人同士になって、正直嬉しいよ。」
「セラ……。本当はね、今日告白するつもりじゃなかったんだ。プレゼントは別で用意してて、あのネックレスは、いつか渡せたらいいなって……もっと先にしようって決めてたんだ。」
「なんで?」
「セラに大切な人ができて、それを見守ってからーーってずっと決めてたから。」
「俺の為に……?」
「私自身、今まで誰も好きになれなかったんだ。ラルクさんへの気持ちに気付いたのも、本当に最近で……」
黙って聞いていると、「でも、」と父が続きを話す。
「今日、ラルクさんとセラと楽しく過ごしてたら、『3人でずっと一緒にいたいな。』って思っちゃったんだ。そしたらネックレスを渡してて……自分でも驚いてる。」
 父は男女関係なくモテる。人当たりの良い笑顔と愛嬌のある性格。父に好意を持っているだろう人物は多くいると聞くし、それに納得もする。
(俺の為に今まで恋愛をしなかったのか。)
 ゲームの設定の中でも、父は主人公が5歳の時に妻を亡くしてから、一度も恋人を作ったことはない。とにかく働き、主人公の為にお金を蓄えてきた。そのおかげで主人公は学校に行くことができ、こうして文官の手伝いができている。
(今まで1人で頑張ってきたんだ。)
 俺自身、この世界の記憶は約半年間だ。
 そこからの父との関係もそこまで深いわけではない。しかし、父の嘘偽りない愛情を毎日感じるうちに、俺も彼を本当の父親として好きになっていた。
 彼には、自分の思うままに生きて欲しい。
「俺は、父さんに幸せになってほしい。その相手が兄みたいに思ってるラルクさんなら、俺も幸せだよ。」
「セラ……。」
「これからはもっと楽しくなりそうだね。」
 父は俺を抱きしめると、「ありがとう。」と言って笑った。

 あれから順番に風呂に入るとすっかり遅い時間となり、俺達は明日の仕事に備えて寝ることにした。2人で仲良く部屋に入っていく姿に、「ああ、本当に恋人同士になったのか。」と感慨深くなる。
 しばらくリビングの椅子に座って父やラルクについて考えていると、父の部屋から、「え?!」とラルクの声がした。
「シシルさん、ありがとうございます!!」
(あ、これ他に用意してたプレゼントも渡したな。)
 分かりやすいラルクにプッと笑うと、幸せな気持ちで自室に入った。

「おはようセラ。」
「おはようございます。」
 朝、起きてリビングに入ると、父とラルクが仲良く朝食を準備していた。俺は2人に挨拶を返すと、顔を洗いに洗面所に向かう。
 微笑み合う2人を見て、俺もアックス攻略の為に本腰を入れようという気になった。
(父さんとラルクさんの笑顔は、俺が守る!!)
 自分の顔をパンッと叩くと、思ったより力が入っておりジーンと頬が熱くなる。俺は、少しだけ後悔した。

 仕事終わりに、アックスに会いに馬小屋へ寄る。
 エマへのブラッシングも終わり、そろそろ帰ろうかと荷物を抱えた。
(こうやってコツコツと好感度を上げることが大事なんだ。)
 そう考えながら一緒に宿舎の分かれ道まで歩いていると、アックスが明るい声で尋ねてくる。
「セラ、今週末空いてるか?もし暇なら一緒に食事でもどうだ?」
「今週末の、いつですか?」
「土曜日が休みなんだ。」
(休みはシバの部屋に泊まるって約束しちゃったけど……アックスの誘いは断れないな。)
 朝見た父とラルクの幸せそうな顔が頭に浮かぶ。昨日結ばれたばかりの2人が引き裂かれることは阻止しなければならない……となると、俺に残された道はアックスとのハッピーエンドのみだ。
(シバには明日、何か理由を言って断ろう。)
 俺はアックスに当日は何が食べたいのか尋ねた。

「あの、今週ですが、用事が出来てしまってお部屋に伺えそうにないです。」
「そうか。残念だが、君の都合を優先してくれ。」
 優しい言葉に胸がウッと詰まる。
(ごめんなさい!俺は先約を自分の都合で断る悪い奴なんです……。)
 仕事終わり。お茶を淹れて出した後、やっとシバに断る言葉を告げることができた。シバから少し寂しそうな気配がし胸が痛むが、これは仕方のないことだ。
 しかし約束を自分のワガママで断るという事実に気持ちが落ち込み、「すみません。」と言う声が小さくなってしまった。
「気にしなくていい。また今度にしよう。」
 シバが立ち上がり、俯いている俺の頭にポンッと優しく手を置いた。
「次は、私から誘っていいですか?」
(今後こんなことが起きないように、イベントが関係ない日に声を掛けよう。)
 俺の言葉に、シバは「待っている。」と言って頭を撫でた。

 あれから家に帰り攻略ノートを見ていた俺は、アックスが今週末に誘ってきたのがイベントへの伏線だと気付いた。
(そういえば、夕食に招待するイベントがまだだったな。)
 アックスから「君の手料理が食べたい。」とリクエストされ、イベントだとは分からぬまま家に招待していたのだ。
(ナイス、俺!)
 本来なら、主人公がアックスの上着を借りて、そのお礼にお菓子をあげる。そして、2回目に借りた上着のお礼としてアックスが手料理をリクエストし、夕食に招待……という流れなのだが、ずいぶん前に起こるはずのイベントだったため、すっかり忘れていた。
 俺が父とラルクに、アックスが夕食を食べにくると伝えるとラルクは自室で過ごすと言った。
「トロント様と夕食なんて、緊張して楽しめそうにないです。」
 忘れかけていたが、アックスはラルクのような団員と違い、団長から直接仕事を受ける階級の騎士だ。以前門の前で会った時のように雑談程度ならば良いが、一緒に食事は難しいようで、遠慮したいとのことだった。
 それを聞いた俺は、父にラルクさんの家に泊まることを提案してみる。父は顔を赤くしながら、「そうしようかな。」と返事をした。
(父さん、俺がいるからってお泊りは絶対しなかったからな。)
 ラルクは親指を立てて俺に感謝のサインを送ってきた。
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