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後日談・番外編
贈り物には気を付けて1
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シーバ国で行われたミアとガイアスの結婚お披露目式から3日が経った。
『王族の狼が人間の男と結婚』。そのニュースは瞬く間に各国に広がり、ミアは各地から送られてくるお祝いの品や手紙の処理に追われていた。
「おかげで、全然ガイアスと過ごせない。」
ミアが贈り物で溢れかえった部屋の真ん中で呟くと、従者であるイリヤが呆れた声を出した。
「あと3日頑張ったら、いくらでも会って良いと言ってるでしょうが。」
「俺達新婚なんだからな!会えなくて辛いんだよ~!」
新婚であるミア達が甘い蜜月を過ごしていると思っているのか、贈り物は新婚生活に必要な家具。そして、お揃いの寝巻や香など寝室で使うような物まである。俺は開けた箱に入っていた揃いの枕を見て、「使いたくても使えないんだから…。」と送り主の名前を帳簿に記入する。
「あのさ、これって俺がしなくてもいいんじゃないの?」
「駄目ですよ。ここにある物はラタタ家に関係のある方の物ばかり。今後のパーティーでお会いした時には礼をしなくてはなりません。きちんと把握して下さい。」
「…はぁい。」
俺は、溜息交じりに返事をした。
(ガイアスも忙しいのかな。)
「会いたいよ~…。」
ミアは、結婚したばかりの愛しい男の顔を思い浮かべた。
・・・・・
「ガイアス様。仕分けは全て終わっておりますので、あとはご確認だけお願いします。」
「分かった。」
ガイアスは使用人達が分けた贈り物の中身を、もくもくと確認する。
自分達にとっては、愛する者と結婚しただけ…という認識だが、王族であるミアと人間であるガイアスが結婚するということは、世間にとっては大ニュースだ。
シーバとサバルの両王による計らいで、ガイアスの名前はこの城の自衛隊員以外には公表されなかったものの、逆に言えば自衛隊員全員がミアとガイアスの関係を知っているということになる。
(ミアは自衛隊の訓練所にまた来たがっていたし、混乱を避ける為にはしかたないが…。)
また、サバル国でのミアのお披露目式で、多くのサバル国民はミアの顔を知った。今後、2人が共に住むようになれば、ミアは国民の目に晒される機会が多くある。そうなれば本家と繋がりのある者が、ミアを目的に近づいてくる可能性は多くある。
王によって、俺達の存在に気付いても取り立てて騒ぐことのないようお達しがあったが、これから徐々に周りに知れ渡っていくであろう関係によって、今後自分達が忙しくなることは明らかだ。
(式以来、ミアに会えていない…。)
早くあの白い耳や尻尾に癒されたいと思いつつ、ガイアスは無造作に手に取った箱の1つを開ける。その中身を確認すると、こめかみをピクッと動かした。
「なんだこれは…。」
自分でも驚く程の低い声が出る。箱の中には、明らかにミアのサイズで作られた透けた寝間着が入っていた。
「きゃッ!」
「どうした。」
執事と一緒にプレゼントを仕分けていたメイドの1人が、ゴト…と大きな音を立てて短い悲鳴を上げた。そこへ近寄ると、床にはグロテスクな形の大人の玩具。メイドは顔を赤らめながらそれを拾うと、『卑猥ボックス』へ入れた。
(この箱は…。)
名前からして不愉快だが、その箱には既に何個かの贈り物が入っている。
下世話な自衛隊員達は冗談のつもりでこれらを贈ったのだろうが、ガイアスは自分のミアが汚されたような気分になった。それら全ての差出人の名前を確認すると、今後ミアに失礼なことをしないよう、きちんとくぎを刺しておくことにした。
・・・・・
あれから2日が経ち、全ての贈り物と手紙を確認したミアは、イリヤとの約束より少し早く外出の許可を貰った。
「本当に行ってもいいの?」
「はい。何なら泊まってきても良いですよ。」
「…イリヤ。ありがと。」
「なんですかお礼なんて。素直で気持ちが悪いですね。」
「疲れて頭がおかしくなってるのかも…。」
「さぁ、早く行った方が良いんじゃないですか?さっきカルバン様にミア様の贈り物の仕分けが終了したことをお伝えしたので、部屋に来るかもしれませんよ。」
「げっ、行ってきます。明日帰ってくるね!」
イリヤの「何時になるか、きちんと連絡して下さいね!」との声を無視し、ミアはワクワクしながら転移した。
「あれ?いない…。」
ミアはガイアスに早く会おうと、部屋へ直接転移した。しかし、中はシーンとしており、誰もいる気配が無い。仕事だろうか…と部屋をうろうろしていると、寝室に開いたままの大きな箱があることに気付いた。
ミアはそれを覗いてみる。中には大小様々な棒状の物、そして大きいパールが連なった物が何個かあった。
「これ…何に使うんだろ。あ、こっちは服かな…?」
大きさは自分にピッタリだが、いつもミアが着ているものより薄く、光にかざすと透けて向こうが見える。
(ガイアスが買ったのかな。)
ガイアスは、ミアの服装に関して何かを意見したことはない。しかし、寝間着と思われるこの服をわざわざ用意しているとことから、実はガイアスはこういった格好が好きなのでは…?と思った。
(結婚式からずっと会えてなかったし、旦那様の願いなら俺が叶えてあげないと。)
俺はその寝間着と、適当に何個か使い道の分からない道具を手に取ると、お風呂上りに身に着けるために、それらを脱衣所に隠した。
箱はそのままに、俺は部屋を出て階段を降りていく。その音に気付いた執事が、「ミア様。お帰りなさいませ。」と挨拶をした。
(「お帰りなさい」だって!)
執事の言葉に、自分がこの家の一員になったのだと改めて実感し、ミアは頬が緩んだ。
「お疲れ様。式後のことが落ち着いたからガイアスに会いに来たんだけど、出掛けてる?」
「ガイアス様は自衛隊の本部で御礼回りをしておられます。夕方戻ると伺っておりますが。」
「じゃあ、調理場使っていい?新しい料理覚えたんだ。」
「それはお喜びになるでしょう。今夜はこちらでお休みになられますか?」
「うん!明日の夜までいるよ。」
「かしこまりました。」
執事は俺を調理場まで案内した。
執事の言っていた通り、夕方になるとガイアスが屋敷に帰ってきた。ミアは事前に来ることをガイアスに伝えていなかったため、まだその存在に気付いていない。ミアは驚かせるため、手荷物を執事に渡しているガイアスに向かって「わ!」と大きな声を出した。
「ミア?」
玄関近くの応接室に隠れていた俺は、扉から顔だけを覗かせて笑う。
「びっくりした?」
「ああ。ミア、おいで。」
ガイアスは微笑み、ミアはタターッと走ってその大きな胸に飛び込んだ。
「まだ会えないと思っていたから、本当に驚いた。」
「へへ、早く会いたくて頑張ったんだ。」
「ありがとう。」
ガイアスはそう言って、ちゅ、ちゅ、と両頬にキスを落とす。後ろではメイドの2人が「素敵です。」と手を取り合っていた。
「ご飯食べる?もう準備できてるよ。」
「着替えてくるから、先に食堂にいてくれ。」
「はーい。」
俺が手を挙げて答えると、ガイアスはよしよしと頭を撫でて、階段を上がっていった。
食堂でガイアスを待っていると、少し焦った顔をしたガイアスがミアの隣に座った。そして、他の者に聞こえないようにコソッと耳打ちしてくる。
「ミア、2階へ上がったか?」
(2階?転移した時にいただけで、それからは上がってないけど…。)
「ううん、ずっと1階にいたよ。」
「そうか。」
俺が「どうしたんだ…?」という顔をしていると、ガイアスはホッとしたように「部屋が少し散らかっていた。」と言った。
「こちらはミア様がお作りになられました。」
「ミアが作ったのか?」
「うん…簡単なやつだけど。」
「美味しそうだ。これを一番に食べたい。」
ガイアスは、ミアの作ったチキンのグリルを見て、驚いていた。ガイアスが以前外食の時に好きだと言っていたチーズソースも、習いながらではあるが良い出来だ。
「美味しい。全部食べていいか?」
「うん、食べて食べて!」
ガイアスに褒められ、ミアは得意顔でフフッと笑った。
(うーん、やっぱり下着が丸見えだよね。)
今、ミアは脱衣所の鏡の前で、透けた寝間着を着た自分を見ていた。それは袖を通すとさらに透けて見え、「着ている意味があるのか?」と言いたくなる。
(まあ、これでガイアスが喜ぶなら…。)
俺は長袖に異様に短いズボンという恰好を不思議に思いながら、サプライズの為にガウンを羽織ってしっかりと前を留めた。そして内側のポケットに謎の道具を入れて部屋へと戻った。
「ガイアス、お待たせ。」
「俺もすぐ入る。ミア、寝ずに待っててくれ。」
ミアの湿った髪を撫でると、ガイアスは脱衣所へ向かった。
(ふぅ~バレてないみたい。)
今日、いつも通り一緒に風呂に行こうとしたガイアスに、別々に入ろうと提案したミア。2人で風呂に入るのが好きなミアが言った意外な言葉に、ガイアスは「どうかしたのか?」と聞いた。
その理由を用意していなかったミアは、今日はシャワーだけにすると言って誤魔化した。「早くガイアスとベッドに行きたい。」と付け加えると、ガイアスは目を細めて頷いた。
『寝ずに待っててくれ。』
今言われたばかりのガイアスの言葉は、ベッドでのアレコレを期待しているように聞こえ、ミアの顔が赤くなる。お披露目式依頼の触れ合いに、ミアも期待しながら寝室へ向かった。
「ミア…寝たのか?」
まどろみの中で聞こえてくる声に、ミアが目を開けると、ガイアスがベッドの端に腰掛けてミアを見下ろしていた。
「あ、ごめん!寝てないよ。ちょっとうとうとしてただけ。」
「はは、忙しかったから疲れが出たんだろう。このまま寝てもいいぞ。」
「えっ、駄目!」
ガイアスは気遣いの気持ちを込めてそう言うが、ミアはその言葉にガバッと起き上がった。
(えっと、あれからベッド行って、棚に棒みたいなのを隠して…。寝巻は…良かった。はだけてないな。)
ミアは自分の胸元の合わせがきっちりと首元で留められているのを確認し、ホッと息をついた。
「ミア、いいのか?」
「うん。」
ガイアスは、さっきまで眠っていたミアが子どものようだったと笑っていたが、今は熱を含んだ瞳でミアを見ている。
ミアは布団から出てガイアスに近付くと、彼の足に乗るようにして、その顎にキスをした。
ちゅ、
「ガイアス、もうちょっと下向いて。」
「こうか?」
「そのままでいてね。」
ミアはガイアスの頬に手を添えると、下から見上げるようにガイアスの唇に口付けをした。
「んぅ、ふっ…、」
「ミア、」
「あ…っ」
俺が夢中で下からキスをしていると、ガイアスがミアを抱えてベッドに寝かせた。そして上から覆いかぶさると、さっきまでは届かなかった奥まで舌を差し込む。
「んんッ、…ん、はぁ…」
「可愛い、ミア、」
ガイアスは俺の首元をスッと手で撫でると、ガウンの前の合わせに手を入れた。
「…ミア?」
目を瞑って深いキスに集中していたミアは、ガアイスの声で「ん?」と目を開ける。ガイアスはいつの間にかミアのガウンの腰ひもを抜き取っていたが、はだけて出てきた寝間着を見て、固まっている。
(びっくりしたかな?)
ミアはいたずらが成功した気分で、フフッと笑う。
「これ、用意してたでしょ?着てみたよ。」
「……。」
ガイアスは何も言わない。部屋はシーンとした空気に包まれた。
(あれ…?喜んでない…。)
ミアは予想とは違った反応に、どうするべきか分からずもじもじとした。
「あの…嬉しく、ない?」
「……いや。これをどこで?」
ガイアスはミアの胸元を凝視しながら驚いてはいる。
ミアはガイアスの言葉とその様子から、これは彼が準備したものではないと気が付いた。慌ててガウンの前を合わせると、そそくさとガイアスの下から抜け出す。
(もしかしたら、シュラウドさんか誰かが冗談で送ってきたのかも!)
「ごめん!俺、勘違いしたみたい。脱いでくるから待ってて!」
「ま、待ってくれ。」
ミアがベッドから降りようとすると、その手を後ろへ掴まれた。
「脱がないでくれ。」
「…。」
引かれた拍子に後ろにポスンと倒れた俺は、焦った顔で俺を見下ろしているガイアスをきょとんと見上げる。
「え?」
「そのままでいい。ただ、自分が情けなくなっただけだ。」
ミアはガイアスの言葉の意味が分からず、ポカンとしている。ガイアスは自分の必死さをごまかすために咳払いをすると、この寝間着を部屋に置いていた経緯を教えた。
『王族の狼が人間の男と結婚』。そのニュースは瞬く間に各国に広がり、ミアは各地から送られてくるお祝いの品や手紙の処理に追われていた。
「おかげで、全然ガイアスと過ごせない。」
ミアが贈り物で溢れかえった部屋の真ん中で呟くと、従者であるイリヤが呆れた声を出した。
「あと3日頑張ったら、いくらでも会って良いと言ってるでしょうが。」
「俺達新婚なんだからな!会えなくて辛いんだよ~!」
新婚であるミア達が甘い蜜月を過ごしていると思っているのか、贈り物は新婚生活に必要な家具。そして、お揃いの寝巻や香など寝室で使うような物まである。俺は開けた箱に入っていた揃いの枕を見て、「使いたくても使えないんだから…。」と送り主の名前を帳簿に記入する。
「あのさ、これって俺がしなくてもいいんじゃないの?」
「駄目ですよ。ここにある物はラタタ家に関係のある方の物ばかり。今後のパーティーでお会いした時には礼をしなくてはなりません。きちんと把握して下さい。」
「…はぁい。」
俺は、溜息交じりに返事をした。
(ガイアスも忙しいのかな。)
「会いたいよ~…。」
ミアは、結婚したばかりの愛しい男の顔を思い浮かべた。
・・・・・
「ガイアス様。仕分けは全て終わっておりますので、あとはご確認だけお願いします。」
「分かった。」
ガイアスは使用人達が分けた贈り物の中身を、もくもくと確認する。
自分達にとっては、愛する者と結婚しただけ…という認識だが、王族であるミアと人間であるガイアスが結婚するということは、世間にとっては大ニュースだ。
シーバとサバルの両王による計らいで、ガイアスの名前はこの城の自衛隊員以外には公表されなかったものの、逆に言えば自衛隊員全員がミアとガイアスの関係を知っているということになる。
(ミアは自衛隊の訓練所にまた来たがっていたし、混乱を避ける為にはしかたないが…。)
また、サバル国でのミアのお披露目式で、多くのサバル国民はミアの顔を知った。今後、2人が共に住むようになれば、ミアは国民の目に晒される機会が多くある。そうなれば本家と繋がりのある者が、ミアを目的に近づいてくる可能性は多くある。
王によって、俺達の存在に気付いても取り立てて騒ぐことのないようお達しがあったが、これから徐々に周りに知れ渡っていくであろう関係によって、今後自分達が忙しくなることは明らかだ。
(式以来、ミアに会えていない…。)
早くあの白い耳や尻尾に癒されたいと思いつつ、ガイアスは無造作に手に取った箱の1つを開ける。その中身を確認すると、こめかみをピクッと動かした。
「なんだこれは…。」
自分でも驚く程の低い声が出る。箱の中には、明らかにミアのサイズで作られた透けた寝間着が入っていた。
「きゃッ!」
「どうした。」
執事と一緒にプレゼントを仕分けていたメイドの1人が、ゴト…と大きな音を立てて短い悲鳴を上げた。そこへ近寄ると、床にはグロテスクな形の大人の玩具。メイドは顔を赤らめながらそれを拾うと、『卑猥ボックス』へ入れた。
(この箱は…。)
名前からして不愉快だが、その箱には既に何個かの贈り物が入っている。
下世話な自衛隊員達は冗談のつもりでこれらを贈ったのだろうが、ガイアスは自分のミアが汚されたような気分になった。それら全ての差出人の名前を確認すると、今後ミアに失礼なことをしないよう、きちんとくぎを刺しておくことにした。
・・・・・
あれから2日が経ち、全ての贈り物と手紙を確認したミアは、イリヤとの約束より少し早く外出の許可を貰った。
「本当に行ってもいいの?」
「はい。何なら泊まってきても良いですよ。」
「…イリヤ。ありがと。」
「なんですかお礼なんて。素直で気持ちが悪いですね。」
「疲れて頭がおかしくなってるのかも…。」
「さぁ、早く行った方が良いんじゃないですか?さっきカルバン様にミア様の贈り物の仕分けが終了したことをお伝えしたので、部屋に来るかもしれませんよ。」
「げっ、行ってきます。明日帰ってくるね!」
イリヤの「何時になるか、きちんと連絡して下さいね!」との声を無視し、ミアはワクワクしながら転移した。
「あれ?いない…。」
ミアはガイアスに早く会おうと、部屋へ直接転移した。しかし、中はシーンとしており、誰もいる気配が無い。仕事だろうか…と部屋をうろうろしていると、寝室に開いたままの大きな箱があることに気付いた。
ミアはそれを覗いてみる。中には大小様々な棒状の物、そして大きいパールが連なった物が何個かあった。
「これ…何に使うんだろ。あ、こっちは服かな…?」
大きさは自分にピッタリだが、いつもミアが着ているものより薄く、光にかざすと透けて向こうが見える。
(ガイアスが買ったのかな。)
ガイアスは、ミアの服装に関して何かを意見したことはない。しかし、寝間着と思われるこの服をわざわざ用意しているとことから、実はガイアスはこういった格好が好きなのでは…?と思った。
(結婚式からずっと会えてなかったし、旦那様の願いなら俺が叶えてあげないと。)
俺はその寝間着と、適当に何個か使い道の分からない道具を手に取ると、お風呂上りに身に着けるために、それらを脱衣所に隠した。
箱はそのままに、俺は部屋を出て階段を降りていく。その音に気付いた執事が、「ミア様。お帰りなさいませ。」と挨拶をした。
(「お帰りなさい」だって!)
執事の言葉に、自分がこの家の一員になったのだと改めて実感し、ミアは頬が緩んだ。
「お疲れ様。式後のことが落ち着いたからガイアスに会いに来たんだけど、出掛けてる?」
「ガイアス様は自衛隊の本部で御礼回りをしておられます。夕方戻ると伺っておりますが。」
「じゃあ、調理場使っていい?新しい料理覚えたんだ。」
「それはお喜びになるでしょう。今夜はこちらでお休みになられますか?」
「うん!明日の夜までいるよ。」
「かしこまりました。」
執事は俺を調理場まで案内した。
執事の言っていた通り、夕方になるとガイアスが屋敷に帰ってきた。ミアは事前に来ることをガイアスに伝えていなかったため、まだその存在に気付いていない。ミアは驚かせるため、手荷物を執事に渡しているガイアスに向かって「わ!」と大きな声を出した。
「ミア?」
玄関近くの応接室に隠れていた俺は、扉から顔だけを覗かせて笑う。
「びっくりした?」
「ああ。ミア、おいで。」
ガイアスは微笑み、ミアはタターッと走ってその大きな胸に飛び込んだ。
「まだ会えないと思っていたから、本当に驚いた。」
「へへ、早く会いたくて頑張ったんだ。」
「ありがとう。」
ガイアスはそう言って、ちゅ、ちゅ、と両頬にキスを落とす。後ろではメイドの2人が「素敵です。」と手を取り合っていた。
「ご飯食べる?もう準備できてるよ。」
「着替えてくるから、先に食堂にいてくれ。」
「はーい。」
俺が手を挙げて答えると、ガイアスはよしよしと頭を撫でて、階段を上がっていった。
食堂でガイアスを待っていると、少し焦った顔をしたガイアスがミアの隣に座った。そして、他の者に聞こえないようにコソッと耳打ちしてくる。
「ミア、2階へ上がったか?」
(2階?転移した時にいただけで、それからは上がってないけど…。)
「ううん、ずっと1階にいたよ。」
「そうか。」
俺が「どうしたんだ…?」という顔をしていると、ガイアスはホッとしたように「部屋が少し散らかっていた。」と言った。
「こちらはミア様がお作りになられました。」
「ミアが作ったのか?」
「うん…簡単なやつだけど。」
「美味しそうだ。これを一番に食べたい。」
ガイアスは、ミアの作ったチキンのグリルを見て、驚いていた。ガイアスが以前外食の時に好きだと言っていたチーズソースも、習いながらではあるが良い出来だ。
「美味しい。全部食べていいか?」
「うん、食べて食べて!」
ガイアスに褒められ、ミアは得意顔でフフッと笑った。
(うーん、やっぱり下着が丸見えだよね。)
今、ミアは脱衣所の鏡の前で、透けた寝間着を着た自分を見ていた。それは袖を通すとさらに透けて見え、「着ている意味があるのか?」と言いたくなる。
(まあ、これでガイアスが喜ぶなら…。)
俺は長袖に異様に短いズボンという恰好を不思議に思いながら、サプライズの為にガウンを羽織ってしっかりと前を留めた。そして内側のポケットに謎の道具を入れて部屋へと戻った。
「ガイアス、お待たせ。」
「俺もすぐ入る。ミア、寝ずに待っててくれ。」
ミアの湿った髪を撫でると、ガイアスは脱衣所へ向かった。
(ふぅ~バレてないみたい。)
今日、いつも通り一緒に風呂に行こうとしたガイアスに、別々に入ろうと提案したミア。2人で風呂に入るのが好きなミアが言った意外な言葉に、ガイアスは「どうかしたのか?」と聞いた。
その理由を用意していなかったミアは、今日はシャワーだけにすると言って誤魔化した。「早くガイアスとベッドに行きたい。」と付け加えると、ガイアスは目を細めて頷いた。
『寝ずに待っててくれ。』
今言われたばかりのガイアスの言葉は、ベッドでのアレコレを期待しているように聞こえ、ミアの顔が赤くなる。お披露目式依頼の触れ合いに、ミアも期待しながら寝室へ向かった。
「ミア…寝たのか?」
まどろみの中で聞こえてくる声に、ミアが目を開けると、ガイアスがベッドの端に腰掛けてミアを見下ろしていた。
「あ、ごめん!寝てないよ。ちょっとうとうとしてただけ。」
「はは、忙しかったから疲れが出たんだろう。このまま寝てもいいぞ。」
「えっ、駄目!」
ガイアスは気遣いの気持ちを込めてそう言うが、ミアはその言葉にガバッと起き上がった。
(えっと、あれからベッド行って、棚に棒みたいなのを隠して…。寝巻は…良かった。はだけてないな。)
ミアは自分の胸元の合わせがきっちりと首元で留められているのを確認し、ホッと息をついた。
「ミア、いいのか?」
「うん。」
ガイアスは、さっきまで眠っていたミアが子どものようだったと笑っていたが、今は熱を含んだ瞳でミアを見ている。
ミアは布団から出てガイアスに近付くと、彼の足に乗るようにして、その顎にキスをした。
ちゅ、
「ガイアス、もうちょっと下向いて。」
「こうか?」
「そのままでいてね。」
ミアはガイアスの頬に手を添えると、下から見上げるようにガイアスの唇に口付けをした。
「んぅ、ふっ…、」
「ミア、」
「あ…っ」
俺が夢中で下からキスをしていると、ガイアスがミアを抱えてベッドに寝かせた。そして上から覆いかぶさると、さっきまでは届かなかった奥まで舌を差し込む。
「んんッ、…ん、はぁ…」
「可愛い、ミア、」
ガイアスは俺の首元をスッと手で撫でると、ガウンの前の合わせに手を入れた。
「…ミア?」
目を瞑って深いキスに集中していたミアは、ガアイスの声で「ん?」と目を開ける。ガイアスはいつの間にかミアのガウンの腰ひもを抜き取っていたが、はだけて出てきた寝間着を見て、固まっている。
(びっくりしたかな?)
ミアはいたずらが成功した気分で、フフッと笑う。
「これ、用意してたでしょ?着てみたよ。」
「……。」
ガイアスは何も言わない。部屋はシーンとした空気に包まれた。
(あれ…?喜んでない…。)
ミアは予想とは違った反応に、どうするべきか分からずもじもじとした。
「あの…嬉しく、ない?」
「……いや。これをどこで?」
ガイアスはミアの胸元を凝視しながら驚いてはいる。
ミアはガイアスの言葉とその様子から、これは彼が準備したものではないと気が付いた。慌ててガウンの前を合わせると、そそくさとガイアスの下から抜け出す。
(もしかしたら、シュラウドさんか誰かが冗談で送ってきたのかも!)
「ごめん!俺、勘違いしたみたい。脱いでくるから待ってて!」
「ま、待ってくれ。」
ミアがベッドから降りようとすると、その手を後ろへ掴まれた。
「脱がないでくれ。」
「…。」
引かれた拍子に後ろにポスンと倒れた俺は、焦った顔で俺を見下ろしているガイアスをきょとんと見上げる。
「え?」
「そのままでいい。ただ、自分が情けなくなっただけだ。」
ミアはガイアスの言葉の意味が分からず、ポカンとしている。ガイアスは自分の必死さをごまかすために咳払いをすると、この寝間着を部屋に置いていた経緯を教えた。
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「よかろう。では王よ、お前の子供をひとり、私の嫁に寄越せ」
「……!」
姉が吸血鬼のもとにやられてしまう、と絶望したのも束の間。
指名されたのは、なんと弟の僕で……!?
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