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第3章 白狼と最愛の人
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「なんだか久しぶりに来た感じがする…。」
「週末は予定でいっぱいだったからな。」
2人で一番忙しかった今月を振り返る。
平日はお互い仕事があり、その後は式の準備、そして週末はお互いの家へ行き来し衣装合わせや家族での食事に誘われ、最後に森に来たのは1か月以上前だ。
「やっと2人になれたね!」
自分が考えていたことを同じように言われ、ガイアスは「ああ。」と微笑んでミアの手を握る。
歩いて湖の縁に置いた椅子に腰掛ける。
木の下に設置されたテーブルと椅子は、ミアが2人で休むためにプレゼントしたものだ。机には、ガイアスが告白の時に用意したキャンドルのうちの1つが置かれている。
「俺達、結婚したんだね。」
「そうだな。今更実感してきた。」
そう言って隣に座るミアの頬を撫でるガイアス。ミアはそれにすり寄るように頬を寄せると、ふふっと笑った。
「知っていると思うが…」
ガイアスが小さな声で話し始め、それに耳を傾ける。
「俺は今まで誰かを好きになったことはない。他人に興味が無かったんだ。でも、ある日突然ミアが現れて、今ではミアのことが好きでたまらない…」
「ガイアス…」
突然の告白に顔が少し赤くなったミアだが、そのまま続きを待つ。
「屋敷もそうだ。気づかなかったが、ミアが来るまでは暗く寂しかったのだと思う。今は皆、毎日楽しそうにしている。」
屋敷に遊びに来ていない時でも、「ミア様が次来られた時には~」「ミア様にこれはどうか~」と使用人達の話題の中心はいつも白いふわふわの狼だ。
「俺は世界一幸せだ。これからは、俺がミアを幸せにすると誓う。」
ガイアスの言葉にミアはぎゅっと胸が締め付けられる。ミアは少し乗り出して大きな声を出した。
「俺だって、ガイアスが初恋だよ!……知ってると思うけど。」
最後は尻つぼみになったミアだったが、続けて自分の想いを伝える。
「俺も、ガイアスのこともっと幸せにするよ。」
ちゅ、
ミアはグッとガイアスに近づき、その唇を奪った。
顔を離しニッと笑うミアに、唖然としていたガイアスだったが、その身体をぎゅっと抱きしめる。
「…ありがとう。」
「ふふ、お礼なんて言わなくていいよ。」
「家族なんだから」と笑ってミアが大きな身体を抱き返す。
大きな人間と小さな狼が、この森で出会って、恋をして、家族になった。
水面にキラキラと光が反射した美しい森の中で、2人は抱きしめ合い、どちらともなく唇を近づけた。
・・・・・
「ガイアス、今夜からはシーバで過ごすだろ?」
「そうだな。明日はカルバン様との乗馬の約束もあるからな。」
その返事に、「また?!」と不機嫌そうなミア。
結婚し晴れて家族となった2人だったが、ガイアスには屋敷があり、自衛隊の仕事もあるため国を出ることができない。結局、ガイアスの家にミアが住み、転移で狼国に行き王子としての仕事をすることに。そして、週末や長期休みの時には、2人でシーバ国の王宮を訪れ、そこで過ごすことが多くなった。
「無理に兄様の言うこと聞かなくていいから!」
「いや、俺もカルバン様といるのは楽しい。」
その言葉に口を尖らせるミアと、それを面白そうに笑いながら耳を撫でるガイアス。
2人は平日最終日の仕事を終え、屋敷に帰って来ていた。
ミアは部屋で着替えているガイアスを、ベッドに腰かけて待っていたのだが、その返事に尻尾を立てて怒りを表している。
結婚したことで、ガイアスの隣の部屋をミア用にしているのだが、ミアはそこにはほとんど立ち入らない。ガイアスの留守には使用人達と1階に居るため、部屋は片づけた当初のままだ。
「俺の前に乗ってくれるだろ?」
「兄様と2人きりがいいなら邪魔しないけど。」
拗ねた様子に、「ミアが来ないなら断る」と言うガイアス。その台詞に満足したミアは、「しょうがないなぁ~」と口の両端が上がるのを抑えて無表情を保とうとした。しかし、後ろでは尻尾が揺れている。
(ミアは素直で助かる。)
ガイアスは笑いが零れそうなのを止めて、ミアに用意が出来たことを伝える。
「そろそろ行こうか。」
「あ、もうこんな時間だね。」
2人で部屋を出て階段を降りると、執事が「行ってらっしゃいませ」と声を掛ける。メイド長も同じく頭を下げたところで、後ろからメイドの2人が顔を出す。
「今週末もあちらにいらっしゃるのですか?」
「たまにはこちらでお過ごしになってください。」
「こら、貴方達。」
寂しいとばかりに苦言を漏らすメイド達をメイド長が諫める。
「来週末はこっちで過ごそうかな。皆で庭で火を起こして調理するのはどう?」
露骨に不満げなメイド達の態度に、ミアは微笑みながら答えた。その提案に、メイド2人の目が輝き「ではすぐに料理長にご相談を…」と走り出しそうなのを、メイド長が止める。
「よし、じゃあまた明後日帰ってくるよ。」
「行ってくる。」
2人は「いってらっしゃいませ」の声を受け、手を繋いだまま王宮へと転移した。
特に荷物もない俺達は、ミアの部屋へ転移してすぐ廊下を歩き食堂へと向かう。その途中、廊下でばったりと会ったリースが声を掛けてきた。
「あ、来てたんだね!兄様が首を長ーくして待ってるよ。」
ふふ、と笑いながら言うリース。それを聞いたガイアスが真面目に「では、急いで行かないとな」と返事をしている。
そのまま3人で歩いて食堂まで歩き扉を開ける。
既に座って待っていたカルバンが腕を組んでいた手を外し、ガイアスに手を挙げる。
「よく来たなガイアス。食後に一戦しないか?」
「ちょっと、食事もまだなのに約束しないでよ!」
前回、食後にガイアスとボードゲームをしたのが随分楽しかったようで、先にお誘いを入れたカルバン。それに「はい」と返事をするガイアスを止めると、ミアは兄に文句を言った。
「何?ガイアスは私と酒を飲む約束をしているぞ。」
「酒はゲームの後です。酔っていては勝負にならない。」
父であるアイバンも席に着き、子どもの輪の中に入ってくる。どうやらアイバンは既にガイアスを予約していたようだ。しかしカルバンも自分の方が先であったと言い張る。
そして酒なら自分が後日相手をすると伝えた。
「お前は酒が弱いからつまらん。つまみの趣味も上品すぎて合わんしな。」
「私は弱くはありません。」
やいやいと揉める家族に、ミアはぷるぷると震えて拳を握る。
すっかり仲良くなったガイアスと家族の姿に嬉しく思うものの、そのせいで減っていく2人の時間にモヤモヤとするミアは、父と兄の間に無理やり入っていく。
「ちょっと、俺のガイアスなんだからな!」
自分に断りを入れろと尻尾を立てるミアは、横にいるガイアスにどうどうとなだめられている。そしてその様子を困った顔で見守るリース。母シナとカルバンの妻は、気にする様子もなく幼いカルバンの子ども達を抱き、席で談笑している。
日が落ちて、辺りはすっかり暗くなる。
王宮では黄色い温かな灯りが窓から零れ、そこから聞こえる狼と人の楽し気な声は、夜遅くまで響いていた。
「週末は予定でいっぱいだったからな。」
2人で一番忙しかった今月を振り返る。
平日はお互い仕事があり、その後は式の準備、そして週末はお互いの家へ行き来し衣装合わせや家族での食事に誘われ、最後に森に来たのは1か月以上前だ。
「やっと2人になれたね!」
自分が考えていたことを同じように言われ、ガイアスは「ああ。」と微笑んでミアの手を握る。
歩いて湖の縁に置いた椅子に腰掛ける。
木の下に設置されたテーブルと椅子は、ミアが2人で休むためにプレゼントしたものだ。机には、ガイアスが告白の時に用意したキャンドルのうちの1つが置かれている。
「俺達、結婚したんだね。」
「そうだな。今更実感してきた。」
そう言って隣に座るミアの頬を撫でるガイアス。ミアはそれにすり寄るように頬を寄せると、ふふっと笑った。
「知っていると思うが…」
ガイアスが小さな声で話し始め、それに耳を傾ける。
「俺は今まで誰かを好きになったことはない。他人に興味が無かったんだ。でも、ある日突然ミアが現れて、今ではミアのことが好きでたまらない…」
「ガイアス…」
突然の告白に顔が少し赤くなったミアだが、そのまま続きを待つ。
「屋敷もそうだ。気づかなかったが、ミアが来るまでは暗く寂しかったのだと思う。今は皆、毎日楽しそうにしている。」
屋敷に遊びに来ていない時でも、「ミア様が次来られた時には~」「ミア様にこれはどうか~」と使用人達の話題の中心はいつも白いふわふわの狼だ。
「俺は世界一幸せだ。これからは、俺がミアを幸せにすると誓う。」
ガイアスの言葉にミアはぎゅっと胸が締め付けられる。ミアは少し乗り出して大きな声を出した。
「俺だって、ガイアスが初恋だよ!……知ってると思うけど。」
最後は尻つぼみになったミアだったが、続けて自分の想いを伝える。
「俺も、ガイアスのこともっと幸せにするよ。」
ちゅ、
ミアはグッとガイアスに近づき、その唇を奪った。
顔を離しニッと笑うミアに、唖然としていたガイアスだったが、その身体をぎゅっと抱きしめる。
「…ありがとう。」
「ふふ、お礼なんて言わなくていいよ。」
「家族なんだから」と笑ってミアが大きな身体を抱き返す。
大きな人間と小さな狼が、この森で出会って、恋をして、家族になった。
水面にキラキラと光が反射した美しい森の中で、2人は抱きしめ合い、どちらともなく唇を近づけた。
・・・・・
「ガイアス、今夜からはシーバで過ごすだろ?」
「そうだな。明日はカルバン様との乗馬の約束もあるからな。」
その返事に、「また?!」と不機嫌そうなミア。
結婚し晴れて家族となった2人だったが、ガイアスには屋敷があり、自衛隊の仕事もあるため国を出ることができない。結局、ガイアスの家にミアが住み、転移で狼国に行き王子としての仕事をすることに。そして、週末や長期休みの時には、2人でシーバ国の王宮を訪れ、そこで過ごすことが多くなった。
「無理に兄様の言うこと聞かなくていいから!」
「いや、俺もカルバン様といるのは楽しい。」
その言葉に口を尖らせるミアと、それを面白そうに笑いながら耳を撫でるガイアス。
2人は平日最終日の仕事を終え、屋敷に帰って来ていた。
ミアは部屋で着替えているガイアスを、ベッドに腰かけて待っていたのだが、その返事に尻尾を立てて怒りを表している。
結婚したことで、ガイアスの隣の部屋をミア用にしているのだが、ミアはそこにはほとんど立ち入らない。ガイアスの留守には使用人達と1階に居るため、部屋は片づけた当初のままだ。
「俺の前に乗ってくれるだろ?」
「兄様と2人きりがいいなら邪魔しないけど。」
拗ねた様子に、「ミアが来ないなら断る」と言うガイアス。その台詞に満足したミアは、「しょうがないなぁ~」と口の両端が上がるのを抑えて無表情を保とうとした。しかし、後ろでは尻尾が揺れている。
(ミアは素直で助かる。)
ガイアスは笑いが零れそうなのを止めて、ミアに用意が出来たことを伝える。
「そろそろ行こうか。」
「あ、もうこんな時間だね。」
2人で部屋を出て階段を降りると、執事が「行ってらっしゃいませ」と声を掛ける。メイド長も同じく頭を下げたところで、後ろからメイドの2人が顔を出す。
「今週末もあちらにいらっしゃるのですか?」
「たまにはこちらでお過ごしになってください。」
「こら、貴方達。」
寂しいとばかりに苦言を漏らすメイド達をメイド長が諫める。
「来週末はこっちで過ごそうかな。皆で庭で火を起こして調理するのはどう?」
露骨に不満げなメイド達の態度に、ミアは微笑みながら答えた。その提案に、メイド2人の目が輝き「ではすぐに料理長にご相談を…」と走り出しそうなのを、メイド長が止める。
「よし、じゃあまた明後日帰ってくるよ。」
「行ってくる。」
2人は「いってらっしゃいませ」の声を受け、手を繋いだまま王宮へと転移した。
特に荷物もない俺達は、ミアの部屋へ転移してすぐ廊下を歩き食堂へと向かう。その途中、廊下でばったりと会ったリースが声を掛けてきた。
「あ、来てたんだね!兄様が首を長ーくして待ってるよ。」
ふふ、と笑いながら言うリース。それを聞いたガイアスが真面目に「では、急いで行かないとな」と返事をしている。
そのまま3人で歩いて食堂まで歩き扉を開ける。
既に座って待っていたカルバンが腕を組んでいた手を外し、ガイアスに手を挙げる。
「よく来たなガイアス。食後に一戦しないか?」
「ちょっと、食事もまだなのに約束しないでよ!」
前回、食後にガイアスとボードゲームをしたのが随分楽しかったようで、先にお誘いを入れたカルバン。それに「はい」と返事をするガイアスを止めると、ミアは兄に文句を言った。
「何?ガイアスは私と酒を飲む約束をしているぞ。」
「酒はゲームの後です。酔っていては勝負にならない。」
父であるアイバンも席に着き、子どもの輪の中に入ってくる。どうやらアイバンは既にガイアスを予約していたようだ。しかしカルバンも自分の方が先であったと言い張る。
そして酒なら自分が後日相手をすると伝えた。
「お前は酒が弱いからつまらん。つまみの趣味も上品すぎて合わんしな。」
「私は弱くはありません。」
やいやいと揉める家族に、ミアはぷるぷると震えて拳を握る。
すっかり仲良くなったガイアスと家族の姿に嬉しく思うものの、そのせいで減っていく2人の時間にモヤモヤとするミアは、父と兄の間に無理やり入っていく。
「ちょっと、俺のガイアスなんだからな!」
自分に断りを入れろと尻尾を立てるミアは、横にいるガイアスにどうどうとなだめられている。そしてその様子を困った顔で見守るリース。母シナとカルバンの妻は、気にする様子もなく幼いカルバンの子ども達を抱き、席で談笑している。
日が落ちて、辺りはすっかり暗くなる。
王宮では黄色い温かな灯りが窓から零れ、そこから聞こえる狼と人の楽し気な声は、夜遅くまで響いていた。
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