白狼は森で恋を知る

かてきん

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第3章 白狼と最愛の人

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「陛下には既に報告をし、結婚をお許しいただくようお願しています。」

「そうか。近いうちに会議の席を設けている。結果が分かればすぐに知らせるので少し待っていてくれ。」

「なに、すぐ結婚できるようにしてやるからな。」と言うアイバンの力強い言葉を受けて、ミアとガイアスは礼を述べた。

それからは和やかな雰囲気で話が進んだ。
夕食の時間まで少しあるため、アイバンとシナは一度部屋へと戻る。ミアとガイアスはこの応接室に残って少し休むことにした。





「ガイアスさんはいつからミアのこと好きだったの?」
「初めて会った時からです。」

「きゃ~!」と高い声がし、シナとスーシャ、カルバンの妻が騒いでいる。今、家族揃っての夕食の席では、数日前にこの食事会の為に帰ってきたスーシャがガイアスに質問をぶつけていた。そのどれもが2人の馴れ初めや普段の様子に関することで、ミアは顔から火が出そうだった。

きゃっきゃと談笑する女性陣とは違いズーンとした雰囲気のカルバンは、両隣に座る子ども達に心配されていた。
ガイアスは挨拶の時とは違い本当に落ち込んだ元気のない姿に、少しだけ心が痛み「すみません」と言った。

その言葉に反応したカルバンが慌てて返事をする。

「いや、君がミアに対して真剣だということは伝わっている。結婚も反対ではない。ただ、少し…頭を整理する時間が必要なんだ。」

今日の食事会がどうなるかと冷や冷やしていた弟リースとカルバンの妻、そしてスーシャの婚約者は、てっきりカルバンが怒り出すものと思っていたため少し拍子抜けだ。

カルバンの声はガイアスにしっかりと届き「はい」と返事をしたが、カルバンは「すまないな」と言ったきり、また覇気のない姿に戻ってしまった。

気にするガイアスをよそに、「じゃあ、告白はどんな感じだったの?」とさらに聞いてくるスーシャ。律儀に答えるガイアスに、ミアは兄のことを忘れ、「もう言わないでってば!」と赤い顔でガイアスの口を手で覆った。



今日はミアの部屋に泊まることになっており、リースを含めた3人で廊下を歩く。

「ちょっとミアの部屋に行ってもいい?」
「うん、何かあったの?」

リースが頷き、一旦自室に帰ると言うので部屋で待つことになった。廊下で別れて少するとリースがミアの部屋へ訪ねて来た。

「ごめんね。でも早めに渡した方がいいと思って。」

ソファに座るミアとガイアスの前に小さな小瓶が差し出された。

「何これ?透明だけど。」
「あの花の研究してたでしょ。成分を調べたから2人に伝えようと思って。」

花と聞いて、すぐに森の奥に生えていた狼の耳のような小さい花を思い出す。ガイアスもそれが何なのか気になっていたようで、興味深げに瓶の中の液体を見ている。

「これ、品種改良されて出来た花みたい。で、これは成分を抽出したものなんだけど…その、これ…、」

「早く言ってよ!気になるじゃん。」

歯切れ悪く話すリースをミアが急かした。

「あの…媚薬成分なんだ。」
「は?」

ミアはポカーンとしており、ガイアスも驚いた顔をしている。言った本人も照れているが、研究結果を早く教えたいという研究者気質な性格が、これを伝えずにはいられなかったようだ。


「『びやく』って何?」

リースは慌てて「ほら、本に書いてあったじゃん!」と言い、ミアがベッドサイドから本を取り出してパラパラとめくっている。

(ミアが読んだと言っていた本、リース様も読んだのか…。)

ガイアスはポップな本の表紙と『ミア様はここから』と従者が書いたと思われる付箋を見て、この兄弟を不安に思った。

「巻末のおまけページじゃん!リース読み込んでるな!」

「ちょっと!僕はしっかり勉強しただけ!最後まで教科書を読むのは基本でしょ。」

うりうり、と肘でリースをつつくミアに顔を赤くして怒る姿。白黒の狼が戯れている様子に癒されたガイアスだったが、学生であるリースとこれを一緒に研究したのはジェンだろうな…とすぐに分かった。

(そういえばジェンはそろそろ第7隊に帰ってくる頃だな。)

ずっと離れており、お互いに何の報告も出来ていない。
王の恩賜の式以来見ていない副隊長の顔を思い出し、懐かしく思うガイアスだった。


「えっ!!そんなものがあるの?!」

本を読んでいたミアが驚いた声でガイアスに尋ねる。指を差している部分を見ると、『性欲を催させる薬。また、相手に恋情を起こさせる薬。』と書いてある。

「ああ、意味は合っている。」
「こんなの、使ったら大変なことになるんじゃ…」

ミアはガイアスの顔と小瓶を交互に見比べる。察しの良いリースが付け加えるには、『この薬は狼にしか効かない』らしい。ミアは少し残念そうな顔をした。

それから、どうやって分かったのかと聞いたミアに、研究の過程を説明しだしたリースだったが、難しい単語が並び興味を失ったのか、ミアは「ふーん」と言いながら小瓶の蓋を開けて中身を嗅いだ。

「ちょっ!嗅いだらダメだよ!」
「わっ!」

大きな声で注意し瓶の蓋を慌てて閉めるリース。「何だよ…」と奪われた小瓶を見るミアに、リースが説明する。

「これ、原液だから匂いだけでも効果があるんだ。ミア…どれくらい吸った?」

「え…ちょっとだけだよ。本当に香りを確かめたくらい。」

どのくらいの効果があるかは分からないが、念の為早く寝た方が良いのではないかとリースに言われ、ミアはさっさと風呂に入ることにした。

「じゃあ、僕は部屋に帰るけど、何かあったら呼んで。解熱剤が効くかもしれないから。」

そう言って少し不安そうに出ていくリースを2人で見送った。


「風呂、入るか?」

ガイアスが尋ね、ミアは小さく頷いた。

用意されていた風呂に入り、さっきリースが持ってきた媚薬について話す。

「全然平気だよ。やっぱりあれくらいじゃ効かないんだよ。」

「念の為早く上がろう。体調が悪くなるかもしれない。」

ガイアスはそう言ってさっさとミアを上がらせると髪と身体を素早く洗い、先に出るよう言った。

タオルで全身を拭きベッドに倒れこむ。気の利いた従者によって用意されている冷たい茶が火照った身体に気持ちいい。ミアはそのままボーっとベッドの天蓋を見つめていた。


「ミア、大丈夫か?」

ガイアスが覗き込んできて、ハッとする。ぼんやりしていたミアを心配するガイアスは「すぐ寝よう」と提案してきた。特に身体に異常も無いミアはまだ起きていたかったが、ガイアスが電気を消そうとベッドサイドへ手を伸ばしたため諦めて布団に入った。

ベッド下にあるオレンジ色の灯りのみの室内は、お互いの表情は分からないもののその輪郭は見える程度の暗さだ。
いつものようにガイアスに擦り寄ると、ガイアスがミアの頭を少し持ち上げ腕枕の体勢になる。そのまま反対の腕でミアを抱きしめた。

「苦しくないか?」
「うん、いい感じ。」

笑いを零した息がミアの額にかかる。ガイアスはそのまま目の前の丸いおでこにキスをすると、「おやすみ」と言ってぎゅっと1回ミアを抱きしめた。
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