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第2章 白狼と秘密の練習
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2人で食堂のテーブルに着く。そわそわするミアに微笑みながらメイド長が料理をテーブルへ並べた。
「こちら、ミア様お手製のミートパイです。」
「なに?ミアが作ったのか?」
驚いて尋ねると胸を張っているミア。ガイアスの反応にふふん、と満足げなミアは「びっくりした?」と聞く。
「ああ、料理を勉強したのか?」
「うん、最近王宮でいろいろ習ってるんだ。そして、これはやっと上手に出来るようになったから、今日調理場を借りて作ってみたんだ。」
「料理長に手伝ってもらったけど…」と少し恥ずかしそうに言うミアだが、目の前のパイは綺麗に焼きあがっており、どれだけ練習したのか想像もつかない。
その出来に感動するが、なぜ急に料理を始めたのか気になったガイアスがミアに理由を尋ねた。
「俺、あんまりガイアスにお返しできてないだろ?」
ガイアスはいつもミアにいろんな物を与えてくれる。
それは剣の練習やプレゼント、いろんな場所へ連れてってくれる経験と、ミアはいつもガイアスに何か返せたらと思っていたと言う。
そう思って始めた料理だが、結局自分の料理をガイアスが食べて美味しいと言ってくれたら、幸せな気持ちになるのでお返しになっていない、とミアは笑った。
「だからこれは自己満足なんだ。」
はにかむミアにガイアスは胸がぎゅっと握りこまれた。
「ミア、そう考えてくれたことが嬉しい。」
(俺こそミアに幸せを沢山貰っているというのに。)
甘い空気が流れ見つめ合うミアとガイアスにメイド長は少し咳払いをすると、「熱いうちにお召し上がりになっては。」と提案した。2人は慌ててその言葉に頷く。
ミアが作った料理の他にもスープやサラダなどが並び、ミア達は切り分けられたパイに手を伸ばす。
「美味いな。」
「本当?良かった。」
目を細めて美味しいと食べている姿を見てホッとするミア。ガイアスはすぐにそれを食べきってしまい、メイド長に追加を要求している。
ミアはそんな姿に嬉しくなり、次はどんな物が食べたいか前のめりに聞く。アレは好きかコレはどうかと質問攻めにあったガイアスは自分の好物を全て伝え、ミアは次の食事に向けて張り切っていた。
「ガイアス、狼は寒さに強いから大丈夫だって言ったじゃん。」
ミアは上着にさらに厚手の上着を着せようとするガイアスの手を掴んで止める。
「しかし夜は冷える。」
「もう十分だって。」
ミアとガイアスは外出の用意をしていた。
今日は街で花火が上がる日らしく、以前馬で遠乗りした時の丘へ行こうとガイアスが誘ってきた。
玄関で執事から熱いお茶のセットを受け取ると、地図を広げて丘の位置を確認する。「いってきます」とミアが執事に告げ、ぺこりとお辞儀を返されたと同時に、2人は姿を消した。
「夜はこんな感じなんだね。」
「俺も夜にここへ来るのは久々だ。」
祖父が生きていた時には、花火の上がる日にここへ連れてきてもらっていたと言うガイアス。丘の一番上にある木の前に持ってきていたシートを引くと、そこへミアを座らせる。
「灯りがあんなに。」
街の灯りを見ながらミアが呟く。
そんなミアの横に座ると、肩を抱くように手を伸ばすガイアス。
「今日、ミアが俺に料理を作ってくれただろう。…凄く嬉しかった。」
「まだ下手だから少し恥ずかしいけどね。もっとうまくなるから期待してて。」
「ああ、」と笑ったガイアスは続けて思いを伝える。
「ミアは、俺に返したいと言っていたが、俺こそ貰ってばかりで、いつも何かしたいと思ってるんだ。」
「そうなの?!俺何もしてないけど。」
ミアは自分が何かガイアスにプレゼントしたこともなければ、気遣って何かをしてあげたこともない。男としてそのことに少し気後れしていただけに、ガイアスの言葉を意外に感じた。
「ミアが側で笑ってくれるだけで幸せなんだ。これ以上ミアが何かしてくれたら罰が当たりそうだ。」
ガイアスは愛おしそうにミアを見つめる。
ミアは月明りに照らされたその緑の瞳から目が離せない。
「ミア、結婚しよう。」
「……っ!」
ミアはその言葉の意味を一瞬理解できなかった。驚いて返事が出来ずにいるミアの返事を待つように、ガイアスは静かに真剣な目でミアを見つめる。
ミアは何故か胸が苦しくて、たった一言「うん」という返事ができない。喉まで出かかっているその言葉を発することができずに焦ったミアは、声もなくコクリと頷いた。
ガイアスがぎゅっと抱きしめてくる。
お互いそれ以上は何も言わず、ただドキドキと鳴るお互いの鼓動を聞いていた。
しばらくし、ミアはやっと息をつくことができた。そして「結婚したい」と自分の心を話そうとした時、遠くで花火の上がる音がした。
その音に目を向けると、大輪の白い花火。パァン…と鳴って散っていく花に、続けざまに小さなものが上がっていく。
その美しさに見惚れていたミアだったが、バッとガイアスの身体を離すと、さっき言いかけた自分の気持ちを伝える。
「俺、ガイアスと結婚したい!」
花火の音に負けないように大きな声で言った。
俺の大声にガイアスは目を丸くしたが、その目を細めて泣きそうな顔で「そうか」と言った。
ミアとガイアスは並んで手を繋いで花火を眺めた。
時々ミアが親指を動かしてガイアスの手の平を撫でると、返すように動かしてくる。
ガイアスは、隣に座っている美しい狼の横顔を見る。
「ん?」と視線に気付き顔を向けるミアの眼には、キラキラ輝く花火が映っていた。ミアは大きな打ち上げの音に、再度花火に視線を戻す。
「綺麗だね。」
「ああ、本当に綺麗だ。」
2人はぎゅっと手を握りあうと、今日の美しい光景を逃したくないと静かに花火を見つめていた。
「こちら、ミア様お手製のミートパイです。」
「なに?ミアが作ったのか?」
驚いて尋ねると胸を張っているミア。ガイアスの反応にふふん、と満足げなミアは「びっくりした?」と聞く。
「ああ、料理を勉強したのか?」
「うん、最近王宮でいろいろ習ってるんだ。そして、これはやっと上手に出来るようになったから、今日調理場を借りて作ってみたんだ。」
「料理長に手伝ってもらったけど…」と少し恥ずかしそうに言うミアだが、目の前のパイは綺麗に焼きあがっており、どれだけ練習したのか想像もつかない。
その出来に感動するが、なぜ急に料理を始めたのか気になったガイアスがミアに理由を尋ねた。
「俺、あんまりガイアスにお返しできてないだろ?」
ガイアスはいつもミアにいろんな物を与えてくれる。
それは剣の練習やプレゼント、いろんな場所へ連れてってくれる経験と、ミアはいつもガイアスに何か返せたらと思っていたと言う。
そう思って始めた料理だが、結局自分の料理をガイアスが食べて美味しいと言ってくれたら、幸せな気持ちになるのでお返しになっていない、とミアは笑った。
「だからこれは自己満足なんだ。」
はにかむミアにガイアスは胸がぎゅっと握りこまれた。
「ミア、そう考えてくれたことが嬉しい。」
(俺こそミアに幸せを沢山貰っているというのに。)
甘い空気が流れ見つめ合うミアとガイアスにメイド長は少し咳払いをすると、「熱いうちにお召し上がりになっては。」と提案した。2人は慌ててその言葉に頷く。
ミアが作った料理の他にもスープやサラダなどが並び、ミア達は切り分けられたパイに手を伸ばす。
「美味いな。」
「本当?良かった。」
目を細めて美味しいと食べている姿を見てホッとするミア。ガイアスはすぐにそれを食べきってしまい、メイド長に追加を要求している。
ミアはそんな姿に嬉しくなり、次はどんな物が食べたいか前のめりに聞く。アレは好きかコレはどうかと質問攻めにあったガイアスは自分の好物を全て伝え、ミアは次の食事に向けて張り切っていた。
「ガイアス、狼は寒さに強いから大丈夫だって言ったじゃん。」
ミアは上着にさらに厚手の上着を着せようとするガイアスの手を掴んで止める。
「しかし夜は冷える。」
「もう十分だって。」
ミアとガイアスは外出の用意をしていた。
今日は街で花火が上がる日らしく、以前馬で遠乗りした時の丘へ行こうとガイアスが誘ってきた。
玄関で執事から熱いお茶のセットを受け取ると、地図を広げて丘の位置を確認する。「いってきます」とミアが執事に告げ、ぺこりとお辞儀を返されたと同時に、2人は姿を消した。
「夜はこんな感じなんだね。」
「俺も夜にここへ来るのは久々だ。」
祖父が生きていた時には、花火の上がる日にここへ連れてきてもらっていたと言うガイアス。丘の一番上にある木の前に持ってきていたシートを引くと、そこへミアを座らせる。
「灯りがあんなに。」
街の灯りを見ながらミアが呟く。
そんなミアの横に座ると、肩を抱くように手を伸ばすガイアス。
「今日、ミアが俺に料理を作ってくれただろう。…凄く嬉しかった。」
「まだ下手だから少し恥ずかしいけどね。もっとうまくなるから期待してて。」
「ああ、」と笑ったガイアスは続けて思いを伝える。
「ミアは、俺に返したいと言っていたが、俺こそ貰ってばかりで、いつも何かしたいと思ってるんだ。」
「そうなの?!俺何もしてないけど。」
ミアは自分が何かガイアスにプレゼントしたこともなければ、気遣って何かをしてあげたこともない。男としてそのことに少し気後れしていただけに、ガイアスの言葉を意外に感じた。
「ミアが側で笑ってくれるだけで幸せなんだ。これ以上ミアが何かしてくれたら罰が当たりそうだ。」
ガイアスは愛おしそうにミアを見つめる。
ミアは月明りに照らされたその緑の瞳から目が離せない。
「ミア、結婚しよう。」
「……っ!」
ミアはその言葉の意味を一瞬理解できなかった。驚いて返事が出来ずにいるミアの返事を待つように、ガイアスは静かに真剣な目でミアを見つめる。
ミアは何故か胸が苦しくて、たった一言「うん」という返事ができない。喉まで出かかっているその言葉を発することができずに焦ったミアは、声もなくコクリと頷いた。
ガイアスがぎゅっと抱きしめてくる。
お互いそれ以上は何も言わず、ただドキドキと鳴るお互いの鼓動を聞いていた。
しばらくし、ミアはやっと息をつくことができた。そして「結婚したい」と自分の心を話そうとした時、遠くで花火の上がる音がした。
その音に目を向けると、大輪の白い花火。パァン…と鳴って散っていく花に、続けざまに小さなものが上がっていく。
その美しさに見惚れていたミアだったが、バッとガイアスの身体を離すと、さっき言いかけた自分の気持ちを伝える。
「俺、ガイアスと結婚したい!」
花火の音に負けないように大きな声で言った。
俺の大声にガイアスは目を丸くしたが、その目を細めて泣きそうな顔で「そうか」と言った。
ミアとガイアスは並んで手を繋いで花火を眺めた。
時々ミアが親指を動かしてガイアスの手の平を撫でると、返すように動かしてくる。
ガイアスは、隣に座っている美しい狼の横顔を見る。
「ん?」と視線に気付き顔を向けるミアの眼には、キラキラ輝く花火が映っていた。ミアは大きな打ち上げの音に、再度花火に視線を戻す。
「綺麗だね。」
「ああ、本当に綺麗だ。」
2人はぎゅっと手を握りあうと、今日の美しい光景を逃したくないと静かに花火を見つめていた。
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