白狼は森で恋を知る

かてきん

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第2章 白狼と秘密の練習

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「ん…。」

(誰かが布団越しに俺を撫でてる…。)

ミアは浅い眠りの中でそのことに気づくと、自分を撫でている手を掴み目を開ける。

「ミア、大丈夫か?」
「え…俺寝てた?」

横に寝そべって頬杖を突きながらミアの顔を見ていたのだろう。
ガイアスはいきなり目覚めたミアにびっくりした顔だ。

「終わってから、急に動かなくなるから心配した。」

(そりゃ、そうだよな。俺が逆の立場だったら絶対冷静じゃいられない。)

射精したところまでは覚えている。ただ、その先の記憶がないのだ。

「寝ていたようだから勝手に身体を拭いたが、気持ち悪いところはないか?」

布団を捲ってみると、新しい寝間着がきちんと着せられ身体はベタつきもなくさっぱりとしている。

「ごめん。全部やってもらって。」
「いや、俺が無理させたんだ。」

「でも、」というミアの口にちゅ、とキスをすると、ガイアスがその身体を抱きしめる。

「「…。」」

黙って至近距離で見つめあう。
ミアからも、と口づけをするとガイアスは目を細めてミアをさらに抱き込む。

「今日は幸せだった。またしよう。」
「うん!次はセックス?」

「どうかな。ミアに負担がかからないと判断したら、だな。」

その返事に、ぶーぶー文句を言うミア。
ガイアスはその頬を片手で掴むと、「俺も我慢してるんだ。」と言う。

「本当ならすぐにでもミアの中に入りたい。」

さっきまでの頭が朦朧とした状態と違い、今はお互い冷静だ。
ガイアスの言葉に、ボンッと茹でダコ状態になるミア。

「はは、顔が真っ赤だぞ。こんな調子じゃ次には進めないな。」

笑ってミアの耳を軽く摘まむように撫でる。

「ちゃんとできるから!!」
「ふ、楽しみだ。」


ミアがあくびをして目を擦るまで、2人は広いベッドの上で戯れていた。





・・・・・

「ミア、…ミア。」

自分の名前を呼ぶ優しい声がする。
それに反応してうっすら目を開けると、大好きな緑の目。

ふにゃ、と笑ったミアは、目の前の愛しい男に自分の愛を伝えたくなった。

「ガイアス…好き。」
「俺もだ。」

(これが幸せか。)

自分の胸を優しくポンポンとする手がまた眠気を誘い、すう、と目を閉じると焦った声がする。

「おい、寝るな寝るな。」

ガイアスはミアの布団を剥いでその身体を起こす。

まだ頭の冴えないミアは、どうして起こされるのかと不満げだ。

「今日、仕事だろ?俺もなんだ…ルシカに帰らないと。」
「あ…。」

そこでやっと今日が平日でお互い仕事があるのだと理解した。
一気に眠気が吹き飛ぶ。

「あ、屋敷まで送るよ。」
「助かる。」

それから、シュラウドがホテルに頼んで用意してもらっていたという下着やシャツに着替える。
着ていた服は置いておけば、屋敷に送ってくれるらしい。

(なんだか至れり尽くせりで申し訳ないな。)

今度シュラウドに会う時にはぜひ手土産とお礼を、と決めたミアだった。


帰る時の手続きは不要とのことなので、机に鍵を置いて2人でホテルの部屋から転移した。


ガイアスの部屋。
今週末はミアの勘違いやすれ違いでここに来る事ができなかった。
部屋はカーテンが閉まっており薄暗く、シーンとしている。

「ミアありがとう。」
「ううん、全然いいよ!」

ガイアスは朝食も食べずに出かけるのだと言う。

「いってらっしゃい。」

ミアが精一杯背伸びをしてキスをしようとするのを、屈んで答えたガイアス。

ちゅ、と音がして離れていく小さな唇を見てガイアスが笑みを溢す。

「いってくる。…いいな、こうやって毎日仕事に行けたら。」

そう言ってクシャ、とミアの頭を撫でるとガイアスが扉の方へ向かった。

「帰って来たことを屋敷の者に伝える。ミアも気をつけて帰るんだぞ。」

「はは、転移で一瞬だけどね。」

お互い笑いながら手を振り、ミアは王宮へと転移した。




シーバ国の王宮にある自室に戻り、ふう、と息をつく。

(いろいろあったけど、良い休日だったな。)

そして、ガイアスがさっき言った言葉が頭によぎる。

『いいな、こうやって毎日仕事に行けたら。』

ガイアスが自分と夜を過ごし、朝見送られて仕事に行くことを望んでいる…そう考えるだけで、ニヤニヤと緩む顔が抑えられない。

(とりあえず、朝ご飯食べたら仕事始めるか…。)

ニヤつく顔はそのままに、扉を開けた先には目を見開いて驚くイリヤ。
しかし次の瞬間、従者はピシ、と氷を貼り付けたような表情になる。

(あ、まずい…。)

ミアはイリヤの顔を見た瞬間、大事な事を思い出した。

(俺、何も連絡なしに2泊もしちゃった…。)

あわあわとするミアにイリヤがゆっくり近づきつつ口を開く。

「ミア様…2日続けての無断外泊、楽しかったですか?」

「あの、あの、帰る時間がなくて…、」

思いついた言い訳は子どものように拙く、従者の男をとても納得させるものではないことは自分でも分かった。

イリヤは冷たい目線のままミアを見下ろす。

「へぇ、そうでしたか。そんなに忙しいなら、これ以上剣や恋人にかまけている暇なんてないですよね。」

「あ、あの…イリヤ?」
「私はミア様に『10日間の転移禁止』を要求します。」

「そんな…却下だっ!」

「今まではきちんと私に連絡をして下さったので陛下もカルバン殿下も外泊を許可していましたが、今回ばかりはミア様に王子としての自覚がないと判断しました。」

わなわなと震えるミアに目の前の冷徹黒狼は続ける。

「昨日カルバン様に転移禁止を提案したら、快く承諾して下さいましたよ。それどころか1ヶ月にしたらどうかと言われ、逆にお止めするのが大変でした。」

「感謝してほしいくらいです。」と続けるイリヤに疑問に思ったことを確認する。

「ガイアスに伝えにそれを行くのはいい?」

「はい、行かれて結構ですよ。ミア様が今日帰ってくるか定かではなかったため、今日は仕事をお休みにしていただきました。」

鬼従者のイリヤの優しさに、疑い深い目を向ける。

「私もそこまで酷くはありません。最後の挨拶くらいゆっくりさせてあげますよ。」

「最後って言うなよ。」

(とにかく10日間会えないことを伝えに行かないとな。)

ミアはガイアスが昼は食堂ではなく執務室で買ったものを食べる、と言っていたのを思い出し、昼の時間に転移することにした。

「何時頃お戻りになりますか?」
「うーん、3時くらい?」

もしかしたら訓練所も観れるかもしれないと、少し長めに伝える。

「もしその時間が過ぎたら、転移禁止を1週間延長しますよ。」

俺は理不尽だ、と思いつつも自分の非が招いたことで文句は言えない。
ミアは大人しくイリアの言葉に頷いた。
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