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第2章 白狼と秘密の練習
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「そのまま、もう一度同じ型をしてみろ。」
「はい!」
「そうだ、いいぞ。」
次の日、ガイアスとミアは剣の練習のために森にいた。
剣舞の型を本格的に習うようになったミアは、ガイアスの指導のおかげか、どんどん技を身に着けていった。
「そこまで!」
掛け声と共に剣が降ろされる。2人で剣を軽く払いながら剣を納める。
「前より振り幅が大きくなっている。いい感じだ。」
「…ッありがとう…ございます!」
相変わらず剣の指導の直後は息がしづらいミアだったが、体力をつけたいと王宮で基礎トレーニングを続けていることもあり、軽い息切れ程度で済むようになっていた。
「休憩しよう。」
2人は近くの草の上に、向かい合うように座った。
「今日、リースが自衛隊の人と王宮で会うみたいなんだ。」
「自衛隊の?誰だろうか。」
「えっと、ジェン・ウォルターって人だよ。」
「…ジェン?」
「知り合い?」
「…あぁ。」
(ジェンがなぜリース様と…。)
考えるガイアスだったが、どういった繋がりがあるのか分からない。
(ミアの話を聞くに、学校に通いそれ以外のほとんどを王宮で過ごすリース様が、人間のジェンと出会う可能性はかなり低い。)
「その人、どんな感じ?」
「彼は信頼できる人間だ。そして…多分だがリース様と話が合うんじゃないか。」
「そう?ガイアスが言うなら安心だ。リース、どんな人が来るのか心配してたから。」
(ジェンは物腰の柔らかい男だ。怖がらせることもないだろう。)
「それでさ…、今日はリースの話を聞かないといけないから、このまま帰るつもりなんだ。」
「そうか。」
いつも通り落ち着いた返事を返すガイアスだが、その眉が少しだけ下がったのをミアは見てしまった。
「寂しい?」
「はは、寂しいよ。」
笑って答えるガイアスは、スッと手を上げミアの耳の近くを撫でてきた。
「でも、今日は弟を優先してくれ。」
「俺は今度甘えよう。」そう言って微笑むガイアスが可愛くて、ミアはガイアスの頬に手を寄せると、ゆっくり顔を近づける。
唇が触れ合うギリギリ、まだガイアスが目を閉じない。
「目、閉じてよ。」
「見てたら駄目なのか。」
「ダメ。」
向き合うだけだったミアの身体をガイアスが引き寄せて自分の膝の上に乗せる。
「ミアの目を見てキスしたい。」
心臓がきゅうっと絞られるみたいに痛い。
(ガイアスの目、綺麗だな。)
緑の目にミアの金色の光が映っている。吸い込まれるような美しさにもっと近づきたくて、ミアは自然と顔を寄せた。
ちゅっ…
音がして、少し離れる。
緑の目が自分をじっと見ている。
(こんな綺麗な色が自分のものだなんて…。)
ミアはガイアスの瞼を指で少しなぞり、またキスをした。
ちゅ……ちゅ…
ミアがしたキスに、今度はガイアスが返そうと口を開く。
そして大きな熱い舌が小さな唇に触れてきた。
(気持ちいい…。)
自然と目を瞑っていたミアだったが、薄く目を開くと、視界が緑色でいっぱいになった。
「んッ…ガイアス」
「ん?」
キスをしながら「どうした?」と言いたげなガイアス。
ミアが顔を少し引く。
「…あんま見たら…恥ずかしい。」
「ミアも見てたじゃないか。」
「俺はちょっとだから良いんだ。」
ガイアスはミアの顎下をくすぐるように撫でる。
ミアは、ふふ、と笑って小さく口を開く。
「早く…練習したいね。」
「ん?練習…?」
ガイアスが今終わったばかりの剣にふと視線をやると、ミアが恥ずかしそうに答える。
「…いろんなとこで気持ちよくなる練習。」
ガイアスは今の一言で身体が高ぶるのを感じた。
手には鳥肌が立っているし、下半身は緩く立ち上がろうとしている。
(いつも何も出来ない時に限って煽るようなことを言ってくる…。)
ガイアスは興奮で青筋がたっているんじゃないか、と思うほど我慢していた。
自分のこめかみに確認するように軽く手を当てる。
「俺、もう帰るよ。父上と兄様に来週のこと伝えとくね!」
「ああ、頼む。」
来週第2回目の挨拶の約束をし、ミアは手を振って消えていった。
ガイアスは、ミアが完全に消えて…息を吐く。
(…俺も早く『練習』がしたい。)
雑念を飛ばそうと、ガイアスは剣を持つとスッと立ち上がり、気が済むまで素振りをした。
・・・・・
部屋に戻り、昼ご飯までゆっくりしようとソファに腰掛けていたミアだったが、ノックの音が部屋に響き扉に目を向ける。
「リースか?入って~。」
リースが扉を開け、後ろ手に閉めるとミアに足早に近づいてきた。
「今日どうだった?」
「すっごく楽しかった!」
リースの表情が明るい。少し興奮しているのか頬が蒸気している。
「よかったな。」
「ジェン、植物の研究をしてるんだ!すっごく詳しくて、いろいろ教えてもらっちゃった。」
「おお~、話が合いそうだな!」
「うん!しかも、お土産にサバルの屋台のお菓子を持ってきてくれたんだ!ミアの分もあるよ。後で一緒に食べよう!」
「ありがと。…次も会うの?」
「うん、来週。」
少し照れ臭そうな、嬉しそうな顔のリースの頭をミアがくしゃくしゃと撫でる。
「楽しみだな。」
「うん!」
それからは、ジェンが教えてくれたという植物の生態について口早に話すリース。
ミアは、その様子を微笑ましく思いながら「うんうん」と話を聞いた。
「はい!」
「そうだ、いいぞ。」
次の日、ガイアスとミアは剣の練習のために森にいた。
剣舞の型を本格的に習うようになったミアは、ガイアスの指導のおかげか、どんどん技を身に着けていった。
「そこまで!」
掛け声と共に剣が降ろされる。2人で剣を軽く払いながら剣を納める。
「前より振り幅が大きくなっている。いい感じだ。」
「…ッありがとう…ございます!」
相変わらず剣の指導の直後は息がしづらいミアだったが、体力をつけたいと王宮で基礎トレーニングを続けていることもあり、軽い息切れ程度で済むようになっていた。
「休憩しよう。」
2人は近くの草の上に、向かい合うように座った。
「今日、リースが自衛隊の人と王宮で会うみたいなんだ。」
「自衛隊の?誰だろうか。」
「えっと、ジェン・ウォルターって人だよ。」
「…ジェン?」
「知り合い?」
「…あぁ。」
(ジェンがなぜリース様と…。)
考えるガイアスだったが、どういった繋がりがあるのか分からない。
(ミアの話を聞くに、学校に通いそれ以外のほとんどを王宮で過ごすリース様が、人間のジェンと出会う可能性はかなり低い。)
「その人、どんな感じ?」
「彼は信頼できる人間だ。そして…多分だがリース様と話が合うんじゃないか。」
「そう?ガイアスが言うなら安心だ。リース、どんな人が来るのか心配してたから。」
(ジェンは物腰の柔らかい男だ。怖がらせることもないだろう。)
「それでさ…、今日はリースの話を聞かないといけないから、このまま帰るつもりなんだ。」
「そうか。」
いつも通り落ち着いた返事を返すガイアスだが、その眉が少しだけ下がったのをミアは見てしまった。
「寂しい?」
「はは、寂しいよ。」
笑って答えるガイアスは、スッと手を上げミアの耳の近くを撫でてきた。
「でも、今日は弟を優先してくれ。」
「俺は今度甘えよう。」そう言って微笑むガイアスが可愛くて、ミアはガイアスの頬に手を寄せると、ゆっくり顔を近づける。
唇が触れ合うギリギリ、まだガイアスが目を閉じない。
「目、閉じてよ。」
「見てたら駄目なのか。」
「ダメ。」
向き合うだけだったミアの身体をガイアスが引き寄せて自分の膝の上に乗せる。
「ミアの目を見てキスしたい。」
心臓がきゅうっと絞られるみたいに痛い。
(ガイアスの目、綺麗だな。)
緑の目にミアの金色の光が映っている。吸い込まれるような美しさにもっと近づきたくて、ミアは自然と顔を寄せた。
ちゅっ…
音がして、少し離れる。
緑の目が自分をじっと見ている。
(こんな綺麗な色が自分のものだなんて…。)
ミアはガイアスの瞼を指で少しなぞり、またキスをした。
ちゅ……ちゅ…
ミアがしたキスに、今度はガイアスが返そうと口を開く。
そして大きな熱い舌が小さな唇に触れてきた。
(気持ちいい…。)
自然と目を瞑っていたミアだったが、薄く目を開くと、視界が緑色でいっぱいになった。
「んッ…ガイアス」
「ん?」
キスをしながら「どうした?」と言いたげなガイアス。
ミアが顔を少し引く。
「…あんま見たら…恥ずかしい。」
「ミアも見てたじゃないか。」
「俺はちょっとだから良いんだ。」
ガイアスはミアの顎下をくすぐるように撫でる。
ミアは、ふふ、と笑って小さく口を開く。
「早く…練習したいね。」
「ん?練習…?」
ガイアスが今終わったばかりの剣にふと視線をやると、ミアが恥ずかしそうに答える。
「…いろんなとこで気持ちよくなる練習。」
ガイアスは今の一言で身体が高ぶるのを感じた。
手には鳥肌が立っているし、下半身は緩く立ち上がろうとしている。
(いつも何も出来ない時に限って煽るようなことを言ってくる…。)
ガイアスは興奮で青筋がたっているんじゃないか、と思うほど我慢していた。
自分のこめかみに確認するように軽く手を当てる。
「俺、もう帰るよ。父上と兄様に来週のこと伝えとくね!」
「ああ、頼む。」
来週第2回目の挨拶の約束をし、ミアは手を振って消えていった。
ガイアスは、ミアが完全に消えて…息を吐く。
(…俺も早く『練習』がしたい。)
雑念を飛ばそうと、ガイアスは剣を持つとスッと立ち上がり、気が済むまで素振りをした。
・・・・・
部屋に戻り、昼ご飯までゆっくりしようとソファに腰掛けていたミアだったが、ノックの音が部屋に響き扉に目を向ける。
「リースか?入って~。」
リースが扉を開け、後ろ手に閉めるとミアに足早に近づいてきた。
「今日どうだった?」
「すっごく楽しかった!」
リースの表情が明るい。少し興奮しているのか頬が蒸気している。
「よかったな。」
「ジェン、植物の研究をしてるんだ!すっごく詳しくて、いろいろ教えてもらっちゃった。」
「おお~、話が合いそうだな!」
「うん!しかも、お土産にサバルの屋台のお菓子を持ってきてくれたんだ!ミアの分もあるよ。後で一緒に食べよう!」
「ありがと。…次も会うの?」
「うん、来週。」
少し照れ臭そうな、嬉しそうな顔のリースの頭をミアがくしゃくしゃと撫でる。
「楽しみだな。」
「うん!」
それからは、ジェンが教えてくれたという植物の生態について口早に話すリース。
ミアは、その様子を微笑ましく思いながら「うんうん」と話を聞いた。
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