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第1章 白狼は恋を知る
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お披露目式後のパーティは無事終わり、応接室に移動したラタタ家と王の親族は、宴会のような状態になっていた。
「兄は、兄は、お前達が大好きなんだ…ッ!」
カルバンは次期王と呼ばれる威厳ある姿ではなく、今はただの兄として弟妹をぎゅっと抱きしめた。
「分かったって。もう何回目だよ…。」
ミアが呆れた声で言う。
「いいじゃない、こんなに酔ってるカルバン久しぶりよ。」
「ちょっと面白いけど、苦しい…。」
(面白くないよ!姉様とリースは3回目くらいだけど、俺はもう10回はやられてるんだからッ…しかも、その度に「あの男には渡さん!」って言われるんだ。)
「もう、やめてってば。」
ミアはカルバンの胸をはがしながら、その顔を見上げる。
「お前は兄が嫌いなのか?」
「嫌いじゃないってば。兄様、今日はどうしたんだよ。」
兄は泣きそうな顔でミアを見下ろしている。
「寂しいんじゃない?ミアが剣の師匠にばっかり懐いてるから。」
「懐いてるって何だよ!俺とガイアスはな、」
「あら、どんな風に仲良しなのか姉様に教えてくれるの?」
「え…ッ」
顔をぽぽぽと赤くするミアに、姉がクスクスと笑っている。
「おい!なぜ赤面するんだ!おかしいだろうッ!」
「やめなよ兄様!」
「ダメだ、ミアは俺のものだ!リース、お前もだ!」
リースも巻き込み、ギューッと抱きしめてくる兄の腕がさっきより強い。
「くるしいってばー!」
「やめてくれー!」
「あらあら、大変。」
叫ぶ弟達の姿を、笑いながら見ているだけの姉。
(お義姉様…早く帰ってきてください…!)
リースは、子ども達を寝かせるためにシーバ国に一度戻ったカルバンの妻の一刻も早い帰りを、心から祈った。
・・・・・
式の翌日、執務室に出勤したガイアスは、いつもと変わらない部屋の様子に少々疑問を持った。
朝から隊員達が自分を囲み、昨日のアレは何なのだと質問攻めにあうのを想像していただけに、この静けさに違和感を感じる。
すでに噂が他の隊員達に回っていると予想していたガイアスだったが、「おはようございまーッス。」と挨拶し自分の前を過ぎていくマックスを見ると、噂にはなっていないのだと確信する。
(ミーハーなあいつのことだ。昨日の控室での出来事を聞いたら、飛んできて根掘り葉掘り聞いてくるはず。)
ガイアスは剣舞に参加した男達を思い浮かべる。
(昨日のこと、誰も漏らさなかったのか…。)
午前中、自分の元に助言を求めに来た隊員達は、いつも通りの態度だった。
(なんて素晴らしく出来た人達だ。)
ガイアスは剣舞のメンバーの口の堅さに、有難いと思うしかなかった。
そろそろ昼になろうかという時間、扉がバンッと開き5名の男が入ってくる。
昨日の剣舞に参加していた者達で、皆落ち着きなくガイアスに近づいてくる。
「ガイアス、昼行くぞ!」
「会議室を予約してある。」
「安心しろ、弁当も注文しておいたからな。」
「早く立て。」
「競歩でいくからな、着いて来いよ。」
みな口早にそう言うと、返事を待たずにガイアスの腕を引き、あっと言う間に会議室へ足を速めた。
「……あの、みなさん。」
「さぁガイアス君、昨日のことをお兄さん達にちゃあ~んと話しなさい。」
昨日の剣舞で揃った24名の隊員が、今目の前にズラッと並んでいる。
普段から親しくしている第4隊隊長が、ガイアスに『話せ』と圧をかける。
「暇なんですか?」
「おい!ふざけるなよ!昨日帰ってからと、午前中に死ぬほど仕事して時間作ったんだよ!」
「そうだ!だから早く話せ!」
ヤイヤイと野次を飛ばす隊長陣と、「まあまあ座って」とガイアスに席を勧める数名の副隊長達。
その他の男達はワクワクと話を聞きたそうに席で待っている。
「何を聞きたいんですか。」
「おいおい、しらばっくれてんじゃねぇぞ~。」
「全員見たんだからな。」
「ミア様とキスしたってのに、知りませんじゃ済まされねぇぞ。」
ワイワイと盛り上がる男達に、自衛隊のトップ達が何をしてるんだと呆れてしまう。
(ごまかしても仕方ない。)
それに昨日と今日だけだが、誰にも言わずにいてくれた信用できる人達だ。
「彼ですが…最近知り合い、良くさせていただいてます。」
「なんだって!知り合いだったのか?!」
「どうやって知り合ったんだ…シーバの王子だぞ。」
「それは彼の許可がなければ話せません。」
『王族の許可がなければ』という話に、もっと深く聞きたい男達もしぶしぶ納得した。
「彼から招待状を貰い、昨日の午前中は棟から式を見ていました。」
「ミア様から直接…!」とザワザワしつぶやく男達。
「そして昨日、ミア様に好きだと伝え、彼も応えてくれました。」
うぉおおおおおお!と盛り上がる会議室。
なんなんだ…とガイアスが眉をひそめる。
(学校での宿泊学習の夜でも、皆こんなに騒がなかったぞ…。)
ガイアスは遠い日の学生時代を思い出す。
目の前の男達は3,40代と、世間一般的には落ち着いている年代にも関わらず野太い声で騒いでいる。
「2年間の遠征の間に、偶然ミア様に出会ったんじゃないか?」
「ミア様の美しさに、ガイアスがナンパしたに違いねぇ。」
「いつもは堅物のくせによー!すみにおけねぇなぁ~。」
「こういうタイプはむっつりで手が早いんだ。俺には分かる。」
「それからガイアスがしつこく迫って、しかたなく…って頷いたんじゃねーかな?」
「可哀想なミア様。」
(こうはなりたくないな…。)
思い思いに妄想で好き勝手に話し出す男達は、仕事では頼りになる素晴らしい存在だが、集まると子どもっぽい一面がある。
今もキャッキャと盛り上がり冗談を言っては、ど突き合っている。
「それで、今度はいつ会うんだ?」
ガイアス抜きに楽しんでいたが、ワクワクとした表情で1人が問いかけてくる。
「自衛隊の本部には連れてこないのか?」
「ミア様とは出会ってどのくらいになるんだ?」
「おいおい、お互いどう呼び合ってんだ?」
「いつも会って何してんだよ。」
相手が王族とあって、皆も軽い話題を選んでいるようだ。
次から次へと飛んでくる質問に、休憩時間が過ぎても帰れないことは明らかだった。
(今日は残業だな…。)
ガイアスは1人目の質問をもう一度聞き直した。
「兄は、兄は、お前達が大好きなんだ…ッ!」
カルバンは次期王と呼ばれる威厳ある姿ではなく、今はただの兄として弟妹をぎゅっと抱きしめた。
「分かったって。もう何回目だよ…。」
ミアが呆れた声で言う。
「いいじゃない、こんなに酔ってるカルバン久しぶりよ。」
「ちょっと面白いけど、苦しい…。」
(面白くないよ!姉様とリースは3回目くらいだけど、俺はもう10回はやられてるんだからッ…しかも、その度に「あの男には渡さん!」って言われるんだ。)
「もう、やめてってば。」
ミアはカルバンの胸をはがしながら、その顔を見上げる。
「お前は兄が嫌いなのか?」
「嫌いじゃないってば。兄様、今日はどうしたんだよ。」
兄は泣きそうな顔でミアを見下ろしている。
「寂しいんじゃない?ミアが剣の師匠にばっかり懐いてるから。」
「懐いてるって何だよ!俺とガイアスはな、」
「あら、どんな風に仲良しなのか姉様に教えてくれるの?」
「え…ッ」
顔をぽぽぽと赤くするミアに、姉がクスクスと笑っている。
「おい!なぜ赤面するんだ!おかしいだろうッ!」
「やめなよ兄様!」
「ダメだ、ミアは俺のものだ!リース、お前もだ!」
リースも巻き込み、ギューッと抱きしめてくる兄の腕がさっきより強い。
「くるしいってばー!」
「やめてくれー!」
「あらあら、大変。」
叫ぶ弟達の姿を、笑いながら見ているだけの姉。
(お義姉様…早く帰ってきてください…!)
リースは、子ども達を寝かせるためにシーバ国に一度戻ったカルバンの妻の一刻も早い帰りを、心から祈った。
・・・・・
式の翌日、執務室に出勤したガイアスは、いつもと変わらない部屋の様子に少々疑問を持った。
朝から隊員達が自分を囲み、昨日のアレは何なのだと質問攻めにあうのを想像していただけに、この静けさに違和感を感じる。
すでに噂が他の隊員達に回っていると予想していたガイアスだったが、「おはようございまーッス。」と挨拶し自分の前を過ぎていくマックスを見ると、噂にはなっていないのだと確信する。
(ミーハーなあいつのことだ。昨日の控室での出来事を聞いたら、飛んできて根掘り葉掘り聞いてくるはず。)
ガイアスは剣舞に参加した男達を思い浮かべる。
(昨日のこと、誰も漏らさなかったのか…。)
午前中、自分の元に助言を求めに来た隊員達は、いつも通りの態度だった。
(なんて素晴らしく出来た人達だ。)
ガイアスは剣舞のメンバーの口の堅さに、有難いと思うしかなかった。
そろそろ昼になろうかという時間、扉がバンッと開き5名の男が入ってくる。
昨日の剣舞に参加していた者達で、皆落ち着きなくガイアスに近づいてくる。
「ガイアス、昼行くぞ!」
「会議室を予約してある。」
「安心しろ、弁当も注文しておいたからな。」
「早く立て。」
「競歩でいくからな、着いて来いよ。」
みな口早にそう言うと、返事を待たずにガイアスの腕を引き、あっと言う間に会議室へ足を速めた。
「……あの、みなさん。」
「さぁガイアス君、昨日のことをお兄さん達にちゃあ~んと話しなさい。」
昨日の剣舞で揃った24名の隊員が、今目の前にズラッと並んでいる。
普段から親しくしている第4隊隊長が、ガイアスに『話せ』と圧をかける。
「暇なんですか?」
「おい!ふざけるなよ!昨日帰ってからと、午前中に死ぬほど仕事して時間作ったんだよ!」
「そうだ!だから早く話せ!」
ヤイヤイと野次を飛ばす隊長陣と、「まあまあ座って」とガイアスに席を勧める数名の副隊長達。
その他の男達はワクワクと話を聞きたそうに席で待っている。
「何を聞きたいんですか。」
「おいおい、しらばっくれてんじゃねぇぞ~。」
「全員見たんだからな。」
「ミア様とキスしたってのに、知りませんじゃ済まされねぇぞ。」
ワイワイと盛り上がる男達に、自衛隊のトップ達が何をしてるんだと呆れてしまう。
(ごまかしても仕方ない。)
それに昨日と今日だけだが、誰にも言わずにいてくれた信用できる人達だ。
「彼ですが…最近知り合い、良くさせていただいてます。」
「なんだって!知り合いだったのか?!」
「どうやって知り合ったんだ…シーバの王子だぞ。」
「それは彼の許可がなければ話せません。」
『王族の許可がなければ』という話に、もっと深く聞きたい男達もしぶしぶ納得した。
「彼から招待状を貰い、昨日の午前中は棟から式を見ていました。」
「ミア様から直接…!」とザワザワしつぶやく男達。
「そして昨日、ミア様に好きだと伝え、彼も応えてくれました。」
うぉおおおおおお!と盛り上がる会議室。
なんなんだ…とガイアスが眉をひそめる。
(学校での宿泊学習の夜でも、皆こんなに騒がなかったぞ…。)
ガイアスは遠い日の学生時代を思い出す。
目の前の男達は3,40代と、世間一般的には落ち着いている年代にも関わらず野太い声で騒いでいる。
「2年間の遠征の間に、偶然ミア様に出会ったんじゃないか?」
「ミア様の美しさに、ガイアスがナンパしたに違いねぇ。」
「いつもは堅物のくせによー!すみにおけねぇなぁ~。」
「こういうタイプはむっつりで手が早いんだ。俺には分かる。」
「それからガイアスがしつこく迫って、しかたなく…って頷いたんじゃねーかな?」
「可哀想なミア様。」
(こうはなりたくないな…。)
思い思いに妄想で好き勝手に話し出す男達は、仕事では頼りになる素晴らしい存在だが、集まると子どもっぽい一面がある。
今もキャッキャと盛り上がり冗談を言っては、ど突き合っている。
「それで、今度はいつ会うんだ?」
ガイアス抜きに楽しんでいたが、ワクワクとした表情で1人が問いかけてくる。
「自衛隊の本部には連れてこないのか?」
「ミア様とは出会ってどのくらいになるんだ?」
「おいおい、お互いどう呼び合ってんだ?」
「いつも会って何してんだよ。」
相手が王族とあって、皆も軽い話題を選んでいるようだ。
次から次へと飛んでくる質問に、休憩時間が過ぎても帰れないことは明らかだった。
(今日は残業だな…。)
ガイアスは1人目の質問をもう一度聞き直した。
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