白狼は森で恋を知る

かてきん

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第1章 白狼は恋を知る

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(最近、浮かれたミアがよく部屋に遊びに来る。)

週末の昼ご飯の前、風呂上りのミアは必ず弟リースの部屋に寄って一緒に食堂へ行く。


「リース!!!入るぞ~!」

ドンドンと2回ノックがあってすぐ、ミアが勢いよく入ってきた。

ミアはとろっとした白い生地が全体を包む、ゆとりあるシルエットの服を着ている。
シーバの王宮で着られている伝統的な恰好だ。
普段はそこにシンプルな金のアクセサリーを付けているのだが、お風呂を上がってそのままここへ来たのだろう。不思議な石の付いた腕輪以外、何も身に着けていない。

「それ、ノックする意味ある?」

無遠慮に入ってくる兄に笑いながら、リースが答える。

ミアと同じくとろりとした素材でできたブラウスを着ているものの、リースはかっちりとした黒いズボンを履いており、ミアとは違いきちんとした印象だ。

リースはドタドタと部屋に入ってきたミアを落ち着けるため、自らハーブティーを淹れようと立ち上がる。

「今日のガイアスさんは、どうだったの?」

「それがさ、今日も凄かったんだ!まだ基礎を習ってるんだけど、ちょっとだけって剣舞の型をいくつか教えてくれたんだ!」

「へぇ~、良かったね!ミアは剣舞が大好きだから。」

「イリヤといいリースといい、なんで大好きって言うんだよ。俺の剣舞への憧れはそんなもんじゃない!」

お風呂に行く途中に小言を言ってきた、従者の顔が思い浮かぶ。

「ははっ、ごめんごめん。」

いつの間にかベッドの上に胡坐をかいて座ったミアにハーブティーを渡すと、ミアは「ありがとう」と受け取り、湯気の出るカップの水面に軽く息を吹きかけた。

「明日も行くんでしょ?」

リースはカップを持って、ベッドに座るミアの横に腰かけた。

「おう!あ、そうそう!ちょっと聞きたいことがあってさ~、狼の石のことって、人間に教えていいんだっけ?」

「問題ないよ。知ったところで人間が盗むことも使うこともできないしね。」

狼の持つ石。
その不思議な力は狼のみ使うことができ、1度選ぶと、その石と離れることは一生無い。
石は、持ち主からある程度の距離ができると、転移して狼の元へ戻ってくる。

「いろんな力があるのは確かだけど、僕達が知ってる程度の使い道なら、話しても大丈夫だよ。」

「そっか、了解。」

リースは自分とミアのティーカップをサイドテーブルに置きミアの目をじっと見た。

「ミアが知らない使い方教えてあげよっか?」
「え!知りたいっ!」

小さい頃から一緒に授業を受けてきた2人。
リースだけが知っているという知識に、ミアは興味津々だった。

「いいよ。じゃあ……ミアはガイアスさんが好きなの?」

「…え!何だよ急に!!」

「石が光る回数で分かるんだ。恋愛感情で好きなら3回、友達として好きなら2回、嫌いなら1回。」

「…え!まじ?ちょ、待って!」

「…あ、石が3回光ってる。へぇ~すごく好きなんだね~。」

「えっ・・!えっ!!違うこれは!てかなんで光るんだ?!」

慌てて自分の腕輪に嵌っている石を掴む。
ベッドから足が片方落ち、抱えていたクッションは床に落ちている。


「…はははっ!これ、今学校で流行ってる遊びだよ。石同士が一定の距離間にいると、相手の石に信号を送ることができるんだ。」

笑いをこらえきれず、ネタばらしをしてきたリースに思わず飛び掛かる。

「おい!リース!!びっくりしただろ!」
「…ミアの反応ったら!ふふっ…」

「笑うなっ!」

ミアはリースを下にしてクッションをぶつける。リースは笑いながらミアにそれを返す。

ベッドの上でじゃれ合う2匹の可愛い狼は、昼ご飯を呼びに来た従者によって止められ、「王子としての自覚を…」と、また小言を言われたのであった。





・・・・・

「今日で練習は6回目か。筋がいいな。」

剣を払う仕草をした後、ガイアスがそれを鞘に納める。

「え!本当に?」

「ああ、予定していたより早く次へ進めそうだ。」

「やった!父にも、最近うまくなったんじゃないか、って言われたんだ!」

(ミアの父親ってことは、狼の国王か…。)

聞くと親子のほのぼのした日常会話だが、実際にはスケールが違いすぎる話だ。

「家でも練習してえらいな。」
「早くガイアスみたいになりたいから!」
「すぐになれる。」

ワシワシと頭を撫でられ、乱れた髪を直すように親指が額をかすめる。
ガイアスの顔は優しさに満ちており、その顔を向けられると心臓のあたりがキュッとする。

(兄様にあんなこと言われてから、俺ちょっとおかしいんだよな。)

師匠であるガイアスをかっこいいと憧れているのは変わらないが、そのかっこいいの意味が少し変化していることに、ミア自身気づきつつあった。

(なんか、まぶしくて見てられないっていうか…見てたら顔が熱くなって落ち着かないっていうか…。)

「休もうか。」

そう言ってゆっくり離れていく指を目で追っていると、「ん?もっと撫でてほしいのか?」と笑うガイアス。
ミアはブンブンと大げさに頭を振った。



「え!白い花?」

「ああ、小さくて先がとがってるんだが、知ってるか?」

「うーん、見たことないけど…。どこにあったの?」

「この森のもう少し奥だ。だいたいこの辺りだな。」

ガイアスが持っていた地図を広げ、湖をさらに抜けた先にある少し開けた場所を指さす。

先日、森を巡回していた時に見つけた花。
白い色に思わずミアを連想し、近くによって見てみると、ツンと立った花弁がミアの耳のようで微笑ましい。
花にそんなに関心がある方ではないガイアスだったが、見たことのないその色に、もしかすると珍しい種類なのでは、と気になっていたのだ。

「花については、弟がすごく詳しいから聞いてみるよ!でも、俺も見てみたい!」

「行ってみるか?今日はもう時間がないから、来週末、そこに行ってみよう。」

「うん!じゃあ、お弁当がいるな。」

「調理場の者に作らせよう。菓子だけでなく料理も上手いんだ。」

「やった!」

嬉しそうなミアの様子が可愛らしい。

「何か食べたいものはあるか?」
「パンで挟んであるやつ!」

「…サンドウィッチか?」
「そう、それ!」

すぐに答えたミアにもだが、言われたメニューに驚く。

このサバル国でサンドウィッチといえば、庶民の代表的な昼ご飯だ。
しかも、忙しい職種の人がすぐに食べれるように作られており、王家であるミアがそれを食べたいと思っていたとは…不思議に思うガイアスだった。

「そういうの、あんまり食べる機会がなくて。」

(王子だと食べるものも制限があるのだろうか。)

「なら、そうしよう。俺も好きだから、仕事の日の昼によく食べるぞ。」

街に美味しい店があることを教えると、ミアが目を輝かせたので「今度一緒に行こう」と約束をする。

「具は何が良い?」

「えーっと、肉がいっぱい入ってて、野菜があんまり無いやつ。」

「分かった。他にも何かいるか?」
「芋とか肉を揚げたやつも食べてみたい。」

「ああ、屋台でよくあるやつか。」
「うん!……作れるかな?」

「大丈夫だ。家で食べたことがあるし、旨かった。」

嬉しそうに尻尾をパタパタと動かすミアを見つめ、ガイアスも楽しみになってくる。

(昼過ぎても一緒にいるのは初めてだな。)

ガイアスは、柄にもなく浮かれている自分に笑った。
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