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-第4章- 家族と未来

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「ダメだ、ふざけるな」
「ふざけていない」
 誕生日まであと十五日。
 手伝いをしようと執務室へ入ったが、イヴァンとアルダリが何やら揉めていた。
 普段、仕事の事で多少の言い争いはあっても、ここまでピリピリとした空気ではない。仲の良い兄弟が睨み合っているのを見て、俺は彼らの元へ駆け寄る。
「どうしたの?」
 二人を交互に見る。イヴァンは俺の手を取ると、自分の腕の中に閉じ込めるように俺を抱きしめた。
「へ……? 何があったの?」
 訳が分からず説明を求めると、アルダリが溜息をひとつつき説明を始めた。
 喧嘩の要因は、明後日の視察に関することだった。
 予定では、イヴァンと俺は屋敷で事務作業を行い、アルダリとルーサは一泊二日で、二つ向こうの町に視察に行くと聞いていた。
 しかし、連れていくはずだったルーサは、急遽王都に出向かなければならない用事ができ、行けなくなった。
 視察には付き添いとして従者を連れていくこともあるが、今回の件は計算に長けている者が必要らしく、アルダリが俺を指名したのだ。
 たしかに計算に関しては、皆を手助けすることができると自負している。そして、数学を真面目に勉強しておいて良かったと常々感じていた。
「アサヒが行くなら、俺が視察へ行こう」
 イヴァンがアルダリに提案するが、首を横に振られる。
「ダメだ。あの町長は俺じゃないと扱いきれん」
 どうやらかなりクセの強い人物らしく、長年付き合いのあるアルダリでないと難しい案件らしい。
「イヴァン、大丈夫だから」
 兄を睨んでいるイヴァンを、どうどうとなだめる。
「仕事なんだからしょうがないじゃん。俺、行くよ。サッと行ってすぐに帰ってくるから」
 イヴァンを安心させようと笑顔で言う俺に、アルダリもできるだけ早く帰ることを約束する。
「……分かった」
「本当か? 助かる」
 礼を言うアルダリに不服そうな顔を向けたイヴァンだったが、行くぞと俺の腕を引き、自室へと足を進めた。

「んッ……!」
 部屋に入り、扉を閉めたと同時にイヴァンが俺の顎を掴んでキスをする。
 突然のことに驚くが、イヴァンはさらに口づけを深くしていく。
 くちゅ……
 水音とリップ音が部屋に響き、頭がくらくらする。
 まだ部屋の扉の前だ。こんな場所でキスなんて……
 恥ずかしくなり、唇を離してイヴァンの胸を押した。
「イヴァン……ッ、」
「今回は行かせるが、次はない」
 視察のことを言っているのだろう。
 俺が仕事を手伝い始めたばかりの頃、イヴァンは家族に約束をさせた。それは、俺が視察に行くのはイヴァンがいる場合のみ、というものだ。
 それに関しては家族も納得しており、俺は今までイヴァン抜きで町を出たことはなかった。しかし、俺が計算が得意であると分かると、アルダリ達はこの町の中のみだが、時々俺を仕事の場へ連れ出した。
 イヴァンはそれも良しとはしていなかったが、あくまで町内での仕事であり視察ではないため黙認していた。
 しかし、今回の件はさすがに約束を違えると判断したらしい。
「イヴァン、すぐに帰ってくるからね」
 努めて穏やかに言うが、イヴァンはまだ怒りが収まっていないようだ。
「怒ってるの? 機嫌直して」
「……俺の好きなようにしていいなら許す」
 黙って俺を抱きしめていたイヴァンだったが、急に耳元でそう囁いた。
「え。い、いま?」
「そうだ」
 今はちょうど日が暮れだした時間帯。
 部屋に差し込むオレンジの光が俺達の顔を照らしている。
「素直に言うことを聞いたんだ。ご褒美があってもいいだろう」
 そう言われると、約束を破った俺とアルダリが悪くて、イヴァンは我慢をしているという構図になり、気持ちが落ち着かない。
 俺は、これで自身の罪悪感が減るのなら……と、イヴァンの言い分を受け入れた。

 俺は自室に帰り、交わるための準備をする。
「期待して待っている」と言って部屋の奥へ消えたイヴァンが恐ろしい。
 もし、痛いプレイとかされたらどうしよう……
 少し緊張してきた。
「こっちへおいで。風呂へ行こう」
「う、うん……」
 そんな俺の気持ちを知ってか、イヴァンが準備の終わった俺を優しく風呂へエスコートする。
 最近では、二人で一緒に風呂に入るのが当たり前になっている。
 最初は少し恥ずかしい気がしていたが、今では頭や身体を洗ってくれるイヴァンのテクニックの虜になっており、風呂の時間を楽しみにしている。
 八割の確率で変なことはされるけれど……
 しかし今日は稀な日だったようで、イヴァンは俺の身体を洗い、湯舟で手の平をマッサージしてくれたのみで、過剰な接触はしてこなかった。
 逆に何もしてこないのが怖い。
 チラッとイヴァンの様子を伺うが、優しい表情で俺を見ているだけだ。

 風呂から上がり、手を引かれてベッドへ連れていかれる。
 イヴァンは優しく俺を寝かせると、自身も隣に寝転んだ。
 そのまま俺の頬を撫でて愛おしそうにこちらを見ている。
 今からどんな事をされるんだ……
 緊張しながら構えていると、おでこにちゅっちゅとキスを落とされる。普段と変わらないイヴァンに、不審な目を向ける。
「はは、なんだその顔は」
「何もしてこないから、逆に怖くて」
 イヴァンに本心を告げると、くつくつと笑うイヴァン。
「心配するな。今日はいつもより丁寧にアサヒを愛したいだけだ」
 そう言うと俺の頬から耳へ指を滑らせ、ぐにぐにと優しく揉み始めた。
 マッサージを受けているような気分で心地が良い。
「アサヒのこと、いろんなところで感じるようにしてもいいか?」
 耳を弄る指が気持ち良い。質問の意味も考えずにコクリと頷くと、イヴァンがにっこりと笑顔になった。そして、俺が着ているバスローブをゆっくりとはだけさせる。
「耳も、脇も、胸も、お腹も」
 イヴァンはそう言いながら、耳からお腹まで指で辿っていく。
「どこでも感じる、やらしい身体になろうな」
「え、それってどういう……?」
 目の前の表情は穏やかだが、茶色の瞳には夕日が差し込み、ギラギラと光っているように見えた。
 その目に見つめられると、捕らえられた気分になってゴクリと喉が鳴る。
「始めるぞ」
 近づいてきた瞳から目を逸らすことができないまま、イヴァンの唇を受け入れた。

「あ、ああ、、ンッ」
「気持ちいいか?」
 イヴァンが甘い声で尋ねるのに対し、分からないと頭を振る。
 始めると宣言されて、まずはキスをされた。イヴァンは俺の唇を優しく舐め、柔らかい舌を口内に入れた。
 ぬるっとした感触に、じんと指が痺れてくる。そのまま、ゆっくりゆっくりと優しいキスが続く。
 いつもセックスでする時のような激しいキスではなく、心に余裕を持って快感を拾うことができる。
 普段はされるがままの俺だが、今日はイヴァンの舌に自らを絡めたり、舌を吸ってみたりと主導権を握ってみた。
 イヴァンはそんな俺を好きなようにさせ、楽しんでいるようだった。
「ん……」
 そして、キスの最中に耳たぶを触れるか触れないか程度で触ってくる。
 耳の外側を優しく撫でる大きな手。その間も穏やかなキスは続いている。
 ゆっくりと俺の口の中から舌が抜けていく。
「ぷは……っ」
 その舌にちゅうちゅうと吸い付いていた俺からは、ちゅぽっといやらしい音が鳴った。
 イヴァンは自分の舌を俺に見せつけると、俺の片耳へ近づき、濡れた舌を這わせた。
「んッ!」
 感じたことのない妙な感覚にビクッと驚く。
 そのままゆっくりと、形を辿るように舐めていくイヴァンに、俺は疑問を抱く。
 なんで耳……?
 生々しい音がして、変な気分になる。
 そして片方の耳にも手が耳に伸び、耳の形を確かめるように触れてくる。
「ん…っ、…ッ」
 強い刺激ではないが、耳元で鳴る水音を聞いていると、腰に熱が集まってくるのを感じた。
 そのまましばらく耳を舐められ、いじられる。
「あ、……なん、で?」
 最初は慣れずに戸惑うだけだったが、胸を弄られた時のような甘い痺れを感じる。
「アサヒ」
 イヴァンは俺の反応を見て耳から口を離すと、俺の口に再度舌を入れてきた。
 そのまま深いキスをされ、自分のモノが確実に硬くなっていると感じる。
 視線を下へ向けると、どうやら正解だったようで、バスローブの前が押し上げられている。
 イヴァンは俺との口づけはそのままに、再び耳を両手で弄ってきた。
「んんぅ…っ!」
 さっきまでとは明らかに違った感覚に、肩が震える。
 舌を絡ませながら耳をやさしく擦られ、なぜか触っていない中心に熱が集まる。
 あ、あ、とキスの間に声を漏らす俺を満足そうに見ながら、イヴァンは耳に置いていた手を脇へと移動させた。
「やぁ……ッ、」
 脇をぐにっと親指で押された。
 キスをしていた唇は離れ、離した時に出来た銀の糸がたらりと垂れて俺の胸に落ちる。
「イヴぁ、やめ、そこ、いやぁ…ッ」
 皮膚の薄い脇の窪みをに指を押される妙な感覚に、思わず声が出る。
「ここッ…やだぁ…!」
「アサヒは、どこもつるつるだな」
 その言葉を聞き、俺は顔が熱くなる。
 高校生になり、周りの生徒達に毛が生えそろってくる中、俺だけは脇や足に変化がなかった。下の方も……少しは生えているが他と比べると幼い子どものようだ。
 俺はあちらの世界にいた時からそれを気にしていた。しかし、それはローシェの身体も同じらしい。
 俺とほとんど同じつくりをした身体は、体毛までもそっくりそのままだ。
「はぁ、舐めたくなる」
 そう言うと、照れて手で顔を隠しているため露わになった俺の脇を、べろっと舐めた。
「わぁッ…ん、やめ、」
 静止の声を掛けるが、ふっと笑ったのみで止める気配がない。
 それどころか腕を押さえて余計に露わにされ、窪みを刺激するように舐められる。
「ん、恥ずかし、ぃ」
 普段触れることのないその部分を這うぬめりに、俺は頭がおかしくなりそうだった。
 先程から拒む言葉しか出てこない。
「嫌か?」
 俺の声がやっと届いたのか、イヴァンが脇から口を離した。離れていくイヴァンにホッとしていると、またキスをされる。
「ンッ…、ん、」
 先ほどのようにゆっくりとしたキス。
 今日のイヴァンは意地悪なのか優しいのか分からない。
 でも、舐めるのが終わって助かった……
 俺は今、開放された気持ちで目の前の唇を食む。
 夢中で何度も唇を合わせていると、イヴァンが脇に指を滑らせた。
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