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-第3章- 王の誕生祭と真実

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「おはよう」
「ん、おはよ。イヴァンもう起きてたの?」
 いつもは俺の横でスカーッと気持ち良く寝ているイヴァンだが、珍しく先に起きて俺の寝顔を見ていたようだ。
「よく眠れたか?」
「うん。イヴァンが隣にいるから、ぐっすりだったよ」
 イヴァンが急にぎゅっと抱きしめてくる。
「アサヒ」
「なに?」
 どうしたのかと尋ねても返事はなく、俺の胸に抱きついたままのイヴァン。
 その頭をしばらくよしよしと撫でていると、グス……と小さく鼻をすする音がした。
「……泣いてるの?」
 慌てて顔を覗き込もうとしたが、急に顔を上げたイヴァンは、ちゅっとキスをしてさっさとベッドから降りて背中を向けた。
「朝食でも食べるか」
「うん……」
 結局、イヴァンが泣いていたかどうかは分からず、尋ねることもできなかった。

 起きて着替えをし、部屋で朝食を取っていると、アルダリ達が部屋へ勢いよく入ってきた。
「わぁあああ、アサヒ~!」
 ルーサが目に涙を浮かべながら俺に抱き着く。
 持っていたフォークを急いでテーブルに置く。
「ごめんね、ごめんね」
 泣きながら謝るルーサの背を撫でる。
「なんでルーサが謝るんだよ」
「だって私が踊りに参加してたら、こんなことには……」
 イヴァンは、泣き続けるルーサの頭を呆れ顔のまま優しく撫でた。
「ほら、無事だったんだし、もう泣くな」
「本当に、本当に無事で良かったよぉ~!」
 後ろにいたイヴァン達の父も、俺の顔を見て安心したように笑った。

 俺とともに王都に残るのはイヴァンだけのようで、他の家族は元の予定通り、今日町へ帰っていく。
 さっきまで泣いていたルーサだが、部屋から出る時には元気に手を振っていた。
 それからも、踊りで一緒だった仲間達が訪ねて来たことで、部屋がまた賑やかになる。
「アサヒがあんな衣装のままうろついてるからだぞ」
 最初は誘拐された俺を心配していたが、思いのほか俺が元気なことを確認すると、一人の青年が冗談を言ってからかい、ハンナがそれに怒っている。
 それを微笑ましく見守りながら、楽しい時間を過ごした。
 皆も今日、それぞれの町へ帰るらしい。
「手紙書くからな」
 ハンナが俺に握手を求め、俺は力強く手を握り返して皆と別れた。
 パタン……
 全員が出て行き扉が閉まったところで、少し離れて座っていたイヴァンがこちらに近づいてきた。
「アサヒ、彼らには俺が恋人だと伝えてないのか?」
「え、言って良かったの?」
 仮にも領主様という立場なイヴァン。
 身元不明で世間知らず。見た目も中身も子どもな恋人がいることは、彼にとってマイナスでしかないと思っていたが……イヴァンは全く気にしてないようだ。
「良いに決まってるだろ。俺は周りに言っている」
「そ、そうだったんだ……」
 昨日も、宴の席で恋人はいるのか何度も聞かれたというイヴァンは、その度に俺の名前を出したようだ。
 その事実に驚きながらも、少し嬉しいと感じる。
「ハンナと言ったか。彼が必死に自分を売り込んできたのが気になってな」
 確かに、他の青年達がペコリと頭を下げる程度ですぐに俺の元へ近寄る中、ハンナはイヴァンの存在を確認すると、挨拶をして何か話しかけていた。
 どうやら自分の名前を覚えてもらおうと自己紹介から始まり、俺との仲の良さをアピールされたらしい。
「考えすぎだって」
 ただの友達だと言って笑うが、イヴァンはそうは思っていないらしい。
「今度会うことがあれば、俺が恋人であるとしっかり言うように」
 真剣な顔で釘を刺された。

 豪華な部屋で二日目の朝を迎える。
 できるだけこの部屋から出ないようにと言われている俺達は、それに従いずっと部屋の中に居た。
 昨日の夕方は、仕事をするイヴァンの横で本を読みながらゆっくりと過ごした。
 用意してもらったお茶を飲み、今日は何をしようかとお互いに話していると、ノックの後に扉が開く。
「陛下がお呼びです」
 その言葉に、すぐに支度をして部屋を出た。

「男の取調べが終わった」
 以前と同じく豪華な応接室へ入る。
 俺達二人が席についたところで、王がディルについて話し始めた。
 彼は、北にある大きな国の第一王子。
 そして北の小さな国を治めていたローシェの一族から代々ひとり娶るという文化は本当らしく、六年前にディルとローシェの婚姻が結ばれた。
 そして二人の婚姻は、ローシェが逃げ出してすぐにディルの父によって取り消され、ローシェは亡き者として扱われていたという。
「え、それじゃあ婚約が続いてるっていうのは……」
「あいつの嘘だな」
 驚く俺とは対照に、イヴァンは冷静な表情だ。
「その場しのぎで俺達を騙し、アサヒを奪って逃げようと考えていたのか」
 王はイヴァンの呟きに頷くと、俺が誘拐された経緯を説明した。
 ディルはローシェが逃げた後、すぐに追手を各地へ送ったらしい。しかし早い段階でローシェが随分と遠くへ逃げていたようで、その足取りが分からなくなった。
 その後は南に逃げたと予想し、町々に追手を送り探し続けた。
 王であるディルの父は、王位継承権のある息子の異常な行動を不安に思い、ローシェを諦めるよう説得したがディルは全くもって耳を貸さない。
 困った王は二人の婚約を無理やり解消し、ローシェを死んだものとして国に公表した。
 ローシェの家族含め全員がそれを信じていたが、ディルは認めなかった。
 それから二年間、ディルは家族の反対を押し切りながらも捜索を続け、ようやくこの国でローシェを見つけた。
 王の言葉を黙って聞いていたイヴァンだったが、疑問に思ったことを尋ねる。
「ディルは第一王子で次期国王だった男です。なぜ男であるローシェと婚約できたのでしょうか」
 それに関して王は、俺がディルから聞いた情報と同じことを伝えた。
 ローシェの一族の男子は、自身の誕生日のみ妊娠することが可能であるという。そして、それはディルの国とローシェの国の者だけが知る秘密だった。
 再度聞いた俺でも驚いているのだ。イヴァンは信じられないといった様子で目を開いている。
 男でありながら子どもを身ごもることができる。
 それが真実であれば、ローシェは好きでもない男と結婚するだけでなく、その子どもを産まなければならない。
 もし自分がローシェの立場だったら受け入れられるだろうか。……いや、彼と同じく逃げていただろう。
 ローシェの記憶の中にいて、彼が死を選んだ気持ちが分かる。ローシェが逃げ切る道はそれしか無かったのだろう。
 そして死んでもなお、自分の婚約者から逃げ続けた。
 自然と、身体の主であるローシェを自分の腕で抱きしめると、イヴァンが泣きそうな顔でこちらを見る。
「彼は最後まで戦ったんだな。この身体を守り切ってくれたことに感謝する」
 イヴァンは俺の肩を抱き、慈しむように抱きしめた。
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