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-第2章- 新しい町と幸せな日々

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「帰ってから慌ただしかったな。疲れただろう」
 イヴァンは俺を部屋のソファに降ろす。そのまま自分も横に座ると、ホッと息をついていた。それからは、俺が疑問に思っていたことを丁寧に説明してくれた。
 まず最初に、兄であるアルダリは既に結婚し子どもが四人いるため、イヴァンには結婚し子を成す義務がないという。そして今まで危険を顧みずに町々を飛び回るイヴァンに、家族からは『大切な人でも見つけて落ち着いてほしい』と常々言われていた、とのことだ。
 確かに、領主でありながら護衛も付けず俺の住んでいた森に来たあたり、今までも無茶なことをしてきたのだろう。
 彼の家族の気持ちが、少し分かった気がした。
「だから、アサヒは父達にとってありがたい存在なんだ。我が物顔でここに住んでいい」
 そう言うと、俺の頭を撫でて目を細める。その気持ちよさに、素直に手を受け入れていたが、気になった事をもう一つ聞いておく。
「あの……この世界は、男同士って普通なの?」
「稀ではあるが、国として結婚も認められているし、隠す者はいない」
 その答えにまたホッとする。
「アサヒのいた世界では違うのか?」
 俺が安心したのに気づき、イヴァンが尋ねた。
「俺の住んでた国では、結婚は認められてないよ。だから隠す人の方が多いかも」
 俺自身も、男性は恋愛対象でなかったことを伝えると、イヴァンは嬉しそうに笑った。
「俺を好きになってくれて、ありがとう」
 キザな言葉に、顔に熱が集まる。
「アサヒ、今夜はどうする?」
 俺が顔を若干俯かせたところで、イヴァンが急に聞いてきた。今夜と言われてもピンとこない。
 何か予定があったのだろうかと考え、先程の家族との会話を思い出した。
「あ、夕食のこと? もちろん一緒に、」
「違う」
 イヴァンは笑いながら続ける。
「どちらのベッドで愛し合うか、と聞いている」
 意味が分かって目を丸くする俺に、ずいっと近寄ってきたイヴァン。
「アサヒが選んでいいぞ」
 そう言って意地悪な顔をしている。
「俺のベッドを選んだら抱き潰しかねんが」
「お、俺の部屋で!」
 怪しく笑うイヴァンに、俺はすかさず主張する。
 ていうか、抱くって……抱きしめて寝るって意味じゃ、ないよな。
 俺が住んでいた森からこの町にやってくるまでの三晩、俺達は各町々のホテルに宿泊した。そして同じベッドで寝ればそういう雰囲気にもなるわけで、俺は毎晩イヴァンと触り合いをした。
 お互いのモノを触って抜き合うのみだったが、イヴァンはしきりに、帰ったら俺を抱くのだと宣言していた。
 最初は男同士でのやり方も分からなかった俺だったが、イヴァンが詳細に説明してくれたおかげで、今ではどんな事をするのか大体理解している。
 今夜、いよいよその本番なのだとあたふたする俺の頬にキスを一つ落とすと、イヴァンが風呂に誘ってきた。

「疲れたか?」
「……誰のせいだよ」
 風呂から上がり、今は二人でベッドの上にいる。
 夕食前であるため、ただ寝っ転がっているだけだが、俺は先程の風呂での出来事を思い出し、横で笑っている男を軽く睨んだ。
 身体を洗ってやると言われ、素直に身を任せたのが間違いだった。イヴァンは、明らかに別の意図を持った手の動きでいやらしく全身を撫でてきたのだ。
 自分もしっかり反応してるくせに俺だけを喘がせた挙句、イヴァンは準備のためと俺の後ろの窄まりに指を入れてきた。
 汚いからとその手を制したがイヴァンは、風呂場だから汚れれば流せば良いと言い、その行為を続けた。
 初めての感触に悶えた俺だったが、快感を感じる部分を擦られ、あろうことか湯の中で射精してしまった。
 うう、思い出しても恥ずかしい。
 一人で痴態を晒し、さらに初めてなのに後ろで気持ちよくなってしまった俺は、隣で愛おしそうにこちらを見つめる恋人の顔を見ることができない。
「可愛いアサヒ。こっちを向いてくれ」
 俺の羞恥心を面白がっているのか、イヴァンはくつくつと笑いながら俺を横から抱きしめていた。

 イヴァンの家族との食事も終わり、今は各自部屋で今夜の準備をしている。
 俺はイヴァンに用意された薬でトイレに篭りっきりだった。それからは部屋にあるバスルームで軽く身体を流し、用意されていた寝巻きに着替える。
 そのままベッドに寝転がり天蓋を見ていた俺は、ガチガチに緊張していた。
「ちょっと、落ち着かないと」
 このままでは、またイヴァンに笑われてしまう。深呼吸をし、少し目を瞑って心を落ち着けようとじっとしていた、つもりだったが……

「アサヒ? 寝たのか?」
 遠くでイヴァンの声がする。
「セックスするぞ」
 ぼんやりとしていた頭が、耳元で囁かれた言葉によって覚醒する。
「あ、起きたな」
 恋人が、俺の顔を笑いながら覗き込んでいる。
「あ、ごめん! 起きて待ってるつもりだったんだけど」
 言い訳をする俺の横に寝転ぶイヴァン。
 てっきり何か悪戯をされるのではないかと構えたが、何も言わずに顔を見つめてくる。
 何だろうと不思議に思い、目の前の瞳を見つめ返す。
「アサヒは、俺に抱かれていいのか?」
 イヴァンは静かに聞いてきた。
 ん? するつもりで来たんじゃないのか……?
 言葉の意味が分からず眉を寄せる。
「アサヒは優しいから、俺に誘われて断れずに無理しているんじゃないかと……急に、不安になった」
 俺の恋愛対象が女性だということも心配なようだ。
「お互いの気持ちが一緒でないまま、そういうことはしたくない」
 イヴァンは少し自信なさげな顔をした。今だって俺にそういうことをしたくてアソコが緩く勃っているくせに、目の前の紳士はここまできて俺を気遣っている。
「イヴァン、もし嫌ならはっきり断ってるよ。俺だってそういうことには興味あるし……。すっごく気持ちいいって聞いてたから、期待してたのに」
 少し拗ねたような言い方になってしまった。
 だってあんなに「セックスするぞ」って宣言してたのに、いざそうなったら俺にどうするか聞くなんて……!
 最後まで強引な態度でいてくれないと、こっちが困る。
 上目遣いで目の前の男を睨む。
「アサヒ、」
「わっ……!」
 イヴァンは堪らないといった風に抱きしめてきた。
 そして俺の胸にぐりぐりと額を付けた後、顔を上げる。 その顔はにっこりと上機嫌だ。
「アサヒは抱かれたくて仕方がなかったのに、すまなかった。意地悪したつもりはない」
「いや、その表現はちょっと、」
 戸惑っている俺の姿に、分かっていると言いたげに目を細めて、頬を撫でてくる。そのまま指を滑らせ顎に置かれると、濃い茶色の瞳が近づいてくる。
 反射的に目を瞑った瞬間、唇に柔らかいものが触れた。
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