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第四章
第87話 シルバーバック
しおりを挟む有明東京湾ダンジョン――第四階層。
微かな光源が蛍のように舞う、薄闇に支配された階層。
そこに乗り込んだ俺とミケさん、白亜ジュラの三人は、近くから聞こえた声の元へと走る。
「影狼さん! 聞こえたのって、どんな声でしたか!?」
ミケさんからの質問に、俺は答える。
「男の声。中々野太かった」
〈男か。まだ影狼と合流できてない参加者で、男って誰がいたっけ?〉
〈えーっと、ちょっと待ってよ、現在の状況リスト作ってるところだから……あと残ってるのが16名で……〉
〈他の参加者のチャンネルも平行して見てるけど、カメラが生きてて無事が確認できてるのって、音夜さんくらいなんだよな〉
撮影用ドローンにセットしたスマホの中――《影狼チャンネル》のコメントを目で追う。
そうか、音夜さんはひとまず無事なのか。
確か事前の優勝候補ランキングでも四位になっていたし、一緒の船で戦う姿を見たが、かなりの実力者だ。
そう簡単にはやられないだろう。
同時に、彼と同じ事務所のヒバナを思い出す。
予感ではあるが、彼女もきっと無事だろう。
もし二人と合流し、そして仲間として同行してもらえたら、このダンジョンの攻略も更にスピードアップするかもしれないな。
そう思いながら走っていると――。
「んお! 何か前にいるぞ!」
ジュラが言うように、前方に複数の影が見えた。
「セイッ!」
その内の一方が発する声が、先程俺の聞いた声と酷似していた。
おそらく、音源は彼だろう。
胴着を着ている。
ボロボロの道着に、頭には赤い鉢巻き。
某格闘ゲームのキャラを思わせるような風貌のその人物は、彼と対峙しているモンスターに正拳突きを叩き込んでいた。
相手のモンスターは、体毛の白い猿……いや、ゴリラのような見た目をしている。
「《シルバーバック》か」
〈シルバーバック! 猿型モンスターでも相当希少な奴だぞ!〉
〈相手してるのって……緒形サンシロウだ!〉
〈おお! 《霊長類最強道場》の緒形サンシロウか!〉
「ハハハッ! どうしたどうした、この白髪ゴリラめ! どんと来んかい!」
緒形サンシロウは、シルバーバックを相手に己の拳のみで戦っているようだ。
スタイルは……見たところ《空手家》で間違いないだろう。
猛獣と戦う空手家のエピソードは色々と聞くが、ダンジョンの中で戦っているのは彼くらいじゃないだろうか。
「全国三十万人の門下生の上に立つ者として、貴様程度ここで屠ってくれるわ!」
〈あ、ちなみに門下生っていうのは《霊長類最強道場》のフォロワーのことね。30万フォロワー〉
〈良い勝負っぽいけど……いや、緒形の方も結構ダメージ負ってないか?〉
コメントの言う通り、緒形サンシロウも決して無傷というわけではない。
胴着は破れ、痣や流血の跡もある。
しかし、顔には闘志が漲っており、まだまだ戦う気満々だ。
「ウゴォォオオオオオオオオオ!」
シルバーバックが雄叫びを上げる。
全身の体毛を逆立て、グオングオンと体を揺らし始めた。
あたかも、踊るように。
「……不味い」
そのシルバーバックの行動の意味を知っている俺は、思わず呟く。
「ん? なんだぁ、何のつもりだ?」
緒形サンシロウは意味が分からず、余裕の笑みを浮かべて対峙を続けている。
……仕方が無い。
俺は地面を蹴る。
一気に加速し、シルバーバックに肉薄。
――擦れ違いざま、首を掻き切った。
「カハ――」
頭部を切断され、崩れるシルバーバック。
一方、俺は地面を蹴ってUターン。
向かった先は――緒形サンシロウ。
「なんだぁ、貴様! 人の獲物を横取りとは!」
「伏せろ」
文句を聞いている暇は無い。
俺は緒形のガッシリした腕を掴むと、足払いを決める。
「うぉっ!?」
そして転ばせると、自身も緒形と共に地面に伏す。
直後。
――シルバーバックの亡骸から閃光が走り、稲妻が空中に放たれた。
「なっ……!」
「……さっきのシルバーバックの動きは、“蓄電”だ」
シルバーバックの体毛は特殊で、激しく動くと電気を帯びる。
シルバーバックはそれを故意的に行い、体から電撃を放って攻撃する事がある。
しかも、相手は有明東京湾ダンジョン第四階層に出現する固体だ。
他のダンジョンのシルバーバックよりも、並外れた電量を蓄電……そして、放電を行う事ができると踏んだ。
「あの程度の動きで、凄まじい威力だったな」
「………」
稲妻を放ち終えたシルバーバックの死骸を見遣りながら、俺は立ち上がる。
そして、床に転がった緒形サンシロウは、そんな俺をポカンと見上げていた。
「影狼さん!」
「影狼! すげぇカミナリだったぞ!」
ちょうどそこに、ミケさんとジュラが追い付いた。
―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―
【ご報告】
本日、9月17日より『ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに』の書籍版、第二巻が発送開始となります!
また、WEB版二巻内容分のレンタル版との差し替えも17日(火)を予定しております。
WEB版と書籍版・レンタル版では微妙に内容が変わりますので、どうぞお楽しみにしていてください!
よろしくお願いいたします!
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