ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに~流離いのS級探索者と噂になってしまいました~

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2巻

2-2

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「組織ってのは、一枚岩やないからね。偉い人間の中にも、末端の人間の中にも、まだ影狼っていう存在を完全に認めていない奴等がおる。僕と、それから僕が信頼している上司が間に入って、君が苦労せえへんように尽力するから安心してや」
「すみません、何から何まで」
「ええねん、ええねん。前にも言ったけど、君の価値は凄まじいもんや。それだけに、世界が君の存在に気付いた今、色々と障害が増えていくと思う。君は、伸び伸びと生きたいように生きる努力をしたらええねん」
「……ありがとうございます」

 葉風さんの言葉を受け、俺は感謝の言葉を告げる。

「どうして、俺にそこまで……」
「面白いからに決まってるやん! 僕は影狼に一目惚ひとめぼれしとんねん。そんな影狼を、僕がプロデュース&マネジメントできるなんて最高やろ?」
「…………」

 この人もこの人で、自由に生きてるなぁ……と、率直に思った。
 そこで、葉風さんは「と、こんな偉そうな事言っといてなんやけど……」と、ばつが悪そうにする。

「〔アルテミスドラゴンのつの〕の件は……ほんまにすまんかった」
「大丈夫ですよ、気にしないでください。そもそも、持ち帰るのを忘れた俺が悪いんですから」

 俺が新東京ダンジョンの中層第七階層に忘れてきた、アルテミスドラゴンの角。
 仕事も辞めたし、身辺の事で色々と忙しいだろう――と、気をかせてくれた葉風さんが、第五部隊の部下達にアルテミスドラゴンの角を回収に向かわせてくれた。
 ところが、そこで事件が起きた。
 回収を終えた隊員達がダンジョン内で何者かに襲撃され負傷し、アルテミスドラゴンの角を奪われてしまったのだ。

「相手は複数。顔を隠して、厚着で背格好も誤魔化しとったそうやが……犯人の目星はついとる。ここ最近、この業界で暗躍あんやくしとる密売組織や」

 何でも、ダンジョン内で他の探索者からアイテムや武器を奪い、高値で売りさばいている密売組織がいるらしい。
 単なるこそ泥レベルではない。
 プロの探索者達を倒し、しかもあれだけの重量があるアルテミスドラゴンの角を難無く奪ったのだ。

「誓って、君のアルテミスドラゴンの角は僕が取り戻す。盗人ぬすっと共も一人残らずぺしゃんこに圧殺して押し花みたいにして送ったるから、期待して待っといてや」
「はぁ、別に押し花はりませんが……」

 その後、葉風さんからは、早く配信を始めるようにと何度も念押しされた。
 その話を受けて、俺はトーミケに連絡を取り、日を決めて、ようやく配信を始める決意をしたのだった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ――そして、時間は今に戻る。

「というわけで、早速秋葉原ダンジョン、第八階層まで下りてきました!」
「平穏そのもの。きっと、影狼のお陰だね」

 現在、俺はコラボ配信中。
 ミケさんとトーカさんに挟まれる形で、秋葉原ダンジョンを下っていた。


〈もう第八階層か!〉
〈中層が始まるのって第十階層だよな? 間もなくじゃん〉
〈暇過ぎだな。全然モンスターにもエンカウントしないし〉
〈そもそも、あまりモンスターが派手に活動していないダンジョンな上に、今は影狼がいるからな〉
〈自分からハリケーンに突っ込んでくる奴もおらんわなww〉


 新東京ダンジョンの時と同様、どうやら上層レベルのモンスターは俺を恐れて引っ込んでいるようだ。

「ここに来るまでに、何度かアースフロッグの上を通り過ぎたのだが、気付いたか?」
「え!? そうだったんですか!?」
「わからなかった……」

 俺の言葉に、トーミケの二人がビックリして飛び上がる。
 獲物が頭上を通れば、大口を開けて地面ごとみ込むモンスター――アースフロッグ。
 しかし、俺を呑み込む気にはならなかったらしい。


〈トラップモンスターのくせにトラップ発動しなかったのかよw〉
わなに掛ける方が、罠に掛からないでくれって息を潜めてたんだ〉
〈アースフロッグ「頼む! このまま通り過ぎてくれ!」〉
〈どういう事よww〉


「影狼、凄い頼りになる……素敵」

 そこで、トーカさんが俺の方に更に身を寄せてきた。
 腕と腕が、ピタッと触れ合う。

「トーカさん、近過ぎないか? 歩きづらくないのか?」
「アタシも呼び捨てで呼んで?」
「いや……うーん」
「……シュガァは呼び捨てなのに」


〈トーカちゃん嫉妬しっとしてるやんw〉
〈地雷系女子のムーブ漏れてますよ〉
〈この配信、シュガァちゃんも観てるんじゃない? 大丈夫?〉
〈影狼の正妻ポジションを巡って女の戦いが勃発ぼっぱつする……!〉
〈そういえば、シュガァってあれから大丈夫だったの?〉
〈SNSは問題なく更新してる。ちょっと事情があって配信はもう少し休むって言ってたけど、大丈夫そうだったぞ〉
〈妹ちゃん、元気になったみたいだな〉
〈良かった良かった〉


 そんな感じで歩き進むこと――数分後。

「き、来た……」

 俺達は、秋葉原ダンジョン中層の入り口――第十階層へと到達した。

「と、トーカちゃん! 遂に来ちゃったよ、噂の第十階層!」
「う、うん……」

 すると、トーミケの二人が、何やら緊張感と期待の入り交じった表情を浮かべる。

「この第十階層に、何かあるのか?」
「実はですね、影狼さん……この秋葉原ダンジョンには、ある噂があるんです」
「噂?」

 ミケさんが、ゴクリとのどを鳴らして言う。

「ここには、フェンリルが生息しているという、噂が」


〈フェンリル?〉
〈ああ、確かにあったかも、そんな噂〉
〈フェンリルって……あのフェンリル? 超希少モンスターの?〉
〈アルテミスドラゴンとかよりも希少なんだっけ?〉
〈むちゃくちゃ強いんだろ?〉


 フェンリル……噂だと、とても美しい、白色のおおかみタイプのモンスターだと言われている。

「そのフェンリルが、ここにいるのか?」
「あくまでも噂ですが……見たという証言が、ネット上に数個ありまして」
「しかも、それらの発言は全て『第十階層で見た』という部分が一致してる」

 トーミケの二人は、そう熱く語る。

「どの証言も、ハッキリとではなく、一瞬だけ見えたというものでしたが……もし見られるなら、私達もフェンリルを見てみたいんです!」
「なるほど……」

 ダンジョンのモンスターはランダムに生まれる。
 前回の新東京ダンジョンに、外国で目撃例のあったモンスターが出現したのもそのためだ。
 この秋葉原ダンジョンに、希少なモンスターであるフェンリルがいる可能性はゼロではない。
 しかし現状、この中層第十階層は今まで通過してきた上層と同様、牧歌的な風景が広がっているだけだ。フェンリルらしきモンスターの姿は見当たらない。


〈フェンリルねぇ、本当にいるのかな?〉
〈そもそも、フェンリルって本当なら《下層》クラスのモンスターのはずだろ? 何で中層の、しかも一番浅い第十階層にいるんだよ〉
〈何か探す方法とかないのかね?〉
〈海外勢の中に、誰か有用な情報持ってる人いる?〉
〈フェンリルか……私の国のダンジョンでも、ほとんど目撃例がないな〉
〈数回程、フェンリルを目撃したという事例はあるのだが……そういえば、一説によるとフェンリルは「強い者にかれる」という性質を持っているらしいぞ〉
〈強者なら会えるって感じ?〉
〈なぁんだ。だったら楽勝じゃん。こっちには影狼がいるんだから〉
〈ちょっと第十階層歩き回ってみる? もしかしたら、会えるかもよ?〉


 コメント欄に、そんな文字が流れていく。

「ひとまず、中層に入ったばかりですし、第十階層をゆっくり見ていきませんか?」
「そうだな。ここが中層の入り口だし、空気感をつかむためにもいいかもしれない」
「強者なら会える……か、影狼なら条件として十分過ぎるよね」

 そう会話を交えながら、俺達は一歩を踏み出した。
 その瞬間だった。
 ――白く巨大な存在が、俺達の前に着地を果たした。

「…………」
「…………」
「…………嘘」

 絹糸きぬいとのような白色の毛並み。
 体毛には所々青い部分がある。
 強靱きょうじんな四つの脚に、しなやかさと美しさを併せ持つ体躯たいく
 それは、巨大な狼だった。
 両の水色のひとみは真っ直ぐ、俺を見つめていた。



〈……フェンリル?〉
〈え、マジで?〉
〈マジのフェンリル?〉
〈……向こうから来ちゃったよ〉
〈フェンリル「来ちゃった♡」〉
〈簡単には会えないはずじゃなかったんですかねぇ……?〉
〈おい超希少種!?〉

 第二話 影狼vsフェンリル

「フェ、フェフェフェフェ、フェンリル!? 本物!?」
「嘘……まさか、向こうから来るなんて」

 ミケさんとトーカさんは、眼前に現れた存在にただただ驚愕きょうがくしている。


〈フェンリルだよフェンリル! ガチフェンリル!〉
〈うおおおおお! マジかよ! 本物かこれ!?〉
〈待って、今海外の「KAGEROUの配信を観るプロ探索者の会」の人達が色々と資料かき集めて調べてる!〉
〈いつの間にできたんだ、そんな会ww〉
〈影狼の配信は学術的な価値が高いから、まぁ当然っちゃ当然〉
〈あ、結果出た! 「おそらく本物と見て間違いないだろう」って!〉
〈まじかあああああああああああ!?〉


 巨大な白色の狼。
 そのモンスターの登場に、コメント欄が沸き立つ。


〈おい! 見たか!? 海外のセレブインフルエンサーが、SNSで影狼とフェンリルの事をつぶやいたそうだぞ!?〉
〈マジで!?〉
〈フェンリルって、ダンジョン探索者じゃない一般人にも人気の高いモンスターだからな〉
〈まぁ、見た目めっちゃ綺麗きれいだし〉
〈ほらほら、そのセレブインフルエンサーがインスタで「KAGEROUの配信を観てたらフェンリルが現れたわ! 信じられない!」ってめちゃくちゃ興奮してる!〉
〈やべぇ、配信の同接数むちゃくちゃ上昇してるぞ!〉


 俺のドローンカメラにセットされたスマホ――そこに表示された視聴者数のカウンターが、エラーを起こしている。
 急激に視聴者が増えたからだろうか?
 現在、8000万という数字で止まってしまっている。

「また世界中に観られてるのか……」

 軽く溜息をくと、俺は眼前の存在に改めて意識を向ける。
 白い毛並みを揺らしながら、俺を水色の瞳で見つめ続けている大狼。
 超希少種モンスター、フェンリルだ。

「き、綺麗……」

 その姿を見て、ミケさんがぽつりと呟く。

「『フェンリルは強い者に惹かれる』……やっぱり、影狼に気付いて姿を現したんだ」

 一方、トーカさんは俺を見上げて嬉しそうに呟く。

「きっと、影狼から強者の気配を感じ取って、一目見ようと出てきたのかも……」
「いや」

 しかしそこで、俺は否定する。
 何故なぜなら、俺の見識は違ったからだ。

「何か、様子がおかしい」
「へ?」
「え?」

 瞬間――。

「……グルルルゥゥゥゥゥ」

 フェンリルの喉から、地鳴りのようなうなごえが発せられた。
 四つの脚で地面を踏みしめ、体勢を低く落とす。
 完全な威嚇いかく……いや、臨戦態勢だ。

「え? え? 怒って、る?」
「どうして……」


〈何だ? 何か、フェンリルの様子がおかしいぞ?〉
〈めっちゃえてね?〉
〈怖……〉
〈うお、すげぇ迫力……〉
〈影狼に怒ってるのか? 何で?〉
〈まさか……強者に惹かれるって、「俺より強い奴に会いに行く」的な意味だった?〉
〈だとしたら、やばくね? 相手は下層クラスの――〉


 その刹那せつな、フェンリルの姿が、視界から消えた。

「え!?」

 ミケさんが声を発したのと――

「ガァァアァァアア!」
「ふっ」

 鋭い爪を振り上げ、フェンリルが俺に覆い被さってきたのは同時だった。
 途轍とてつもないスピードで飛び掛かってきたフェンリルは、俺に向かって爪を振るう。
 俺は、二振りの愛刀〔沙霧さぎり〕でその爪を受け太刀だちした。

「きゃあああ! 影狼さん!」
「か、影狼……っ!」

 ギリギリとせめぎ合う俺達の姿を見て、トーミケの二人はすかさず武器を構える。
 ミケさんは猫の爪のようなベアクロー。
 トーカさんは毒の塗られた投げナイフ。

「二人共、下がっていろ」

 しかし、このフェンリル相手には、残念ながら二人では力不足だ。
 俺は言い放つ。

「大丈夫だ。こいつの相手は俺がする」
「影狼さん……」
「影狼……」

 二人は大人しく言う事を聞き、俺から距離を取る。
 良い子達だ。
 同時、俺は沙霧に力を込める。

「グッ!」

 フェンリルは俺から離れるように跳躍ちょうやくし、再び臨戦態勢を取った。


〈やべぇ! 気付いたら戦いが始まってた!〉
〈うおおおおおお! 影狼VSフェンリル!〉
〈人類最強の探索者――影狼と、下層クラスの超希少種――フェンリルの対決!〉
〈狼の名を冠する者同士の死闘か……これは見逃せないね〉
〈KAGEROU! 油断するな! フェンリルの最大の武器はスピードだ!〉
〈そして鋭い爪に鋭いきば! 強いぞ!〉
〈あ、例のセレブインフルエンサーがコメントしてる。「やめて! フェンリルを殺さないで!」って〉
〈そいつはもう放っとけ!〉


「…………」

 俺は、フェンリルとにらみ合う。
 そこで、両手を左右に大きく広げ……。
 手にした沙霧を、その場に落とした。

「え?」
「影狼……武器を……」

 右と左の沙霧が、垂直に落下して地面に刺さる。


〈影狼、武器を手放したぞ!〉
〈武器なしで戦うのか!?〉
〈もしかして、素手で制圧しようとしてる?〉
〈ヘイ、KAGEROU! さっきのセレブのコメントを考慮こうりょしているなら気にするな! ハリウッド女優の娘で、まだ十四歳の世間知らずの小娘なんだ!〉
〈君の命を優先しろ!〉


 無論、俺だってそのセレブなんちゃらの事などどうでもいい。
 俺が気にしているのは――。

「安心しろ、殺しはしない」

 目前の、フェンリルだ。
 理解しているのかはわからないが、俺の言葉に対し、フェンリルが更に唸り声を強くする。
 その声から、その目から感じる感情は……怒り。
 それと、俺への恐怖が感じ取れた。

「グァアアッ!」

 フェンリルは牙をき、俺に全速力で飛び掛かってくる。
 瞬間、白色の獣が、その全身全霊をもって、俺に肉薄にくはくする――。

「スキル――【陽炎かげろう】」

 ――フェンリルの視界からは、一瞬で俺の姿が消えたように見えただろう。

「!??????」

 あれ程の速度ならば、当然動体視力も優れているはずだ。
 俺の素のスピードは見切られてしまうだろう。
 だが、スキル【陽炎】を使っている間は話が別だ。
 ――スキルによって一秒間、意識から消えた存在を、目で追う事などできない。

「捕まえた」

 俺は、フェンリルの背中に乗っていた。
 首に腕を回し、極限まで締め上げた状態で。

「カッ……!」

 咄嗟とっさに地面に倒れ、フェンリルは暴れようとする。
 だが、それよりも俺のチョークが決まる方が先だった。

「クゥッ……」

 フェンリルは意識を失い、大人しく横たわった。


〈うおおおおおお! 倒した! 影狼が倒したぞ! フェンリルを! しかも素手で!〉
〈【悲報】影狼、武器なしでも強かった〉
〈流石、影狼さんや!〉
〈やっぱさぁ、スキル【陽炎】チート過ぎじゃね?〉
弱体化ナーフしろ〉
〈果たして【陽炎】を奪われた程度で影狼が弱体化しますかねぇ……〉
〈フェンリル、スピード勝負なら影狼に勝るとも劣らずだけど、残念ながら影狼には他の手札もあるのよね〉
〈影狼、あと何枚手札隠してるんだ?〉
〈あ、セレブインフルエンサーがコメントしてる。『ありがとう、影狼! 影狼は人柄的にも素晴らしい人物だわ! 動物と自然を愛する心の持ち主よ!』、だって〉
〈だからそいつはもう放っとけって〉
〈でも、ある意味そのセレブのお陰で更に影狼の存在が広まったなww〉


「影狼さん!」
「影狼!」

 決着が付いたのを見計らい、ミケさんとトーカさんが駆け寄ってきた。
 俺は沙霧を拾い、腰に戻す。

「ふえええええ、凄い凄い凄い! フェンリルに素手で勝っちゃうなんて!? 影狼さん、強過ぎです! もしかして、伝説の空手家ですか!? 山籠やまごもりで熊と戦った経験が!?」
「いや、ないが」
「影狼……どうする?」

 そこで、トーカさんが投げナイフを一本、太もものホルスターから抜く。

麻痺毒まひどくが塗ってあるナイフ。刺せば、しばらく動きを封じられるかも」
「……いや」

 そこで、俺は振り返る。
 フェンリルが、脚を震わせながら、よろよろと起き上がっていた。

「え!?」
「も、もう覚醒かくせいした……!」

 その姿を見て驚くミケさんとトーカさん。
 対し、俺はフェンリルへと近付く。

「手荒なマネをしてすまなかった」

 俺はフェンリルへと語り掛ける。
 会話が通じるかはわからないが、敵意がない事、そして、何故命を奪うような事をしなかったのか、その意思を伝えようとする。

「グ、ゥ……」
「お前の目から、怒りと、恐怖の感情が伝わってきた。お前はきっと、俺の力量を察知し、俺が強い存在だと理解したんだろう」
「ゥ……」
「お前は、俺に勝てないと薄々うすうすわかっていた。だが、そんな恐怖をいだきながらも戦いを挑んだ。身をていしてでも危険を取り除こうとした……お前は――」

 俺は、一つの仮説を立てた。
 このフェンリルの行動、思考は……普通の犬や猫のものと同じなのではないか。

「お前は、外敵からのか?」
「……ゥ」

 俺を前にして、徐々にフェンリルの目から殺気が消えていき……。
 やがて、フェンリルは鼻先を地面に向け、大人しくなった。


〈フェンリル、大人しくなった〉
〈影狼に本心を見抜かれた、って感じ?〉
〈落ちたな〉
〈でも、待って? 何かを守ってるって、どういう事?〉


「影狼さん、それって……」
「ああ、あり得ないとは思うが――」

 そう、俺がミケさんを振り返った、瞬間だった。
 第十階層の奥から、異様な気配が発せられた。

「!!!!!!!」

 フェンリルが、頭を上げた。
 第十階層の奥へ、見開いた水色の目を向けている。

「え、な、何……」

 動揺するミケさん。
 刹那、フェンリルが雄叫おたけびを上げ、見つめていた方向へと走り出した。

「きゃあっ!」

 その場に暴風を起こす程の、凄まじい速度だった。

「な、何が……」
「……すまない、ミケさん、トーカさん。ひとまず俺は後を追う」
「え?」

 言うと同時、俺はその場から走り出す。
 全力の速度を出したため、ミケさんとトーカさんは再び暴風に襲われ「きゃああ!」と悲鳴を上げていた。

「……何か、嫌な予感がする」


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