ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに~流離いのS級探索者と噂になってしまいました~

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第四章

第85話 力と技のコンビ

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「この有明東京湾ダンジョンの第三階層……迷宮のフロアに送られてきた参加者達に告ぐ。今、第三階層のモンスター達は俺達が相手をし、粗方片付いたと思われる。もし俺のこの声を聞いているなら、音を立てるなり声を張り上げるなりして反応してくれ。合流しよう」

 有明東京湾ダンジョン――第三階層。

 モンスターが跋扈する大迷宮の形を成す、このフロアにて、俺は撮影用ドローンへと呼び掛ける。

 殺気によるモンスターの誘き寄せには成功。

 ただでさえ俺にヘイトを向けているわけだから、実に効率的に駆逐が完了した。

 更に、その過程でKOD参加者にして優勝候補の一人、赤髪に巨躯の女性――白亜ジュラと合流する事も出来た。

 ティラノザウルスという特異なスタイルを持つ彼女は、体を恐竜に変化させる事ができる能力を有し、かなりの実力者だ。

 そんな彼女もパーティーの一人に加わったところで、俺は続いて、第三階層を彷徨う参加者達を助けに行くことにする。

「影狼さん! 影狼さんの呼び掛けに、凄い数の参加者達が反応してます!」

 ミケさんが、自身のスマホの画面を俺に見せる。

『おーい! 影狼! ここだ! 俺もおそらく第三階層にいる! 助けてくれ!』
『さっきモンスターに襲われてたんだけど、そいつらが何かに呼ばれるみたいにどっか行っちまった! あれ、影狼のお陰だったんだな! ありがとう!』
『影狼さん! あたしもここにいます! 二次予選の時同じ会場にいた星野パレスです! えーと……壁とか叩けばいいですか!? ここです!』

 画面の中には、複数の配信チャンネルが並んで開かれており、そこに映った探索者達が助けを求めて声を上げていた。

 更に、影狼チャンネルのコメント欄にも……。

〈影狼! 今数えたら、確認できるだけで20人はこのフロアにいるって声明出してる!〉
〈みんな壁とか床とか叩いたり、音が鳴る系の武器持ってる奴は鳴らしたりしてる〉
〈モンスターの姿はほとんど見えないから、ピンチっぽい奴はいないけど、早めに合流した方が良いかも!〉

 俺は聞き耳を立てる。

 集中すれば、第三階層にいる参加者達が起こしている音や振動を感知できる……が、やはりあちこちに散らばってしまっている。

 動き回り回収していては、かなり時間が掛かりそうだ。

「……仕方が無い」

 そこで、俺はある方法を取ることにする。

 せっかくここには、この国を代表する探索者の中でも、トップクラスに君臨するパワー自慢がいるのだ。

「白亜ジュラ、力を貸してくれないか」

〈ん? どうした、影狼〉
〈フロア中の参加者を探して回ってたら、かなり時間が掛かっちまうしな〉
〈何か、良い案があるのか?〉

「ん? 何だ? 何かするのか?」

 俺の問い掛けに、白亜ジュラは尋ね返してくる。

「あと、ジュラでいい」
「そうか。ジュラ、お前の力が必要だ」

 俺は、近くの壁――迷宮を構成する石壁に触れる。

「この壁を破壊する」
「え?」

 俺の発言に、ミケさんは呆気に取られた顔をする。

「か、壁を?」
「ああ。迷宮の中をあっちへこっちへと律儀に移動していられない。壁を破壊して、直線距離で対象のもとに向かう」

〈なんという脳筋作戦ww〉
〈確かに効率的だけども!〉
〈いや、でも、ダンジョンの壁って並大抵の力じゃ壊せないぞ? それに、破壊しても再生しちゃうんじゃ……〉

「俺達が通り抜けるだけの穴を空けられればいい。どうだ、できそうか?」
「おう、わかった」

 白亜ジュラ……ジュラは、何の疑問も無くすんなりと壁の前に向かう。

 右腕をグルグルと回しながら。

〈やる気だww〉
〈躊躇無しww〉
〈いやでも、確かに白亜ジュラのパワーを以てすれば……〉

「どぉりゃあッ!」

 直ぐさまだった。

 恐竜の前足へと変化したジュラの右腕が、ダンジョンの壁に激突する。

 轟音が響き、空気が戦慄く。

 ミケさんが「ひゃっ」と悲鳴を上げる。

 しかし、壁には少しのヒビが走った程度だった。

「んにゃろうめ。だったら――」

 直後、ジュラのお尻の辺りが変化する。

 腰のあたりが盛り上がり、現れたのは、巨木のような尻尾だった。

「これならどうだッ!」

 ティラノサウルスの尾。

 ぶぅんと空気を攪拌しながら振り抜かれた尾は、巨大な鞭のようにしなり、壁に炸裂。

 壁面が弾け飛び、巨大なヒビが走る。

〈うおおおお! 怪獣映画かよ!〉
〈すげぇ迫力!〉
〈でも、これでもヒビが走る程度なのか……〉

「ぐぬぬ……」
「十分だ」

 悔しそうに歯を食い縛るジュラ。

 だが、申し分ない結果だ。

 このまま攻撃を加えていけば、彼女の力なら壁を破壊できる――それだけのパワーは確認できた。

 後は――。

「俺が加勢すれば、すぐに終わる」

 ――ヒビの入った壁に、俺は沙霧の斬撃を叩き込む。

 幾重にも及ぶ斬撃をぶち込まれ、壁は見る見る、掘削工事のように削れていき……。

 そして、爆音を轟かせ、向こう側へ繋がる穴が空いた。

〈トンネル開通した!〉
〈えぇ……〉
〈流石。白亜ジュラのパワーと影狼の斬撃が合わされば、ダンジョンの壁もケーキみたいに切り裂けるんだな〉
〈正に力と技のコンビ!〉
〈いや、力と力技のコンビって感じだが……ww〉
〈っていうか暴力と暴力のコンビ〉

「おお! やるな、影狼! 次はオレだけでぶっ壊す!」
「無茶するな。それに、競走しているわけじゃない。他の参加者達を助けに行くんだ。力を合わせて行くぞ」
「へへへ!」

 そこで、ジュラは俺の肩に腕を回してきた。

 巨体の彼女に抱かれるように、ギュッと身を寄せられる。

「俺は強い奴が好きだ! 影狼は強いから好きだぞ!」
「そうか、ありがとう。だが、もうダンジョンが再生を始めてる。穴が塞がる前に早く行くぞ」
「おう! 猫! 猫も早く行くぞ!」
「は、はい!」

 破壊した壁の穴を抜け、更にその向こうの壁もぶち壊す。

 俺とジュラ、ミケさんの三人は参加者達と合流するため、迷宮を破壊し進んでいく。



―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―



【ご報告】

この度、皆様からの応援もあり、本作『ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに』の書籍化が決定しました!

詳細は、アルファポリス様公式の刊行予定ページに掲載がされております。

6月中旬頃刊行予定。

よろしくお願いいたします!
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