ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに~流離いのS級探索者と噂になってしまいました~

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第四章

第84話 濁流

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 有明東京湾ダンジョン――第三階層。

 四方を壁に囲まれ、分岐型の通路が続く――いわゆる迷宮型のフロア。

 その通路の先から、俺に向かって大量のモンスター達が迫り来る。

 俺の駆除を第一に命令されているもの達が、俺の飛ばした殺気に反応し、我先にと襲い掛かって来ている状況だ。

 ――俺は、その濁流を弾丸の速度で逆行していた。

 両手の得物――《沙霧》を振るい、襲い来るモンスター達を文字通り一刀両断していく。

 十体、二十体、三十体……五十体……百体……もう何体切っただろうか?

 いちいち数えている余裕はない。

 今はただ、前へ前へと進んでいく。

〈うおおおお、モンスターの激流の中を進んでる……〉
〈かなり恐ろしい光景だな〉
〈それは俺達視点で? それとも、モンスター達視点で?〉
〈当然、モンスター達視点で〉

 津波のように襲い来る殺気全開のモンスター達を、切り捨て、切り捨て、切り捨て、切り捨て――。

「うおおおおおお!」
「!」

 大型の虎のようなモンスターを切り捨て、次の相手に――。

 というところで俺は、襲い掛かってきた次の相手の姿を見て、咄嗟に動きを停止する。

 大柄な体躯に、長い赤色の髪。

 肉食獣のような鋭い歯を剥き、好戦的な眼光を浮かべて飛び掛かってきたのは――モンスターではなく、見覚えのある人物だった。

「白亜ジュラ!」
「おんっ!? 何だお前、影狼か」

 俺の姿を見て、白亜ジュラも動きを止める。

「なんだかすげぇ殺気を感じたから、相当やべー奴がいると思って来たら、お前だったのか」
「反応したのか、俺の殺気に」

 で、モンスターに混じって戦いに来たと。

 この人、人間よりもむしろあっち側の生物なんじゃないか?

「まぁ、いい。無事で何よりだ」
「影狼も変な魔法陣で飛ばされてきたのか?」

 俺は白亜ジュラと背中合わせになる。

 依然、モンスターの群は尽きない。

 俺と、俺の近くにいる白亜ジュラへと襲い掛かってくる。

 俺は彼女と会話しながら、そのモンスター達を切り払っていく。

「いや、俺は自分で乗り込んできた。このダンジョンのモンスター達を一網打尽にし、最深部にいるコアを破壊するために」
「戦うのが好きなのか! オレと一緒だな!」

 白亜ジュラが言う。

 スタイル《ティラノサウルス》――恐竜の前足に変化させた腕で、襲い来るモンスターを殴り飛ばしながら。

「いや、そういうわけじゃない。このダンジョンは危険だ。このまま放置すれば、人間社会へ迅速に実害を及ぼす。だから、早急な破壊が必要なんだ」
「なるほど。ジンソクにジツガイを及ぼすから、ソーキューなハカイが必要なんだな。よくわかった!」
「本当に分かったか?」

 相変わらず、人の言葉が喋れる大型犬と会話しているような気分だ。

 だが、ここで彼女と合流できたのはありがたいかもしれない。

「白亜ジュラ、まずはこのモンスター達との戦いを終わらせよう」
「おう!」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ――そして、数分後。

「ぜぇ……ぜぇ……た、大変でしたね、影狼さん」
「ミケさん。無事だったか、よかった」
「お! 猫がいるぞ! 猫!」
「ひょえっ! 白亜ジュラさんじゃないですか!?」

 襲い来るモンスターの濁流は、遂に収まった。

 先程俺の飛ばした殺気に反応したもの達は、これで全滅したということだろう。

 モンスターの攻撃を回避しつつ、なんとか追い付いたミケさんは、そこで俺と一緒に居る白亜ジュラを見てびっくりしていた。

〈あのモンスターの濁流を完全鏖殺しやがった……〉
〈流石影狼……〉
〈白亜ジュラも仲間入りしたし、これで更に戦力が強化されたな!〉
〈ミケにゃんも無事か! よかった!〉

 撮影用のカメラが近くに寄ってくる。

《影狼チャンネル》のコメント欄も、盛り上がっているようだ。

 ちなみに、白亜ジュラに自前のカメラは無いのか聞いたところ、ここに来る間にどこかへ行ってしまったそうだ。

 早い話が、紛失したのだろう。

「オレはカメラをよく無くすからな。仕方が無い」
「まぁ、メカの操作には不慣れな感じがするが……」

 あっけらかんと言う白亜ジュラに、俺は呆れの混じった声を出す。

「ジュラさんと合流できたんですね! よかった! ジュラさん、とても強い事で有名ですから、なんだか安心です!」
「おう! オレも影狼と一緒にダンジョン攻略するぞ!」
「ああ」

 俺は、自身のドローンカメラに向かって呼びかける。

「この有明東京湾ダンジョンの第三階層……迷宮のフロアに送られてきた参加者達に告ぐ。今、第三階層のモンスター達は俺達が相手をし、粗方片付いたと思われる。もし俺のこの声を聞いているなら、音を立てるなり声を張り上げるなりして反応してくれ。合流しよう」



―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―



【ご報告】

この度、皆様からの応援もあり、本作『ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに』の書籍化が決定しました!

詳細は、アルファポリス様公式の刊行予定ページに掲載がされております。

6月中旬頃刊行予定。

よろしくお願いいたします!
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