68 / 72
第四章
第83話 殺気
しおりを挟む「た、助かった……」
「いきなりこんな場所に転送されて、シャドーマンの群に囲まれて……マジでやばかったぜ」
「影狼さん! ありがとうございます!」
首を切り払ったシャドーマン達が、それこそ影のように薄れて消え去っていく。
完全な消滅を確認すると、シャドーマン達に襲われていた三人の探索者が、俺に駆け寄ってきた。
彼等も、このKOD決勝ラウンドにまで進出してきた実力者のはずだ。
それでも苦戦を強いられるほど、有明東京湾ダンジョンのモンスター達は一筋縄ではいかないのだろう。
「俺はこのまま下に向かう。君達はどうする?」
今後の行動は、彼等の自由意志に任せる。
ミケさんのように付いてくるか、脱出を選ぶか。
「幸か不幸か、現在、このダンジョンのモンスター達は俺を最優先で排除するように指令を受けている。君達の方から手を出さなければ、ヘイトは向かないはずだ」
「俺達は……」
「出来る事なら、俺は影狼についていきたいぜ。あの影狼と一緒にダンジョン探索を出来る機会なんてそうそう無いだろうしな。でも……」
「正直、この第二階層で苦戦を強いられているようじゃ、俺達の実力不足は明白だし」
どうやら、三人は撤退を選ぶようだ。
賢明な判断である。
俺は頷き、今自分達がやって来た方向から、外へと脱出するルートを説明する。
最初、俺がコカトリスと遭遇したドーム状の空間――あの空間には、進入用の横穴が四方八方に散見された。
いずれも洞穴となっており、外と通じているはずだ。
そこを通れば、脱出も難しくないだろう。
「万が一、外に出るのが難しそうであれば、できるだけ安全な状態を確保しておいてくれ。迅速に、俺がダンジョンコアを破壊し終わらせてくる」
「は、はい……」
「かっけー……」
「これが影狼……」
俺は、感謝の言葉を述べながら去って行く三人を見送り、振り返る。
「行けそうか、ミケさん」
「はい!」
ミケさんは、気合い十分という雰囲気で叫んだ。
俺達は、進行を再開する。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ギギギィィィィ!」
「ジャアアアア!」
「カアアアアアアア!」
第二階層を先へ進んでいると、次々にモンスター達が襲い掛かってきた。
他のダンジョンなら、《中層》や《下層》に生息していそうなモンスターばかりである。
おそらく、この階層にいたもの達が、俺を仕留めるために集まってきたのだろう。
「邪魔だ」
俺は《沙霧》を振るい、そいつらを撫で切りにしていく。
〈うわぁ、正に無双ゲー〉
〈あれ、今、《ヘルワーム》いなかった?〉
〈ヘルワーム!? この前、『淀川ダンジョン』の《下層》に出現したボスクラスのモンスターじゃん!?〉
〈俺、その討伐配信観てたけど、淀川のヘルワームよりもデカかったぞ……今の〉
〈あれ? こっちに迫ってくるの、《サンダーテイル》じゃ……〉
《稲妻を繰り出すネズミ型のモンスターじゃないか! 小さい見た目に油断していると、一瞬で消し炭にされてしまう、恐ろしいモンスターだよ! その上、大量発生する事が多く、群を作る!》
《我々の国でも、一時期大規模発生して大問題になったんだ! まずいぞ! あんな大量のサンダーテイルの群、プロの軍隊でも用意しなければ――》
〈あ、大丈夫っぽそう。影狼が駆け抜けた先から、次々に真っ二つになってく〉
〈で、喋ってる間に、おそらく全滅した〉
〈ボスクラスのモンスターを流れ作業で処理していくなww〉
そんな感じで進むこと――数分。
大分、周囲が静かになってきた。
おそらく、この第二階層にいたモンスターは粗方片付いたようだ。
生き残りがいたとしても、そいつらは俺との実力差を感じ取り、息を潜めて警戒している感じだろう。
「影狼さん! あれ!」
「下の階層への入り口だな」
そこで、前方に大きな穴が見えた。
下へと向かう階段も見える。
俺とミケさんは、その穴に飛び込み、階段を一気に駆け下りていく。
そして、第三階層へと乗り込んだ。
「ふ、風景が変わりましたね!」
「ダンジョンではよくあることだ」
有明東京湾ダンジョン――第三階層。
降りると同時、目前に現れたのは、天井と床、左右の壁に囲まれた狭い通路だった。
狭い……といっても、車道用のトンネルくらいの大きさはある。
人工物的な、平らな地面と平らな壁に覆われた通路――。
しばらく進むと、左右の分かれ道が現れる。
「これって……」
「迷路、だな」
〈迷宮型だ……〉
〈攻略が面倒だな〉
〈迷宮……あ! そういえば、他のダンジョン内に飛ばされた参加者の内、何人かは迷宮っぽい場所にいたっぽいぞ!〉
〈影狼! この階層、何人か探索者が迷い込んでるっぽい!〉
〈しかも、モンスターと戦闘中の奴もいる!〉
《影狼チャンネル》のコメント欄を眺める。
なるほど……なら、まずは他の参加者達の危機を取り払うか。
「ミケさん、少し離れていてくれ」
「え? は、はい」
俺はミケさんに言うと、通路の中央で瞑目する。
深く息を吸い、深く息を吐く……意識を集中。
「……ふっ」
――そして、一気に全身から殺気を迸らせる。
「ひゅっ」
距離を取っていたミケさんが、小さく喉を鳴らした。
見ると、まるで雨に濡れたかのように、全身に玉のような汗を滲ませている。
「すまない。何をするか、先に言っておくべきだった」
「か、影狼さん……今のは……」
「殺気を飛ばした」
小刻みに震えながら、ミケさんは尋ねてくる。
俺は説明する。
「以前、新東京ダンジョンで俺がサムライオークと戦った時のことを覚えているか?」
あの時も最初、俺とサムライオークは殺気のぶつけ合いを行った。
今回は、あの時以上の広範囲に向けて、殺気を振りまいたのだ。
それこそ――俺はここにいるぞと、アピールするように。
《アルテミスドラゴンの角》を使っても良かったのだが……俺を狙っている敵を呼び寄せるだけなら、こっちの方が手順も楽に済む。
「俺を狙っている奴等からしたら、こんなにわかりやすい信号はないだろう」
「え、と、ということは……」
数秒後――……地響きのような音と共に、何かの気配が続々とこちらに押し寄せてくる。
「も、モンスターがこっちに集まってきてるって事ですか!?」
「迷宮内を探し回るよりも、効率的に一網打尽にするには、これが一番だ」
何より、このモンスター達の群を辿っていけば、モンスターに襲われていた他の探索者達とも合流できるはずだ。
「行くぞ」
「は、はい!」
すぐに、殺気に反応したモンスター達が現れる。
俺とミケさんは、その群に向かって突っ込んだ。
217
お気に入りに追加
3,168
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~
尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。
ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。
亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。
ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!?
そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。
さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。
コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く!
はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。