ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに~流離いのS級探索者と噂になってしまいました~

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第四章

第82話 シャドーマン

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「うおおおお!」
「くそっ! なんだこいつら、全然攻撃が当たらねぇ!」
「オオオォォ……」

 有明東京湾ダンジョン――第二階層。

 巨体型コカトリスと交戦中だったミケさんを救出し、共に先へと進んでいたところ――前方に、新たなモンスターと、そのモンスター達と交戦中の探索者達を発見した。

 探索者は三名ほど。

 全員、知らない顔の男達だ。

 彼等は周囲を囲う黒い人影のようなモンスター達に、自身の得物であるナイフや金棒で攻撃を仕掛けようとしている。

「オオオォォ……」

 しかし、モンスター達は正に影そのものの動きで、ゆらりゆらりと攻撃を躱していく。

 一見ゆったりした動きに見えるが、実際は高速で動いて回避しているのがわかる。

 影のような存在感の薄い姿に、独特な体捌き……それらが相俟って、幻覚を見せられているような気分になるだろう。

 あのモンスターは……。

「《シャドーマン》だ」

〈シャドーマン! 影みたいな人型のモンスター!〉
〈やべぇっ! “怪異系”のモンスターじゃん!〉
〈直接攻撃はしてこないけど、近くにいると生命力を奪われるっていう……〉
〈スピードと回避力はかなり高いから、なんとか逃げるか追い払うかしないと……〉

「うう……」
「な、何だかさっきから、気分が……」

《影狼チャンネル》のコメント欄を一瞥していると、シャドーマンに囲まれていた探索者達が、額を抑えて俯き始める。

 まずい。

 どうやら、かなりの時間、シャドーマンを追い払えず付きまとわれていたようだ。

 生命力を奪われ始めている。

「オオオォォ……」

 有明東京湾ダンジョンで生き残ったシャドーマンだ。

 おそらく、スピードや回避力は通常の個体よりも上だろう。

 だが――。

「やることは変わらない」

 俺は速攻で、シャドーマンの背後に接近。

 そして、気付かれる間もなく、その首筋に《沙霧》を振るった。

 まるで紙切れを切り裂くような他愛ない感触を残し、一体のシャドーマンの首が舞う。

「え?」
「あ、あんたは……」
「か、影狼さん……!?」

 生命力を奪われ、疲弊し地に膝を突いていた三人の探索者達が、俺を見上げ目を丸めている。

 俺は、シャドーマン達と彼等の間に立ち塞がるように位置取る。

「オォ……!?」
「オ……」

 一方、俺の登場に他のシャドーマン達も驚いている。

 しかし、すぐに俺が、ダンジョンコアが指令した最優先排除対象――影狼だと気付いたのだろう。

「オォオォ」
「オオオオオ」

 俺の周囲を取り囲い、くねくねと身をくねり出す。

〈囲まれた!〉
〈うわ……なんかホラーな映像……〉
〈くねくねの群に捕獲されたみたいな光景だな……〉
〈怖っ……という、気持ち悪い……〉

 視聴者達の言うとおり、中々にSAN値の減りそうな光景だ。

 精神力を磨り減らせつつ、確実に相手の命も奪う……怪異系のモンスターは中々トリッキーなものが多い。

「皆さん、今の内に!」

 そこで、追い付いたミケさんが、倒れていた探索者達を起こし撤退を促しているのに気付く。

 ありがたい。

 俺は改めて、目前を漂うシャドーマン達に集中する。

「ふっ」

 俺は《沙霧》を振るう。

 その一閃を、シャドーマンの一体は軽やかな動きで回避した。

〈躱した!〉
〈マジかよ! 影狼の攻撃を!?〉
〈やばい、ピンチか!?〉

 先程は背後からの不意打ちだから成功したが、どうやら、本気を出したこいつらの回避力は中々侮れないものらしい。

〈やばいやばい、時間が過ぎてく!〉
〈どんどん生命力が奪われてくぞ!〉
〈影狼! 一旦逃げるべきじゃ!?〉

「問題無い」

 騒ぎ立つコメント欄には申し訳無いが――既に攻略法は出ている。

「《陽炎》」

 ――スキル、《陽炎》発動。

 ――俺を取り囲うシャドーマン達は、一秒間だけ俺を意識から見失う。

 このスキルの効果は、相手が怪異だろうが妖怪だろうがSCPだろうが関係無い。

 ――回避行動を取る暇も無く、俺の振るった《沙霧》がシャドーマン達の首を纏めて撥ねた。
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