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第四章
第79話 突入
しおりを挟む〈か、影狼……〉
〈え、マジ、影狼、今なんて?〉
〈頼む! もう一度! もう一度、心震える宣言をお願いします!〉
《影狼チャンネル》のコメント欄がざわついている。
俺は、聞き逃した視聴者達のために、再度決意を口にする。
「今から、有明東京湾ダンジョンを攻略する。最初から全力全霊で、最下層まで一気に向かう。その過程で、ダンジョン内で窮地に陥っている参加者達を救援する。向こうは、競争相手の俺の助けなんて要らないかもしれないが、目に付いた人間から勝手に助けさせてもらう」
探索系配信者として、そして、KOD決勝ラウンド参加者としての目標を、明確に示した。
〈き……来たぁアアアアアアアア! 影狼無双の時間ダァアアアアア!〉
〈やったぞ! 影狼が全てを救ってくれる時が来た!〉
〈いや、影狼、このままKOD決勝ラウンドが成立するかも今や不確定なんだけど……って、そんな野暮な横槍は無しか!?〉
〈都内最高攻略難度のダンジョン……でも、影狼ならきっと攻略できるはず……〉
〈お願いします、影狼! 俺達を助けて!〉
〈東京都在住です! 急いで避難支度してたけど……俺はここで影狼に全てを託し応援します! 頑張れ影狼!〉
〈いや、応援は逃げながらでも出来るからまずは自分の身の安全を確保しなよ、東京都在住ニキ〉
刹那、沸き立つコメント欄。
東京の……いや、日本の危機に対し、俺が立ち向かう事を宣言しただけで皆が期待を寄せてくれている。
……今更だが、とんでもない事言っちゃったな。
まぁ、仕方が無い。
ここまで来たら、どちらにしろ逃げるか戦うかしか道は無いんだ。
だったら、自分のやりたいようにやるだけだ。
『影狼……流石です。よくぞ言ってくれました』
スマホから、蘭の声が聞こえた。
『六年前……初めてあなたと遭った時と変わらない』
「六年前……そういえば、蘭、結局聞きそびれていたけど、六年前に俺と何が――」
そこで、巨大な爆発音が発生し、ノイズが響く。
『失礼。こちらも大変な状況になってきました。一旦、通話を切らせていただきます。影狼も、ご自身の戦いに集中してください』
「わかった」
気になるが、今は後回しだ。
通話を切ると、俺は船のデッキから飛び降りようとする。
「ま、待てよ! 影狼!」
そこで、背後からカガッチが声を掛けてきた。
「何だ?」
「ま、マジで……マジで行く気なのか?」
「ああ」
「正気かよ……あんなヤベぇ奴等が、大量に潜んでるかもしれないんだぞ?」
見ると、カガッチは震えている。
先程のアンノウンとの交戦で、かなり根深く恐怖を叩き込まれてしまったようだ。
「君はここにいろ」
このままダンジョンに潜るのは危険だろう。
俺は、カガッチに言う。
「お、俺じゃ足手纏いかよ……」
「今の姿を見れば、君が戦えるような精神状態じゃないのは明白だ。それに……」
そこで、俺はカガッチの背後を指さす。
「ここは、地上とはいえ有明東京湾ダンジョンの第一階層だ。どこからモンスターが現れるか分からない。君が、“彼女達”を守っていてくれ」
「は?」
カガッチが振り返る。
そして、俺が指さした先の対象を理解した。
船のデッキ……その端に転がった人間達だ。
鈴木メアリーローズさんを始め、先程のアンノウンとの交戦で首を切り落とされた人達である。
全員が斬首され、絶命したものだと、誰もが思っていただろう。
だが、アンノウンに襲われた五人は、全員五体満足の状態で気絶している。
「こ、こいつら……生きてたのか!?」
ここまで狼狽状態だったカガッチは、そこで初めてメアリーさん達が無事であるということに気付いた様子だ。
「でも、なんで、確かに首を……」
「おそらくだが、《峰打ち》だ」
疑問符を浮かべるカガッチに、俺は言う。
《峰打ち》。
俺の持つ武器――《沙霧》にも備わった特殊な性能。
対象を一撃で絶命させられるダメージを負わせた場合、ステータスはレベル1の状態になるが、五体満足で復活するというもの。
「あのアンノウンは、何故か《峰打ち》……もしくは、同等の能力を有していたんだろう」
「マジかよ……でも、殺す気もないくせに、なんでわざわざ俺達を襲ったんだ?」
「………」
殺害が目的では無かった?
生け捕りが目的?
それとも、自身に宿った《峰打ち》系統の能力を試していた?
そもそも、何故アンノウンはそんな能力を有していた?
何より……奴のあの姿。
まるで、どこか……自分を……“影狼”を思わせる雰囲気を纏った、あの姿は……。
………。
ダンジョンに常識は通用しない。
理屈をこねくり回したところで、意味なんて最初から無いという可能性もある。
考えるのは、また奴と交戦する時が来たらでいい。
いずれにしろ、ダンジョンの中を進んでいれば、どこかで出会うはずだ。
「というわけだ。カガッチ、ここは頼む。KOD公式はタイマへ対応を求めているらしい。すぐに助けが来るはずだ」
「あ……お、おい!」
俺は、船のデッキから飛び降り、砂浜を進む。
その背中に、船の上からカガッチが叫ぶ。
「か、影狼! ……クソッ! 情けねぇ!」
デッキに拳を叩きつける音。
恐怖を感じ、尻込みしてしまった自分が悔しいようだ。
「心配するな、カガッチ」
そんな彼に、俺は言う。
20代半ば、元社畜……人生の先輩から悩める10代へ、役に立つかどうか分からないが応援の言葉を贈る。
「君はまだ若い。これから強くなれるはずだ。才能があるんだろう?」
「………」
「今は生き残ることだけ考えろ」
それだけ言い残し、俺は砂浜を蹴り抜く。
粒度の細かい砂は、本来なら足を取られて上手く走れないものだが――今の俺には関係無い。
爆音を残し、俺は砂浜の先の森へと向かう。
「なんだよ……なんだよ、クソ……行け! 影狼! 行けぇええええ! あんな奴等ぶっ倒してくれ!」
背中越しに飛んできたカガッチの声を後に、俺は森の中を駆け抜ける。
薄暗い木々の中を風のように突き進み、瞬く間に、島中央に聳え立つ山の麓へと到着した。
〈よし、追い付いた!〉
〈影狼、頑張れ!〉
〈うお、山デカ……まずはここを上らないとか……〉
追跡してきたドローンカメラ。
セットされたスマホの画面に、《影狼チャンネル》のコメントが流れる。
〈俺、登山とか詳しくないけど、まずは徒歩で上れるルートを探さないとじゃない?〉
〈まぁ、現状断崖絶壁だし……〉
〈影狼、どうする?〉
「問題無い」
コメント欄に答えると、同時。
俺は、ほぼ垂直の岩肌に足を掛け、そのまま全速力で駆け上がっていく。
〈ですよねー〉
〈知ってた〉
〈知ってた〉
〈知ってた〉
〈この人、壁を走ってる……〉
ひた走り、地上数十メートルという位置まで到達したところで、洞穴の一つを発見。
その穴の中に飛び込む。
中はひんやりとしていて、奥から風と……呻き声のような音が聞こえてくる。
ここが、ダンジョンの入り口と見て間違いないだろう。
「行くぞ」
俺は一歩を踏み出す。
その時だった。
【ほう、取りこぼした人間の一人が、臆せず乗り込んできたか】
ブゥン……と、大気が震えるような音と共に、俺の眼前に巨大な黒い球体が出現した。
【感心感心】
有明東京湾ダンジョン、ダンジョンコア――フォーマルハウトだった。
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