61 / 72
第四章
第76話 転移魔法
しおりを挟む「姿を消した?」
俺は、《影狼チャンネル》に怒濤のように押し寄せられてくるコメント欄を目で追う。
〈俺、シュガァがいた第1艇の配信観てたんだけど、進行中にいきなり参加者がみんな消えて〉
〈その直前に、赤い魔法陣が出現したんだよ!〉
〈俺も俺も! トーミケの乗ってた第6艇も似たような感じで全員消えちまった!〉
〈影狼の乗ってた第3艇も同じだ! 蘭もヒバナ達も、みんな居なくなってるぞ!〉
混乱と動揺で賑わうコメント達。
このKOD決勝ラウンドの舞台に進んだ参加者達が――有明東京湾ダンジョンへと向かっていた船の上から消えた、と。
彼等は口を揃えて“赤い魔法陣”が現れたと言っている。
「お、おい……何が起こってるんだ、影狼」
俺の背後から、おずおずとカガッチが尋ねてくる。
「……他の参加者達が、皆、消えたらしい」
「消え、た?」
「ああ」
そこで、俺はカガッチを振り返りながら、しかし、《影狼チャンネル》の視聴者達にも語り掛けるように言う。
「俺の憶測だが、おそらく“転移魔法”の類いが使われたと思われる」
〈転移魔法?〉
〈一部の魔法に関わるスタイルの探索者や、同じく魔法を扱うモンスターなんかが使用する魔法だ〉
〈知ってるよ。ダンジョン内を、場合によっては階層を越えて移動できる魔法だろ〉
〈もしかして、運営がやったとか!? 救援目的で!〉
〈いや、違うだろ。まだ大会の最中なんだし……〉
「転移魔法って……誰が、そんなこと……」
「少なくとも、KOD運営や俺達参加者側の仕業とは考えにくい」
運営が動くのは、あくまでも参加者が棄権を宣言したり、大会が大会として成り立たなくなるレベルの災害的事象が発生した場合だ。
先程の強力な個体……アンノウンの出現をそう解釈したというのであれば仕方が無いが、ならば、その個体と戦っていた俺とカガッチが真っ先に避難させられていない理由にならない。
何なら、その赤い魔法陣はアンノウンをヒバナの雷撃から守るかのようにも発動していた。
つまり――。
「おそらく、転移魔法はダンジョン側の存在が使用したと思われる」
「ダンジョン側……と、東京湾ダンジョンのモンスターが、って事かよ」
「あくまで憶測だが……」
と、俺がそこまで持論を述べたところで、だった。
〈影狼! 影狼! 大変だ! 急いで黄泉のジミ子のチャンネルを観てくれ!〉
〈え! ジミ子がどうしたって!?〉
〈これは……良い知らせというか、悪い知らせというか……〉
〈どうなってんの!?〉
コメントを視認すると同時、俺はドローンカメラにセットしていたスマホを操作する。
《影狼チャンネル》の配信は継続しつつ、画面上にジミ子さんのチャンネル……《黄泉のジミ子の徘徊チャンネル》を表示した。
……芸能プロダクションも辞めたんだから、このチャンネル名も変えればいいのに。
などと考えている場合ではない。
『え、ええと……ここは、どこなんでしょう……』
画面の中には、カメラの前に立つジミ子さんの姿があった。
〈ジミ子生きてたか!〉
〈よかったあああああああああ!〉
〈海に落ちた時は完全に終わったと思った……〉
〈ええ!? あの状況から入れる保険があるんですか!?〉
〈いや、っていうか、ここどこ? ジミ子、どうやって助かったの?〉
《徘徊チャンネル》のコメント欄には、彼女の配信のオーディエンス達による歓喜と戸惑いの声が入り交じっている。
それもそうだろう。
ジミ子さんはアンノウンとの交戦中に、海に落下した。
誰もが命の危機を感じていたはずだ。
「ジミ子さん……良かった」
かくいう俺も、肝を冷やしていた者の一人だ。
何はともあれ生存している姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
「あ、ジミ子じゃねぇか! 無事だったのかよ!」
俺のスマホを覗き込み、カガッチも少なからず安堵している様子を見せる。
「つぅか、ジミ子、どこにいるんだ?」
「………」
俺は手早く、スマホの通話機能を操作する。
画面にジミ子さんの配信を表示したまま、彼女に電話を掛ける。
『あ……影狼さんから電話です!』
カメラに映っているジミ子さんが、俺からの着信に気付き、安心したように笑顔を浮かべた。
『も、もしもし、影狼さんですか!? ジミ子です!』
「ジミ子さん。ひとまず無事で安心した」
俺は、画面の中のジミ子さんに話し掛けるように言う。
〈おおお! 影狼からの着信だ!〉
〈なんか、安心する〉
〈ホラーゲームで緊迫した状況が続いていたところで、やっと仲間の声を聞けたみたいな感覚だな〉
「落ち着いて、わかる範囲で教えて欲しい。君の身に何が起こったんだ?」
盛り上がるコメント欄にも視線を向けつつ、俺はジミ子さんに質問する。
『それが、その……あたしの乗ってた船に、何か、凄く強いモンスター? みたいなのが現れて……他の皆さんや、メアリーさんが倒されていく中で、あたしは何もできず、海に落ちちゃって……あ、今コメント欄を見て知ったんですけど、影狼さん、その直後に第2艇にまで飛んできたんですか? ……凄い……流石です』
「ああ、今はその件は置いといてくれ……海に落ちた後は?」
『それが、気付いたらあたしを追ってきたドローンカメラと一緒にここに……な、なんだか周りは暗くて、岩壁ばかりで……』
「……おそらく、そこは東京湾ダンジョンの内部だ」
俺は、ジミ子さんに告げる。
『え?』
「君はおそらく、何者かの転移魔法でダンジョン内に送られた。俺とカガッチ以外の参加達も同じ状況らしい。周囲に人影はあるか?」
『い、いえ……あたし一人だけだと思います……ここが、東京湾ダンジョン?』
ジミ子さんも動揺している。
無理も無いだろう。
いきなり、最高攻略難易度ダンジョンの、第何階層かもわからない場所に送られたのだ。
「ジミ子さん。まずは、《幽体離脱》で周囲の状況を確認するんだ。モンスターがいれば無理に交戦しようとせず逃げるように。他の参加者がいれば、一緒に協力して――」
そこで、俺は言葉を止める。
『……影狼さん?』
首を傾げるジミ子さん。
だが、そこで、ジミ子さんも俺が声を止めた理由に気付いたようだ。
バッ――と、その場で振り返る。
【……全てで30~40匹前後か】
――ジミ子さんの背後に、球体が浮かんでいた。
巨大な球体。
薄闇の中に浮遊していながら、その漆黒の全容がハッキリと分かる……存在感に満ちた球体だ。
『え? え? こ、これって……それに、今の声は……』
「……こいつは」
俺は察する。
過去、俺は二度、その球体を見ている。
それらは両方とも、神々しいほどの光を放っていた。
だが、こいつは……むしろその逆。
まるでブラックホールのように、何もかもを吸い寄せて消し去るような、そんな圧倒的な黒色だ。
「ダンジョンコアか……」
【ようこそ、虫けらども。我が体内へ】
まるで地獄の底から響いてくるような、そんな声で、有明東京湾ダンジョンのダンジョンコアは言う。
【人間の侵入者など幾年ぶりか……このフォーマルハウトの迷宮で育成された、強靱な生命達がお相手しよう。せいぜい、楽しんでいくが良い】
156
お気に入りに追加
3,168
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~
尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。
ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。
亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。
ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!?
そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。
さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。
コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く!
はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。