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第三章 KOD第二次予選編
第60話 ジミ子の成長
しおりを挟む「わわ! ジミ子ちゃんが! 橋が崩れて落ちちゃった!」
石橋が崩落した直後――崖の近くにいたピチカは、その光景を前に慌てふためく姿を見せていた。
彼女の後ろには、ピチカのチャンネルを配信しているドローンカメラが浮いている。
「ど、どうしよう、崖は深いし、どこまで落ちちゃったのかわからないけど……た、助けに行かないと!」
〈いや、ピッチ! 他の選手を助けてたらピッチが制限時間内にゴールできないって!〉
〈仕方が無いけど、これも勝負の世界だから……〉
〈不慮の事故だよ! しょうがない! あの地味な子もわかった上で参加してるんでしょ?〉
〈無事を祈って、今は先に進もう!〉
「う、うん……ぐすん……ジミ子ちゃん、ごめん、ゴールで待ってるから、絶対に来てね!」
涙を流し、崖に背を向け、ピチカはホウキを駆る。
俯かせた顔――その口元には、薄らと笑みが浮かんでいた。
(……バーカ……不人気の雑魚配信者のくせに、調子に乗ってるからこうなるんだよ……)
石橋を渡った際に、ピチカは誰にも気付かれないように魔法を仕掛けていた。
爆破魔法だ。
ピチカの爆破魔法は、シャボン玉のようなエフェクトを生み出し、触れると爆発が起きるという代物。
ジミ子が石橋を通過するところを見計らい、潜ませていたシャボン玉を橋に触れさせ、爆発を起こしたのだ。
何故こんな事をしたのか――。
その理由は、『ジミ子の分際で影狼とタッグを組み、生意気にもやる気を出してKODを勝ち上がろうとしている……その姿が気に入らないから』……それだけだ。
実に短絡的で自分勝手なものだった。
(……これでジミ子が失格になれば、影狼も失格……ジミ子は炎上……それを庇って、あわよくば影狼とも繋がりを作れれば……美味しい流れ♪)
頭の中で今後の展開を妄想しながら、ピチカはほくそ笑む。
その時だった。
「……え?」
後方から、気配を感じた。
何か……巨大な何かが、凄い速さで迫り来るような感覚。
ピチカは思わず振り返る。
〈え、何あれ……〉
〈虎、か?〉
〈真っ白い……スノウ・タイガーだ!〉
〈モンスターだよ!〉
コメント欄が沸き立つ。
地面を蹴り、疾駆するモンスター――スノウ・タイガーが、こちらに向かって走ってくる。
「へ、へ!? モンスター!? スノウ・タイガー!?」
スノウ・タイガーは《中層》クラスのモンスター。
そんなものが出現するなんて、完全にアンラックだ。
ピチカは慌てて飛行速度を上げる。
しかし、スノウ・タイガーの足の方が早い。
「ちょ、ちょっと待って! タイム! タイム!」
ピチカは慌てて、上方に舵を切る。
迫り来るスノウ・タイガーから逃れるように、更に上へと位置を上昇させる。
「は?」
そこで、ピチカは気付いた。
自身を追い越し、先へと走っていくスノウ・タイガーの背中に、ジミ子の体があった。
気絶しているのか、寝ているのかわからないが……ジミ子は目を瞑って動かない。
ともかくスノウ・タイガーは、ジミ子を背負ってゴールに向かっている。
「は、はぁ!? 何それ!? まさか、崖から落ちた時、偶々スノウ・タイガーの上に落ちて助かったの!? しかも、スノウ・タイガーに運ばれるままにゴールに向かってんの!? あの、地味カス! どんだけ悪運が強いんだよ!」
〈ピッチ!?〉
〈ピッチ、どうした? 口調が――〉
〈っていうか、ピッチ! 前! 前!〉
「え」
飛行位置を上昇させた事により、天井にも近付いていた事。
この第二階層の天井からは、鍾乳洞のように石のつららが伸びている箇所がある事。
ジミ子を背負ったスノウ・タイガーに気を取られ、ピチカは目前に巨大なつらら石が迫っている事に気付いていなかった。
結果――ピチカは真正面から、そのつらら石に激突する。
「ぶげっ」
コントロールを失ったホウキが、岩壁に激突してひしゃげる。
卒倒したピチカは、そのまま地面に落下し、白目を剥いて横たわった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
第二階層、ゴール地点。
そこで、俺はジミ子さんの到着を待っていた。
「………」
右ルートと左ルートに別れた後、無事にゴールを決めたタッグは、互いの健闘を称え合っている。
相棒が到着していない参加者は、まだかまだかと気が気でない様子だ。
「お前、宝箱……意外と早かったじゃねぇか」
「こう見えても《隠者》デスので。気配を殺しつつモンスターを避け、時として宝箱にトランスフォームしながら素早くゴールまで来ました。カガッチサンこそ、長距離お疲れ様デス」
左ルートをクリアしていた宝箱アケオ、そして、俺にアーマーを破壊されながらもなんとかゴールまで辿り着いたカガッチ――このコンビは無事クリアだ。
「玄閒様! また会えると信じておりましたわ!」
「流石ですね、メアリーローズさん。長距離を全速力で駆け抜けたにも拘わらず、優雅さと清楚さを全く失っていない」
左ルートを来た玄閒さんと、汗だくながら右ルートを踏破したメアリーローズさんのコンビも第三階層に進出だ。
『制限時間は、残り3分です!』
ハヤニさんのアナウンスが流れる。
残り時間は、もう少ない――。
その時。
「おい! なんだ、あれ!?」
左ルートの方から、こちらに向かって駆けてくるモンスターが見えた。
スノウ・タイガーだ。
騒然とする参加者達の一方、俺は、スノウ・タイガーの背中に乗ったジミ子さんの体に気付く。
「……そういう事か」
ゴールライン直前でスピードを落とすスノウ・タイガー。
止まったスノウ・タイガーは、背中に乗せたジミ子さんの体をごろんと地面に転がす。
「……う、うん……」
しばらくすると、ジミ子さんが目を開いた。
「お疲れ様、ジミ子さん」
「……影狼さん」
立ち上がったジミ子さんは俺を見て、感慨深げに拳を握る。
「……お、お待たせしました」
そして、ゴールラインを通過した。
『黄泉のジミ子選手、到着! これで、影狼・ジミ子ペアも第二階層クリアです!』
「《幽体離脱》の、新しい使い方を知ったか」
「はい、影狼さんのお陰で」
ジミ子さんは、スノウ・タイガーの体を借りて、ここまで自分の体を運んできたのだろう。
ジミ子さんの魂が離れたスノウ・タイガーは、わけがわからない様子でキョロキョロと周囲を見回している。
「ありがとう、スノウ・タイガーさん」
そう言って手を振るジミ子さんを、スノウ・タイガーは不思議そうに眺める。
その直後、俺の存在に気付き、戦闘能力の差を読み取ると――大人しく左ルートの方へと帰って行った。
『ここでタイムアップ! 第二階層をクリア出来たコンビは、9ペア! 18人です!』
ハヤニさんの声が響き渡ると同時に、コンビの到着を待っていた者達が溜息を漏らす。
「ピッチ~~!」と叫びながら崩れ落ちた男は、あの七森ピチカの相方だったのかもしれない。
〈ジミ子すげええええええええ!〉
〈《幽体離脱》でモンスターの体を乗っ取ったのかよ!〉
〈やるやん!〉
〈ジミ子半端ないって! 出来るかもしれないけど、土壇場でそれをやろうって発想にならんやろ! そんなんできひんやん普通!〉
〈ジミ子ちゃんのチャンネル登録とSNSアカウントフォローしてきました。これからの活躍に期待しています〉
ジミ子さんに付けていたドローンカメラを、俺の方に戻す。
コメント欄も大盛り上がりだ。
〈あ、影狼!〉
〈影狼会いたかった♡〉
〈左ルート、あの石橋の崩落で大分後続組が削られたみたいだぞ〉
〈あ、なんか今、石橋を壊したのはピッチじゃないかって話題になってるぞ〉
〈石橋が崩れた際に発生した爆発の仕方が、七森ピチカの爆破魔法に似てるんだって、コアなファンが検証動画上げてる。で、ピッチ炎上中〉
〈ファンに裏切られたかww〉
「……何やら、色々とあったんだな」
「みたい、ですね」
ジミ子さんも少なからず困惑しているようだが……それよりも、今はゴール出来た喜びの方が勝っているようだ。
「影狼さん」
「どうした?」
「……いえ、ありがとうございます」
ジミ子さんは、俺の隣に立ちながら言う。
「探索者になって、今まで生きてきた中で……なんだか今が、一番楽しいです」
「……それは良かった」
『では、第二階層をクリアした9組は、第三階層にお進みください! 決勝ラウンドへの最後の試練が待っております!』
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