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北の遺跡 10

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「さあ、どうするんだい。次の攻撃で止めを刺すよ!」

 笑みが消え虚ろな目をするマテーナは、直立不動で下段に構えた剣をゆっくり円を描く様に動かし始めた。

 殺気だけで無い、気配すら消えて行くような雰囲気に、カレンの全身に鳥肌が立つ。このままでは、確実にやられる。そう思った彼女は、胸を隠すのを止め両手で聖剣を握りしめた。

「はああああ、奥義! 火焔地獄突き」

 青白い炎に身を包んだカレンは、円を描き切ったマテーナに飛び掛かった。
 ガッギン、聖剣の切っ先と女神の剣の切っ先がぶつかり、二人は動きを止めた。

「はあー、やれば出来るじゃないの。手のかかる子ね」

「フウ、フウ、一体、私に何をさせたいのよ」

「奥義の伝授と精神の強化よ。さっき見せた動きと剣技は、理解したわよね」

「理解しましたけど。伝授って、あれだけ?」

「そう、あれだけ。真似をすれば良いのよ、出来るようになっているから」

「うーん、秘儀を授けるって、そんなもんなのか」

「それはそうと、もう恥ずかしく無いの? おっぱい見えてるわよ」

「まあ、見せても減るもんじゃないし。恥ずかしがって命を落とす方が、愚かだと理解しました」

「よろしい、合格よ! 良く理解した。まあ、ある意味その姿は、相手を油断させるからね。女の武器は、惜しまず使うのよ」

「分かりましたが、この姿のままでは帰れませんよ」

「フフフ、新しい防具があるじゃないの」

 早くビキニアーマー姿のカレンを見たいのか、マテーナは楽しそうに体を揺らしながら、手にするビキニアーマーを眺めていた。

 上半身裸で帰るくらいならビキニアーマーを着れば良いのだが、その姿で仲間の元に帰るのは気が引ける。

「あのー、女神マテーナ。やっぱり、頂ける防具は、それなんですか? 返品交換は、出来ませんか」

「もう、何言ってんのよ、この子は。お店で買う商品じゃないんだから、返品も交換も出来ません! さあ、私と契約をして試練を終わりましょう」

 真剣な表情になった女神アテーナは、自分より背の高いカレンを跪かせ、頭に手を置いた。

「此処に、我が体の一部を勇者カレンに与える。コントラクト」

 女神の胸から出て来た拳大の光の玉が、カレンの体の中に入っていった。

「わあ、体が温かくなる。これで終わりですか?」

「はい、終わり! これで契約完了よ。 今、あなたの中に神具としてビキニアーマーが与えられたの。装備したいときは、『装着』、脱ぎたいときは『脱着』と唱えるか、念じてね」

「あ、有り難うございます」

「じゃあ、この塔を出る前に、お願いだから私の前で装備して見て」

「今、直ぐにですか? あわわわわ、心の準備が・・・」

「女同士だから、恥ずかしがらなくても良いじゃない。さあ、早くして」

「しょうがないですね。『装着』」

 シュルシュルと白い風に体を包まれたカレンは、ビキニアーマーを装着した。

 露出部分が多いのは気になるが、女神特典のバスト20%アップはちゃんと機能していた。カレンは、ボリュームアップした胸を両手で下から持ち上げた。手を離すと、今までより胸が揺れ、しかも胸の谷間も美しい。満足したカレンは、目じりを下げ嬉しそうだった。

 マテーナもまた、うっとりとカレンの姿を愛でていた。彼女は、とにかく可愛い物であれば、何でも良いのだ。可愛いを見て触って楽しむのが、彼女にとっての至福の時なのだ。

「あら、ミケちゃん。帰って来たの」

 マテーナが声を掛ける方を見返ると、神獣三毛猫がトコトコと歩いて来て、尻尾を立ててゴロゴロと喉を鳴らしながらマテーナの足にすり寄った。

彼女がミケを抱きあげようと屈むとミケは、「ウニャン! ミャッ、ミャ、ミャ」と、何か伝えマテーナの手をすり抜けた。

「もしかして喋ってるの、今、その神獣話しましたよね」、驚くカレンの方にミケが体を擦り寄らせて来た。

「ニャ―ン、ウニャ、フワーン」と、前屈姿勢で体を伸ばした。

「あ、ははは。ミケちゃんは、カレンの事が気に入ったのかしら」

「懐かれたのかな。どうしたら良いのですか?」、カレンに抱きかかえられたミケは、目をまん丸にして愛嬌を振りまいていた。

「猫は、気まぐれな聞き物だからね。あなたの所にも出入りしたいんじゃないかな。そっちに行ったら、お世話してあげてね」

「ええ、分かりました。じゃあ、ミケちゃん、よろしくね」

「ゴロゴロゴロ・・・、ミャッ!」

 ミケを抱きかかえたカレンをマテーナは、塔の外に送り出した。

光に包まれるカレンは、やっと試練を終えた気持ちになった。全くもって想定外の事が多すぎる。しかし、勇者である以上、常に想定外の出来事に遭遇するのだから、冷静沈着に対処出来るようにならなければ。そんな思いを抱きながら、仲間の元へと帰って行った。

 塔からビキニアーマー姿で出て来たカレンに、仲間達は驚いていた。男達は、その姿に目のやり場に困っていたが、サーシャは、素直に可愛いと褒めていた。

 カレンにとって一番の気がかりは、この姿をクリスがどう思っているのかと言う事だった。周りに人が居るから照れくさいだけなのか、それもとも何とも思っていないのか、気になる彼女はチラチラとクリスに目をやる。

 彼女の視線に気が付いたクリスは、頬を指で掻いた。

「まあ、何て言うか、可愛いし似合ってるよ」

「えへっ、有り難う。良かった」と、クリスの腕に抱き付いた。

 わざと彼女は、大きくなった胸を彼に押し付け、アピールしたかったのだ。

「おい、おい。みんな見てるから、よせよ」

「別に良いじゃない、国王公認の夫婦なんだから」

「はあー、そうだったな。じゃあ、無事に試練は終わった事だし、グルグへ帰るか。しかし、神獣が懐いて付いてくるとは、凄いな」と、サーシャに抱かれるミケを見た。

 無事ミッションを終えた彼等は、それなりに強くなっていた。個々の能力だけでなく、パーティーとしても五人だけで魔獣を難なく倒せるクラスになっていたのだ。

 グルグに戻った彼等が、羽目を外してどんちゃん騒ぎをしたのは言うまでも無い。緊張から解放されれば、誰でもそうなるだろう。生きている実感を確かめる様に、今日という日を仲間と共に楽しんでいた。
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