9 / 66
アルフェリア 7
しおりを挟む
「クリスさん。お仕事、お疲れ様でした」と、受付嬢のリリは満面の笑みを見せてくれた。
「おっと、報酬を受け取ったらどいてくれよ」
ワイルドボアを肩に抱えたランドが、横から声を掛けて来た。どうやら害獣駆除に行っていたらしい。
「おっさん、邪魔するなよ。それに、獣を抱えて帰って来るか。意味不明だな」
「ガハハハッ、駆除した獣を持って帰って来たんだぞ。うまい肉は食えるし、報酬は貰えるし、嬉しい気持ちを表現して何が悪い」
「喜んでいるのは、おっさんだけだよ。後ろの仲間は、恥ずかしそうにしているぞ」と、クリスは見返りランドの仲間を見た。彼の話す通り、ランドの仲間はギルド会館の隅で恥ずかしそうに集まっていた。
「恥ずかしいものか、仕事には誇りを持たないと」と、ランドはカウンターにワイルドボアをドスンと置いた。
「ちょっと。まだ、リリとの話は終わっていないよ。リリは、これから俺とデートの話をするんだから」
「デートですか?」と、リリはすっかり忘れている様子だった。
「デートだよ、約束しただろ。ほら、この間、疾風の戦団の救出に行く前に」
「リリ嬢は、そんな約束は知らないってよ」
「口を挟むなよ、おっさん。それなら、リリ、俺とおっさんのどっちとデートしたい?」
「変な質問をして、リリ嬢を困らせるな」と、まんざらでもない表情をランドは見せた。
リリは迷う事無く即答で、「二者択一なら、クリスさんとデートします」
「ほら見ろ。いつまでたっても女心の分からない、地味なおっさんは嫌だよな」
「いいえ、そうじゃありません。二者択一の場合ならクリスさんですが、個人的にはしっかりと家庭を大事にしてくれる方が理想ですから。そうなると、二人とも当てはまりませんね」と、リリは屈託ない笑顔で答えた。
「そりゃ無いぜ。せっかくデートの約束を楽しみにしていたのに」と、クリスは少しいじけた。
「見事に振られたな、ウィムジー。俺と一緒じゃないか」
「ああああ、一緒にするな。ランドのおっさん」
頭に来たクリスは、ランドの頭にゲンコツを食らわした。いてぇとランドはクリスの胸ぐらを掴んだ時、奥からスライブが出て来た。
「会館の中でもめ事は、ご法度だぞ。お二人さん。クリス、話があるから私の部屋に来てくれ」
頭を擦りながらランドは、「怒られたじゃないか、早く行けよウィムジー」
「分かったよ、デートの約束が台無しになったから、後で飯奢ってくれよ」と、クリスは足早に会館の奥へと消えた。
館長室に入るとソファに座るスライブは、珍しくお茶と茶菓子を用意して待っていた。
「どうしたんだよ。なんか、気味悪いな」と、クリスは向かい合ってソファに腰を下ろした。
「嫌な相談だ。たまには、俺個人の為に動いてくれないか」
「話す前に言うかな。スライブが、本当に困っているなら助けるけど」
「有り難う。嫌な話と言うのは、勇者が魔獣討伐に来る」
「勇者が? 魔獣討伐? なんだそれ。どこの勇者が来るんだ?」
「グランベルノ王国の勇者らしい」
「待てよ、人間の勇者はまだ生まれていないはずだろ」
「本来ならそうだが、自国の力を高めたいグランベルノ四世は、無理矢理この世界に勇者を呼び寄せた様だ」
「どこから? 生まれていない勇者をどうやって呼ぶんだよ」
「そこだが、違う世界で生まれていた勇者を召喚したようだ」
「何故、そんな無茶苦茶な事をするんだよ」
「己の欲望の為に、更なる領土拡大を狙っているのか。噂では、勇者を引き連れてダンディルグ王国に進軍するつもりらしい」
「また、戦争するのか。しかも、魔族に喧嘩を売るとはね」と、クリスはテーブルの上の茶菓子を取り口に放り込んだ ――― 甘いな。
「まあ、戦争は起こった時に対処するとして。俺の頼みは、魔獣討伐に来る勇者の案内人をお前に引き受けてもらいたいのだ」
「案内だけなら良いけど、違う世界の勇者の見張りとグランベルノの情報収集も兼ねているんだろ?」
「そうだ、異世界から召喚された勇者がどの様な者なのか見極めたい」
「しかし、召喚出来たと言う事は、女神も賛成したと言う事だよな」
クリスには腑に落ちない点があった。
この世界は創造神を頂点とし、四人の女神が居る。
慈愛の女神、ディアナ
武の女神、アテーナ
知性の女神、メーテス
生命の女神、モイラ
勇者の誕生には、この四人の女神が深く関わっている。通常ならこの世界のバランスを保つために、勢力の弱い種族の所に勇者は生まれる。今は、人族が力を持ちすぎているので勇者は誕生しないはず。しかし、人族に崇拝される慈愛の女神ディアナは、勇者の召喚を認めたのだ。このまま、互いに勇者を引き連れ人族と魔族が戦争を始めれば、近隣諸国を巻き込む大きな戦争になりかねない。
「案外、女神も自分勝手なのかも知れないな」と、スライブが呟いた。
「どうして、そう思う?」
「自分達を崇拝する種族に肩入れをして、女神通しでも勢力争いをしている様に感じないか」
自分に力を与えた気まぐれな創造神を思い出したクリスは、「そうなのかも知れないな」
「では、勇者達が来たら、魔獣討伐の案内を頼むな。冗談でも気まぐれで女神に喧嘩売るなよ」
無言で立ち上がったクリスは、口元を上げて見せる。冗談では無く、もし女神が自分勝手な理由で行動しているのなら一発殴ってやろうと考えていた。
「おっと、報酬を受け取ったらどいてくれよ」
ワイルドボアを肩に抱えたランドが、横から声を掛けて来た。どうやら害獣駆除に行っていたらしい。
「おっさん、邪魔するなよ。それに、獣を抱えて帰って来るか。意味不明だな」
「ガハハハッ、駆除した獣を持って帰って来たんだぞ。うまい肉は食えるし、報酬は貰えるし、嬉しい気持ちを表現して何が悪い」
「喜んでいるのは、おっさんだけだよ。後ろの仲間は、恥ずかしそうにしているぞ」と、クリスは見返りランドの仲間を見た。彼の話す通り、ランドの仲間はギルド会館の隅で恥ずかしそうに集まっていた。
「恥ずかしいものか、仕事には誇りを持たないと」と、ランドはカウンターにワイルドボアをドスンと置いた。
「ちょっと。まだ、リリとの話は終わっていないよ。リリは、これから俺とデートの話をするんだから」
「デートですか?」と、リリはすっかり忘れている様子だった。
「デートだよ、約束しただろ。ほら、この間、疾風の戦団の救出に行く前に」
「リリ嬢は、そんな約束は知らないってよ」
「口を挟むなよ、おっさん。それなら、リリ、俺とおっさんのどっちとデートしたい?」
「変な質問をして、リリ嬢を困らせるな」と、まんざらでもない表情をランドは見せた。
リリは迷う事無く即答で、「二者択一なら、クリスさんとデートします」
「ほら見ろ。いつまでたっても女心の分からない、地味なおっさんは嫌だよな」
「いいえ、そうじゃありません。二者択一の場合ならクリスさんですが、個人的にはしっかりと家庭を大事にしてくれる方が理想ですから。そうなると、二人とも当てはまりませんね」と、リリは屈託ない笑顔で答えた。
「そりゃ無いぜ。せっかくデートの約束を楽しみにしていたのに」と、クリスは少しいじけた。
「見事に振られたな、ウィムジー。俺と一緒じゃないか」
「ああああ、一緒にするな。ランドのおっさん」
頭に来たクリスは、ランドの頭にゲンコツを食らわした。いてぇとランドはクリスの胸ぐらを掴んだ時、奥からスライブが出て来た。
「会館の中でもめ事は、ご法度だぞ。お二人さん。クリス、話があるから私の部屋に来てくれ」
頭を擦りながらランドは、「怒られたじゃないか、早く行けよウィムジー」
「分かったよ、デートの約束が台無しになったから、後で飯奢ってくれよ」と、クリスは足早に会館の奥へと消えた。
館長室に入るとソファに座るスライブは、珍しくお茶と茶菓子を用意して待っていた。
「どうしたんだよ。なんか、気味悪いな」と、クリスは向かい合ってソファに腰を下ろした。
「嫌な相談だ。たまには、俺個人の為に動いてくれないか」
「話す前に言うかな。スライブが、本当に困っているなら助けるけど」
「有り難う。嫌な話と言うのは、勇者が魔獣討伐に来る」
「勇者が? 魔獣討伐? なんだそれ。どこの勇者が来るんだ?」
「グランベルノ王国の勇者らしい」
「待てよ、人間の勇者はまだ生まれていないはずだろ」
「本来ならそうだが、自国の力を高めたいグランベルノ四世は、無理矢理この世界に勇者を呼び寄せた様だ」
「どこから? 生まれていない勇者をどうやって呼ぶんだよ」
「そこだが、違う世界で生まれていた勇者を召喚したようだ」
「何故、そんな無茶苦茶な事をするんだよ」
「己の欲望の為に、更なる領土拡大を狙っているのか。噂では、勇者を引き連れてダンディルグ王国に進軍するつもりらしい」
「また、戦争するのか。しかも、魔族に喧嘩を売るとはね」と、クリスはテーブルの上の茶菓子を取り口に放り込んだ ――― 甘いな。
「まあ、戦争は起こった時に対処するとして。俺の頼みは、魔獣討伐に来る勇者の案内人をお前に引き受けてもらいたいのだ」
「案内だけなら良いけど、違う世界の勇者の見張りとグランベルノの情報収集も兼ねているんだろ?」
「そうだ、異世界から召喚された勇者がどの様な者なのか見極めたい」
「しかし、召喚出来たと言う事は、女神も賛成したと言う事だよな」
クリスには腑に落ちない点があった。
この世界は創造神を頂点とし、四人の女神が居る。
慈愛の女神、ディアナ
武の女神、アテーナ
知性の女神、メーテス
生命の女神、モイラ
勇者の誕生には、この四人の女神が深く関わっている。通常ならこの世界のバランスを保つために、勢力の弱い種族の所に勇者は生まれる。今は、人族が力を持ちすぎているので勇者は誕生しないはず。しかし、人族に崇拝される慈愛の女神ディアナは、勇者の召喚を認めたのだ。このまま、互いに勇者を引き連れ人族と魔族が戦争を始めれば、近隣諸国を巻き込む大きな戦争になりかねない。
「案外、女神も自分勝手なのかも知れないな」と、スライブが呟いた。
「どうして、そう思う?」
「自分達を崇拝する種族に肩入れをして、女神通しでも勢力争いをしている様に感じないか」
自分に力を与えた気まぐれな創造神を思い出したクリスは、「そうなのかも知れないな」
「では、勇者達が来たら、魔獣討伐の案内を頼むな。冗談でも気まぐれで女神に喧嘩売るなよ」
無言で立ち上がったクリスは、口元を上げて見せる。冗談では無く、もし女神が自分勝手な理由で行動しているのなら一発殴ってやろうと考えていた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる