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別れの時
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ロシア支部から黒薔薇十字軍に関する報告書が提出された事を隼人は、正人から聞いた。
日本で暗躍していた彼らは、ロシアへと渡り活動していた。しかし、目に余る行動を繰り返した彼らは、ロシア支部だけでなくロシア軍をも巻き込んだ、大規模な戦闘で壊滅状態になったと言う内容だった。
悪魔は全て消滅、生存者は無しと、報告書には記載されていた。
にわかに信じ難い内容だし、隼人には現実味が無かった。
大学から帰った隼人は、アパート入り口の駐輪場に自転車を止めた。
何かを感じた隼人が顔を上げると、アパートから人が出てくるのが見えた。
後姿だけだったが、何故か彼を知っている様な気がする。
隼人は思わず声をかけた、「み、宮田君!」
男は振り返る事無く走り去ろうとしたので、隼人は慌てて彼の後を追いかけた。
烏丸通りに出ると男は、足早に歩いて行く。
さっきまで授業を受けていた大学の方へ向かっている、そう思いながら隼人は、男を追いかけた。
男は京都御所にある児童公園の中に入って行く。
途中で走り出した隼人も急いで公園に入ったが、男の姿を見失った。
“近くに居る。それより、彼に会う覚悟は出来ているのか”、頭の中で龍が語り掛けて来た。
「正直、分からない。覚悟より先に、彼と話をしたい」
“後悔する事にならなければ良いが、彼はあの木陰の中に居る”
龍に教えられた場所で足を進めると、宮田が姿を現した。
彼の顔を見た隼人は、懐かしく感じる。最後に見たアモンと化した姿では無く、ここに居るのはいつもの彼だった。
「やあ、宮田君だよね。分かるか・・・」
隼人から少し距離を取って立ち尽くす宮田は、「ご、・・・ごめん」
自信なさげに俯く彼は、隼人の知るいつもの宮田だった。
「君が、苦しんでいたのを知らなくて。何もしてあげられなかった」と、隼人は唇を噛んだ。
「こんな事になるとは、思わなかった。ただ、僕を苛めていた奴らに復讐するための力が欲しかっただけなんだ」
「今は、悪魔に支配されていないのか?」
「うん、記憶が曖昧なんだ。ロシアで戦闘になった所までは、何となく覚えているのだけど、気が付いたら京都に居た」
“気を付けろ、隼人。微かだが、悪魔の力を彼の中に感じる”
「宮田君の中には、まだ悪魔が居るんだね?」
「うん、力を使い過ぎたのか、今は大人しくしているみたいだけど。確かに、僕の中に悪魔は存在しているよ」、残念そうに宮田は隼人から目を逸らした。
「何とかならないのか。何か、悪魔を追い出す方法とか」
“無理だぞ! 彼の場合は、魂を悪魔に捧げたのだ。悪魔から解放される方法は、残念だが無い。死んでも彼の魂は、アモンと共に地獄に落ちてしまう。永遠の苦しみが、彼を待っているのだ”
「クッソー、じゃあ、どうすれば良いんだよ!」、両手を握りしめた隼人は、険しい表情で叫んだ。
「お、小坂君? 大丈夫?」
驚く宮田の姿に、隼人は胸が苦しくてたまらなかった。
龍に聞くまでもなく、悪魔に魂を売ってしまった宮田を助ける術が無い事など、知っていたからだ。それでも、彼を救い出したかった。
「取り乱してしまって、ごめん」
じっと隼人を見つめていた宮田は、首を振った。
「小坂君だけが、友人として接してくれた。君にお願いがあって来たんだ」
「君を助けたい気持ちはあるけど、僕には何も出来ないよ」
「いいや、君にしか頼めない。おぼろげな記憶だけど、悪魔と化した僕と君は戦っていたよね」
「えっ、あの時、アモンと戦っている時の事を知っているのか?」
「ああ、薄い光に包まれた君は、もの凄い力で戦っていたよね」
「戦っていた。誰にも話した事は無かったけど、僕には龍の力があるんだ」
「やっぱり、そうか。凄いね、小坂君は」
「凄くないよ。そんな力があっても、君を救う事が出来ない」
「そんなこと無いよ。友人の君だから、頼みたい。・・・僕を殺してくれないか」
「正気か? そんな事しなくても」
「もう手遅れなんだ。僕自身が良く分かっている。悪魔の力が弱い今だからこそ出来る事なんだ。お願いだ小坂君、僕を解放してくれないか」
「くっ、どうして。どうして僕なんだ・・・」
“隼人、彼を解放してやれ”
俯いた隼人が、薄い金色の光に包まれた。
「やっと、解放される。何度も死のうとしたけどね、どうやっても僕の中に居る悪魔に邪魔されるんだ」、ゆっくりと隼人の方へ宮田は歩いてくる。
こんな終わり方で良いのか悩む隼人の腕を両手で取った宮田は、自分の腹部に彼の手を当てた。
“お前が出来ないなら、俺が力づくでやるぞ!”、頭の中で龍が叫ぶと腕に力が集まった。
「ダメだ、こんな終わり方を望んでいない」、自分の意思に関係無く体の動きを止める事は、出来なかった。
ぐはっ、生温かい感触を腕に覚えた隼人に宮田がもたれかかって来た。
「ああ、何処で間違ったんだよ。君を殺してまで、悪魔を退治しないといけないのか」、悔しくてたまらない隼人の目から涙が流れた。
「有り難う、うっ・・・、これで良かったんだよ」
宮田の体から黒い影と化したアモンが出て来た。
「ぐわっ・・・、人間め、自ら死を選ぶとは、何度でも蘇ってくれるわ」、そう言い残してアモンは、地面の中に吸い込まれて行った。
「宮田・・・君。おい、目を覚ましてよ」
隼人に抱きかかえられた宮田は、腕をだらりと下げた。
暗くなった公園の中で、隼人は泣き叫びながら彼の名前を何度も呼んだ。
「あれから、大分経つよな」、椅子に座る正人は、背中を伸ばし天井を眺めた。
窓から入る心地よい風に吹かれながら、長老と四郎がソファで寝ている。
キーボードを叩く手を止めた茜は、「そうね、でも隼人君なら大丈夫だと思うわ。きっと、立ち直って元気な姿を見せてくれるわよ」
「だよな、桜も押しかけ女房気取りで、隼人のアパートに出入りしているし。大丈夫だよな」
姿勢を正した正人は、隣の席に座る茜に笑顔で答えた。
宮田との件で心にダメージを受けた隼人に、暫く仕事から離れて日常生活を楽しめと勧めたのは正人だった。
早く元気になって戻ってきて欲しい、そんな気持ちで正人と茜は事務所で彼の復帰を待っている。
ご愛読ありがとうございました。
日本で暗躍していた彼らは、ロシアへと渡り活動していた。しかし、目に余る行動を繰り返した彼らは、ロシア支部だけでなくロシア軍をも巻き込んだ、大規模な戦闘で壊滅状態になったと言う内容だった。
悪魔は全て消滅、生存者は無しと、報告書には記載されていた。
にわかに信じ難い内容だし、隼人には現実味が無かった。
大学から帰った隼人は、アパート入り口の駐輪場に自転車を止めた。
何かを感じた隼人が顔を上げると、アパートから人が出てくるのが見えた。
後姿だけだったが、何故か彼を知っている様な気がする。
隼人は思わず声をかけた、「み、宮田君!」
男は振り返る事無く走り去ろうとしたので、隼人は慌てて彼の後を追いかけた。
烏丸通りに出ると男は、足早に歩いて行く。
さっきまで授業を受けていた大学の方へ向かっている、そう思いながら隼人は、男を追いかけた。
男は京都御所にある児童公園の中に入って行く。
途中で走り出した隼人も急いで公園に入ったが、男の姿を見失った。
“近くに居る。それより、彼に会う覚悟は出来ているのか”、頭の中で龍が語り掛けて来た。
「正直、分からない。覚悟より先に、彼と話をしたい」
“後悔する事にならなければ良いが、彼はあの木陰の中に居る”
龍に教えられた場所で足を進めると、宮田が姿を現した。
彼の顔を見た隼人は、懐かしく感じる。最後に見たアモンと化した姿では無く、ここに居るのはいつもの彼だった。
「やあ、宮田君だよね。分かるか・・・」
隼人から少し距離を取って立ち尽くす宮田は、「ご、・・・ごめん」
自信なさげに俯く彼は、隼人の知るいつもの宮田だった。
「君が、苦しんでいたのを知らなくて。何もしてあげられなかった」と、隼人は唇を噛んだ。
「こんな事になるとは、思わなかった。ただ、僕を苛めていた奴らに復讐するための力が欲しかっただけなんだ」
「今は、悪魔に支配されていないのか?」
「うん、記憶が曖昧なんだ。ロシアで戦闘になった所までは、何となく覚えているのだけど、気が付いたら京都に居た」
“気を付けろ、隼人。微かだが、悪魔の力を彼の中に感じる”
「宮田君の中には、まだ悪魔が居るんだね?」
「うん、力を使い過ぎたのか、今は大人しくしているみたいだけど。確かに、僕の中に悪魔は存在しているよ」、残念そうに宮田は隼人から目を逸らした。
「何とかならないのか。何か、悪魔を追い出す方法とか」
“無理だぞ! 彼の場合は、魂を悪魔に捧げたのだ。悪魔から解放される方法は、残念だが無い。死んでも彼の魂は、アモンと共に地獄に落ちてしまう。永遠の苦しみが、彼を待っているのだ”
「クッソー、じゃあ、どうすれば良いんだよ!」、両手を握りしめた隼人は、険しい表情で叫んだ。
「お、小坂君? 大丈夫?」
驚く宮田の姿に、隼人は胸が苦しくてたまらなかった。
龍に聞くまでもなく、悪魔に魂を売ってしまった宮田を助ける術が無い事など、知っていたからだ。それでも、彼を救い出したかった。
「取り乱してしまって、ごめん」
じっと隼人を見つめていた宮田は、首を振った。
「小坂君だけが、友人として接してくれた。君にお願いがあって来たんだ」
「君を助けたい気持ちはあるけど、僕には何も出来ないよ」
「いいや、君にしか頼めない。おぼろげな記憶だけど、悪魔と化した僕と君は戦っていたよね」
「えっ、あの時、アモンと戦っている時の事を知っているのか?」
「ああ、薄い光に包まれた君は、もの凄い力で戦っていたよね」
「戦っていた。誰にも話した事は無かったけど、僕には龍の力があるんだ」
「やっぱり、そうか。凄いね、小坂君は」
「凄くないよ。そんな力があっても、君を救う事が出来ない」
「そんなこと無いよ。友人の君だから、頼みたい。・・・僕を殺してくれないか」
「正気か? そんな事しなくても」
「もう手遅れなんだ。僕自身が良く分かっている。悪魔の力が弱い今だからこそ出来る事なんだ。お願いだ小坂君、僕を解放してくれないか」
「くっ、どうして。どうして僕なんだ・・・」
“隼人、彼を解放してやれ”
俯いた隼人が、薄い金色の光に包まれた。
「やっと、解放される。何度も死のうとしたけどね、どうやっても僕の中に居る悪魔に邪魔されるんだ」、ゆっくりと隼人の方へ宮田は歩いてくる。
こんな終わり方で良いのか悩む隼人の腕を両手で取った宮田は、自分の腹部に彼の手を当てた。
“お前が出来ないなら、俺が力づくでやるぞ!”、頭の中で龍が叫ぶと腕に力が集まった。
「ダメだ、こんな終わり方を望んでいない」、自分の意思に関係無く体の動きを止める事は、出来なかった。
ぐはっ、生温かい感触を腕に覚えた隼人に宮田がもたれかかって来た。
「ああ、何処で間違ったんだよ。君を殺してまで、悪魔を退治しないといけないのか」、悔しくてたまらない隼人の目から涙が流れた。
「有り難う、うっ・・・、これで良かったんだよ」
宮田の体から黒い影と化したアモンが出て来た。
「ぐわっ・・・、人間め、自ら死を選ぶとは、何度でも蘇ってくれるわ」、そう言い残してアモンは、地面の中に吸い込まれて行った。
「宮田・・・君。おい、目を覚ましてよ」
隼人に抱きかかえられた宮田は、腕をだらりと下げた。
暗くなった公園の中で、隼人は泣き叫びながら彼の名前を何度も呼んだ。
「あれから、大分経つよな」、椅子に座る正人は、背中を伸ばし天井を眺めた。
窓から入る心地よい風に吹かれながら、長老と四郎がソファで寝ている。
キーボードを叩く手を止めた茜は、「そうね、でも隼人君なら大丈夫だと思うわ。きっと、立ち直って元気な姿を見せてくれるわよ」
「だよな、桜も押しかけ女房気取りで、隼人のアパートに出入りしているし。大丈夫だよな」
姿勢を正した正人は、隣の席に座る茜に笑顔で答えた。
宮田との件で心にダメージを受けた隼人に、暫く仕事から離れて日常生活を楽しめと勧めたのは正人だった。
早く元気になって戻ってきて欲しい、そんな気持ちで正人と茜は事務所で彼の復帰を待っている。
ご愛読ありがとうございました。
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