有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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吸血鬼達の反乱 ④

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 朝九時、京都駅はビジネスマン、学生、観光客と大勢の人で混雑していた。
 東京行きの新幹線のぞみは、スーツ姿のサラリーマン達がほとんどの席を占めていた。平日の利用客は、観光客より仕事で利用する人の方が多い。
 道中、寝ていた方が良いと言われたが、眠くならなかった隼人は、ボーと窓の外の景色を眺めていた。名古屋を通過してから暫くして、湖の中に鳥居が立っているのが見えたので、不思議に思いグーグルで検索すると、浜名湖と表示された。そこから富士山を眺めた所までは覚えていたのだが・・・。
 品川に到着する寸前で隼人は、正人に体を揺すられ起こされた。
「おーい、隼人、起きろよ。そろそろ着くぞ」
「うーん、もう着いたのですか? 結構、早かったですね」
「新幹線なら東京までは、直ぐだよ。次は、山手線に乗るからな」
 通勤ラッシュの時間帯は疾うに過ぎていたが、それでも品川駅の構内は、人で埋め尽くされていた。新幹線口の改札を出た隼人は、はぐれないように正人の背中を追いかけた。
 山手線で新宿まで出て小田急線に乗り換えた二人は、成城学園前で電車を降りた。

 閑静な住宅街で大きな家が多いなと、キョロキョロしながら首を左右に振る隼人は、お上りさんに見える。そんな彼の姿に正人は、口元が緩んだ。
「着いたぞ、ここだ」
「本当に吸血鬼は、こんな所に住んでいるのですか? 立派な建物ですが」
 首を反らしながら隼人は、建物を見上げた。
 鉄製の門扉の向こうに見えるレンガ色の洋館は、姿を隠すかのように蔦を絡めている。正人は、玄関のインターフォンを押した。
「京都からお伺いしました、鬼塚です」
「お待ちしておりました。施錠を解除しますので、どうぞ、お入りください」
 ガチャッと音がすると、正人は門を開けて玄関へと進む。
 門を抜けると中庭を通り過ぎて、彼は玄関のドアをノックし開けた。
「お待ちしておりました、鬼塚様」、礼服を着る年配の男性が深々と頭を下げた。
「急にお伺いして、申し訳ありませんでした」
「いいえ、一条様もお会いするのを楽しみにしておられますよ。どうぞ、こちらへ」
 正人と隼人は、応接間に通され主が現れるのを待つ。
 静寂に包まれる部屋、大きな置時計の針の音だけが聞こえてくる。
 重苦しい空気に緊張した隼人は、息苦しくなった。
「お久しぶりです、鬼塚君」
 そう話しながら部屋に入って来たのは、茶色い髪の毛をオールバックにした青白い顔色の男性だった。黒色の着物を着こなす彼は、正人と隼人に席に座る様促した。
「お久しぶりです、一条様」
「もう、あれから十年は経ったのかな。当時に比べると、大分、落ち着いたようだね。良い顔つきになったな」
「お恥ずかしい話です。あの頃は、若くて無鉄砲でしたからね」
「ふふふ、懐かしいな。そちらの若者は?」
「彼は、一緒に仕事をしている小坂隼人です」、正人に紹介された隼人は、座ったまま軽く会釈した。
「ふーん、面白い。人の様で、人にあらず。でも、やっぱり人だな」
「龍です。彼の中には、龍が居ます」
「えっ!」、そんな簡単に正体を明かしても良かったのと、言いたそうに隼人は、正人を見つめた。
 不安そうな顔をする隼人に正人は、顔を近づけ小声で話した。
「大丈夫だよ、彼は信用できる人物だから」
「ふっ、心配かな、小坂君」、隼人は一条の瞳に吸い込まれそうな感覚になる。
「いえ、正人さんが大丈夫と言うなら。僕も信用します」
 軽く頷いた一条は、目を閉じた。腕を組み再び目を開けた彼は、「鬼塚君から聞いていると思うが、私は吸血鬼だよ。もう、百年以上、この国に住まわせて貰っている。我々純血種は、今まで君達人間と共存してきた、そしてこれからも共存していくと決めている。結局、お互いに争った所で、何の解決策も見いだせなかった。もう既に争いの歴史は、終わっている」
 真っすぐ正人達の目を見て話す一条は、嘘を付いている様には見えなかった。長く生き、人との争いをも経験している彼らの導き出した答えが『共存』だった。

「それで、私が今日こちらに来た理由ですが・・・」
 知っていると言わんばかりに一条は、「分かっている、我々の眷属が迷惑をかけている件だな。この地だけでなく大阪まで幅を広げようとするとは・・・」
「やはり、知っておられましたか。もし、良ければ何が起こっているのか、教えてくれませんか」
 ふうと大きく息を吐いた後、一条は目を細めた。
「私の孫娘が、反乱を企てたのだよ。丁度、一年前から吸血鬼の世界を作ろうと、無作為に眷属を増やし人を襲わせ始めた。我々も裏で彼女を捕えようとしていたのだが、未だに見つけられていない。このような状況になったのは、我々の責任だ」
「孫娘とは、あの御淑やかだった静か?」
「そうだよ、鬼塚君。もう、彼女は君が知る静かでは無いと思う。欲望の為に凶暴な吸血鬼へと成り下がってしまった」
 二人の会話から、今回の事件の首謀者は一条静だった。正人は、十代の頃の彼女を知っている様子で、複雑な表情を見せていた。
 応接間のドアが開き、玄関で案内してくれた年配の男性が立っていた。
「お話し中、失礼します。緊急のお知らせが入ってまいりましたので」
瀬能せのうか、どうした?」
「こちらです」と、瀬能はメモを一条に渡した。
 テーブルに肘を付き、額に手を当てた一条は、「今度こそ、捕らえられるのか?」
「何か、問題でも起こりましたか?」
 チラッと、正人の方を見た一条が口を開く、「静が動き出したようだ。眷属達が、都内の至る所で人間を攫っていると、警視庁から連絡が来た。今度こそ、終わりにしてくれよう」
「よければ、俺達もお手伝いしますが?」
「協力してくれるのか? 我々の問題とは言え、君の協力は心強い。頼んでも良いのか?」
「もちろんですよ。若い頃、助けてもらった恩もありますし。良いだろ、隼人」
「ええ、僕は正人さんに従います」
「それじゃあ、決まりだな」
「詳しい事は、君人きみひとが知っている。彼と一緒に、静の暴走を止めてくれ」
 音も気配も何も感じなかった。
 部屋の片隅に白髪の男性が急に現れたので、隼人は驚いた。
 白いシャツから胸元が見えそうな格好の君人は、目鼻立ちの整った女性とも男性とも区別し難い中性的な顔立ちをしている。若く見えるが、年齢は正人と近い。
 君人が現れると席を立ちあがった正人は、懐かしい友人と固く握手をしながら肩を抱き合っていた。
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