有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

文字の大きさ
上 下
82 / 86

吸血鬼達の反乱 ②

しおりを挟む
「これで、何をするつもりなの? まるで吸血鬼退治をする見たいじゃない」
 正人から頼まれて聖水を持って来た桜は、二リットルのペットボトルを二本、テーブルの上に置いた。
「その通りだ! 吸血鬼退治の仕事が入ったんだよ。どうやら、大阪市内の繁華街に潜んでいるらしい」
「どうやって、吸血鬼を退治するのですか? 吸血鬼は知っていますが、詳しい知識が無いので、分からない事だらけですよ」と、隼人はペットボトルに入っている聖水を水鉄砲に入れた。
 彼が手にする水鉄砲は、通販サイトで見つけた1500ミリリットル入る大容量の水鉄砲だ。エアー圧縮式で、飛距離は10メートルと説明書に書いてあった。
「ふーん、私も詳しい事は知らないけど。聖水と十字架やニンニクが嫌いだとか、杭で心臓を突くと死ぬとかじゃないの?」と、桜は、机で資料を読む正人を見た。
「吸血鬼は、だな。映画とかの題材に良くなるから、そこからの知識が正しいと思いがちになるが、実は少し違うんだ」

 正人が話す吸血鬼は、こうだ。
 ニンニクや強い香草などは、苦手としているだけ。
 日光を嫌うが、浴びても灰にはならないし、死なない。
 聖水を浴びせると火傷を負わせる事が出来るが、簡単には殺せない。
 十字架を見せても、触れさせても、それだけでは何の効能も無い。それを使う者の信仰が、重要らしい。
 確実に殺す方法は、心臓に杭を打つ、首を切り落とす、死体を燃やす、銀の弾丸を心臓に撃ち込む。

「十年ほど前に退治したことあるが、その時は、首を落として燃やしたよ」
「うーん、聞いていると、残酷な方法を取るのね」、桜はブルッと身震いした。
「それじゃあ、桜が持って来た聖水だけでは、倒せませんね」と、隼人は手にする水鉄砲のトリガーを少し引いた。
 水鉄砲から勢いよく水が飛び出ると、天井から水滴が落ちて来る。コラッと、茜は隼人を叱った。
「何をやってんだか。まあ、聖水は、奴の動きを止めるために使うのさ。吸血鬼を捕まえたら、素早く首を切って四郎に燃やしてもらおうかと考えていた」
「今日は、私も正人も、二人とも夜勤になるのかしら」
「お願いできるか? 深夜手当を付けるから」
「僕は、大丈夫ですが・・・。夜勤だけでなく、肉体労働になりそうだけど、桜は良いのか?」
「もちろん、任せて。私、こう見えても運動神経は良い方だもの」と、肘を曲げて小さな力こぶを作って見せた。
「今晩の九時から現地に入ろうか。それまでは、準備をお願いする」
「先に晩御飯を食べてから行きたいけど、正人の奢りで何か食べさせてよ」、おねだりをする桜は、後ろから椅子に座る正人の肩を揉んだ。
「俺にたかるのかよ。仕方が無いな、中華だぞ。それ以外は、高くつくから駄目だぞ」と、正人は、懐の財布を取り出し悲しそうに中身を確認した。 
 
 大阪市北区の商店街は、平日だと言うのに多くの人で賑わっていた。
 つなぎ姿で水鉄砲を背負う隼人は、目立っている様に感じ、気恥ずかしそうに商店街の中を歩いていた。
 そんな彼に周囲は、全く関心を示さない。彼らの姿は、仮装したバカなカップルとしか目に映っていないのだ。
 それに比べ桜は、何とも思っていないのか、堂々と闊歩する。
「しっかり、周囲を見ていてね。怪しい、奴が居たら教えて」
「ああ、分かった。けど、会社帰りの人が多いね」
「でも若い人が中心ね。大学生らしい人の姿も多いわよ」
 すれ違う人と肩がぶつからないように、気を付けながら並んで歩く二人の前で、金色のネックレスを胸元で光らせる若い男が、会社帰りの女性に声をかけていた。
 怪しいと言えば怪しい雰囲気の男だが、ただ女性をナンパしているだけなのかと、何気なく隼人は彼を見つめた。
 女性を追いかける彼が近づいて来ると、すれ違いざまに嫌な匂いが鼻に付いた。
 香水で誤魔化している様だったが、彼が漂わせる匂いは死臭だ。
「桜、今の人、普通の人じゃないよ」
「えっ、誰? どの人なのよ」、慌てて桜は、振り返り人混みを見た。
「さっき、女性をナンパしていた若い男だよ」
 立ち止まり注意深く人混みを凝視する桜は、しつこく女性に声をかける男性を見つけた。
「居た! 彼ね、あの、今女性に声をかけている男性ね」
「そうだ、彼だよ」
 耳のイヤホンを手で押さえながら桜は、「正人、怪しい奴を見つけたわよ」
「分かった、直ぐに行くから。二人とも、深追いして悟られるなよ」
「了解!」と、隼人と桜は声を揃えた。

 チェーン展開する居酒屋の前で待っていると、正人がやって来た。いつもの黒色のスーツ姿の彼は、人混みに馴染み過ぎて二人とも傍に来るまで気が付かなった。
「報告のあった怪しい男は、今どこだ?」
「女性と二人で、この店に入って行ったわ」と、桜は居酒屋の看板を見上げた。
「入ったばっかりなので直ぐ出てこないと思いますが、此処で待ちますか?」
 ポケットに両手を突っ込む隼人は、まだ自分の格好を気にしているのか、俯きながら周囲を見渡した。
「いや、二人は居酒屋に入って男を監視しろ。俺は、此処で長老と四郎と一緒に見張っているから」
 明らかに乗り気でない隼人は、気持ちが顔に出てしまった。そんな事には、お構いなしの桜は、彼の腕を掴み強引に引っ張った。
「分かったわ。じゃあ、中に入ろうか」
 猫の姿の長老は、呆れた様子でニャーとネコらしい鳴き声を出すと、のそのそと入り口近くの物陰まで移動して箱座りした。
「あの二人、だいじょうぶかな」と、正人の肩に乗る四郎が彼の耳元で呟いた。
 
 店の中に入った隼人と桜は、女性を口説く怪しい男の後ろの席に案内された。
 隼人は、椅子にもたれながら聞き耳を立てていた。
「何にする? 私は、抹茶和風パフェにしようかな」、桜は話しかけても返事をしない隼人を見た、「ちょっと、聞いているの? 隼人は、何にするの」
「ご、ごめん。僕は、コーラで良いよ」と、隼人はメニューも見ずに適当に答えた。
「もう、仕事バカ。じゃあ、注文するからね」
「ありがとう、でも少し声のトーンを下げて欲しいな」と、桜を嗜めるような仕草を取った。
「ふん、知らない」と、膨れっ面になった桜は、顔を横に向けた。
 イヤホンから聞こえる隼人と桜の会話を聞いた正人は、「本当に隼人は、鈍感だよな」と、小声で話した。
「人のことは、言えないよ。正人もじゅうぶんドンカンだし、仕事バカだよ」と、四郎は正人の頭を撫でた。
「言葉遣いは悪くないけど、四郎は、痛い所を突くね」
 長丁場にならなければ良いがと思いながら正人は、シャッターを閉める店先でしゃがみ込み、銜えたタバコに火を付けた。

 待ちくたびれた正人が、大きな欠伸をした時、イヤホンから隼人の声が聞こえた。
「男が女性を連れて店を出ます。今、レジで会計をしています」
 立ち上がった正人は、「店から出て来たら、そのまま彼らを尾行するから、お前達も直ぐに来てくれ」
「分かりました、僕たちも会計後に直ぐに追いかけます」と、隼人の声の後に桜の声が聞こえる、「待ってよー。直ぐに食べちゃうから」
 隼人のため息が聞こえ、「どうしてこんな時に、そんなものを頼んだのか」
「仕方が無いでしょ、限定よ。今しか食べられないこのふわトロプリンが、どうしても食べたくなったの」
「もう、分かったから。早く食べて、正人さんを追いかけようよ」
 イヤホンから聞こえる二人の痴話げんかに、吹きだしそうなるのを我慢して正人は、店から出て来た男女の後を追いかけた。
 男は足元のふらつく女の肩を抱きながら、アーケードに覆われた商店街の通りを歩いて行く。途中で道の端の方へ移動して行くと、左に曲がり路地裏へと入って行った。
 正人は、気付かれないように注意しながら路地を覗き込むと、足を止めた男は女を壁にもたれさせて、彼女の髪を掻きあげていた。
 追いついた隼人と桜は、正人と同じ様に路地裏を覗き込む。
「どうですか、正体を現しましたか?」と、隼人が声をかけると、シーと正人は指を口に当てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...