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吸血鬼達の反乱 ①
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まだ暑い日差しが降り注ぐ日中だと言うのに。
地下1階に着いたエレベーターの扉が開くと、正人と隼人の体に纏わり付く様に、冷気が押し寄せて来た。
明るく照らされる廊下に、二人の足音が木霊する。
正人が霊安室のドアの前で立ち止まると、冷気と一緒に微かなお線香の香りが流れて来た。
部屋に入ると、白衣を着る背の低い白髪の男性と陰陽師の賀茂が、冷たいステンレス製のテーブルに横たわる遺体を調べていた。
「遅くなりました、問題は、その遺体ですか?」、正人は、遠目で白いシーツが被せられた遺体を見た。
「急に呼びだして、悪かった。また、あれが出たみたいなのだ」
それだけの言葉で理解したのか、正人は賀茂の目を見て小さく息を吐いた。
「それが本当なら、十年ぶりですかね。あれ以来、彼らがしっかりと管理しているものだと思っていましたよ」
「時間が経てば、ほころびも出てくるさ。彼らだけに責任を押し付けられない」
カツカツと足音を立て彼らに近づいた正人は、遺体の足元で立ち止まった。
白衣を着る男性が正人の方を見ると、彼はサングラスを外し頷いた。
フワッと遺体を覆うシーツが宙を舞う、ステンレス製のテーブルの上には、干からびた遺体が横たわっていた。体中の血液と体液を全て失った遺体は、身を縮め固まっていた。
本物の遺体なのか、作り物なのか見分けがつかない隼人は、正人の隣に立ち遺体に顔を近づけた。
「隼人君、まだ検死中だから触ったら駄目だよ」
「分かりました、これは、本当に人間の遺体ですか? 作り物の様に見える」、隼人は、物珍しそうに遺体を眺めていた。
「ははは、本物だよ。博物館のミイラと違い、まだ肌に弾力が残っているからね」
賀茂は、ピンセットで遺体の腕を軽く押して見せる。肌には、若干の弾力が残っていた。確かにミイラの様に見えるが、完全に干からびている訳ではない。
少し間を開けてから、咳ばらいをした賀茂が口を開いた。
「紹介が遅れたな、彼は、監察医の本田教授だ」
「初めまして、本田です」、賀茂に紹介された本田は、無表情で軽く頭を下げた。
「始めまして。私は、鬼塚です。彼は、私のパートナーの小坂です」
賀茂と監察医の本田教授、それと正人と隼人の四人で遺体を囲む。
これから、大阪大学医学部に運び込まれた奇妙な遺体の謎を解き明かしていく。
「もちろん、鬼塚君には、見当はついているよな」
「吸血鬼の仕業かと・・・思います」と、賀茂の問いに答えた正人は、目を凝らして遺体の首筋を見た。
「鬼塚君が探しているのは、これかな。牙の跡は、此処ですよ」
本田教授はゴム手袋をはめた手で遺体を横に動かし、首の付け根辺りをピンセットで差した。そこには、小さな穴が二つ並んでいる。
「これは? まさか、吸血鬼に血を吸われた跡とか言いませんよね」と、驚いた様子の隼人は、正人と賀茂を見て話した。
「隼人君、吸血鬼はこの日本にも居るのだよ」、吸血鬼を肯定する賀茂の目は、笑っていない。隼人は、鋭い目と白い肌を持つ彼の方が、吸血鬼を連想させると思ってしまった。
海外から人の往来が容易に出来るようになった今日、外国産の物の怪が日本に入って来る可能性は高い。しかし、何時から日本に吸血鬼が住む様になったのだろうかと、隼人は腕んを組んで考えた。
正人は、考え込む隼人の頭をポンと、軽く手のひらで叩いた。
「不思議だろ、日本に吸血鬼が居るなんて」
「はい、何時から居るんですか?」
「正式な記録では、明治維新後らしい。開国後に入ってきた外国人の中に、吸血鬼も居たらしい」
「へえー、そんな前から居るんですか。でも、正人さんの口ぶりでは、誰が吸血鬼か知っているようですが」
「純血種が、東京で平穏に暮らしている」
「はぁ? 吸血鬼が、人と共存している? 冗談でしょ」
「嘘みたいだろう! でもな、これが現実なんだ。面白いだろ」と、得意げに語る正人は、隼人の背中を叩く。
「それじゃあ、この遺体の犯人は、東京で暮らす純血種ですか!」
「それが、そんなに簡単な話じゃないんだよな。だから、賀茂さんに呼ばれたんだけど」と、肩をすぼめて感心する賀茂に目をやった。
「私の出番かな。吸血鬼に関する大まかな説明は、鬼塚君の話した通りだ。しかし、犯人は純血種の吸血鬼では無い。純血種からは程遠い、理性を失い本能の赴くままに人を襲う、彼らの眷属の仕業だよ」
小さく手を上げた隼人は、「うーん、すみません。今一、理解が出来ません」
「この事件を起こしたのは、化け物と化した吸血鬼だ。吸血鬼の一族は、血が薄くなればなるほど、理性を失い生血を求めて人を襲う」
賀茂の言葉を引き継ぐように本田教授は、「原因は分からないが、そんな吸血鬼が大阪市内の繁華街の路地裏で、ここに横たわる彼女を襲ったのだよ」
「被害者は、田中涼子 二十五歳 会社員だ。彼女は、男と二人で繁華街の居酒屋で飲んでいた所までは、防犯カメラから分かっている。今回の依頼は、犯人である吸血鬼の排除だ」、話を終えた賀茂は、資料を正人に手渡した。
地下1階に着いたエレベーターの扉が開くと、正人と隼人の体に纏わり付く様に、冷気が押し寄せて来た。
明るく照らされる廊下に、二人の足音が木霊する。
正人が霊安室のドアの前で立ち止まると、冷気と一緒に微かなお線香の香りが流れて来た。
部屋に入ると、白衣を着る背の低い白髪の男性と陰陽師の賀茂が、冷たいステンレス製のテーブルに横たわる遺体を調べていた。
「遅くなりました、問題は、その遺体ですか?」、正人は、遠目で白いシーツが被せられた遺体を見た。
「急に呼びだして、悪かった。また、あれが出たみたいなのだ」
それだけの言葉で理解したのか、正人は賀茂の目を見て小さく息を吐いた。
「それが本当なら、十年ぶりですかね。あれ以来、彼らがしっかりと管理しているものだと思っていましたよ」
「時間が経てば、ほころびも出てくるさ。彼らだけに責任を押し付けられない」
カツカツと足音を立て彼らに近づいた正人は、遺体の足元で立ち止まった。
白衣を着る男性が正人の方を見ると、彼はサングラスを外し頷いた。
フワッと遺体を覆うシーツが宙を舞う、ステンレス製のテーブルの上には、干からびた遺体が横たわっていた。体中の血液と体液を全て失った遺体は、身を縮め固まっていた。
本物の遺体なのか、作り物なのか見分けがつかない隼人は、正人の隣に立ち遺体に顔を近づけた。
「隼人君、まだ検死中だから触ったら駄目だよ」
「分かりました、これは、本当に人間の遺体ですか? 作り物の様に見える」、隼人は、物珍しそうに遺体を眺めていた。
「ははは、本物だよ。博物館のミイラと違い、まだ肌に弾力が残っているからね」
賀茂は、ピンセットで遺体の腕を軽く押して見せる。肌には、若干の弾力が残っていた。確かにミイラの様に見えるが、完全に干からびている訳ではない。
少し間を開けてから、咳ばらいをした賀茂が口を開いた。
「紹介が遅れたな、彼は、監察医の本田教授だ」
「初めまして、本田です」、賀茂に紹介された本田は、無表情で軽く頭を下げた。
「始めまして。私は、鬼塚です。彼は、私のパートナーの小坂です」
賀茂と監察医の本田教授、それと正人と隼人の四人で遺体を囲む。
これから、大阪大学医学部に運び込まれた奇妙な遺体の謎を解き明かしていく。
「もちろん、鬼塚君には、見当はついているよな」
「吸血鬼の仕業かと・・・思います」と、賀茂の問いに答えた正人は、目を凝らして遺体の首筋を見た。
「鬼塚君が探しているのは、これかな。牙の跡は、此処ですよ」
本田教授はゴム手袋をはめた手で遺体を横に動かし、首の付け根辺りをピンセットで差した。そこには、小さな穴が二つ並んでいる。
「これは? まさか、吸血鬼に血を吸われた跡とか言いませんよね」と、驚いた様子の隼人は、正人と賀茂を見て話した。
「隼人君、吸血鬼はこの日本にも居るのだよ」、吸血鬼を肯定する賀茂の目は、笑っていない。隼人は、鋭い目と白い肌を持つ彼の方が、吸血鬼を連想させると思ってしまった。
海外から人の往来が容易に出来るようになった今日、外国産の物の怪が日本に入って来る可能性は高い。しかし、何時から日本に吸血鬼が住む様になったのだろうかと、隼人は腕んを組んで考えた。
正人は、考え込む隼人の頭をポンと、軽く手のひらで叩いた。
「不思議だろ、日本に吸血鬼が居るなんて」
「はい、何時から居るんですか?」
「正式な記録では、明治維新後らしい。開国後に入ってきた外国人の中に、吸血鬼も居たらしい」
「へえー、そんな前から居るんですか。でも、正人さんの口ぶりでは、誰が吸血鬼か知っているようですが」
「純血種が、東京で平穏に暮らしている」
「はぁ? 吸血鬼が、人と共存している? 冗談でしょ」
「嘘みたいだろう! でもな、これが現実なんだ。面白いだろ」と、得意げに語る正人は、隼人の背中を叩く。
「それじゃあ、この遺体の犯人は、東京で暮らす純血種ですか!」
「それが、そんなに簡単な話じゃないんだよな。だから、賀茂さんに呼ばれたんだけど」と、肩をすぼめて感心する賀茂に目をやった。
「私の出番かな。吸血鬼に関する大まかな説明は、鬼塚君の話した通りだ。しかし、犯人は純血種の吸血鬼では無い。純血種からは程遠い、理性を失い本能の赴くままに人を襲う、彼らの眷属の仕業だよ」
小さく手を上げた隼人は、「うーん、すみません。今一、理解が出来ません」
「この事件を起こしたのは、化け物と化した吸血鬼だ。吸血鬼の一族は、血が薄くなればなるほど、理性を失い生血を求めて人を襲う」
賀茂の言葉を引き継ぐように本田教授は、「原因は分からないが、そんな吸血鬼が大阪市内の繁華街の路地裏で、ここに横たわる彼女を襲ったのだよ」
「被害者は、田中涼子 二十五歳 会社員だ。彼女は、男と二人で繁華街の居酒屋で飲んでいた所までは、防犯カメラから分かっている。今回の依頼は、犯人である吸血鬼の排除だ」、話を終えた賀茂は、資料を正人に手渡した。
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