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遊園地 ③
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アドベンチャーゾーンを抜けた彼らは、最後に城の中を調査する。
中に入ると、何とお化け屋敷になっていた。外観との違和感に二人は、驚くより笑いが込み上げて来た。
「どうして、お城がお化け屋敷なのよ」
「凄い発想だね。当時は、これでお客さんが楽しんでくれると思っていたのかな」
桜は、入り口から懐中電灯で中を照らす、「結構、広そうね」
「桜は、お化け屋敷とかは大丈夫なのか?」
「あら、女の子扱いしてくれるの。嬉しいけど、本物を見ているから、お化け屋敷を怖いと思った事は無いわよ」
「確かにそうだよな。本物の方が怖い、お化け屋敷は背後からとか、見えない所から驚かすために、人や人形が出て来るだけだもんな」
「そうよ、だからチャチャッと調査して終わらせましょう」
桜を先頭に暗闇に包まれるお化け屋敷の中に入る。狭い通路を懐中電灯の光を頼りに進んで行くと、隼人の足に紐のような物が引っかかった。
ドサッと、桜の目の前にアトラクションで使用していた血まみれの落ち武者が天井から落ちて来た。
「キッ、キャーッ」、桜の叫び声が響き渡った。
「ごめん、ごめん。何かに引っかかって、引っ張ったら人形が落ちて来たよ」
「驚かせないでよ」、振り向いた桜は口をとがらせる、「バカ!」
平謝りをした隼人が柱に手を伸ばしてもたれかかると、ガチャと音がした。
今度は、桜の横から骸骨の人形が通路に向かって飛び出す。
「うっ、・・・」、声に出して驚く姿を見せたくなかったのか、桜は涙目で歯を食いしばった。
「わ、わざとじゃないから。とにかく、ごめん」
「ふっ、こ、これくらいで怯む私じゃないから」、心なしか先に進もうとした桜の足が震えている様に見えた。
イヤホンから正人の声が聞こえて来る。
「ガッ、ガ・・・今どこを調査しているんだ? GPSの信号では城のようだが」
「今は、城の中の調査をしている所です」
「隼人か、何も居ないと思うけど、気を抜くなよ」
「了解しました」
正人との話を終えた隼人が前を見ると、桜は懐中電灯で天井付近を照らしている。何が気になるのか、しきりに懐中電灯を左右に動かしていた。
「桜、何か見つけたのか?」
「動いたの。何か分からないけど、天井付近に何かいたの」
隼人も手にする懐中電灯を上にすると、桜の話す場所を一緒に照らした。
「何もいない様だけど」
「確かに何かいたの! 絶対に見間違いじゃないから」
カサカサカサ、何かが移動するような音が聞こえる。
「し、静かに。何か聞こえる」、指を口に当てた隼人は、音のする方向に懐中電灯の光を当てると、丁度桜の真上に巨大なクモが天井に張りついていた。
「桜、ちょっと」
「何よ、何か分かったの」
「黙って、ゆっくり俺の所に来て」
「もう、訳わかんない」と、ゆっくりと指示したのにも関わらず、桜は腰に手を当てて普通に歩いて来た。
虫嫌いの桜を気遣って、ゆっくり来いと言ったのに普通にドカドカと歩いてくる桜を見た隼人は、ため息まじりで目を覆った。
天井に張りつくクモは、逃げる獲物を捕らえようと、尻から出した糸を天井に貼り付け音を立てずにスーッと降りて来た。
「もう、良いよ。そのまま、振り向かず走れ!」
「えっ、・・・」、振り向くなと言われると振り向いてしまうのが、人の心情。
振り向いた桜は、目の前に姿を現した胴体だけで3メートル近くあるクモを見て、腰が抜けそうになった。
「いっ、・・・キャー」、走り出した桜は隼人の後ろに回り、彼のつなぎを掴むと顔を背中に押し当てた。
「うっ、うぐ、うっ、うっ・・・」、桜のむせび泣く振動が背中から伝わってくる。
「だから、振り向くなと言ったのに」
隼人は、直ぐに龍神化する。ほのかな光に包まれる隼人の背中に触れる桜は、どこか優しく温かいと感じる。隼人と龍の魂の鼓動が生み出す光、桜は隼人の心に触れているような感覚になった。
土蜘蛛は長い手足を糸に掛けると、尻を隼人と桜の方に向けて糸を出す。
咄嗟に隼人は、桜を片手で抱えると後ろに飛んだ。
ガッシャーン、生首を並べる演出用に作られた長テーブルの上に乗った瞬間に、二人はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。
「桜、どいてくれないか」
「ご、ごめんなさい」、馬乗りになった桜は、慌てて立ち上がった。
髪の毛を掻きながら、仕切り直しと言わんばかりに、隼人は土蜘蛛に向かって行く。糸にぶら下がる土蜘蛛は、ユラユラと前後左右に動きながら、隼人の拳を避ける。素早い動きでは無いのに、攻撃が当たら無い隼人は、イライラした。
「クッソー、本体に当たらないなら、糸を切ってやるよ」
龍の爪を放ち天井から伸びる糸を切ると、地面に落ちた土蜘蛛は体をすぼめた。
「うりゃあ・・・」、隼人は頭上から右の拳で土蜘蛛の頭を潰そうとする。
カチカチ、カチカチと、口から音を出した土蜘蛛は、前へジャンプした。
宙で土蜘蛛は体を曲げると、桜目がけて糸を放つ。
土蜘蛛の糸は、重く勢いがある。桜に当たると、そのまま後ろに飛ばされ、彼女は壁に貼り付けられた。
「何よこれ、ベタベタするよー。気持ち悪い!!」、壁に貼り付く桜は、身動きが出来ず足をバタバタさせ壁を蹴った。
拳で地面のコンクリートを砕いた隼人は、後ろから攻撃しようと土蜘蛛に襲い掛かったが、ピョンと上に土蜘蛛はジャンプして避けてしまった。
「うっ、お、おい、止まらない」、勢い余った隼人は、壁に貼り付く桜に正面から抱き付いた。
「もう、隼人、どんくさい!」
「止まらなかったんだよ。直ぐに離れるから」、隼人は体を動かそうとしたが、粘着力と弾力性の高い糸で動きが封じられた。
バシッと、隼人の後ろから土蜘蛛の放った糸が当たった、「し、しまった」
久々の獲物を捕らえた土蜘蛛は、嬉しいのかしきりに口をカチカチと鳴らす。
「ちょっと、顔が近いわよ」
「うるさいな、しょうがないだろ」、隼人は顔を横に向けた。
「何とか出来ないの」
「首から上しか動かせないけど、何とかしないとな」
土蜘蛛はゆっくりと二人に近づき、隼人の真後ろから覆いかぶさって来た。二人の内どちらかを保存しようと、糸でグルグル巻きにしたい様だ。
ドッカーンと、壁を打ち壊す音が響き渡った。
無線で隼人と桜のやり取りから、土蜘蛛だと判断した正人が駆け付けて来た。
土蜘蛛は、見た目以上に危険な妖怪だったのだ。
「気を抜くなと言っただろう」、金砕棒を肩に乗せた正人が壁をぶち破り現れた。
「正人、早く助けてよ」
「桜、隼人と一緒に暫くそのまま、大人しくしておけよ」
「どうしてよ、一人で戦うつもりなの?」
「一人じゃないさ、隼人、良く見ておけよ」
新たに現れた獲物に壁から離れた土蜘蛛は、天井に放った糸にぶら下がり、ユラユラと揺れながら正人を見つめる。
正人は、四郎と長老を呼び出した。
「四郎、攻撃して奴の糸を断ち切れ。長老は、奴の動きを封じ込めてください」
ボンと白い煙の中から現れた四郎と長老は、正人の指示通りの攻撃を始める。
高速でクルクル回る四郎の姿が見えなくなると、風の刃が連続で出て来た。
土蜘蛛は天井から垂れ下がる糸を切られると、地面に落ちて体をすぼめる。
猫又の姿になった長老は、大きな前足で土蜘蛛の胴体を踏みつけた。
「よし、良いぞ。仕上げは、俺だな」
胴体を長老に踏みつけられた土蜘蛛は、長い足を延ばし立ち上がろうとする。
「ひゃっ、ひゃっ、儂に踏みつけられて逃げられると思っているのか?」、嫌らしい笑い声を上げた長老は、ペロッと舌を出す。
カチカチと威嚇する土蜘蛛の前に立つ正人は、両手で握りしめる金砕棒を垂直にして上に上げると、土蜘蛛の頭めがけて力一杯叩きつけた。
ガン、ガンと、一回目と二回目は堅い物を叩く音がしただけだった。
三回目でグッシャと、頭がつぶれる音がした。
頭を失った土蜘蛛は、足を痙攣させていたが、絶命していた。
「隼人、自分達だけで倒そうとせず、長老や四郎に協力してもらう事を忘れるな」
「そうだよ、僕たちを呼ぼうね」
「そうじゃ、儂たちは何時でもお前達に協力するのじゃぞ」
「すいません。以後、気を付けます」、反省する隼人に対して桜は、「もう、倒したのなら早く助けてよー」
「桜と正人、二人とも面白い姿だな」、何を考えているのか、正人はポケットからスマホを出して動画を取り始めた。
「な、何しているのよ。こんな所を撮るなんて、ふざけないでよ!」、背中を向ける隼人は、騒ぐ桜の顔しか見えないので何をされているのか分からなかった。
「はっ、ははは。面白いな、じゃあ四郎、二人を助けてやってくれ」
「任せて! えーい」と、二人に巻き付く糸を四郎は、炎で焼き切った。
四郎の放った高温の炎で、土蜘蛛の糸はチリチリと音を立てて溶けてしまった。
まさか火を放たれるとは思っていなかった正人と桜は、ビックリして声が出なかった。地面に座り込み抱き合う二人の周りを四郎が、褒めて、褒めてとはしゃぎながら走り回つていた。
土蜘蛛との戦いで、すっかり忘れていた子供の幽霊の事を思い出したのは、事務所に戻ってからだった。
「そう言えば、二人とも子供の幽霊を見たと言っていたよな」
正人の指摘に隼人と桜はお互い目を合わせて、「あっ」と声を揃えた。
隼人は、気持ちよさそうに仰向けで寝る四郎をブラッシングしながら、「すっかり忘れていた。四郎の炎に気が動転して、頭の中から抜け落ちていた」
「正人が、動画なんか取るからよ!」、正人の椅子の背もたれを後ろから桜は掴むと、椅子を回転させて自分の方へ向けた。
「良いじゃないか、一つぐらい遊園地の思い出が残ったと思えば」
正人は、遊園地にいた子供の幽霊は人に悪戯したり、襲うような真似はしないだろうと、調査報告書に記述をしなかった。
中に入ると、何とお化け屋敷になっていた。外観との違和感に二人は、驚くより笑いが込み上げて来た。
「どうして、お城がお化け屋敷なのよ」
「凄い発想だね。当時は、これでお客さんが楽しんでくれると思っていたのかな」
桜は、入り口から懐中電灯で中を照らす、「結構、広そうね」
「桜は、お化け屋敷とかは大丈夫なのか?」
「あら、女の子扱いしてくれるの。嬉しいけど、本物を見ているから、お化け屋敷を怖いと思った事は無いわよ」
「確かにそうだよな。本物の方が怖い、お化け屋敷は背後からとか、見えない所から驚かすために、人や人形が出て来るだけだもんな」
「そうよ、だからチャチャッと調査して終わらせましょう」
桜を先頭に暗闇に包まれるお化け屋敷の中に入る。狭い通路を懐中電灯の光を頼りに進んで行くと、隼人の足に紐のような物が引っかかった。
ドサッと、桜の目の前にアトラクションで使用していた血まみれの落ち武者が天井から落ちて来た。
「キッ、キャーッ」、桜の叫び声が響き渡った。
「ごめん、ごめん。何かに引っかかって、引っ張ったら人形が落ちて来たよ」
「驚かせないでよ」、振り向いた桜は口をとがらせる、「バカ!」
平謝りをした隼人が柱に手を伸ばしてもたれかかると、ガチャと音がした。
今度は、桜の横から骸骨の人形が通路に向かって飛び出す。
「うっ、・・・」、声に出して驚く姿を見せたくなかったのか、桜は涙目で歯を食いしばった。
「わ、わざとじゃないから。とにかく、ごめん」
「ふっ、こ、これくらいで怯む私じゃないから」、心なしか先に進もうとした桜の足が震えている様に見えた。
イヤホンから正人の声が聞こえて来る。
「ガッ、ガ・・・今どこを調査しているんだ? GPSの信号では城のようだが」
「今は、城の中の調査をしている所です」
「隼人か、何も居ないと思うけど、気を抜くなよ」
「了解しました」
正人との話を終えた隼人が前を見ると、桜は懐中電灯で天井付近を照らしている。何が気になるのか、しきりに懐中電灯を左右に動かしていた。
「桜、何か見つけたのか?」
「動いたの。何か分からないけど、天井付近に何かいたの」
隼人も手にする懐中電灯を上にすると、桜の話す場所を一緒に照らした。
「何もいない様だけど」
「確かに何かいたの! 絶対に見間違いじゃないから」
カサカサカサ、何かが移動するような音が聞こえる。
「し、静かに。何か聞こえる」、指を口に当てた隼人は、音のする方向に懐中電灯の光を当てると、丁度桜の真上に巨大なクモが天井に張りついていた。
「桜、ちょっと」
「何よ、何か分かったの」
「黙って、ゆっくり俺の所に来て」
「もう、訳わかんない」と、ゆっくりと指示したのにも関わらず、桜は腰に手を当てて普通に歩いて来た。
虫嫌いの桜を気遣って、ゆっくり来いと言ったのに普通にドカドカと歩いてくる桜を見た隼人は、ため息まじりで目を覆った。
天井に張りつくクモは、逃げる獲物を捕らえようと、尻から出した糸を天井に貼り付け音を立てずにスーッと降りて来た。
「もう、良いよ。そのまま、振り向かず走れ!」
「えっ、・・・」、振り向くなと言われると振り向いてしまうのが、人の心情。
振り向いた桜は、目の前に姿を現した胴体だけで3メートル近くあるクモを見て、腰が抜けそうになった。
「いっ、・・・キャー」、走り出した桜は隼人の後ろに回り、彼のつなぎを掴むと顔を背中に押し当てた。
「うっ、うぐ、うっ、うっ・・・」、桜のむせび泣く振動が背中から伝わってくる。
「だから、振り向くなと言ったのに」
隼人は、直ぐに龍神化する。ほのかな光に包まれる隼人の背中に触れる桜は、どこか優しく温かいと感じる。隼人と龍の魂の鼓動が生み出す光、桜は隼人の心に触れているような感覚になった。
土蜘蛛は長い手足を糸に掛けると、尻を隼人と桜の方に向けて糸を出す。
咄嗟に隼人は、桜を片手で抱えると後ろに飛んだ。
ガッシャーン、生首を並べる演出用に作られた長テーブルの上に乗った瞬間に、二人はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。
「桜、どいてくれないか」
「ご、ごめんなさい」、馬乗りになった桜は、慌てて立ち上がった。
髪の毛を掻きながら、仕切り直しと言わんばかりに、隼人は土蜘蛛に向かって行く。糸にぶら下がる土蜘蛛は、ユラユラと前後左右に動きながら、隼人の拳を避ける。素早い動きでは無いのに、攻撃が当たら無い隼人は、イライラした。
「クッソー、本体に当たらないなら、糸を切ってやるよ」
龍の爪を放ち天井から伸びる糸を切ると、地面に落ちた土蜘蛛は体をすぼめた。
「うりゃあ・・・」、隼人は頭上から右の拳で土蜘蛛の頭を潰そうとする。
カチカチ、カチカチと、口から音を出した土蜘蛛は、前へジャンプした。
宙で土蜘蛛は体を曲げると、桜目がけて糸を放つ。
土蜘蛛の糸は、重く勢いがある。桜に当たると、そのまま後ろに飛ばされ、彼女は壁に貼り付けられた。
「何よこれ、ベタベタするよー。気持ち悪い!!」、壁に貼り付く桜は、身動きが出来ず足をバタバタさせ壁を蹴った。
拳で地面のコンクリートを砕いた隼人は、後ろから攻撃しようと土蜘蛛に襲い掛かったが、ピョンと上に土蜘蛛はジャンプして避けてしまった。
「うっ、お、おい、止まらない」、勢い余った隼人は、壁に貼り付く桜に正面から抱き付いた。
「もう、隼人、どんくさい!」
「止まらなかったんだよ。直ぐに離れるから」、隼人は体を動かそうとしたが、粘着力と弾力性の高い糸で動きが封じられた。
バシッと、隼人の後ろから土蜘蛛の放った糸が当たった、「し、しまった」
久々の獲物を捕らえた土蜘蛛は、嬉しいのかしきりに口をカチカチと鳴らす。
「ちょっと、顔が近いわよ」
「うるさいな、しょうがないだろ」、隼人は顔を横に向けた。
「何とか出来ないの」
「首から上しか動かせないけど、何とかしないとな」
土蜘蛛はゆっくりと二人に近づき、隼人の真後ろから覆いかぶさって来た。二人の内どちらかを保存しようと、糸でグルグル巻きにしたい様だ。
ドッカーンと、壁を打ち壊す音が響き渡った。
無線で隼人と桜のやり取りから、土蜘蛛だと判断した正人が駆け付けて来た。
土蜘蛛は、見た目以上に危険な妖怪だったのだ。
「気を抜くなと言っただろう」、金砕棒を肩に乗せた正人が壁をぶち破り現れた。
「正人、早く助けてよ」
「桜、隼人と一緒に暫くそのまま、大人しくしておけよ」
「どうしてよ、一人で戦うつもりなの?」
「一人じゃないさ、隼人、良く見ておけよ」
新たに現れた獲物に壁から離れた土蜘蛛は、天井に放った糸にぶら下がり、ユラユラと揺れながら正人を見つめる。
正人は、四郎と長老を呼び出した。
「四郎、攻撃して奴の糸を断ち切れ。長老は、奴の動きを封じ込めてください」
ボンと白い煙の中から現れた四郎と長老は、正人の指示通りの攻撃を始める。
高速でクルクル回る四郎の姿が見えなくなると、風の刃が連続で出て来た。
土蜘蛛は天井から垂れ下がる糸を切られると、地面に落ちて体をすぼめる。
猫又の姿になった長老は、大きな前足で土蜘蛛の胴体を踏みつけた。
「よし、良いぞ。仕上げは、俺だな」
胴体を長老に踏みつけられた土蜘蛛は、長い足を延ばし立ち上がろうとする。
「ひゃっ、ひゃっ、儂に踏みつけられて逃げられると思っているのか?」、嫌らしい笑い声を上げた長老は、ペロッと舌を出す。
カチカチと威嚇する土蜘蛛の前に立つ正人は、両手で握りしめる金砕棒を垂直にして上に上げると、土蜘蛛の頭めがけて力一杯叩きつけた。
ガン、ガンと、一回目と二回目は堅い物を叩く音がしただけだった。
三回目でグッシャと、頭がつぶれる音がした。
頭を失った土蜘蛛は、足を痙攣させていたが、絶命していた。
「隼人、自分達だけで倒そうとせず、長老や四郎に協力してもらう事を忘れるな」
「そうだよ、僕たちを呼ぼうね」
「そうじゃ、儂たちは何時でもお前達に協力するのじゃぞ」
「すいません。以後、気を付けます」、反省する隼人に対して桜は、「もう、倒したのなら早く助けてよー」
「桜と正人、二人とも面白い姿だな」、何を考えているのか、正人はポケットからスマホを出して動画を取り始めた。
「な、何しているのよ。こんな所を撮るなんて、ふざけないでよ!」、背中を向ける隼人は、騒ぐ桜の顔しか見えないので何をされているのか分からなかった。
「はっ、ははは。面白いな、じゃあ四郎、二人を助けてやってくれ」
「任せて! えーい」と、二人に巻き付く糸を四郎は、炎で焼き切った。
四郎の放った高温の炎で、土蜘蛛の糸はチリチリと音を立てて溶けてしまった。
まさか火を放たれるとは思っていなかった正人と桜は、ビックリして声が出なかった。地面に座り込み抱き合う二人の周りを四郎が、褒めて、褒めてとはしゃぎながら走り回つていた。
土蜘蛛との戦いで、すっかり忘れていた子供の幽霊の事を思い出したのは、事務所に戻ってからだった。
「そう言えば、二人とも子供の幽霊を見たと言っていたよな」
正人の指摘に隼人と桜はお互い目を合わせて、「あっ」と声を揃えた。
隼人は、気持ちよさそうに仰向けで寝る四郎をブラッシングしながら、「すっかり忘れていた。四郎の炎に気が動転して、頭の中から抜け落ちていた」
「正人が、動画なんか取るからよ!」、正人の椅子の背もたれを後ろから桜は掴むと、椅子を回転させて自分の方へ向けた。
「良いじゃないか、一つぐらい遊園地の思い出が残ったと思えば」
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