有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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海と磯女と座敷童 ➄

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 隼人も桜も突き当りの部屋を意識し過ぎていた。彼らの後ろに立つ女将の存在に気が付けなかった。
「あのー、大丈夫ですか」
 突然の声に彼らは、驚いて振り返った。声にビックリした四郎は、女将に姿を見られる前に桜の浴衣の中に隠れた。
「すいません、女将さんでしたか」
「どうかしましたか?」
「ええ、廊下を走る足音を追いかけて来ました」
「はぁ、やはり私どもの旅館には幽霊が出るのですか」と、女将は思わずため息を漏らした。
「多分、幽霊じゃないですよ」
 迷う事無くはっきりとした口調で隼人が話すので、女将は狐につままれたような気持になった。
「面白い事を言いますね。怖く無いのですか?」
「一緒に確かめますか? きっと、良い事が起こりますよ」
「良い事が起こるなら、あなたを信じますね」
 隼人が一番奥の部屋のドアを開けると、中は薄暗く何もない6畳の部屋だった。

 部屋の中心で隼人は、優しい口調で話し始めた。
「怖がらないで、出ておいで。僕でよければお相手するよ」
 女将と桜はキョロキョロと目を凝らして部屋を見渡すと、目の前に着物を着た子供が立っていた。
「ひゃぁ、で・・・出ましたよ」
「女将さん、大丈夫ですから、驚かないで」
 隼人は着物を着た子供の前にしゃがみ込む、「君は、座敷童だね。初めまして、僕は隼人と言います」
「わらわの事、怖くないのか?」
「怖くないよ、誰かと一緒に遊びたいだけだろ」
「そうじゃ、富貴ふきが来なくなってから誰もわらわと遊んでくれない」
「そうか、富貴さんとは何をして遊んだの?」
「これじゃ、富貴がくれた」と、座敷童はお手玉を隼人に差し出した。
「お手玉か、やった事がないな。女将さんはやり方を知っていますか?」
「はい、知っていますよ。私がお相手しましょうね」と、女将は座敷童の真正面に正座すると、一緒にわらべ歌を歌いながらお手玉を始めた。
 久しぶりのお手玉を楽しんだ座敷童は、また、遊んでねと女将にお願いする。女将は笑顔で一緒に遊ぶ約束をすると、座敷童は消えてしまった。

 隼人と桜は女将と民宿の入り口に設けられていた休憩所で、詳しい話をする。幽霊が出ると噂の民宿は、座敷童の住む所だった。座敷童は悪戯好きな面もあるが、家に繁栄と富をもたらし、姿を見た人には幸運をもたらすと言われる妖怪。
 座敷童の住む民宿と宣伝すれば、高いお金を出してでも宿泊したいとお客は殺到するはず。
「女将さん、幽霊の正体は座敷童です。それと、一つ気になったのですが、富貴さんてご存じですか?」
「もちろん知っています。私の曾祖母ですから」
「やはりそうか。女将さんの曾祖母の代でも民宿をしていたのですよね?」
「はい、当時は宿泊するお客さんが多くて、何時も予約で一杯だったと聞いています。今の状況からは、想像できませんよね」
「それですよ。きっと富貴さんが座敷童と一緒に遊んであげていたから、商売が繁盛したのでしょうね」
「そんな事で?」
「座敷童は、家に富をもたらす妖怪です。隠さずに座敷童の住む民宿として、宣伝してみてください。きっと沢山の人が押し寄せますよ」
「それは、良いアイデアね。きっと上手く行くわ」と、桜は相槌を打った。
「あら、あなたは商売上手なのかしら。良い提案を有り難うございます。それより幽霊の正体が分かって、本当に良かった」
「正体が分かれば、もう、怖くないでしょう」
 一通り隼人が伝えたかった事を話し終えると、彼らは部屋に戻った。隼人と桜の姿が見えなくなるまで、女将は頭を深々と下げていた。本当に困っていたのだろう。

 お世話になった民宿を後にしようとすると、女将が風呂敷を手に隼人達の元へ駆け寄ってきた。
「本当に有り難うございました。これは、お昼ご飯に食べてください」
 女将はそう言うと、隼人に風呂敷を手渡した。
 何も知らない桜以外の四人は、不思議そうに隼人と女将のやり取りを見る。
「こちらこそ、問題が解決して良かったですね」
「はい。また、泊まりに来てください。その時は、更にサービスしますよ」と、隼人に話し終えると、女将は手で口を隠し小声でそっと桜の耳元で囁く、「今度来るときは、彼と二人だけでいらっしてね」
 顔を真っ赤にした桜は、「はい」とだけ答えた。
 手を振る女将に見送られて、隼人達は帰路につく。その後、隼人の助言通り座敷童に会える民宿として宣伝を始めると、1年先も予約で一杯の人気の宿に生まれ変わるのであった。
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