有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

文字の大きさ
上 下
57 / 86

怒りの炎 ①

しおりを挟む
 三重県の市街地、人目に触れないよう注意しながら四匹のてんの群れは、餌を求めて深夜の町を徘徊する。商店が並ぶ通りを往来する人影は無い、たまに車が通り過ぎるだけであった。飲食店のごみを漁り食料を手に入れた四匹は、街灯に照らされる道を順番に横切って行く。しかし、運悪く最後に道を渡ろうとした真っ白な鼬は、黒色の乗用車にはねられてしまった。  
 眠気にさいなまれてボーとしていた運転手は、小さな衝撃にどうせ猫か犬を引っ掛けてしまったのだろうと、特に気にする事無く走り去った。
 乗用車と衝突した鼬は、暫く横向きに倒れたまま動かない。心配して集まってきた三匹の鼬が前足で倒れる仲間の体を揺すると、目を開けた。車にかれた鼬は起き上がると、左前脚を上げたままヒョコヒョコと道を渡り切った。
「四郎、大丈夫か? 怪我をしているじゃないか」
 怪我の後遺症で右目を失った一郎が、どうしたら良いのか気に病んでいた。
「左前脚が痛い、骨が折れているかも知れないよ。一郎兄さんどうしよう?」
「このままじゃ、足が不自由になってしまうかも知れない。餌が取れなくなってしまうよ」と、尻尾の短い次郎が話した。
「とにかく、人間に見つかると厄介だから寝床に帰らないか」と、周囲を警戒する左耳の無い三郎が、オロオロしていた。
「そうだな、此処はひとまず寝床に戻ろう」
 兄達は、怪我をした四郎を守るため身を寄せながら寝床へと帰っていった。

 てん達は、妖怪だった。何年生きているのか詳しい年数など、とうの昔に忘れてしまっていたが、生まれてから三百年以上は過ぎていた。誰にも邪魔されず、長きに渡り平和に暮らしていた山は、何十年も前に人間たちに奪われてしまった。
 それ以来、彼らは新たな住処を求めて場所を転々としていた。人間の暮らす町に近づけば近づくほど、狩りをしなくても食料が手に入る事を彼らは知る。今は空き家を寝床として、ひっそりと生活していた。
 四郎は、寝床にしている座布団の上に真っ白な体を横たえる。痛みが激しくなったのか、震えながら出血する擦り傷や左足を舐めていた。
「痛くて我慢できないよ」と、涙目の四郎が兄達に訴える。
「怪我が治るまでは、俺達が餌を持って帰るから。四郎、耐えるんだ」
「それより、四郎をこんな目に遭わせた人間どもを懲らしめてやりたい」と、弟思いの次郎が怒りを露わにした。
「そうだ、次郎兄さんの言う通りだ。俺達を邪魔者扱いする人間どもを懲らしめたい」
 三郎が悩む一郎の傍に寄ると、彼は一郎の右目を前足で触れた。
「一郎兄さん、その怪我を忘れていないよね?」
「もちろんだ、忘れたくても忘れられないよ」
 百年以上前、山で遭難し彷徨っていた人間の子供を助けた時に出来た傷。その結果、彼は怪我が原因で右目を失ってしまった。
 一郎の記憶が蘇る、助けた子供は彼の姿を見て驚き腰を抜かし、「ば、化け物! た、た、助けて!」
 一郎は助けた子供から有り難うと、感謝の言葉など期待していなかった。しかし、助けた恩人に向かって言い放たれた、化け物と言う言葉にショックを受けた。
「人間は助けられても何も感じない。恩知らずだよ」と、思いにふける一郎に次郎の言葉が深々と彼の心に響く。
「そうだな、次郎。人間達は自分の事しか考えていない。四郎に怪我をさせた人間達を懲らしめよう」
 四郎を残して一郎達は、再び町中へと戻って行った。手掛かりは、黒色の車だけ。四郎を轢いた犯人の特定は不可能だ。だから黒い車を駐車している家を片っ端からターゲットにしよう。その日から自分達を酷い目に遭わせてきた人間達へ、初めて牙をむく決心がついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...