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怒りの炎 ①
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三重県の市街地、人目に触れないよう注意しながら四匹の鼬の群れは、餌を求めて深夜の町を徘徊する。商店が並ぶ通りを往来する人影は無い、たまに車が通り過ぎるだけであった。飲食店のごみを漁り食料を手に入れた四匹は、街灯に照らされる道を順番に横切って行く。しかし、運悪く最後に道を渡ろうとした真っ白な鼬は、黒色の乗用車にはねられてしまった。
眠気に苛まれてボーとしていた運転手は、小さな衝撃にどうせ猫か犬を引っ掛けてしまったのだろうと、特に気にする事無く走り去った。
乗用車と衝突した鼬は、暫く横向きに倒れたまま動かない。心配して集まってきた三匹の鼬が前足で倒れる仲間の体を揺すると、目を開けた。車に轢かれた鼬は起き上がると、左前脚を上げたままヒョコヒョコと道を渡り切った。
「四郎、大丈夫か? 怪我をしているじゃないか」
怪我の後遺症で右目を失った一郎が、どうしたら良いのか気に病んでいた。
「左前脚が痛い、骨が折れているかも知れないよ。一郎兄さんどうしよう?」
「このままじゃ、足が不自由になってしまうかも知れない。餌が取れなくなってしまうよ」と、尻尾の短い次郎が話した。
「とにかく、人間に見つかると厄介だから寝床に帰らないか」と、周囲を警戒する左耳の無い三郎が、オロオロしていた。
「そうだな、此処はひとまず寝床に戻ろう」
兄達は、怪我をした四郎を守るため身を寄せながら寝床へと帰っていった。
鼬達は、妖怪だった。何年生きているのか詳しい年数など、とうの昔に忘れてしまっていたが、生まれてから三百年以上は過ぎていた。誰にも邪魔されず、長きに渡り平和に暮らしていた山は、何十年も前に人間たちに奪われてしまった。
それ以来、彼らは新たな住処を求めて場所を転々としていた。人間の暮らす町に近づけば近づくほど、狩りをしなくても食料が手に入る事を彼らは知る。今は空き家を寝床として、ひっそりと生活していた。
四郎は、寝床にしている座布団の上に真っ白な体を横たえる。痛みが激しくなったのか、震えながら出血する擦り傷や左足を舐めていた。
「痛くて我慢できないよ」と、涙目の四郎が兄達に訴える。
「怪我が治るまでは、俺達が餌を持って帰るから。四郎、耐えるんだ」
「それより、四郎をこんな目に遭わせた人間どもを懲らしめてやりたい」と、弟思いの次郎が怒りを露わにした。
「そうだ、次郎兄さんの言う通りだ。俺達を邪魔者扱いする人間どもを懲らしめたい」
三郎が悩む一郎の傍に寄ると、彼は一郎の右目を前足で触れた。
「一郎兄さん、その怪我を忘れていないよね?」
「もちろんだ、忘れたくても忘れられないよ」
百年以上前、山で遭難し彷徨っていた人間の子供を助けた時に出来た傷。その結果、彼は怪我が原因で右目を失ってしまった。
一郎の記憶が蘇る、助けた子供は彼の姿を見て驚き腰を抜かし、「ば、化け物! た、た、助けて!」
一郎は助けた子供から有り難うと、感謝の言葉など期待していなかった。しかし、助けた恩人に向かって言い放たれた、化け物と言う言葉にショックを受けた。
「人間は助けられても何も感じない。恩知らずだよ」と、思いに耽る一郎に次郎の言葉が深々と彼の心に響く。
「そうだな、次郎。人間達は自分の事しか考えていない。四郎に怪我をさせた人間達を懲らしめよう」
四郎を残して一郎達は、再び町中へと戻って行った。手掛かりは、黒色の車だけ。四郎を轢いた犯人の特定は不可能だ。だから黒い車を駐車している家を片っ端からターゲットにしよう。その日から自分達を酷い目に遭わせてきた人間達へ、初めて牙をむく決心がついた。
眠気に苛まれてボーとしていた運転手は、小さな衝撃にどうせ猫か犬を引っ掛けてしまったのだろうと、特に気にする事無く走り去った。
乗用車と衝突した鼬は、暫く横向きに倒れたまま動かない。心配して集まってきた三匹の鼬が前足で倒れる仲間の体を揺すると、目を開けた。車に轢かれた鼬は起き上がると、左前脚を上げたままヒョコヒョコと道を渡り切った。
「四郎、大丈夫か? 怪我をしているじゃないか」
怪我の後遺症で右目を失った一郎が、どうしたら良いのか気に病んでいた。
「左前脚が痛い、骨が折れているかも知れないよ。一郎兄さんどうしよう?」
「このままじゃ、足が不自由になってしまうかも知れない。餌が取れなくなってしまうよ」と、尻尾の短い次郎が話した。
「とにかく、人間に見つかると厄介だから寝床に帰らないか」と、周囲を警戒する左耳の無い三郎が、オロオロしていた。
「そうだな、此処はひとまず寝床に戻ろう」
兄達は、怪我をした四郎を守るため身を寄せながら寝床へと帰っていった。
鼬達は、妖怪だった。何年生きているのか詳しい年数など、とうの昔に忘れてしまっていたが、生まれてから三百年以上は過ぎていた。誰にも邪魔されず、長きに渡り平和に暮らしていた山は、何十年も前に人間たちに奪われてしまった。
それ以来、彼らは新たな住処を求めて場所を転々としていた。人間の暮らす町に近づけば近づくほど、狩りをしなくても食料が手に入る事を彼らは知る。今は空き家を寝床として、ひっそりと生活していた。
四郎は、寝床にしている座布団の上に真っ白な体を横たえる。痛みが激しくなったのか、震えながら出血する擦り傷や左足を舐めていた。
「痛くて我慢できないよ」と、涙目の四郎が兄達に訴える。
「怪我が治るまでは、俺達が餌を持って帰るから。四郎、耐えるんだ」
「それより、四郎をこんな目に遭わせた人間どもを懲らしめてやりたい」と、弟思いの次郎が怒りを露わにした。
「そうだ、次郎兄さんの言う通りだ。俺達を邪魔者扱いする人間どもを懲らしめたい」
三郎が悩む一郎の傍に寄ると、彼は一郎の右目を前足で触れた。
「一郎兄さん、その怪我を忘れていないよね?」
「もちろんだ、忘れたくても忘れられないよ」
百年以上前、山で遭難し彷徨っていた人間の子供を助けた時に出来た傷。その結果、彼は怪我が原因で右目を失ってしまった。
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一郎は助けた子供から有り難うと、感謝の言葉など期待していなかった。しかし、助けた恩人に向かって言い放たれた、化け物と言う言葉にショックを受けた。
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「そうだな、次郎。人間達は自分の事しか考えていない。四郎に怪我をさせた人間達を懲らしめよう」
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