有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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黒薔薇十字軍 ②

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 深夜に京都へ戻ってきた正人と茜は、フレックスタイムで昼から事務所を開け仕事を始める。二人とも、どこかいつもと違う雰囲気だった。まだ、南国気分が抜けきっていないのだろう。
「さぞかし、楽しかったようじゃの」
「長老のおかげで、念願の社員旅行が出来ましたよ」と、嬉しそうに集合写真を手にする正人の声は弾んでいた。
「さて、儂への土産は?」
 正人は、国際通りで購入した一般的な泡盛と古酒を長老の前に差し出した。絶対に長老は気に入るに違いないと、自信満々の顔をしている。
「一つは一般的な泡盛ですが、もう一本は奮発して古酒を買ってきました」
「おお、それは良い。留守番をした甲斐があった」と、長老は机の上に置かれた一升瓶二本を抱きかかえ満足そうにしていた。
「それはそうと、お前達が留守の間、何回も賀茂から電話があったぞ」
「伝言は受けていますか?」と、正人の問いかけに長老は、プイッとそっぽを向き三本の尻尾をパタパタと振る。
「電話には、出ておらん」
「はぁ~、電話に出なかったのですか?」と、茜は怒った顔を見せる。
「ほら、あいつは何時も澄ましていて、いけ好かないからのう」
「そんな理由で、電話に出なかったのですか。強情ですよね」と、正人は呆れて自分の顔半分を片手で覆った。
「嫌いなものは、しょうがないのじゃ。奴にとって急用なら、そのうち此処に来るじゃろうて」と、長老は電線に留まる賀茂の式神を窓越しに一瞥いちべつした。

 長老が話した通り、2時間後に賀茂は事務所を訪れた。
「やっと、君に会う事が出来たよ。何度も電話したのだが、留守だったね」と、賀茂は意味深に話すと、ソファの上で寝たふりをしていた長老の方を見た。
「申し訳ない、賀茂さん。ちょっと社員旅行に出かけていまして」
「社員の交流を深めるのは、良い事だな。帰ってきて早々に悪いが、急ぎの案件なのだよ。鬼塚君だけでなく、隼人君や桜君の協力も必要でね」
「もしかして、黒薔薇十字軍の件ですか?」
「察しが良いな。そうだ、今日の夜に集会があると情報が入って来た。そこに乗り込もうと考えたのだが、相手が相手なので慎重に事を進めたくてね。まずは、君たちに偵察を頼みたいのだよ」
 正人は賀茂から手渡されたチラシを受け取る。
 場所は、大阪の心斎橋のアメリカ村。開始時間は夜の6時30分からか。
 若者の集まる場所で集会をするのか、誰が適任か考えなくても正人の頭の中に隼人と桜の名前が浮かぶ。
「喜んで、ご協力しますよ。隼人と桜の二人に行ってもらいましょう」

 正人から連絡を受けた隼人は、京都駅中央口で桜と落ち合うと、急いで大阪行きの快速電車に乗り込んだ。時間に余裕をもって会場に到着するには、私鉄を利用するよりJR東海道線を利用した方が、早かったからだ。
 会場となるライブハウスの前に到着すると、仕事帰りの男性や女性の姿も見受けられたが、圧倒的に仮装とも思えるような出で立ちの若者が多い。
 かえって普通の格好をしている自分たちの方が目立つのではないかと、隼人は気になった。
「想像したより、軽いノリのようだね」
「そうね、それぞれが想像する悪魔の姿をしているなんて拍子抜けね」
 桜は肩をすぼめると、隼人の手を取り地下の会場内へ続く階段を降りて行く。ライブハウスの中は、既に人で埋め尽くされ騒めきで会話がし辛い。
「何人ぐらいの人が来ているのだろう?」
「100人以上は居るわね」と、桜は自分の顔を隼人の耳元に近づけた。
 桜との会話の途中で隼人は、後ろから衝撃を感じる。
「すいません、大丈夫ですか」
 隼人は声のする方を振り返り見ると、スーツ姿の男性が寄りかかる様にぶつかって来た。男性は30代前半の様だが、疲れ切った表情と目の下の黒ずむクマが実年齢より老けた様相をかもし出していた。社会人には学生の知らない苦労があるのだろう。
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