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黒薔薇十字軍 ①
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仕事を終え正人と隼人は、嘉手納基地を後にした。彼らが向かうのは、恩納村にある某有名航空会社の名前が付いたリゾートホテルだ。車の中で隼人は、ふと疑問に思った事を口に出す。
「どうして沖縄の米軍基地だったんでしょう?」
「ワーウルフの事か?」
「はい、わざわざ沖縄じゃなくても良いと思って」
「どうだろうな軍が関与している事だから、アメリカ国内でやるより日本の小さな島国の沖縄なら今回の様に事故が発生しても、揉み消しやすいからじゃないかな」
「・・・そんな理由ですか」と、隼人は複雑な心境になった。
今や国内外から多くの観光客が訪れる沖縄。綺麗な海に囲まれた島は、戦後から現在に至るまで継続して米軍が駐留する場所である。戦争が終わってもう70年以上経過するのに、裏では米軍の力がまだ健在と正人は言う。本当にそうなら、見せかけだけの華やかさに騙されているのかと隼人は思った。
ホテルのプライベートビーチ、正人と隼人はパラソルの下に設置されていたサマーベッドに並んで横たわっていた。まだ午前中だと言うのに暑さで額に汗がにじむ。
二人ともTシャツに水着姿で、眩い太陽の光に目を細めていた。
「3時間ほどしか眠れなかったな」と、正人は不満そうな口振りだった。
やっと休めるとベッドに入ったものの、朝7時にはビュッフェスタイルの朝食に行こうと桜に叩き起こされたのだった。
「眠いですが、せっかくなので楽しみましょうよ」
隼人が話し終えると、人影が太陽の光を遮った。
「おまたせ。準備出来たわよ」と、桜は何かをアピールする振る舞いをする。
ネイビーをベースとしたワンピース水着を着る茜とピンクの肩のフリルと胸元のリボンが特徴的なビキニ姿の桜は、眠そうにサマーベッドに横たわる男二人を笑顔で見下ろした。
「二人とも、綺麗だね。水着、良く似合っていますよ」と、隼人は自然な流れで二人の水着姿を褒めた。
頬を少し膨らませた桜は、隼人の手を取ると強引に波打ち際へと連れて行く。隼人の反応が、真っ先に自分へ注がれなかったのが不服の様だ。
「茜さんを褒めるのは正人の役目なの!」
「ごめん、桜の水着良く似合っているよ。可愛いと言うよりかは、綺麗かな」
ストレートに表現してくると思わなかった桜は、意表を突かれたのか恥ずかしそうに隼人から視線を逸らした。
「あ、・・・ありがとう」
遠浅の海の中で、水鉄砲を手に隼人と桜が子供の様にはしゃぐ。ビーチでは正人と茜が、のんびりとサマーベッドに横たわりながら彼らの姿を眺めていた。
「二人とも仲良くなったわね」
「そうだな、良い事だ。それに隼人は、来た時より表情が男らしくなったかな。最初は、自信なさげな所が多かったけど」
「ふ、ふふ、そうね。正人も変わったわよ」
茜に不意打ちを食らった正人は、少しどもってしまった。
「な、何・・・何も変わらないぞ」
「否定しなくても良いけど。表情が以前より柔らかくなったよ」
「そうかな?」
「ええ、幼い頃から一緒だから分かるわよ。学生時代は最悪だったけど」
「それは、言わないでくれ。今となっては、言い訳のしようも無いよ」
過去の話しには、あまり触れてほしくなかったが、茜とゆっくり話せる時間が取れたのは、正人にとって久しぶりだった。
そんな何気ないやり取りに彼は、心が穏やかになるのを感じる。
危険を伴う仕事柄、普段から神経をとがらせ過ぎているのかも知れない。
海を満喫した後、彼らは車に乗り込みここぞとばかりに沖縄観光に徹する。
最初の目的地は、美ら海水族館。巨大な水槽の中を優雅に泳ぐジンベエザメを是非この目で見たいと、全員が思っていた。想像以上のスケールに驚きながら、光が差すコバルトブルーを背景に回遊する魚を見つめていると、暫く誰もその場から離れられなくなった。
イルカショーのアナウンスが流れると、女性達に急かされた正人と隼人は、席を取りに一足先に会場へ向かった。遅れて茜と桜は、二人とも両手に飲み物を持ち、男性二人と合流した。イルカショーが始まると、四人揃って童心に帰りショーを楽しんだ。
茜のリクエストで、美ら海水族館から歩いて15分ほどの所にある亜熱帯ドリームセンターへ向かう。そこは、訪れる観光客が少ない穴場の植物園で、館内は鮮やかなランの花が咲き乱れる。
これはインスタ映えすると、目を輝かせた桜は、必死に自分とランの花の写真を隼人に撮らせていた。撮影する角度や場所に注文を付ける彼女に四苦八苦する隼人を見た正人と茜は、もう尻に敷かれていると一緒に笑う。
翌日は、沖縄南部にある歴史や文化のテーマパークと鍾乳洞で有名な玉泉洞を訪れ、団体旅行には付き物の集合写真を撮影した。
茜と桜の二人を真ん中に立たせ、茜の隣に正人、桜の隣に隼人が並ぶと、彼らを挟む様にして紅型の着物を纏った女性が立つ。
初めての社員旅行がよほど嬉しかったのか、この写真を額に入れて事務所に飾ると正人が言い出し、茜に怒られていた。
ギリギリまで楽しみたいと願う女性陣の為に正人は、チャーター機に茜と桜も一緒に乗って帰れるよう手配した。彼らは帰りの時間を気にせず、国際通りへ出向き買い物と食事を楽しんだ。
「どうして沖縄の米軍基地だったんでしょう?」
「ワーウルフの事か?」
「はい、わざわざ沖縄じゃなくても良いと思って」
「どうだろうな軍が関与している事だから、アメリカ国内でやるより日本の小さな島国の沖縄なら今回の様に事故が発生しても、揉み消しやすいからじゃないかな」
「・・・そんな理由ですか」と、隼人は複雑な心境になった。
今や国内外から多くの観光客が訪れる沖縄。綺麗な海に囲まれた島は、戦後から現在に至るまで継続して米軍が駐留する場所である。戦争が終わってもう70年以上経過するのに、裏では米軍の力がまだ健在と正人は言う。本当にそうなら、見せかけだけの華やかさに騙されているのかと隼人は思った。
ホテルのプライベートビーチ、正人と隼人はパラソルの下に設置されていたサマーベッドに並んで横たわっていた。まだ午前中だと言うのに暑さで額に汗がにじむ。
二人ともTシャツに水着姿で、眩い太陽の光に目を細めていた。
「3時間ほどしか眠れなかったな」と、正人は不満そうな口振りだった。
やっと休めるとベッドに入ったものの、朝7時にはビュッフェスタイルの朝食に行こうと桜に叩き起こされたのだった。
「眠いですが、せっかくなので楽しみましょうよ」
隼人が話し終えると、人影が太陽の光を遮った。
「おまたせ。準備出来たわよ」と、桜は何かをアピールする振る舞いをする。
ネイビーをベースとしたワンピース水着を着る茜とピンクの肩のフリルと胸元のリボンが特徴的なビキニ姿の桜は、眠そうにサマーベッドに横たわる男二人を笑顔で見下ろした。
「二人とも、綺麗だね。水着、良く似合っていますよ」と、隼人は自然な流れで二人の水着姿を褒めた。
頬を少し膨らませた桜は、隼人の手を取ると強引に波打ち際へと連れて行く。隼人の反応が、真っ先に自分へ注がれなかったのが不服の様だ。
「茜さんを褒めるのは正人の役目なの!」
「ごめん、桜の水着良く似合っているよ。可愛いと言うよりかは、綺麗かな」
ストレートに表現してくると思わなかった桜は、意表を突かれたのか恥ずかしそうに隼人から視線を逸らした。
「あ、・・・ありがとう」
遠浅の海の中で、水鉄砲を手に隼人と桜が子供の様にはしゃぐ。ビーチでは正人と茜が、のんびりとサマーベッドに横たわりながら彼らの姿を眺めていた。
「二人とも仲良くなったわね」
「そうだな、良い事だ。それに隼人は、来た時より表情が男らしくなったかな。最初は、自信なさげな所が多かったけど」
「ふ、ふふ、そうね。正人も変わったわよ」
茜に不意打ちを食らった正人は、少しどもってしまった。
「な、何・・・何も変わらないぞ」
「否定しなくても良いけど。表情が以前より柔らかくなったよ」
「そうかな?」
「ええ、幼い頃から一緒だから分かるわよ。学生時代は最悪だったけど」
「それは、言わないでくれ。今となっては、言い訳のしようも無いよ」
過去の話しには、あまり触れてほしくなかったが、茜とゆっくり話せる時間が取れたのは、正人にとって久しぶりだった。
そんな何気ないやり取りに彼は、心が穏やかになるのを感じる。
危険を伴う仕事柄、普段から神経をとがらせ過ぎているのかも知れない。
海を満喫した後、彼らは車に乗り込みここぞとばかりに沖縄観光に徹する。
最初の目的地は、美ら海水族館。巨大な水槽の中を優雅に泳ぐジンベエザメを是非この目で見たいと、全員が思っていた。想像以上のスケールに驚きながら、光が差すコバルトブルーを背景に回遊する魚を見つめていると、暫く誰もその場から離れられなくなった。
イルカショーのアナウンスが流れると、女性達に急かされた正人と隼人は、席を取りに一足先に会場へ向かった。遅れて茜と桜は、二人とも両手に飲み物を持ち、男性二人と合流した。イルカショーが始まると、四人揃って童心に帰りショーを楽しんだ。
茜のリクエストで、美ら海水族館から歩いて15分ほどの所にある亜熱帯ドリームセンターへ向かう。そこは、訪れる観光客が少ない穴場の植物園で、館内は鮮やかなランの花が咲き乱れる。
これはインスタ映えすると、目を輝かせた桜は、必死に自分とランの花の写真を隼人に撮らせていた。撮影する角度や場所に注文を付ける彼女に四苦八苦する隼人を見た正人と茜は、もう尻に敷かれていると一緒に笑う。
翌日は、沖縄南部にある歴史や文化のテーマパークと鍾乳洞で有名な玉泉洞を訪れ、団体旅行には付き物の集合写真を撮影した。
茜と桜の二人を真ん中に立たせ、茜の隣に正人、桜の隣に隼人が並ぶと、彼らを挟む様にして紅型の着物を纏った女性が立つ。
初めての社員旅行がよほど嬉しかったのか、この写真を額に入れて事務所に飾ると正人が言い出し、茜に怒られていた。
ギリギリまで楽しみたいと願う女性陣の為に正人は、チャーター機に茜と桜も一緒に乗って帰れるよう手配した。彼らは帰りの時間を気にせず、国際通りへ出向き買い物と食事を楽しんだ。
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