有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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ワーウルフ ④

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 林の奥では、銃撃が続いている。兵士たちのオーゴッドやファックなどの叫び声が聞こえ、衝突音の後に木々が倒れて行く。隼人は音を頼りに走って行くと、ワーウルフと正人は互いに両手を取って力比べをしていた。
 ワーウルフの上半身は、グレーの毛に覆われる。下半身を見ると濃いベージュ色のズボンを穿いていた。赤く光る眼、大きく前に突き出した鼻、口からは鋭い犬歯がむき出しになっていた。その顔は、紛れもなく狼だった。
 正人はワーウルフの腹を蹴ると、彼の横に突き刺さっていた金砕棒を手にした。
 ワーウルフは地面を引きずりながら衝撃に耐えると、鋭い両手の爪を無造作に振りかざして来る。
 爪の攻撃を紙一重で正人は避けるが、鋭い爪は顔や胸に傷跡を残していく。
 隼人はワーウルフと戦う正人の背を死角にして近づくと、正人を飛び越えワーウルフの顔面を右手で殴った。
 殴られた衝撃でワーウルフは、左側に飛ばされ地面に跪いた。彼は口から血を流し、折れた歯を吐き出す。二人を相手にするのは分が悪いと言わんばかりに、正人と隼人に背を向けて逃げ出した。
「隼人、あいつは目が赤い、狂人化しているから手加減するなよ」
「分かりました」と、隼人は正人と共にワーウルフを追いかけた。
 今の正人と隼人にとって暗闇など何の障害にもならない、林の奥へ逃げようがワーウルフの姿を確実に捉えていた。
 ワーウルフは潜んでいた兵士達の銃撃を受け彼らと交戦を始めたが、兵士達はあっけなく彼の鋭い爪の餌食となってしまった。
「逃がさないし、遅い」と、追いついた正人は金砕棒を横に振りワーウルフの腹に打ち込んだ。
“この機会を逃すな、龍の爪を使え”
 龍神のアドバイスに隼人は、吹き飛ばされて地面に座り込むワーウルフ目がけて、球を投げるように右手を振りかざした。籠手の先から出た鋭い光の爪が放出され、ワーウルフの体を切り裂いた。そのまま、突進した隼人は、ワーウルフの胸に左の籠手から出る光の爪を突き刺した。
 
 ゴフッ、赤い血を口から吐き出したワーウルフの姿が変わっていく。
 茶色く短い髪の男性、彼の顔を見た正人は驚いた表情を見せ、声を掛けようとした。しかし、何処から現れたのか同じ飛行機に乗っていたジャンが、後ろから正人の肩を掴み、話をしようとした彼を制止した。
『すまない、正人。最後は、俺にけじめを取らせてくれないか』
 何も言わず、正人は後ろに下がった。
『ダン、何故、軍に協力した?』と、ジャンは悲し気な顔で、ダンの横に片膝をついてしゃがむと、彼を見つめた。
『お前と一緒に戦いたかっただけだ。うっ・・・強い力、本来持っている力を得たかった。俺の考えが甘かった、すまないジャン』と、ダンは血まみれの体を無理に起こし、正人の方を見た。
 ダンは獣人、ワーウルフの血を引く者だったが、その血はあまりに薄く獣人化することは出来なかった。そこで、人の何倍もの力が出せる獣人をベースに強化人間を作ろうと目論んだ軍の人体実験に、彼は参加してしまったのだった。
『正人、お前にも迷惑をかけたようだな』
『ダン、お前と一戦交えていたとは、勘弁してくれよ』と、正人は彼から見えないように顔を背けた。
『ジャン、最後はお前に面倒を見て貰えて、良かったよ』と、ダンはジャンの手を握りしめた。
 ジャンはゆっくりとダンを地面に横たわらせると、彼が握っていた手を離す。立ち上がると、彼は目を閉じたダンに向けて銀の弾を込めた銃を構えた。
―――パーン、一発の銃声が林の中で木霊こだました。

 彼らの話す英会話の内容を理解出来なかった隼人は、呆然と立ち尽くし彼らを見ていた。正人は終わったから帰ろうと、隼人に声を掛け一緒にその場を離れた。
「正人さん、知り合いだったんですか?」
「そうだな、ワーウルフはダンだった。彼は、ジャンと同じアメリカ支部で働く仲間、ジャンのパートナーだった男だよ」
「どうして、こんな事に?」
「力を欲した者の末路だ、それと、軍なんかに協力するから」と、悔し気に正人の口調が強くなった。
 正人の横を歩く隼人は、事件の顛末が複雑だったので、何を聞いて良いのか分らなくなる。自分なんかが正人の過去に踏み込むのは、失礼になると気が引けた。
「お前は、力に溺れるなよ」と、正人は実の弟を諭すように隼人と肩を組んだ。
 この人なら、ダンと同じ様にもし自分が間違いを犯しても全力で止めてくれるだろうと隼人は思った。
「此処に来る前、メールを見て笑っていましたけど、何かあったのですか?」
「おお、忘れていたよ。仕事が終わったから、今からお楽しみの時間だ」
「お楽しみの時間ですか、男二人で観光でもするんですか?」
「茜と桜が、今日から沖縄に来ている。仕事が終わったら合流しようとの連絡だったんだよ」
「これから、皆と合流するんですか」
「そうだよ、慰安旅行みたいなものだな。福利厚生の一環だよ」
 さすが支部長と、正人は自分自身を褒めたくなった。茜から連絡を受け、全員の旅費を福利厚生の経費として計上しようと、算段していたのだ。
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